憂鬱な誘い
王宮に招かれたことを告げれたのは昼頃だった。
いきなりのことで準備なんてできるはずもなかったが、そこは侍女の腕の見せ所なのかアンナは僅かな時間でアリシアを拘束し、ドレスアップをした。
「よろしいですかお嬢様。くれぐれも大人しくなってください」
「アンナ・・・」
「普段の様に猫を被ってくだされば問題ありません」
限りなく失礼な物言いだった。
仮にもアリシアは王族に匹敵する程の血筋を持つ公爵令嬢であるにもかかわらずこんな粗末な扱いを受けている。
元よりブルーメリア家の侍女であるアンナとは主従関係ではなく姉妹同然だったのだが、それにしても扱いが雑だった。
「ねぇアンナ、私はお城になんて行きたくないの」
「お嬢様」
「このお見合いだってお婆様が国に帰さないようにと思ってのことだと解っているわ」
国外追放を命じられたアリシアを不憫に思ってのことだと思うが、アリシアは貴族にこだわらず平民として生きていてもいいかもしれないと思っている。
「貴族なんていいことなんてないわ。堅苦しくて、何一つ報われないもの」
「そのような・・・」
「殿下だって私のことを何も見てくださらなかった・・・」
愛のない政略結婚とはいえ、いずれ王になるハルステッドを支えるべく懸命に努力して来たのに、その努力は報われることはない。
上流階級の汚さは見て来たから解っている。
それでも・・・
「私は愛のある結婚はできなくても人並みに大切にしてもらえればよかったの」
「アリシア様・・・」
「私はそれほどにまで価値がなかったの?」
妻として愛されなくとも共に国を背負う同志として見てくれるなら良かった。
信頼のおける臣下でもよかった。
なのにハルステッドは下世話な噂に惑わされアリシアを疑い、好きな女性が出来たのでこれ幸いと言わんばかりに捨てたのだ。
その時点でハルステッドに落胆を覚えていた。
「私は王族に嫁ぐ器はないわ」
「アリシア様、どうか・・・そのような」
普段絶対に弱さを見せないアリシアが弱り切った表情をする。
思えば幼少期から王の妃になるべく厳しい環境に身を置いて来た。
休む暇のなくずっと頑張っていたのだから無理はないと思ったのだが、その反面アンナは捨てきれない願いがあった。
アリシアには幸せになって欲しいと言う願い。
その願いを捨てることができなかったのだ。
「アリシア、準備はできていますね」
「はい、お婆様」
「では参りましょう」
心配するアンナを他所に支度を終えたアメリアが声をかける。
憂鬱な気持ちを抱えながらアリシアは王宮に招かれることとなった。




