父と娘
邸に帰ってすぐ着替えを済ませたアリシアにアンナは温かいお茶を振る舞った。
外を見るとぱらりと粉雪が待っているのに気づく。
「どうりで寒いはずだわ」
紅茶を飲みながら一息をつくとアンナが現れる。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「ええ・・・」
婚約破棄のことはもう耳に入っているのだろうと思い立ち上がる。
「お嬢様」
不安そうなアンナの目を見てここで自分が不安な表情をするわけにはいかないと思った。
「大丈夫だから」
ここで弱音は吐けない。
そんなことをすればアンナがどれだけ心配するか解らない。
とはいえこんなことになってしまっては娘に甘すぎるあの父でも・・・と思った。
「失礼します」
「入りなさいアリシア」
扉越しに声をかけて中に入ると国外に視察に出ていた母のナタリーまでいた。
「お母様?どうして」
「アリシア、ここへ」
真剣な表情で娘を前に出るように言い放つ。
「お父様この度は私の所為で大事な婚約を破談にしてしまい申し訳ありません。どんな罰でもお受けします。国外追放であろうと勘当であろうと」
頭を下げて父フランシスに詫びるが。
「悪かったアリシア」
「お父様?」
「私は君にこれまでどれだけの重責を負わせたか。この度の一件は全て聞いた」
「私たちは貴方が悪いとは思っていないのですよ」
穏やかに微笑む母ナタリーは全て知っていると告げる。
「貴方は公爵家の娘として殿下の婚約者として振る舞いました。ただそれだけのこと。マリア様に関しては男女の情が介入してしまっただけのこと」
「だが殿下がそこまでとは」
まだ年若いとはいえあそこまで感情的であることに失望したと言うフランシス。
婚約破棄の件はお咎めはあったものの、そこまで酷いモノではなかった。
「表向きは謹慎処分となる」
「ごめんなさいね・・・本来ならば」
庇ってあげたかったと続けるナタリーであるが王妃の侍女でもあるナタリーの立場上難しかったのだ。
「いいえ、国外追放になるか爵位剥奪なってもおかしくなったのです」
「しばらくは国外にて身を置き体を休めるといい・・・お婆様のいる国に」
「え?」
祖母のいる国。
そこはナタリーの祖国でもある精霊の加護を持つ国、アクエリアス。
その国は太古の昔から海の国と言われる程美しい国だった。
ナタリーはその国の出身でもあったのだ。
「しばらくお婆様の元で今後の身の振り方を考えるといい」
「ありがとうございます」
「まぁ、王太子殿下には少々お仕置きが必要だがな」
不敵に微笑むフランシスに顔を引きつらせるアリシアは見なかったことにした。