漆黒の騎士
手を差し伸べられ立とうとしたら。
足を痛めて立つことができなかった。
立ち上がらないアリシアに気づいたのか腕を引く。
「きゃあ!!」
そのまま抱き上げ地面を強く蹴り高く飛ぶ。
「走るぞ」
「ひゃっ!!」
風のように早く森を抜けていく。
しばらくして着いた先は王宮だった。
「はい、これで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
穏やかな笑みを浮かべる美しい女性が治癒の魔法を使って傷を癒してくれた。
「私は王族に仕える魔法使いのロザリーと申します」
「俺は王立騎士団団長のアラン・クロードだ」
仏頂面で名前を名乗るアランは問うた。
「何故あんな森に一人でいた?不用心にも程がある」
「祖父が腰を痛めてしまって。薬草を摘みに」
まだアクエリアスのことは詳しくないので土地勘がないことを告げた。
「ならば今後は気をつけろ…今は隣国との外交問題で国の外は危険なんだ」
「そうだったのですね。申し訳ありませんでした」
知らなかったでは済まされないことだ。
「危ない所を助けていただきありがとうございます。このような形で王宮に足を踏み入れたご無礼をどうかお許しください」
「・・・・・・」
「私はアリシア・ブルーメリアと申します」
スカートを摘まみ淑女らしく挨拶をするアリシアにロザリーも目を見開き驚く。
「アリシアは貴族の御令嬢だったのですね?平民には思えません」
「ああ・・・」
淑女としての礼儀作法が完璧だったことにロザリーは驚くのも束の間。
空腹を告げる音が聞こえた。
「ロザリー」
「私ではありませんわ。アラン様」
二人とも睨み合いながらも責任を押し付け合っていた。
「仕方ないだろう」
「私だって昼食を食べていないんですの!」
二人はお腹が空いて仕方ないと言う表情だった。
「あの・・・こんなものでよろしければ」
アリシアはバスケットから袋を取り出す。
「なんですの?」
「私が作った焼き菓子です。王宮の方にお渡しできる代物ではございませんが」
甘いものが大好きなアリシアは常にお菓子を持ち歩いていた。
その焼き菓子はクッキーだった。
「まぁ・・・なんて綺麗なお菓子ですの」
「宝石のようだ」
真ん中にジャムが彩られたクッキーは煌びやかだった。
それを見て二人は手を伸ばし一つ口に入れると。
「まぁ、なんて甘くて美味しいんですの!アクエリアスにはこんなお菓子ありませんわ」
「・・・・・・」
無言のアランは口元をてで抑えながらも美味しさを噛みしめていた。
「ちょっとアラン様!何独り占めしているんですの!」
「ロザリー、太るだろ?」
「まぁ!乙女に向かって!」
「・・・・・・」
冷めた表情を浮かべるアランは目で訴えた。
何処にいるのかという目をしていた。
二人のコントのようなやりとりを見て噴き出してしまったのだった。