ウチの銀暦事情 Fractal.7
「どう見ても〈イザーナ〉や〈ミヴィーク〉と同じやん! ただ〈エイ型〉なだけや! 何なん? アレ?」
『ちょっとマリー、何なのよ! アレ!』
『え~? わたしに言われてもぉ~?』
『この〈ミヴィーク〉も〈イザーナ〉も、ハウゼン製でしょ!』
『うん、そうだよ? ついでに言えば〈ツェレーク〉も。ウィリスお爺ちゃんが着想した設計図を基にして、銀邦に建造してもらったの ♪ 』
あっけらかんとした温顔で言いはった。
『じゃ、やっぱハウゼン製じゃないのよ!』
『違うってば! あんなの、お爺ちゃんの残した設計図にも無かったし、わたしだって監修してないもん!』
プゥと頬っぺた膨らまる二〇歳の天才美女。
アカン!
帰って来て! 表マリー!
と、その直後!
『ケルルルルルッ!』
『キュウーッ! キュウーーッ!』
今度はイルカとシャチが興奮に騒ぎだした!
気性の荒い〈ミヴィーク〉は攻撃的な警戒心を現し、おとなしい性格の〈イザーナ〉は脅えながら威嚇しとるようやった!
「よしよし……どないしたん? 怖ないよ? イザーナ?」
コンソールを撫で撫でして宥めたげる。
せやけど、あんまり効果無しや。
「リンちゃん? この子達、どないしたんやろ? エラい脅えとるよ?」
『……そりゃそうでしょうよ』レーダーモニターへと釘付けのままで、リンちゃんは深刻な表情に染まっとる。『アイツ、追われてる! レーダーに追尾機影反応あり──エネルギー測定値が大きいから、こっちは〈大型宇宙船〉に間違いない! おまけに時折、高速熱源反応──つまり攻撃されてるって事よ! ミサイルかビームか知らないけど!』
「分かった! ウチ、救けてくるね! 行くよ、イザーナ!」
『キューッ!』
『どっちにせよ、もうすぐ視認範囲だから──って、モモッ?』
リンちゃんの制止、ちょっと遅かったわ。
ウチとイザーナ、もう飛び出しとったもん。
本意気になった〈イザーナ〉の航行速度は速い!
五分もせんと見えたんは、被弾に喘ぐ〈エイ〉と、その衰弱に容赦無い追撃を加えるイジメっ子!
船首に大きなドクロをあしらった船や!
せやけど、誰であろうと関係あらへん!
弱いものイジメはアカン!
「イザーナ、突撃や!」『キュウ!』
星の大海で縦横無尽な曲を描いた!
わざと目障りになるように、ドクロ船の周囲を纏わり泳ぐ!
程なくして、船首のドクロが目から光線を撃ってきた!
どうやらウチとイザーナに標的を推移したようやね?
うん、それでええ。
相手の関心をウチらへ惹き付ければ、それでええ!
これで〈エイ〉は、少しでも射程から離れられる!
「当たらへんもん!」『キューッ!』
ピッタリとした呼吸に、ウチとイザーナは旋回して避ける!
『キサマ! 何者だ? 我が邪魔立てをするなら、誰であろうと容赦はせんぞ!』
いきなり宣戦布告されたわ。
あ、せや! 自己紹介しとらへん!
「ドクロさん、こんにちは ♪ ウチ〝陽ノ咲モモカ〟言うねんよ? 宜しゅうね?」
『あ、こんにちは。こちらこそ……って違うわ!』
怒られたよ?
ウチ、笑顔で挨拶しただけやんな?
明るい挨拶、大事やんな?
『と……ともかく! この〈宇宙の帝王……を夢見る帝王〉を邪魔するなら容赦はせぬ!』
何やコメントしづらい複雑な肩書を自己紹介されたわ。
『いくぞ! ドクロ変形!』
雄々しい叫びに呼応して、ガキョガキョと分割されていく船体!
その内部から、腕が──脚が──頭部が──割れた船内からパーツ解放されていった!
徐々に形成されていく人型!
船首が直角に折れて、大きなドクロが胸飾りになる!
頭部もドクロやから二段ドクロや!
その側頭部からは野牛みたいな角が生え伸び、悪魔然とした禍々しい威風を演出しとる!
そして、完成したんは、全高八〇メートルはあろうかという巨体!
「ふぇぇ?」『キュキュウ?』
イザーナと二人して驚嘆に見入ったわ!
『ドクロイガァァァーーッ!』
……まんまやった。
『フハハハハ……ッ! ワシは絶対に〈伝説のネクラナミコン〉を手に入れてみせる! その邪魔立てをするのであれば、誰であろうと容赦はせん!』
「根暗な巫女?」
『ネクラナミコンッッッ!』
何や?
お嫁さん探しやったん?
『さぁ、いくぞ! イルカ娘! 悪の名に於いて正義の鉄槌を下す!』
〝悪〟なん? 〝正義〟なん? どっち?
『喰らえィ! ドクロブレェェェード!』
ウチらを狙って振り下ろされる巨大な半月刀!
