姉妹。
《目的地は隣国のニシュって言ってたよな?》
「“例の姉妹の家がココ、クラグイェヴァツに有るので”」
「えー、じゃあ顛末が見れるって事?」
「“はい、サラは見たいそうですが。説得するならどうぞ、僕は先に馬車を降りて待ってますね”」
コレ止めたら、俺が恨まれるじゃんか。
「お兄ちゃん」
《はいはい分かった分かった、けどマジで俺らは目立つんだから、侍女は1人だけ。2号だけだ》
《はい喜んで》
「やった、ごめんね1号」
『いえ、お嬢様の安全の為ですから』
《お土産を買って来るから待っててね》
ココはニシュまでの大きい道沿いの中で、最も大きい街。
隣国の手前だからか特に栄えてる。
俺らの外見は目立つから、いつもは2号と近衛兵だけで買い物に出てたんだけど、今回はエセルも来たし。
折角の大きい街だしな。
『やっと諦めがついたんでしょうか』
《どうなんだろうな、諦められてるのか分かんねぇ》
『少なくとも、お譲りになる気が少しは出たかと』
《まぁ、少しだけ、な》
どうても良い事を話しながら俺らは馬車で宿屋に向かい、其々の部屋で待つ事に。
サラが居ない家って、 こんだけ静かなんだろうな。
《“あぁ、失礼しました”》
「“どうして、きぞくのかたが?”」
《“いえ、ただの庶民ですよ”》
いや、庶民がそんな立ち居振る舞いしないってば、少しぶつかったらスムーズに避けて謝罪したじゃん。
無理無理、言葉からも貴族溢れてるよアンタ。
「“さすがにむりがありますよ、きぞくさま”」
「何かご事情が有るんでしょうし、無視しておきましょう」
ほら、エセルの言葉にも反応してんじゃん。
どうしたよ、貴族様。
《“怪我も無さそうですし、失礼しますね”》
「“あ、はい”」
「“行きましょう、サラ”」
凄い面白そうだけど、エセルに面倒は掛けたく無いしなぁ。
うん、忘れよう。
とか思ってたのに。
《“やぁ”》
宿に戻ったら先回りして居んの、部屋の前の廊下に。
「何でココに」
「彼はレウス様の兄上です」
《いや見抜かれた事が悔しくてね、どうしてか聞きに来たんだ》
ウチの国の言葉じゃん、上手。
「お言葉が上手でらっしゃる」
「お茶を淹れさせますのでお入り下さい」
《“ありがとう、助かるよ”》
うん、座るのも貴族。
「“どうぞ”」
《“どうも”》
「あ、分かったのは立ち居振る舞いですよ、咄嗟に避けて謝罪までが貴族で、え?本当に?」
《本当だよ、僕は母似でね、アレは父似なんだ》
「あー」
うん、飲む姿も貴族だわ。
《あぁ、こうした所作を荒くする方法を教えてくれるかな?》
「そのカップも壊してやろう、と思って行動する、とか?」
《勿体無い》
「物を知らない者には価値は分かりませんし、気を遣うのは面倒なので価値は無いだろうと思うんですよ、疲れるから。椅子とか平気で引きずる子供と同じです、床とか家具の価値を知らないから、丁寧に扱うって頭がそもそも無い、壊さなきゃ良いって考えなんです」
はい、前世がそうでしたはい。
だって所詮は木じゃん、とか思ってました。
《説明が簡潔で助かるよ》
「そう育ちも良くなかったので。で、あの」
「どうしていらっしゃったんでしょうか」
《処刑を見に立ち寄るだろうと思って、折角だからサラにも会ってみたくてね。どうかな、疲れは?》
「馬と馬車と交互に乗ってるんですけど、飽きて少し疲れました」
乗馬の練習もしつつ移動してんだけど、馬車って揺れるから何も出来ないんだよね。
目立たない様にベールさせられてるし、窓にもレース掛かってるから薄暗くて本も読み難い。
船の方がまだ良いわ。
《この子、僕か末弟に》
「却下です、僕のです」
ヤバ、キュンってきたわ。
「って言うか流石に王宮は無理ですよ、粗が目立つ筈ですし」
《それが却って》
「もう帰って頂けますかね、きっと護衛の方が心配してらっしゃいますよ」
《なら王宮で侍女になるのはどうかな》
「えっ?」
「はぁ」
エセルのこの反応。
前から断ってくれてたのかな。
「お断りします」
《残念、けれど候補だとは伝えたからね。じゃ、またね》
レウス様とは違うけど、王族って感じより、寧ろ商家とかキャラバンっぽいんだよなぁ。
合わせてくれたのかな、私に。
