おしゃべり
「おいしいぃ。おばあちゃんのベイベイ鍋は旨いよねぇ。うちで作っても、絶対こんなにおいしくならないんだよ。なんでだろう。お母さんも、いっつも悔しそうだもんなあ」
マロットは大きな椀にお代わりをよそいながら、つくづくとため息をついた。
「おばさんのご飯もおいしいよ」
カラタは母親が病気になった時から、ずいぶんマロットの両親、とりわけ母親のナデコの世話になった。やはり母親にしか話せないこと、とりわけ結婚までのあれやこれやは、細かいことに気を配らない祖母よりよほど頼りになった。
だが料理の腕は、どうやってもゼアゾイには敵わない。ゼアゾイの砥ぎと料理の腕に敵う人などいないのではないかと、カラタは密かに思っている。
「なんか、ちょっと違うよね、おばあちゃんの料理って。材料は同じなのに」
そう言いながら、マロットは3杯めもきれいに平らげて、やっと「ごちそうさま」と箸を置いた。
「あ、いけない。ずいぶん食べちゃった。バナットの分、足りないね。後でなんか持ってくるから。ごめんね」
たくさん食べてさらに膨らんだお腹をさするマロットに、カラタは首を振った。
「いいよ、大丈夫。一昨日、兄さんが持ってきてくれたクジラ肉がまだあるの。バナットの分はふたりには多いからって売りに出したら、兄さんが自分の分を持ってきて。獲ったものは少しでも食べないと怒るから。バナット、失敗したって笑ってた。ずいぶんあるの、マロット、持って帰る? あ、後でおばさんたちの分も持っていくね」
「あはは、それこそ、いい、いい。そんなものまでもらったら、あたしがコアツァに怒られる」
それから「うふふ」と付け足した。
「カラタは結婚してから、おしゃべりになったね。よかった」
「え?」
「いっつも自己完結しちゃうからさ、カラタは。もっといろんなこと話してくれるといいのにって、思ってたんだよね」
マロットが結婚して家も村も出ていってから、ふたりは会う機会がぐっと減った。誕生日が同じで双子のように一緒に大きくなったから、マロットがいなくなってしばらくは、カラタは生活のバランスが崩れたような感じがしていた。
そんなマロットにさえも、カラタは胸のうちを明かすことはあまりなかっただろうか。自分ではなんでも話していたぐらいに思っていたから、この言葉はかなり意外だった。
「そ、そうかな」
「ちょっと、バナットには妬けちゃうよね」
苦笑するマロットに、カラタは返す言葉もない。
「あ」
「あ」
食事をしていた縁側から、長い坂道を上ってくるバナットに、ふたりは同時に気が付いた。大きなものを抱えている。
「やっぱり、貰っていこうかな」
カラタは今度は素直に頷いた。
「そうして」
そしてふたりは同時に「あはは」と笑いだした。