避けた。
『ドクロビィィィーーーーム!』
胸のドクロが両目から光線が放たれる!
避けた。
当たるワケないやんな?
その対比も去る事ながら、機動力かて違うもん。
せやけど、困ったねぇ?
あの巨躯相手では、コッチも決め手になりそうな武器があらへん。
「あんな? イザーナ?」
『キュウ?』
「ウチ、アレやってもええんかな?」
『キューッ! キューッ!』
意気揚々と「よし! やろう!」言うとる。
うん、せやね?
攻撃してきたんはアッチやもん。
「ほんなら、いくよ! イザーナ!」
『キュウ!』
ウチとイザーナの合意で、機体は高々と頭上へと跳んだ!
『キュキュキュルルルルーーーーッ!』
昇天の加速にイザーナが甲高く鳴く!
宇宙空間でも機能する〈特殊超音波〉と宇宙量子〈オルゴン〉の干渉が、プリズム光彩の大きな輪〈オルゴネーションリング〉を発生させた!
それは連続的に発生し、神秘的光彩のリングトンネルと形成される!
一旦、旋回に距離を取ったイザーナが、再度、トンネル目掛けて突進!
ウチは頭部コックピットから出ると、イザーナの鼻頭へ立った!
静かに瞼を綴じ、カチューシャ形の〈シンクロコネクター〉に精神を集中させる。
それに呼応して〈シンクロコネクター〉に嵌め込まれた赤いクリスタル〈トランスコア〉が起動の輝きを息吹きだした!
そして、ウチは叫ぶ!
「Gフォルム・メタモルアップ!」
渾身の跳躍にヘリウムブースターの高出力を加味し、眼前の〈オルゴネーションリング〉へと飛び込んだ!
潜る世界は、まるで御伽世界のようにメルヘンチックや……。
せやけど、ウチに生じるんは、超常的変化そのもの!
徐々に巨大化していく肢体!
宇宙量子〈オルゴン〉を分子レベルで吸収融合し、質量変換しとるからや!
此処は、それを可能とする局地的特異空間やねん。
無論〈OTF〉や。
続けて、後追いに飛び込んだ〈イザーナ〉が空中分解──各パーツが〈プロテクター〉として、ウチの五体に装着されていく!
変身を終えた現状のウチは、約四〇メートルの大きさやった。
「Gモモ!」
凛々しくも可愛くポーズを決めて名乗る!
『ズ……ズルい……』
「ふぇ? ズルい?」
ドクロさん、ワナワナ震えだしはったねぇ?
『ズルいぞ! 何だ! 〝巨大な萌えっ娘〟って!』
「知らへんよッ! ビシッと指差して、何を糾弾してんのんッ?」
『こっちなんか〝胸にドクロ〟だぞ! 誰が見ても〝悪役〟だろうが!』
そんならドクロ取って、改名したらええやんな?
『おまけにノリノリで美少女戦士然と決めポーズとは! そんなに人気が欲しいのか!』
ノリノリやあらへんねん。
コレせんとプロテクター機能しとる〈イザーナ〉との感覚伝導率が落ちんねん。
そういう仕様やねん。
裏マリーの趣味が全開やねん。
本音はウチかてイヤやねん。
恥ずかしいねん。
『もう、いい……こうなったら、正々堂々〝悪役〟として生きてやる!』
あ、やっぱ〝悪役〟なん?
っていうか〝正々堂々とした悪役〟って、何?
『喰らぇぇい! イルカ娘! ドクロバース──』「モモーーッ! 無事ーーッ?」『──トォォォッ?』
突然、後頭部への猛突進を喰らってつんのめったわ……何かする前に。
って、アレ〈Gリン〉や!
リンちゃんとミヴィークの〈Gフォルム〉形態や!
「ふぇぇ……リンちゃ~ん!」
「アンタはーーッ!」
「ぎゃん?」
飛びつこう思うたら、グレードアップしたハリセンアプリで叩かれたよ?
巨大なイルカ娘が巨大なシャチ娘にドツかれたよ?
「ぅぅ……リンちゃん、痛いよ?」
「潤々しながら『痛いよ?』じゃないッつーの! アタシに心配掛けんな!」
「リンちゃん、心配してくれたん?」
「ううう……うっさい! 少しは反省しろッつーの!」
「えへへ ♪ リンちゃん、心配してくれた ♪ 」
『ぬぅぅ……仲間か!』
あ、ドクロさんがダメージから復活しはったねぇ?
『だが! 何人来ようとも、この〈宇宙の帝王……を夢見る帝──』「ちょっとアンタ!」『──……はい』
ハリセンをビシッと突きつけるGリンちゃんの怒気に、悄々と呑まれはった。
「アンタ、さっきモモに何しようとした?」
『えっ? え……っと?』
「女の子相手に何しようとしたかって訊いてんだッつーの! このセクハラロリコン! 銀邦倫理協会に訴えるわよ!」
『ロ……ロリ? 倫理……? ええ~~?』
あ、困ってはる。
「あと、その趣味悪いドクロデコも取れ! ポリシーか何かと勘違いしてるみたいだけど、傍目に不快なだけだッつーの!」
『ええぇぇぇ~~~~~~ッ?』
リンちゃん、無敵や!
