リンちゃんと惑星レトロナ Fractal.5
『すまないな、リン』
「何が? ケイン?」
『いや、君の〈PHW〉の用意が間に合わなくて……』
「あ……ああ~ ♪ いいのいいの ♪ 気にしないで?」
ケインってば、レディへの気遣いが出来てるわね。
長所 ♪
でも、ゴメン。
たぶん、絶対、間違いなく、着ないわ。
それのミニスカピンクヴァージョンだから……。
『それから、君は〈レトロナマシン〉では初戦闘だ! 決して無茶をするなよ!』
「ええ、分かったわ! ケイン!」
モニター越しの忠告に、アタシは快活な返事を向ける。
もう、ケインってば……優しいんだから♡
頼もしい声にも艶があるし?
長所 ♪
『一機でも失えば〈レトロナⅤ〉に合体出来なくなる!』
「……え? ああ、うん……そっちね」
うん、そうよね?
惑星防衛の使命と責任があるものね?
当然よね?
うん、そうよ!
ケインってば正義感が強いのよ!
いまどき、いないわ!
こんなにも実直な人!
長所ッ!
と、レーダー反応が著しい反応を示した!
敵機が近い!
「ケイン! 敵が急接近中よ!」
『ああ、分かってる! リン!』
嗚呼、コレよ ♪
みんな聞いた?
〝ジョニー〟じゃなくて〝リン〟よ?
いま無二のパートナーとして呼ばれてるの、アタシよ?
必要とされてるなぁ……ア・タ・シ♡
『来るぞ! リン!』
「へ? ああ、うん!」
いけない、いけない。
数秒、幸福脳内麻薬にトリップしてたわ。
ヨダレ拭くの映ってなかったでしょうね?
やがて雲海の腹に巨大な機影が孕み映る。
『ホーーーーホッホッ! ホーーーーホッホッ!』
如何にも〝悪の幹部〟らしい高笑いを響かせて……三流感バリバリだわ。
流行りの〝悪役令嬢〟気取りかッつーの。
フン、鼻で笑うわ ♪
アタシは〝天条リン〟!
銀暦有数の大企業〈星河コンツェルン〉の娘〝天条リン〟なのよ!
そんじょそこらの〝エセ令嬢〟とは格が違うのよ!
来るなら来なさいよ?
二度と逆らえないぐらい、グチャグチャのギタギタのメタメタにポイ捨てしてやるわ!
雲間を裂いて、重々しく降下してくる機体!
ってか……何? この物々しい音楽は?
勇猛でけたたましい音楽は?
クラシックの『ワルキューレ騎行』よね?
何かけてんの? コイツ?
何で外部スピーカーから轟かせてんの? コイツ?
え? 威厳の自己演出?
サブいんですけど?
そうこうしている内に、やがて敵機が全貌を晒け出す!
それを視認した瞬間、アタシは信じ難い現実に驚愕硬直!
おぞましさに血の気が引いた!
『出たな! レトロナ獣!』
「いや、まぁ……何つーか……」
そつないコメントを模索したわ。
だって〈モササウルス〉なんだもん。
『だが! オレ達が……〈レトロナⅤ〉がいる限り、オマエ達の好きにはさせない!』
「うん、あのね? うん……とね?」
どう説明しよう?
ってか、エルダニャ!
アンタが〈モササウルス〉なんか選ぶからだ!
どう見ても悪役然とした狂暴外見じゃない!
『ホホホホホ……御初に御目に掛かるな、惑星レトロナに住まう下々の者達よ。我こそは〝ハーチェス・エルダナ・フォン・アルララワスあぐっビースウォームⅣ世〟──またの名を〈クィーン・アルワスプ〉なり! 存分に歓迎するが善い! そして、我が威光に平伏すが善いぞ! フフフフフ……アーハッハッハッ!』
ぅおい!
毅然と悪役印象を示すな!
外部スピーカーからの大音声で、周囲一帯へ誇示すんな!
事態ややこしくなるッつーの!
そんでもって「あぐっ」って何だ!
噛むな! 此処一番の見栄で!
『クッ……何て自信に満ちてやがる! まさか? ボス級か?』
うん、まぁ……ボス級は、ボス級だけどね?