「“すみませんでした、既にレウス様から誘いが有ったんですが”、僕が勝手に断っていました」
「“いえいえ、助かる”」
「良いんですか?」
「“だって無理だよ、流石に窮屈そうだもん。ありがとう、断っといてくれて”」
勝手に決めてしまって、僅かに罪悪感が湧いていたんですが。
僕の判断は正しかった。
彼女を理解出来てるんだ、と、少しだけ。
《いやアレが何で居たんだよ、ココに》
「あ、はい。“彼は隣国への査察が有る、とは聞いていたんですが”」
「“会う予定も何も無かったんだ?”」
「“はい、ただ自分の目で確認したがる方なので、姉妹の事かと”」
「“へー、そんな感じの人なんだ”」
いえ、寧ろサラの思う真逆。
日頃の鬱憤を遠方の他者で晴らす方、なんですが。
「“鬱憤を晴らすのに、ですね”」
「“あぁ、そっちか、成程ね”」
《“で、処刑はどうだったの?”》
「“ココは手厳しかったなぁ、隣国への影響を考えて?”」
「“はい”」
罪状を母親に読み上げさせ、刑の執行は父親の祖父母、姉の年の数だけ其々に鞭を打つ。
姉妹は変装させられ、刑を連日眺めさせられ、市井の意見を耳にさせられる。
姉の方は家の異常さに気付きつつ有るらしい、けれど妹の方は。
「“まぁ、まだ混乱してるっぽい。自分がヤバいヤツだっていきなり突き付けられてんだから、仕方無いよね”」
姉は苦労して当たり前、虐げられて当たり前、そう教えられずとも既に身に沁みており。
最初は反論していたものの、母親から間違いだったと改めて諭されて以降、周囲からの質問や指摘には沈黙を貫いているらしい。
《“結婚しても逃げらんないの?”》
「出来ますよ、ですが申込みが無いそうです」
「“明らかに考えが変わったって周りに伝われば良いけど、無理だろうね。有り得ない、って近くで言ったら凄い顔で見られたし”」
《“で姉の方は?”》
「“世話好きでも難しいと思うし、ちゃんとした修道院で暫く居ても、どうかな、普通を知らないと今度は間違える立場になるから。ぁあ、侍女か使用人が良いと思う、色んな家を見て普通を知れば良いんじゃないかな”」
「成程、仮にも次女は加害者、誰が手間を掛けるにしても芽は無い。ですが姉の方は、成程、同行させましょう2人を」
「“えー、エセルを取られたく無いんだけど?”」
半ば冗談ながらも、半分は本気で。
可愛い。
僕には嫉妬と冗談が良い匙加減で、可愛い、早く結婚してしまいたい。
「ありがとうございます。サラが嫌なら止めます」
「“半分冗談、私は大丈夫だから連れて行こう、変化が有った方が問題を修正し易い筈だから”」
「ですね」
道中、予想はしてたけど、妹ちゃんマジで相性悪いわ。
《“どうしてそんな目で見るの”》
被害者ぶるの上手過ぎ。
身近な者は全て味方で当たり前、って感じが最高にムカつくわ。
『“ナタリー、いい加減に”』
《“アンタこそ、何でそんな被害者ヅラしてんの?非難される様な目で見られて当たり前じゃん、自分がされて嫌な事を平気で他人に、しかも家族にしてたんだろ?”》
大袈裟にも見える素振りで驚いた後、悲しそうな顔で口元を抑えてんの。
ドラマを見過ぎたクソ女がやる行動、とか思ってたんだけど、劇すらココら辺だと稀なんだよね。
凄いわ本当、私なら秒で言い返しちゃうもん。
「“止めてあげてお兄様、あんな家に育ってしまったのだもの、幼くても仕方が無いわ。可哀想な子なのだもの、今日は許してあげましょう?”」
アンタが姉ちゃんに言ってきた事を言ってやってるだけ、なのに。
何ショック受けてんのよ、マジで反省が無さ過ぎて意味分かんないわ。
《“ぁあ、けど可哀想だからって何でも許すなよ?”》
「“はいはい、ありがとうお兄様”」
味方が居ないって改めて分かったら、次はエセルに行くかな。
ちゃんと言って有るんだけどね、私の婚約者だって。
《次はエセルに行くんだろうな》
「流石にお兄ちゃんでも予想が付くか」
《そらね、頼れそうなの他には、近衛かもな》
「あー確かに、どっちかか」
うん、甘かったわ。
両方に逃げやがった。
《“私、もう、どうしたら良いか”》
まぁ、近衛のお兄さんはとっくに子持ちだし、あのレウス様の近衛だしね。
