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第九話 ライバル

「そろそろ、泣き止んだ?」

「泣いてませんけど!?」


 マリアは 部屋の時計に目を向ける。

 もうすぐ、晩御飯の時間だ。


「部屋に戻りますから」


 マリアはソファから立ち上がる。

 結局、他愛のない話しかしていない。

 セラ様の気まぐれで呼ばれただけだと、マリアは結論付けた。


「ちょっと待ちなさい。まだ大事な話が終わっていないわよ」

「大事な話なんかあるんですか?」

「あるに決まってるでしょ」

「本当ですかねぇ?」

「何言ってるのよ、さっきまでの会話だって、笑いあり涙ありの、有意義で大事な話だったでしょ?」

「マジで、私泣いてませんからね? 変な風評被害だけはご勘弁を」


 セラはニマニマと笑う。


「帰りますよ?」

「だから大事な話をがあるって言ってるじゃないの」

「では、さっさと言って下さい」

「マリア」


 名前を呼んだ後、何故か神妙な顔をする。


「今日中に荷物を纏めてちょうだい」


 理解が追いつかない。


「はい?」



 ――――――


 

 食堂は大ホールとなっており、百人ほどの人間が食事を出来る広さとなっている。

 長テーブルがいくつも並んでおり、食べる場所の指定がないため、平民と貴族は綺麗に分かれる。


 食事は生徒達が当番制で行う。

 

 食事は司祭、シスター、生徒で時間を分けて行うこととなっている。


 マリアは席に付き、シチューに浸したパンを口にいれた。


「そう言えば、聖女様は何の用事だったの?」


 隣の席に座るアンナは、素朴な疑問を投げかけた。


「私、明日からはお城の方で住む事になったんですよ」


 アンナは手に持ったパンをシチューの中に落とす。


「それで今日中に荷物を纏めろって言うんですよ? 急な話でビックリしましたよ」


 アンナは勢いよく立ち上がり、椅子をふっ飛ばし、右手を机に叩きつける。

 

「マリア、教会から出ていくの!?」

 

 アンナの声は大ホール中に響き渡る。

 騒がしかった食堂が徐々に静かになって行く。


「何で!? 一緒に貴族を打倒し、平民の時代を築くんだって、約束したじゃない! あれは嘘だったの!?」


 いや、してませんけど?


 周りの子達も立ち上がり、マリアの方へワラワラと近寄ってくる。


「退きなさい!」


 人が波のように動き、道が出来る。

 ツインドリルのお嬢様がマリアの前までやって来る。取り巻き二人を引き連れて。


 彼女の名前は、エリーナ。年齢は19、身長は166cm。金髪の縦巻きロールが特徴的であり、由緒正しき大貴族のご令嬢嬢である。

 聖女候補の一人であり、マリアの次に魔力が高い。

 マリアは平民の代表に担ぎ込まれ、彼女は自ら貴族代表に名乗りを上げた。


「マリアさん、どう言う事ですの?」

「いや、明日からお城に行く話は――」

「逃げるのですか!? 私とあなたの勝負はまだ、終わっていませんわよ!」


 取り巻き二人は腕を組み、一度大きく頷いた。

 

「エリーナさん、一度もマリアに勝てたことないじゃん」

「アンナさん、勝負はまだ続いていますわ。勝敗と言うのは、戦いが終わった時に決まるものなのです」


 エリーナはマリアに向かって、指を突きつける。


「私が終わったと言うまで、戦いは決して終わりませんわ!」

「え? それは卑怯じゃん」


 アンナは取り巻きに睨まれ、愛想笑いで誤魔化した。


「だから、勝手にいなくなることは、この私が決して許しませんわ。あなたは、私のライバルなのですよ?」


 エリーナはマリアに突きつけた手を胸に置き、悲しげに顔を歪める。

 取り巻き二人は主人の姿に、涙腺を緩ませた。


 マリアは頬を掻く。


「あのですね、お城に滞在するのは長くても一ヶ月ほどかと」


 沈黙。


「だから、また戻ってきますよ?」


 潮が引くように、みんな無言で自分の席に座り、何事もなかったかのように雑談が始まる。


「マリア、今日のシチューはいまいちだね」


 マリアは食事を再開する。

 

 まあ、いつもの事だ。


 

 ――――――



 マリアが自分の部屋で荷造りしていると、扉が開き、アンナの顔が覗く。


「マリア、一緒にお風呂行こうよ」

「お風呂ですか? いいですよー」


 荷造りは中止し、お風呂の準備を始める。


「荷造り、本当にしてるんだ」

「もう明日ですからねぇ」

「マリアって、意外と淡泊だよね。一言もしゃべらず、真面目な顔を維持できれば、慈悲深い女神様の様に見えるかもしれないのに」

「それ、褒めてますかぁ?」

「ん〜、微妙かな。マリアはもっと私に優しくして、愛情を注がないと駄目だよ。花は直ぐに枯れちゃうもんなんだよ。だから、水をおくれ、水を」


 マリアは下唇に人差し指を突きつけ、暫く思案した後、両手を広げる。


「抱きしめますよ?」

「マリアは本当、分かってないなぁ。催促されている時点でもう駄目なんだよ。だってそこに、マリアの心はないんだから」


 なるほど、とマリアは頷いた。


「私、こう見えて結構寂しいんだよ。マリアはたかが一ヶ月って思ってるかも知れないけど、今まで毎日会っていたのに、会えなくなるのは、やっぱり悲しいよ」


 マリアは立ち上がると、アンナを抱きしめて背中を優しく撫でた。


「だから、心にもないことは――」

「私がしたいからするんです。ちゃんとありますよ。私の心が、ちゃんとアンナに向いていますから」

「······本当、ずるいよね、マリアは」


 アンナは、静かに目を閉じた。 

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