ただし〈レトロナ星人〉じゃなくて〈アルワスプ〉の。
ついでに言えば〈宇宙規模バカ〉の。
『やるぞ! リン! あんなヤツの好きにさせて堪るか!』
「ちょちょちょ……ちょっと待って! ケイン!」
『どうした? リン?』
「いや、その……アレ〈レトロナ獣〉じゃないッつーか……何つーか……」
『何ッ? 〈レトロナ獣〉じゃない……だと?』
御家芸のブルートーン入ったわ。
アタシだって入れたいわ……あのアホのせいで。
『リン、君は何か知っているのか?』
「うん、まぁ……知ってるッつーか……知らないッつーか……知り合いたくなかったッつーか…………」
『……もしかして〝友達〟なのか?』
「うん、まぁ……」
ばつ悪くアタシは認めた。
『何……だとッ?』
あれ?
またブルートーン入ったわ?
『何て事だ! リン、まさか君が……レトロナ星からの逃亡者だったなんて!』
「違うしッ?」
あらぬ設定を付け加えられたわよ!
エルダニャ! アンタのせいだ!
アタシの気持ちを逆撫でするように、ピーピーと鳴る電子シグナル!
うっさい!
いま、それどころじゃないわよ!
アタシの沽券、地の底まで堕ちてんの!
それを耳障りにピーピーピーピーと思索集中の邪魔して……って、うん?
え? ウソ?
レーダーに別な機影?
って事は……まさか今度こそ〈レトロナ獣〉ってヤツ?
新たに降下して来た襲来者は、またも雲間を裂いて姿を現し──『フハハハハハーーッ! 宇宙の海はオレの海! オレの果てしない〈宇宙の帝王〉への憧れ! 〈ドクロイガー〉見参ッ!』──アンタかァァァーーッ! 今度はアンタかァァァーーッ!
『な……何だ? アイツは?』
「ケイン! 〈レトロナ獣〉よ!」
間髪入れずに畳み掛けたわ!
『え? いや、しかし……』
「〈レトロナ獣〉よ!」
『だが〈レトロナ獣〉なら、既に……』
「……〈レトロナ獣〉よ」
『しかし、ヤツは〈ドクロイガー〉と名乗っ──』
「ううん★ 〈レトロナ獣〉 ♪ 」
温顔ニッコリ★
ケインってば、意外なトコで頑固ね?
うしッ! しゃーない!
アタシは特攻を仕掛けた!
「現れたわね! 〈レトロナ獣〉!」
『ごはぁーーーーッ?』
ロボットアームの鉄拳が、ドク郎の横っ面をブン殴ったわ!
あの〈レトロナⅤ〉とかいう〝木偶の坊〟の腕ね。
『いきなり何を……というか、その声! シャチ娘ではないがはぁぁぁーーッ?』
すぐさま二発目!
余計な事を言わせるか! コンニャロー!
アンタは、おとなしく〈レトロナ獣〉として散りなさいッッッ!
『痛ッ……ちょっと待っ……ゴフッ! 待ってと言うにカハァ!』
殴打!
殴打殴打殴打!
殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打!
デッカイ腕を生やした戦闘機が、鉄巨人をタコ殴る!
「よくもアタシの仲間を洗脳したわね! このこのこの!」
『何ッ? じゃあ、さっきの〈レトロナ獣〉は……まさか!』
「そうよ! ケイン! コイツに洗脳されたのよ!」
『何て……何て卑劣な手をォォォーーーーッ!』
正義感が憤怒を吼えた!
うしッ! 責任転嫁成功!
『何と! それに乗っておるは、リンか?』
ようやく気付いたか、エルダニャ。
『して、リンよ……そなたの知り合いが洗脳されたと申すのだな? 何と卑劣な! それは、どいつじゃ?』
黙ってろ、アンタだ。
『許せねぇ……許せねぇぜ!』
怒りを噛み締めるケイン。
んもう、どこまでも熱血正義漢なんだから★
長所 ♪
『こうなったら……リン! レトロナ合体だ!』
何が「こうなったら」なのかは知らないけど、分かったわ ♪
いよいよケインと、合・体 ♪
いや~ん★
『行くぞ! レェェェッツ!』
「…………」
『リン?』
「え?」
『戦闘中にボーッとするな! 合体だ!』
「え? ああ、うん」
『行くぞ! レェェェッツ!』
「………………」
『……リン?』
「え?」
『え? じゃない! 合体キーワードを叫べ!』
「あ、うん……って、合体キーワード?」
初耳なんですけど?
「何て叫べばいいの?」
『何でもいい!』
ああ、そう……何でもいいんだ?
……要る? それ?
『行くぞ! レェェェッツ! レトロイィィィーーン!』
「星河プリズムパワー・メーイクアーップ!」
あ、発動した。
合体シークエンスがオート起動した。
機体から発せられた電磁波が互いを繋ぎ合わせ、重々しい誘導に変形合体を展開していく!
