家族。
「邪魔するなら来ないで欲しかった」
《あんな腹黒そうなヤツの何が良いの?》
「腹黒そうな所」
失敗した、完全に失敗した。
キスされちゃうわ殴り倒しちゃうわ、マジでどんな女子だよ、ってなるって絶対。
ダメだ、コレもう七男と結婚するしか無いじゃんよ。
嫌いじゃないけどさ。
いや、もしかして私って結婚したくないから、こうしてウダウダしてるだけなのかな。
アスマン様と離れないで、程良い相手って。
いやでもその条件に合ったの居たけど、全くダメで。
《ごめん》
「謝るならすんな」
《無理》
「だー、何で諦めらんない?」
《好きだから》
「なにが、なんで、どこがよ」
《最初は弱っちくて、でも男並みに元気になって、何か、このままずっと居るんだと思ってた》
「何で妹じゃないのよ」
《俺の、俺らどっちかの婚約者になると思ってた、勝手に》
「最初から?」
《途中から、元気になってから、流石にアレは無理》
この世の男、ガリガリはマジでダメなんだよな、ウチのは余計に。
「はぁ」
《サラは優しいし頭が良い、メシも美味いし、何で変なのばっかなのかマジで意味が分からない》
「いや後半のはマトモだったでしょうよ、親がアレってだけで」
《見合いでも禄なの来ないじゃん、凄い悔しかった》
「で私が気に入った相手の前で私にキスすんのかい」
《奪われると思って》
「お兄ちゃんのじゃないんだが?」
《何で俺じゃダメなの》
あー、こうなるのが面倒だから避けてたんだろうなぁ。
苦手なんだよね、こう言う事。
なぁ、助けてよ侍女。
おい、目を逸らすな。
「アスマン様に兄弟と結婚させる気は無いって最初に言われたの、だからこそ最初から兄弟だと思ってた、そう勝手に思っててすみませんでしたね」
コッチだけ、兄弟と思ってたとかクソ恥ずかしいわ。
もう全部、どうせ私が悪いんですよ。
最初から全部、間違ってた、ジャミルをぶん殴っておけば良かった。
《侍女から聞いたわ》
《ごめんなさい》
《相手の許可無くそうした事はしたらダメだ、と教えた筈よね》
《はい》
《奪われると思ったのね》
《はい》
《アナタの方が幸せに出来る?》
《母さん、良いの?》
《答え次第よ》
《分からない、職業も何も聞けなかったし、殆ど失神してたから》
《あのね、アナタ達を兄と思え、だなんてそのまま言っては押し付けになるでしょう?だから私は結婚させる気は無い、と伝えたの。そしてアナタにも、責任を負う必要は無い、そのつもりで言っていただけ。絶対にダメとは言わないわ、けれど幸せに出来る場合だけ、絶対に離縁しないと言い切れる理由を出しなさい》
《そんなの無理じゃん》
《だからこそなの、家族の縁はそう切れない、けれど夫婦になれば切れてしまう。良いの?それだけ危うくなるのよ》
《でもだって》
《分かったわ、後はお兄ちゃんやお父さんと相談なさい、良いわね?》
《はい》
《それと、邪魔した事は謝っておきなさい》
《はい》
《何か御用でしょうか》
《謝ろうと思って》
『多分、眠ってらっしゃるかと、起こしましょうか』
《出来たら、様子次第で、まだ明るいから》
『分かりました』
「なに」
《邪魔してごめん》
「許さん」
《妹と思うのは無理、ずっと抱きたいと思ってたから》
「そ、我慢させたのは悪かったけど、コッチは全くそう思って無かった」
《ごめん、旅の途中で何度も諦めようと思ったんだけど、無理》
「そこは評価するけど、邪魔したのは許せない」
《許さなくて良いから、ちゃんと考えて欲しい》
「なら邪魔しないで」
《分かった》
ずっと一緒に居るもんだと思ってて。
なのにまた、変なのを引っ掛けたと思って。
俺はこんなに好きなのに、大事にするつもりなのにって。
なのに、凄い、悔しくて。
『母さんの許可が半分は下りたんだ、後は待つだけだな』
《凄い、もどかしい》
『サラはモテるからな、きっと結婚してもそうなるんじゃないのか』
《母さんと一緒に暮らして貰う》
『そうだな』
《どうやって妹だと思えたの》
『妹だと言われた事と、年が下だからだろうな』
《単純》
『お前達が話を聞かなさ過ぎる、しかも素直さに欠ける、あまり良い事じゃないぞ』
《分かってる》