『“しっかり反省なさって、以降は弁えれば宜しいのでは。それとも、弁える、についてどうしたら良いかを聞いてらっしゃるんでしょうか”』
隠れて見てたんだけど、また大袈裟にショック受けた素振りで、また悲しそうにして。
マジ幼稚、全く同じは流石に飽きるわ。
「ヤベぇなアイツ」
《それな》
で、次はエセルへ。
うん、前は冗談半分だったし、そもそも覚悟はしてたけど腹立たしいわ。
《“私、もう、辛くて”》
「“そうですか”」
一瞬で笑顔が消えて、縋ろうとした妹ちゃんを華麗に避けた。
うん、エセル素敵。
《“そんな、どうして”》
「“どうしてか分からない愚か者だからですよ”」
笑顔で毒ビーム。
妹ちゃん、流石に固まってんの。
育った環境が確かに悪いけどさ、道徳だとかは姉ちゃんが道中懇々と教えてたのに、コレだもん。
バカは死なないと治らない、ってか死んでも治るとは限らないんだよなぁ。
私はアスマン様に出会うまで、まだバカだったなって思うし。
《“そんな言い方”》
「“そう非難がましく言われる覚えは有りません、しかもコレは正当な評価。そんなに誰かを非難しないと生きられないなら、死んだ方が良いですよ、アナタみたいな人を生かす余裕は誰にも無いですから”」
立ち直らせるだけの価値、無いんだよねぇ。
家事もダメ、金勘定もダメ、字や本を読むのも好きじゃないって大して読まない。
敢えてなのか察しが悪い、婚約者が居る男に泣いて縋ろうとする貞操観念と道徳観念。
ココには人権って有るけど、頑張る姿勢皆無の時点で終わりだよね、だって立ち直らせる為の資源にも限界は有るんだもん。
《“そんな、私”》
「“泣いて縋ろうとした事を、サラが知ったらどうなるか。言いましたよね、アナタの命を左右するのはサラだ、と”」
《“言わないで!何でもするから”》
「“なら賢く立ち回って下さい、では”」
こうやって悪い事に加担したり、体売ったりって。
可哀想は可哀想だよ、本当。
でも、唯一味方の姉ちゃんを未だに蔑ろにしてる時点で、ね。
『“ナタリー”』
《“お姉ちゃんが嫌って言ってくれてたら!嫌がってくれたら私はこんな事にはなってなかったのにっ!”》
他罰的な考えだけは絶対にするな、本当のクソになるぞ。
高校の教師が言ってた言葉が、死んでから身に沁みてんの。
全然似てないけど、愚かなのは似てるから、見てんの辛いわ。
「お兄ちゃん、私、下がるわ」
ココまで愚かだと辛いわ、マジで。
「サラ」
「“ごめん、意外と耐えられなかった。バカだった昔の自分を思い出して、キツい”」
初めて、サラの弱音を聞いた。
暗く、弱気なのか僕の方を全く見る事も無い。
「今は、そうは思えませんが」
「“全部、アスマン様のお陰。それまで他人や周りのせいにしてた、ずっと、全部、周りが悪いと思ってた”」
「僕もですよ」
「“でも、どう、何で変わったの?”」
「レウス様ですね」
警戒するのは偉い、頭が良い証拠だ、だが結局は信じるか信じないか、信じたいかどうか。
お前はどうしたい。
そう聞かれて、取り敢えずはこの偉そうな人に付いて行こう、と。
「“それで、そのまま?”」
「ですね、それとクズのお陰です。こうなりたくない、と思っている間に共通点に気が付いた。そして心から信頼される良い人間の見本が居た事で、まぁ、誤魔化せる様にはなったとは思います」
「“全然、腹黒そうだなとは思わなかったよ、でも腹黒い方が良いなって思ってたから嬉しい”」
「そこ、嬉しいですか?」
「“だってさ、七男居るじゃん?善人過ぎたり純粋過ぎると心配になるんだよね”」
「あぁ」
「“やっぱ守って欲しいからさ、食うに困るとか騙されて借金負うとか、本当に嫌なんだよね”」
「流石に、そこまででは無いと」
「“エセルに勝てない時点で無理だと思うよ?”」
「僕と比べるのは酷ですよ」
「“でもココに居るじゃん”」
「まぁ、そうですけど」
「“けど居ても居なくても、人を騙せるだけの悪知恵も持ってる人じゃないと、無理だなぁ”」
「騙される心配は無いんですか?」
「“しないでしょ?”」
「どうしてそんなに信じてくれるんですか?」
「“好きだから嫌われたく無いでしょ?”」
「まぁ、はぃ」
「“えへへ”」
本当なら、早く一緒になりたい。
誰かに取られたくない、勿論、国にも。