『ファイブ! (ゴー! ゴー!)
ファイブ! (ゴー! ゴー!)
ファイブ! (ゴー! ゴー!)
ファァァァァーーイブ!
宇宙の平和を乱す悪魔を~~ ♪
(ダンダダン! ダンダダン!)
許しはしない 俺は戦う~~ ♪
(ダンダダン! ダンダダン!)
燃やせ! 正義の魂を!
吼えろ! 勝利の雄叫びを!
鋼の巨体が悪を討つ~~ ♪
三つの力がひとつになって~ ♪
二人の心が無敵となって~ ♪
正義を呼ぶのさ!
奇跡を呼ぶのさ!
叫べ 燃えろ
ボクらの~ ♪
レ・ト・ロ・ナ・ファーーイブゥゥゥーー ♪
ファーーイブゥゥゥーー ♪ 』
……何コレ?
全スピーカーから変な主題歌が流れてきたんだけど?
水木 ● 郎みたいな歌声で、文字数を喰ったんだけど?
『ズエェェェーーーーット!』
ズェット言ったしッ!
魂の決めシャウトしたしッッッ!
『レェェェトロォォォナ……ファァァイブッ!』
鋼鉄の巨大守護神が、雄々しくポーズをキメた!
ってか、いいわね? ノリノリで?
アタシなんか「乙女の奇跡!」とかやりたくないんですけど? いやマジで。
『さあ、いくぞ! 宇宙の平和を乱す悪魔め!』
『いや……別に宇宙の平和とかは乱してないんですけど……』
ビシィと熱血に指差されて、ドク郎が困惑していた。
今回は、ちょっと可哀想な気もする……いや、いいか?
コイツだし。
『黙れ! 善良な〝あぐっさん〟を洗脳し、尖兵と利用するとは……その卑劣さ、断じて許せん!』
『あぐっさん? 誰じゃ?』
アンタだ、エルダニャ。
『行くぞ! 超リニアァァァメンコォォォーーーーッ!』
腹部スリットから飛び出したカードを空中キャッチ!
電磁波を帯びたそれを、ドク郎の横っ面へ叩き付ける!
『ふげふぅッ?』
ただの渾身ビンタにしか見えないわ。
生活指導体罰みたいだわ。
ってか、何でハイテク武器が〝メンコ〟なワケッ?
『超リニアァァァ……Qゥゥゥッ!』
五指先から射出される黒い連弾!
それはドク郎の各部位へ付着して……チリチリと煙を上げ始めた。
『熱ッ? 熱熱熱熱ッ?』
小躍りに悶えてるし。
どうやら〝全身灸〟のようだわ。
地味な攻撃!
ってか、リニア関係ないじゃん!
『グスッ……何でワシが、いきなりこんな目に……』
メソメソ泣くなドク郎。
絵面的にキモいから。
『ただ「あ、綺麗な自然がある ♪ 」って、森林浴に降下しただけなのに……グスッ』
〈ネクラナミコン〉じゃなかったーーッ!
まさかの〈ネクラナミコン〉じゃなかったーーッ!
そこは何かゴメーーン!
『グスッ……もういい、みんな壊してやる』
あれ?
聞き慣れたフレーズ言い出したわね?
『喰らえぇぇい! ドクロバース──』『超リニアメンコォォォーーーーッ!』『──トふげふぅぅぅーーッ?』
させるかッつーの!
横っ面ひっぱたいてやったわ! アタシが!
ケインから操縦系統を一時奪って!
メンコは出さなかったから、それこそ〝教育的指導ビンタ〟でしかないけれど。
うん、いいのよ?
どうせコイツだし?
何よりも、アタシは〝天条リン〟なんだから ♪
ドク郎がキレた。
んなモンだから、剣劇が始まる。
大空を舞台に『レトロナⅤ対ドクロイガー』が展開する。
とは言っても、ぶっちゃけアタシに出来る事なんか無い。
だって、合体後の操縦系統はケインに一任だし?
武器だってケインの意思ひとつだし?
……暇よね、合体ロボのサブパイロットって。
『フハハハッ! どうしたどうした? レトロナⅤよ!』
半月刀〈ドクロブレード〉の猛攻を、腿脇から取り出した両刃剣〈レトロナブレード〉で弾き捌く!
ってか、ドク郎?
いまのアンタ、完全に〝悪役〟の言動だかんね?