『なら良いが、六男と喧嘩してくれるなよ、もうサラが止めてくれるとは限らないんだからな』
分かってる。
俺が兄弟としか思われて無いのも、あの異国人にサラが惹かれてるのも、全部。
分かってるけど。
《“お前はサラ以外、良いと思える女が居るもんな”》
《“君と違って!僕は、サラの為に”》
『“いい加減にしろ、往来で喧嘩を始めるな、家に入れ”』
僕は、先日の件で様子伺いに来た筈が。
件の彼女が居る筈の家の近くまで行くと、戸口の前で男同士が揉めていて。
片方は先日挨拶した七男、だとは分かる。
けれど。
このまま順当に考えるなら、六男と五男か、若しくは情夫か。
「“あのさ、そんなに出て行って欲しいなら今すぐに出て行くけど”」
《“ごめんサラ、違うんだってマジで”》
《“喧嘩と言う程でも無いので、別に”》
「“表面だけ仲良し、とか求めて無いし、こう表で揉められる私の身にもなって欲しいんだけど”」
淡々と低い声で、一切の感情を排除した抑揚の無い声色。
何故か、彼女は制圧に関して非常に優れている。
こうした兄弟間に育っての事なんだろうか。
『“サラを思うなら外聞も考慮しろ、良いな”』
《“ごめん”》
《“すみませんでした”》
「“さっさと入って、次に同じ事が起きたら、黙って出て行くからね”」
《“うん、ごめん”》
《“はい”》
妹、と聞いていたけれど。
確かに彼女が言う通り、寧ろ姉の様な存在なんだろうか。
けれど、僕らの前では妹らしく振る舞っていた。
なら、コレは一体。
「あっ」
「あ」
目が合った瞬間、急いで家に入られてしまった。
多分、コレは弁解に行かないと彼女は諦める方向に、いやもう既にその方向かも知れない。
アレから全く一切の音沙汰が無く、1日が過ぎてしまい。
レウス様にせっつかれ、こうして来たワケで。
いや、ココは縁が無かったと。
そう諦めるべきなんだろうか。
言葉と行動共に制圧力を持ち、相応の地位も経験も有り、複数言語と賢さを持ち合わせている。
しかも、僕を見初めたなら。
いや、もしかすれば何か裏が有るかも知れない。
そうだ、元はそこを探る為にも来たのだし。
全く、調子が狂う。
「すみません、エセルと申しますが」
何で化粧も何もしてない時に来るかな。
いや嬉しいけどさ、アレ見られちゃったんだよなぁ、クソ不機嫌に諭してる所。
マジでもう、邪魔すんなって言ったのに。
「すみません、お見苦しい所を」
「あ、いえ」
もー、ドン引かれてるじゃんよ。
いやスッピンにドン引きしてる?
幼いもんなぁ、この顔。
《サラ》
「あ、コチラはアスマン様、お世話になってる方です」
「エセルと申します、先日はお世話になりました」
《宜しく、どちらの国の方なのかしら》
「もし、母国語で宜しければ……」
あー、やっぱり西洋の方だわ。
地続きだけど、イタリアの正面だもんなぁ。
うん、私、完全に夢見ちゃってるんだろうな。
もう完全に現実逃避だコレ。
こうなると妥当なのって、やっぱり七男と。
《サラ》
「あ、はい」
《この方の国に行く気は有る?》
「え、まだそうした話じゃ」
《念の為よ》
「今、考え直してたんです。単にアスマン様と離れたくないから、駄々を捏ねてるだけなのかなって。そんな気は無いんですけど、すみません」
《サラは、どれだけ彼の国の事を知ってるのかしら》
「場所位しか、殆ど知らないと思います、でも」
《何かお伺い出来るかしら?》
「“あ、はい、先ずは食事ですね。海沿いの上の方はココと同じ様に魚介や米を食べますが、内陸のコチラ側に近くなると肉食と小麦食が多くなります。違いとしては新鮮なキノコやチーズ、鹿肉等の肉の種類の多さですかね”」
あー、絶対に美味しいじゃん。
ココだとキノコって高いし、殆ど乾物なんだよね。
《もしかしてキノコと仰るのは》
「“はい、トリュフも含まれます、ご存知でしたか”」
ココでも向こうでも超高い、最高級食材じゃん。
輸送が無理だからトリュフ塩とかトリュフオイルとか、匂いを移したのだけの品物がやっとココまでは来るんだけど、それだって超高い。
だから海沿いって凄い観光地化されてて、そこでやっと食べてるってお兄ちゃん達が。
え、マジで、食べてみたいんだけど。
いやでもなぁ、食べ物に釣られるって卑しさ満点じゃん?
