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第十八話 友達

 マリアは部屋でいつものシスター服と靴に履き替えた。

 どちらも対魔力に優れた装備である。

 そして、部屋から出ようとした時に、エリーナから貰ったアクセサリーのことを思い出す。

 メイド服から星を取り出し、しばらく眺めた後、ポケットの中に入れて部屋から出た。


 メイド長に伝えた通り、少し早めにソフィーの晩御飯を取りに行くと、コック長から大きめなバスケットを渡される。


「昼も遅めになったからまだ食えんかもしれん。軽食を作ったから、部屋でも馬車の中でも好きに食べてくれ」

「ありがとうございます」

「多めに作ったから、お前の分も中に入ってるからな」

「本当ですか? 嬉しいです。コック長の料理は凄く美味しいですからねぇ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」


 コック長は腰に手を置き、豪快に笑った。



 ――――――


 

 バスケットを持ってソフィーの部屋の扉を叩く。

 暫く待っても反応がないため、もう一度叩いてから部屋に入った。入ってすぐにソフィーが立っていたため、マリアは驚いた。そんな彼女を、ソフィーは無表情で眺める。


「遅かったですね」


 戸惑っていたマリアに、ソフィーは、ぽつりと口にした。

 まだ18時にもなっていない。


「待っていてくれたんですか?」

「そんなことはありえません。馬鹿なんですか?」


 ソフィーはふいっと顔を背けると、東側の窓を開け、外を眺める。


「お腹、空いてます?」

 

 ソフィの傍まで寄ると、彼女は顔だけマリアの方に向けた。

 

「空いていません」


 マリアは蓋の閉まったバスケットを宙に上げ、ソフィーに向かって軽く揺らした。

 

「コック長が気を利かせて、軽食を作ってくれたんです。私の分もあるみたいですし、後で馬車で食べましょうね」

「好きにしてください」

「それでは、そろそろ行きますか?」

「まだ30分も後だと思いますけど」


 何故かマリアの顔が少しだけ引き攣る。

 

「でもここを降りるのに15分近くはかかるので、時間的にはそろそろ向かった方がいいかもしれませんね」

「飛んで行けばすぐですよ」

「いや、まぁ、それはそうなんですけどぉ」


 宙に上げたバスケットを下ろし、小刻みに体を揺らし始める。


「それではー、私、先に行かさせて貰いますかねぇ?」


 無意味に体を揺らすマリアを、ソフィーはしばらく眺める。


「もしかして、怖いのですか?」

「え? いや、そんなことありえませんけどぉ?」


 マリアは笑う。少し、引き攣ってはいるが。


 ソフィーは少し邪悪な笑みを浮かべる。マリアはずっとソフィーの笑顔を見たかった。だが、こんな状況で、こんな笑顔ではない。


「今すぐ行きましょう」


 顔だけでなく体もマリアの方に向け、近づいてくる。


「いや、でも、早く行っても邪魔になるだけですからねー」

「大丈夫です。邪魔にならない間、空にいればいいだけですから」

「いやー、それはちょっとー」


 マリアの持っていたバスケットが勝手に宙に上がり、窓台の上に置かれた。


「これは、しばらくここに置いておきます」

 

 ソフィーは再びマリアの背中と膝裏に触れ、お姫様抱っこで持ち上げる。


「ご、強引ですねぇ」

「黙っていた方がいいですよ? 舌を噛みますから」


 ソフィーは飛んで部屋を出る。

 マリアは瞼を閉じ、必至にソフィーにしがみ付く。


「ですから、引っ付かないでください」

「そんなの、無理ですから!」


 首筋から伝わるぬくもり。何かを思い出しそうになり、ソフィーは少しだけ唇を嚙んだ。


「速度、少し上げますよ」

「それは――」


 マリアが言い切る前に、ソフィーは速度を上げ飛んで行く。


 ソフィーは近くの山の頂上にある1本の大きな樹木の上でマリアを下し、二人は太い幹の上に座った。


「大きな樹ですね」


 マリアは呼吸を落ち着けてから、口にした。

 

「ええ、何千年も生きた樹ですから」


 ソフィーは王都を見下ろす。

 マリアもソフィーの顔を見た後、彼女の見る世界に目を向けた。


「綺麗な景色ですねぇ。好きなんですか?」

「そんなことはありえません。ただ、たまに来るだけです」


 マリアは声を立てずに笑う。


「そうですか、でも、本当にいい場所です」


 暫く2人は黙って景色を眺めた。

 そろそろ、日が傾く頃合いだ。


「今から、しばらく独り言を言ってもいいですかね?」

「好きにすればいいんじゃないですか」


 ソフィーの言葉はそっけない。

 でも、マリアは気にしない。


「私には昔、とても大事な友達がいました。ここの王都にきてしばらくしてからです。でもその子は見えないんです。話しかけても、何も答えない。でも、私にはそこに誰かいた気がしたんです。それは空想上の友達です。分かってはいました。でも、私は救われた。次第に、ここの生活にも慣れて、忘れていきましたけど。でも、その子がいたから、私は前を見れた気がします。だから、お礼を言いたいんです」


 マリアはソフィーの顔を見る。


「ありがとう、あの時の私を救ってくれて」

「……なんで、私を見て言うんですか?」

「さぁ、なんでですかね?」


 少しむっとした顔になると、ソフィーは腰を上げる。


「それでは、そろそろ行きますよ。速度を上げて」


 ソフィーの言葉に、マリアは何とも言えない表情になった。

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