燻り
祭囃子と子供たちの嬌声。
提灯が照らす夜。
少し薄暗くなった向こうで、その暖かな光を眺める。
匂い立つ蚊取り線香がなんだか鼻の奥をツンとさせる。
ゆらり、ゆらり、と揺れる音頭に耳を澄ます。
いつの間にか祭囃子は止んでいた。
ぬるくなったラムネは甘い水になっていた。
見えていた暖かな光も今は寂しさを漂わせる橙の色。
代わりに頭上に大きく輝く、力強い光の玉があった。
体の奥底にまで響く音を全身で受け止める。
痛いくらいの静寂にラムネの瓶でささやかな抵抗を図る。
それもむなしく夜闇に溶ける。
煙草の火が暗くなった辺りを少し照らす。
賑やかさはとうの昔に消え失せて、むせ返るような暑さだけが残った。
季節は夏。
凋落のはじまり。
後に残ったのはもみ消した煙草から立ちのぼる紫煙だけだった。