『あの……スミマセン? 私、こう見えても〈宇宙の帝王──を夢見る帝王〉でして……』
「だから何よッ!」
『その……このドクロとか圧倒的な武力誇示は、ある種のアイデンティティーと申しますか……その、何と言いますか……威厳とか……ねぇ?』
「四の五の言うなーーッ!」
『てんぷくッ?』
あ……顔面ハリセン、スパーンいったわ。
ドクロさん、顔面押さえて苦悶しとる。
ちょっと涙目や。
アレ、鼻頭入ったねぇ?
「〈宇宙の帝王……を夢見る帝王〉って事は、アマチュアじゃない! 実績も無いアマが〝威厳〟とか言うな! おこがましい!」
……〈宇宙の帝王〉にプロアマあんのん?
『クッ……フフフ……アーーハッハッハッ!』
フルフルと震えたドクロさんは、ややあって吹っ切れたかのように笑い始めた。
『ウキィィィーーッ! 何だ、このアホ臭い展開は! もういい! みんな壊してやる!』
ヒステリックに『帝都 ● 語』みたいなフレーズ叫びはったよ?
次の瞬間、宣言通りの猛攻が暴走する!
『喰らえぇい! ドクロバーストォォォーーーーッ!』
ドクロビームに、全身砲門の一斉掃射!
星間ミサイルも節操なく打ち上がった!
「危な! 危ないて!」
「ちょっと! やめなさいッつーの! 宇宙塵をバラ撒くな!」
ウチとGリンちゃんは各部バーニアの機動力を活かした体捌きで、無差別攻撃を避けまくる!
『アハハハハハハッ! アハハハハハハハハハハハハッ!』
狂気めいた高笑いに、破壊の権化と化すドクロさん!
っていうか、泣いてへん?
ちょっと涙声なんは気のせい?
『暴走したっていいじゃない! だってドクロだもの!』
今度は〝相田み ● を〟みたいなフレーズ言い出しはった。
活用、間違っとるよッ?
「ったく、環境汚染すんなッつーの! こうなったら……モモ、アレやるわよ?」
「うん!」
提案に乗った!
ウチとリンちゃんは相手の左右から挟み込むと、両手合わせの五指を花と開く!
その掌を標的へ向けると、不可視の枷が自由を奪った!
「「エコロケーションホールド!」」
『な……何ィ!』
足掻く獲物!
せやけど、脱出は不可能や!
コレは〝高出力特殊超音波を利用した拘束技〟やねん!
イザーナがイルカなんは伊達やない!
同型のミヴィークかて、そうや!
それの高出力による相乗効果やから、拘束威力は半端やない!
『う……動けん!』
足掻くドクロさん!
好機や!
Gリンちゃんが高々と跳び、ウチは腰に構え据えた握り拳へと気合を籠める!
各々の脚と拳にエネルギーが迸った!
「タァァァーーーーッ!」
「ヤアァァァーーーーッ!」
頭上からはGリンちゃんの脚槍が!
正面からはウチの鉄拳が!
ブースター全開のダブル特攻が、同時にドクロ船長を突き抜ける!
「「Gクロスファイナル!」」
二人の軌跡が十字架と輝いた!
『ヌォォォーーーーッ!』
エネルギー臨界の奔流──「「乙女の奇跡!」」──G少女の決め台詞が起爆コードと作動!
……いや、ウチらかてホントはやりたくないねん。
そういう〝裏マリー仕様〟やねん。
ともあれ大爆発!
あ、殺生はイヤやから破壊はせんよ?
破壊はせんけども……ドクロさんは噴き飛んだ!
星間の彼方へと!
『おのれぇぇぇーーッ! 覚えていろォォォーーーーッ!』
あ、悪役の〝お約束〟になる捨て台詞吐いていったわ。
〈帝王〉やなくて〈雑魚〉ランクのやけど。
現場を少し離れた宙域で〈エイ〉は漂流しとった。
どうやら被弾ダメージで力尽きたようや。
ウチとリンちゃんはイザーナ達を横付けにすると、その船体へと取り付く。
その外見から予想した通り、構造はウチらの宇宙航行艇と一緒やった。
せやからハッチを開けるんも造作無い。
勝手知ったる……や。
そして、操縦席には意識を失った少女が居った。
「生体測定器に異状なし……気絶しているだけね」
「良かったぁ」
安心するウチを見て、リンちゃんは優しく苦笑した。
「モモ、この娘お願い」
救出対象をウチに預けたリンちゃんは、コンソール機器を操作し始める。
「何すんのん?」
「マリーに連絡。座標指定して〈ツェレーク〉に回収しに来てもらう」
「ふ~ん?」
ウチは膝枕に寝かせた少女を眺めた。
小柄な銀髪美少女やった。