オリオン座
好きな人に彼氏ができた。
塾からの帰り道。頭を上に向けてオリオン座を眺める。
刺さるような風が吹いて、マフラーをぎゅっと首に巻く。
髪でも切ろうかな。
マフラーに入らないくらい。
分かってた。
男女平等だなんだって言ってたって、結局凹凸あるから人間社会は回ってるんだ。
うざったい下腹部の痛みも、天気が変わるとやってくる片頭痛も、私とあの子をつなげてはくれない。
私は聞き分けのいい女の子なので、そんなことは分かってる。
利口で、優しくて、か弱い。守ってあげたくなる女の子。それが私だ。
どうでもいい男なんていくらでも釣れるのに、神様はなんで、それを私にくれなかったんだろう。
変な希望を持つなって自分に言い聞かせてきたけど、やっぱり胸は痛かった。
私が筋肉があって、背が高くて、包容力のある男の人だったら違ったのかな。
それでも、何をどう頑張っても私は女で、男の自分なんて想像もできなくて、こんな私のままずっと一緒にいたかった。
早く別れればいいのに。あの子に指一本も触れないまま、別れてほしい。
私がこんなことを考えてると知ったら、みんなはなんて思うんだろう。
男の子からも女の子からもかわいいともてはやされてる私が、親友の不幸を願ってる。
幸せなあの子の隣にいるのは私なんだって、心の中で駄々をこねてる。
相変わらず下腹部は痛くて、頭も痛い。考えなんてまとまらない。
ただただ嫌な感情だけが渦巻き続ける。
もっと強い体に生まれたかった。
私がいるからあなたは大丈夫だよって言いたかった。
でも私の体はこんなにも弱くて、その分だけ気持ちも暴れる。
分かってるよ。私じゃあなたを幸せにできない。
どれだけ綺麗ごとを言ったって、人間社会は凹と凸で回ってるんだ。
自販機で、あの子がよく飲む缶コーヒーを買う。
私は利口な大人だから、失恋したらコーヒーを飲むのだ。
ブラックコーヒーは苦くて、あの子の全部を運んできて、目からはまた涙がこぼれる。
ごめんね。ちゃんと飲み干すから。明日には笑って会えるから。
だから今だけは、大きな声で鳴かせてほしい。