第7話
「サンタのコスプレしたいんですよ〜」
私は、坂下さんにそう言った
製造部の忘年会が決まり、コスプレでもしようかという話になったからだ
私は、コスプレをしたことがない
学生時代、友達とパーティーをしたことがないから、そういうのに憧れていた
皆で集まってワチャワチャする
そんなことをしてみたかった
それから、坂下さんはいろんな人に、私がサンタのコスプレをしたいらしいと言って回った
他の人はコスプレするだろうか
いい歳した大人達がするわけないか
私は彩音とお店に行って試着するだけでいいや
そう思ってた
「100円コスプレって知ってます?」
重原さんが仕事中突然言ってきた
重原さんから話しかけてくるなんて珍しかった
どうやら、買い物中に100円コスプレの広告を見たらしい
どうしても早く伝えたくて、そう言われた
私は100円コスプレを知らなかったから、詳しく知りたいと言った
休みの日にでも、彩音と見に行けばいい
お店自体も知っているから大丈夫
「一緒に行きます?」
...いいんですか?
そう、思わず言ってしまった
本当は断るのが正しいのだろう
でも、嬉しそうに笑った重原さんを見たら、訂正することが出来なかった
上手く言葉がでなかった
「何それ!?誘われてんじゃん!」
彩音に、友達の話というていで話した
純粋に、友達として買い物に誘ったのか
それとも、気があって誘ったのか
どちらかはわからない
いや、きっとただの友達だ
「普通、気がなかったら100コス気付かないって」
私は、基本的に人に言ったことや言われたことは覚えているが、他の人は違うらしい
興味無い人の言葉は忘れる
だから、私がコスプレしたいことを覚えていて、尚且つそれを買い物中に思い出す
それは気があるからだ、ということを彩音に強く言われた
重原さんは、人の言ったことをあまり覚えていない印象がある
でもそれは私にもそう
私の言ったこともいくつも忘れている
だからたぶん、コスプレという単語が印象的だっただけだ
それだけで、特に意味は無い
ただの友達
そうじゃなきゃ困る
私は、普通のことがしたいんだ
不倫がしたいわけじゃない
普通に付き合って結婚したい
困るんだよ
でも結局、来てしまった
仕事終わりに2人で
これは、デートじゃないよね
ただの友達
試着中、店員さんに何度も、付き合ってるんですか?と聞かれた
でもその度に否定した
ただの職場の先輩
仕事終わりに付き合ってくれるなんていい先輩ですね、と言われたから、頼れる先輩ですと応えた
着替え終わり、重原さんにコスプレ姿を見せた
すると、少し照れたように笑った
お似合いですよね、と店員さんが言うと、重原さんは笑顔で返した
そして、店員さんがニヤニヤしながら聞いた
「付き合わないんですか?」
すると、重原さんはキョトンとした
ん?なんだその表情は
なんでキョトンとしてるの?
え、どういうこと
私のこと、どう思ってんの!?