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第十四話 姫様とメイド

 1人で螺旋階段を上って行く。

 前回より負担が大きく感じるのは、今日が2回目だからか、それともトレイを両手で持っているからか。

 

 正直、幅のある物を持って運ぶのは思った以上に大変だった。

 何より重いし、持ちにくいし、歩く度に食器がガタガタと揺れるし、少しずつ精神が摩耗して行く。

 涼しい顔で運んでいたメイド長を、マリアは畏敬の念を抱くこととなる。


 螺旋階段を上り切った時には、達成感に包まれ、時間の確認もなしに部屋へ入った。


 ソフィーは東側にある、窓台の上に座っている。

 右側の窓を開け、外を眺めていた。

 ソフィーの向けた方角に教会がある。

 自分の姿を探してくれていたならいいのになぁと、マリアは思った。


 前と似たような水色のドレスに、白いタイツ。

 青系の色が好きなのだろうかと、マリアは考えた。何となく、空の風景を思い浮かべた。


 机の上に料理を置く。

 人が入って来た事に気づいている筈なのに、ソフィーは振り向かない。ただ、ぼんやりと外を眺めているだけ。

 決して、声を掛けてはいけない。

 そう言われたなら、それを守るべきだ。

 でも、マリアは我慢出来なかった。


「姫様」


 大きな声ではない。

 でも、ソフィーは振り返った。

 少し呆けた顔で。

 それを可愛いと、マリアは思った。


 スカートの裾を掴んで、カーテンシーで挨拶をする。先輩メイドの真似事だ。


「暫く、姫様のお世話を任されました」


 ソフィーは窓台から下り、マリアの方に近付く。


「何故あなたがここにいるのですか?」

「それは、姫様のお世話をする事になりましたので」

「違います。何故あなたがこの仕事をすることになったのですか?」


 マリアは少し悩む。

 姫様のお世話を他の人が嫌がったから、とは言える訳もない。


「私が姫様のお世話をしたかったからです」


 嘘ではない。だから、大丈夫。


「何故ですか?」


 ソフィーは顔を伏せる。


「何故、私の世話なんかしたいんですか?」


 マリアは顎を指で摘むと、少し考える。


「それはやっぱり、私が姫様の事を好きだから、ですかね?」

「······私は、あなたのことが大嫌いです。それでも、私の事を好きだと言うのですか?」

「自分の事を好きな人しか好きになれないなら、人は誰のことも好きになれませんよ?」


 エリーナも昔はマリアに散々嫌がらせをしてきたし、嫌ってきた。でも今は、友達ではないかもしれないが、ライバルにはなれた。だから、ソフィーと友達になれなくても、別の何かになれるかもしれないと、マリアは考える。


 目を背けた後、ソフィーは軽く息を吐く。


「······では、好きにしてください」


 マリアは自分の存在を、ソフィーに認められた気がした。


「何か私にして欲しいことがあったら言って下さい。出来るだけ頑張りますよぉ」


 マリアは身を乗り出して言った。

 

「急に言われても、分かる訳が無いです」

「では、考えておいて下さい」

「気が向けば、考えておきます」

 

 これで昨日のお礼を返せるかもしれないと、マリアは考えた。

 

 ソフィーは顔を背けたまま、目線だけをマリアの方に向けると、彼女の首元に目が行く。


「因みにですが、そのペンダントは何ですか?」


 マリアは、エリーナから貰った星を掴む。


「これは私がこちらへ伺う時に貰いました」

「······誰から貰ったんですか?」

「友達······、いや、ライバル、からですね」


 マリアとしてはライバル意識等ない。友達として仲良くしたいと思っているが、エリーナの嫌がる顔が頭を過ぎる。


 揺れる星を、ソフィーは少し不機嫌そうに眺める。


「私の前ではそのペンダントを仕舞ってください。不愉快ですから」


 圧を感じ、マリアは慌ててポケットの中に入れる。


 気配がした。

 ソフィー以外の気配だ。

 マリアは気配のする方へ振り向くと、机の上に黒猫がいる。


 急に現れた存在にマリアは驚いたが、ソフィーは落ち着いている。


 黒猫が何度か鳴き声を発すると、ソフィーは頷いた。


「分かりました。直ぐに伺うとオーランドに伝えてください」


 黒猫がもう一度鳴くと、霧の様に姿を消した。


「マリアはオーランドと面識があるのですか?」

「今日、顔見知りになりました」

「緊急事態の様です。マリアを連れて、会議室まで来てくれとの事です。これは珍しい話です。本来なら使い魔に報告させて終わらすだけなのですが」


 マリアは机の上にあるトレイへ目を向ける。


「まだ、食事をしていませんよ?」

「一食抜いた所で何も変わりません」


 銀の蓋で隠された料理に想いを馳せる。

 朝ご飯、美味しかったなぁ。


 マリアは思いを振り切り、扉の方に向かう。


「何処へ行くんですか?」

「何処って、まずはここから出ないと行けませんよね?」


 1つしかない扉に指を向ける。


「ああ、成る程」


 ソフィーはマリアの方に近付くと、背中と膝裏に触れ、お姫様抱っこで軽々と持ち上げる。

 マリアは咄嗟の事で、身を硬くした。


 ソフィーの周囲に風が起こる。

 東側に首を動かし、閉じた右窓を風で開く。

 体を浮かせ、ゆっくり飛ぶと、窓台に足を乗せた。


「行きますよ」


 数秒先の自分の未来を想像し、マリアは血の気が引く。

 

 ソフィーは飛び降りた。

 

 急な浮遊感にマリアは慌てて彼女の首元に抱きつく。


「抱きつかないでください」

「無理言わないで下さいよ!」


 ソフィーの耳元が赤くなっているが、マリアにはそれに気付く余裕等ない。


 普段よりもかなりゆっくり飛んでいるが、それでもマリアにとってはかなり速く感じる。悲鳴が出ないよう何とか堪えるので精一杯だ。


 城は5階まである。

 3階に開かれた窓があり、そこにソフィーが入ると兵士により窓が閉められた。

 ゆっくりとマリアは下ろされた。暫く足元が震え、生まれたての子鹿のようになっている。


 円卓の会議室。

 気難しそうなおじさん達の視線に気付き、マリアは愛想笑いをした。

 王家の人間は国王と第一、第ニ王子が参加している。

 先王は早くに亡くなった。現国王は若くして即位し、今は41歳である。

 第一王子が19歳、第ニ王子が18歳と年若く、基本的に王家の人間は金髪碧眼の美形が多い。

 

 ソフィーは特に気にする事なく、いつもの自分の席に座る。

 他に空いた席もないため、マリアはソフィーの後ろに立ったままでいる事にした。


「ソフィー様、マリア様、お集まり頂きありがとうございます」


 オーランドが席から立ち上がり、胸に手を当て、頭を下げる。


「先程まで、普通の会議をしていたのですが、私の密偵から緊急の連絡がありました」


 顔を上げ、マリア達の目を見る。


「魔物の大量発生により、1つの村が全滅しました」

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