「“おいしいんですか?”」
「“好みが分かれますね、僕は苦手です”」
成程、前世での評判と同じだわ。
「あの、後は」
「“そうですね、やはり服装でしょうか。伝統的に高位貴族はコルセットを着用しますが、今は公式の場でのみ。主人の奥様と体系が似てらっしゃるので、もし宜しければ着てみますか?”」
「あ、いや、コルセットも持ってるので大丈夫です、キエフ公国で頂いてたので」
特に胸が凄い事になっちゃうから、外で着た事は無いんだよね。
ドレスによっては零れ出そうになるんだもん、アレはマジで凶器。
《文化風習はどうかしら》
「“婚姻や生活様式に関しても、特に違いは無いかと、本来は一夫一妻ですし。ただココよりは寒くなるので、そうした違いは有りますし、来て頂ければ僕が見逃した違いが分かって頂けるかも知れません”」
何処も建前上はそうなんだよね、一夫一妻だって。
けどあの人、レウス様とか呼ばれてた人、私を妾にとか言ってたんだよね。
って言うか、来ればって、何で。
「なんで?」
「“外交は常に優先されるべきですし。すみません、先程の事は少し見聞きしてしまったんですが、場を収める力も有る。素晴らしい能力を秘めてらっしゃるのかと、もし宜しければ婚約破棄について、もう少し詳しくお伺い出来ませんか?”」
いや言うのは良いんだけど、更にドン引きされるのは。
いや、隠す事じゃないよね。
「最初から、ですかね」
「“いえ、1度目は少し予想が付くので。そうですね、逃げた先からでお願いします”」
ハッキリ言って、逸材だと思います。
《そうね、自らの能力を理解して、掃除係になろうとするだなんて》
『そのまま何処かに適当に嫁がせるのは実に惜しい、が、どうしてココの国の者が手出ししないのか』
「家主の夫含み、全ての息子さんがキャラバンに所属しています、しかも各方面へのキャラバンへの配置。王家王族が手を出すのが非常に難しい、正に鉄壁の配剤なんですよ」
《それで、あの子が王家王族に興味が有るかどうか、なのだけれど》
「無いですね、逃げ込んだ先の辺境伯の誘いを断った理由が、身分差で、要職の妻には自分は不向きだ、と」
『お前の雲行きが怪しくなったな』
また、身分差。
以前に断られたのも、自分では分不相応だから、と。
《けれど、今度はもう少し用意周到に出来るじゃない》
『既に策は用意して有るんだろう、エセル』
「側近を辞めても良いですかね」
『それ以外で、だ』
《辞めても良いけれど圧力を掛けまくっちゃうわよ?》
「冗談なんですから本気で想定しないで下さいよ」
『で、勿体ぶるな』
「コチラで掃除係をして貰います」
《アナタ、最悪は奪われるかも知れないのよ?》
「僕も婚約の申し込みをしますが、その場合、念の為に当て馬の七男を付き添わせます」
『相変わらず腹黒いなぁ、お前は』
《けれど、そこよね、アナタの腹黒さを受け入れるかどうか》
「隠し続ける事は苦でもありませんし、程々に匂わせて様子見をするつもりです」
『アレの何が良いんだ』
「今は、賢さだけじゃなく、度胸や」
《胸ね》
『アレは上玉だからな、尻込みされてもおかしくは無いだろうさ』
《さ、冗談を言ってあげたんだから本音を言いなさい》
「今日、化粧をして無かったんですけど、意外と、可愛らしかったんです」
《あぁ、お化粧で気合を入れる子なのね。良いわ、そう言う子って好きよ》
「やっぱり、芯の強さを感じるんですけど、少し弱そうな部分も有って」
《分かるわ、強いだけじゃ魅力的とは言い難いものね》
「凄いですね、奥様の手練手管」
《もう、急に素に戻らないの。今から気持ちを伝える練習よ、アナタって素直じゃなさ過ぎるんだもの》
『そうだな、すらすらと良い部分は言えた方が良いぞ、口説くにはな』
「気が早過ぎるかと、七男は未だに恋敵ですから」
《あら、兄妹だと言ってたけれど、そう、親孝行な子なのね》
『それを引き離すのは少し心苦しいが、兄弟の嫁がコッチに移る事も検討されてはいるだろう』
「はい、五男以下が実家に入る予定だそうで、自分の事は気にせず良い相手に嫁ぐべきだと」
《益々不幸にしたらいけないわね》
「はぃ」
『何だ、歯切れが悪いな』
「3度目の婚約破棄で、お相手に重ねられたのが、嫌だった、と」
《あらあら、本当、大概の事は経験してしまっているのね》
『だからこそ、不思議だな、ウチの領内なら必ず身内に引き込むが』
「もし、ジプシーの女性なら、とお考え頂ければ妥当かと」
《あぁ、かなり難しいと聞くものね》
「はい、それと同等の状態ですので、そうした事も重なり、この国では難しい相手だとされているのかと」
《しかも、身が清いままだと信じて貰えるかどうか。あの感じからして処女でしょうけれど、ね》
『騙す奴は騙すしな、いや、アレの情報が相当守られての事か』
「どうやらそうかと、もう少し調べてみます」
『なら、最初のアレの元婚約者辺りを探れ、もしかすれば良い材料になるかも知れんしな』
《あらあら、エセルに似てきてしまったわね?》
「助かります、説明の手間が省けますから。では、失礼致します」
彼女の何処に惹かれているか。
僕はまだ、能力に惹かれているだけ。
そもそも良く知らない、何が嫌か何が好きか。
なのに惹かれた、惹かれている。
何に、何処に惹かれているのか、まだ分からないけれど。
惜しい、ココで関わりを絶つ事が、凄く惜しい。