『クゥ! なんてパワーだ! まるで体格差から違うみたいだぜ!』と、焦燥のケイン。
いや、違うわよ?
ドク郎は全高約八〇メートル。
対して〈レトロナⅤ〉は約六〇メートルですもの。
格闘家と高校生ぐらいの差は、あるわよ?
でも、まぁ、それが〝強さ〟には直結しないけどね?
だって、アタシとモモの〈Gフォルム〉は、約四〇メートルですもの。
そんでもって、毎回完勝してるもの。
んッ?
って事は……ぶっちゃけ、アタシらの方が〈レトロナⅤ〉より強くない?
…………。
いや、そっと胸の内に仕舞っておこう。
さすがに、何か悪いわ……ケインにも……ドク郎にも。
『フハハハ! どうした! どうしたどうしたどうしたァァァーーッ!』
『クソッ! 圧されているッ? こ……このままでは!』
「ポチッとな」
『熱ゥゥゥーーーーッ?』
暇だから手近なボタンを押したら、腰のバックル部から〈超リニアQ〉とか言うのが射出されたわ。
ドク郎が全身灸に悶え踊ったわ。
さっきと出る場所が違うけど、もういいわ。
『リン、何をやっているんだ!』
「え? あの……その……マズかった?」
そっか!
残弾数の都合もあるものね!
『武器を繰り出す時は、高らかに叫べ!』
「あ、そっか……音声認識か……って、アレ? 出たんだけど? 武器?」
『そうじゃない!』
「うん?」
『……それが礼儀だ』
「………………」
礼儀なんだッ?
いままで礼儀で〝使用武器紹介〟してたんだッ?
まだ「乙女の奇跡!」の方が意味あるんですけどッ?
アレ、一応〈起爆コード〉になっているもの!
『ヌゥゥ……相変わらずの天敵ぶりだな〈シャチ娘〉! いやさ〈腕娘〉!』
イヤな呼び名つけんな! コンニャロー!
『だいたいキサマ! いつもの〈シャチ〉は、どうした! 相棒の〈イルカ娘〉は!』
ビシィと指差し糾弾されたわ。
ドク郎風情に。
でも……アレ?
何かイラッとした。
……ドク郎風情が偉そうに構えたからだ!
アタシは〝天条リン〟!
アンタなんかとは格が違うんだからね!
『リンよ、聞こえるか?』
今度はエルダニャからの緊急通信──ってか、どうやって〈レトロナⅤ〉の通信回線を割り出し……ああ、パモカからか。
ま、どっちでもいいけど。
「ったく、何……よ?」
一瞬……それはパモカを耳元へと添えた一瞬だった……ふと琴線が白く揺れた。
いや、何で唐突に浮かんだ?
いつもの雑談の感覚──。
たまに……寝る前に交わす長話──。
たいした中身も無いバカ話──。
あのユルッユルでホワホワした声音────。
って、現状は戦闘中!
しっかりしろ! 天条リン!
トリップしてる状況か!
アタシは軽く両頬を叩く!
「何だッつーの! エルダニャ!」
『上じゃ』
「はぁ?」
『強大なエネルギー反応が近づいておる』
「敵機接近って? そんな嬉しくない情報を、何で閑雅なゆとりで伝えてんだ! アンタは!」
『敵かどうかは……ズズッ……生憎、我にも判らん』
オイ? いまの『ズズッ』て何だ!
さては紅茶とか啜ってるだろ、アンタ!
「まさか……今度こそ〈レトロナ獣〉とかいうヤツじゃないでしょうね!」
焦燥にレーダー機器を操作する。
未だ反応は無い……が、エルダニャが感知した以上、それは確かだろう。
母体がプロトタイプとはいえ〈ツェレーク〉艦載の〈宇宙航行艇〉──つまりは〈スーパークルーザー〉だ。
その性能を疑う余地は無い。
と、すれば……性能的に信用度が低いのはコッチ。
あ、ようやく映った。
どんだけポンコツだ!
惑星レトロナの守護神!
「確かに降下して来ている。だけど……」
エネルギー値が大きい。
この場に居合わす誰よりも……。
存在を認識しながらも、現状で為せる事前策は無い。
その〝正体〟が判別できない以上は……。
脅威接近の情報を共有した全員が警戒に構える。
そして、ようやく雲を圧し崩して姿を露にした!
「嘘……でしょ?」
その全貌を視認し、今度こそアタシは驚愕に固まる!
真の驚愕に!
それは──ソイツは──その異形は!
アタシ達が追い求めていた怪異……巨大な〈クラゲ〉だった!




