兄
すっきりしない朝からアメリアの爆弾発言に私は固まった。
「あの、今なんと?」
「貴方に縁談話を持ってきましたのよ」
婚約破棄をされて一週間も過ぎていないと言うのに何を言うかと思えばアメリアは満面の笑みを浮かべる。
「アメリアよ。婚約者に浮気をされて婚約破棄を叩きつけられた哀れな孫にか?」
「お爺様・・・」
もう少しオブラートに包むと言うことはできないのか!と言いたくなる。
「お相手は家柄も身分も申し分ないのよ?国一番の美形」
「ですが・・・」
「本当は貴方をあの方に嫁がせる気だったのよ?なのに馬鹿殿にしてやられましたわ」
一国の主を馬鹿殿という祖母にいいのかと思うアリシア。
「貴方を大事にしてくださると言う約束を翻したのですから!早速私と明日、王宮に参りましょうね!」
「え!」
「有言実行あるのみ!大丈夫ですよ!少々捻くれて堅物ですが」
前々大丈夫じゃない。
安心なんてできたモノではないと思ったが婚約破棄の一件で祖父母にまで心配をさせている手前断る術がなかった。
「わかりました」
「うふふ」
アメリアに逆らうことを許されず。
推しきられてしまったアリシアは不安しか感じられずにいた。
「でも・・・そんなにうまくいくわけないわね」
いくらなんでも王族が他国の。
しかも婚約者に逃げられた女を欲しがるなんてありえない。
そう思っていたが、知らなかった。
「兄上、お加減の方は」
「すまない・・・私はもう長くない」
「兄上!」
病で病床に伏してしまっているユリウス殿下はこの国の次期王だった。
そんな彼は自分の死期を悟り最愛の弟に告げた。
「私が死んだらお前が父上と母上を支えるのだぞ」
「やめてください」
ずっと慕っていた兄に告げられた言葉はつらいものだった。
「アラン、貴方に縁談の話が来ています。こんな時ですが・・・・いいえこんな時だからこそ」
「母上」
「せめてユリウスが意識を保ている間に貴方の晴れ姿を見たいと」
王妃であり実の母からのことばはなんとも無情なものだった。
「それが兄上の願いであるならば」
「許してくださいアラン」
王族である以上はいつかは妻をめとらなくてはいけない。
きめられた相手を娶るのが当然だった。
だがこんな自分に嫁がなくてはならない女性があまりにも哀れでならなかった。