優しい人
クッキーを頬張るアランはじっとアリシアを見つめる。
「あの・・・何か?」
「いや・・・とても美味かった」
よほどクッキーが気に入ったのか微笑するアランに気に入ってもらえてよかったと笑みを浮かべる。
アクエリアスに来て初めて誰かに喜んでもらえたと思った。
「この焼き菓子は不思議ですね。食べると元気になります」
「ああ・・・王宮の治療師が作った薬よりも効果がある」
魔法を使う国では術者が疲労回復の薬を作る。
けれどその回復力は一定ではない。
「アラン様、食べ物は心です。気持ちを込めて作るんです」
「気持ち?」
「ええ、その人に喜んで欲しい。それが最高のスパイスなんです」
料理は愛情。
前世の頃から料理を教えてくれた母から教わっていた。
このクッキーは祖母に喜んで欲しい。
そんな思いから作ったものだった。
「このお菓子は貴方の優しさの結晶なのですね」
「そうか・・・」
風が靡き艶やかな漆黒の髪が広がる。
「どうしました?」
「アラン様の髪は夜空のだと思いまして」
広がる漆黒の色は本当に美しいと思ったアリアシアは思わず言葉にする。
「とてもお美しい色です」
「っ!!」
素直に出た言葉だった。
アランの髪は夜の様に穏やかな色で心を落ち着かせる。
・・・・がその言葉に二人は言葉を無くす。
「この色が美しいと?」
「はい」
そこでアリシアは失言してしまったと気づく。
男性であり、騎士でもあるアランに失礼なことを言ってしまったのではないかと後悔する。
「失礼しました」
「いいえ・・・貴方はアラン様を怖がったりしないのですね」
「え?」
ロザリーの言葉に違和感を感じる。
「この国では黒は不吉とされるのです。その色を守ったモノは異端者と」
「フンっ・・・」
無表情のアランは興味なさげにするが、アリシアは告げた。
「くだらない狂言ですね」
「え?」
「本当に恐ろしいのは欲に塗れた心です」
どんなに見た目が綺麗であっても誰かを傷つけるものだ。
そのことをよく知っている。
「それに光を支えるのは闇です。光と闇がひとつになり光はより強い光を放ちます。太陽と月が対局であるように」
双方失われてならないものだと思っている。
「アリシア、貴方はお優しい方ですのね」
「お優しいのはお二人です。見ず知らずの私を助けてくださった優しい騎士様と魔法使いさんです」
初めてあったばかりのアリシアに優しくしてくれた二人の方がずっと優しいそう思ったのだった。