断罪の後に
ゆっくりと歩きだす。
振り返ることなくそのまま進んでいきながらも内心ではアカデミー賞をとれるのではないかと思っている自分に内心ではそれほど傷ついていなかったことに驚く。
前世の記憶を思い出したのは本当に偶然だった。
卒業パーティー前にうたた寝をしてしまったことで思い出したのだ。
生前プレイした乙女ゲーム。
その悪役令嬢に転生してしまったことに気づく。
けれどゲームの時の様に酷く接したつもりもない。
代表生徒として私はすべきことをしたまでに過ぎないのだから。
とはいえ断罪された以上は国外追放は免れないのは当然と言えば当然。
よくしてもらった王妃にも王女にも申し訳が立たないと思ったが本音を言えばあんな男と結婚したらそれこそ終わりだと思った。
努力の甲斐は虚しく自分の誠意は一切通じなかったのだから。
宰相をする父の顔に泥を塗ってしまう形になるが、ブルーメリア家は初代王から仕えて来た右腕でもあるのでこの程度でぐらつくことはない。
何より外交を主にしてしているので王都から退いてもそこまで痛手を負うこともないのだから。
「お嬢様!!」
扉をあけると侍女のアンナが駆け寄る。
「待たせてごめんなさいアンナ」
「お嬢様…」
「私は国外追放の身となりました。よってこの度をもって貴方を私の侍女から解任いたします」
男爵家の娘であるアンナは貴族の娘だった。
幼少期よりアリシアに仕えて来たが、国外追放となったアリシアの傍にいても得る者はない。
むしろ他の貴族に仕えた方がいいとさえ思ったアリシアは告げた。
「私といることにより貴方は後ろ指を指されるでしょう。ですから私が…」
「お嬢様!!」
アリシアが新しい勤め先を口添えすると言おうとしたがアンナは声を荒げる。
「アンナはお嬢様の侍女でございます。例え国外に追放される身になろうともお傍におります!」
「私は国外追放を受けたのです。王太子殿下の婚約者という肩書も、公爵家御令嬢の肩書も失うでしょう」
アリシアはアンナを巻き込みたくなかった。
自分於責任は自分で取るつもりだったのだから。
「お嬢様にどのような罪がございましょう。王太子殿下はお嬢様がどれほど心を尽くして来たか知らないのです…だからこのような酷いことを平気でなさるのです」
アンナはこれまでアリシアがハルステッドを想ってきたことを知っていた。
時に優しく、時に厳しく接してきたのはハルステッドの為。
そして国の為でもあった。
それを踏みにじったのだから見限ってしまっても仕方ない。
「私はアリシア様についてまいります。地の果てまで」
「えっ・・・ええ」
アンナの気迫に負けてダメだと言うことはできなかった。
―――アンナってば怒ると怖いのよね。
幼い頃から一緒にいた所為か主従関係を通り越し姉妹という関係になっているので断れなかった。
「それに少しホッとしているのよ」
「お嬢様?」
「やっぱり私には荷が重かったと思うし、そんな大それた役目は私にはできないんじゃないかって」
生まれた時からハルステッドの婚約者になり王妃として振る舞うことを強要され努力して来た。
両親の期待に応えたい。
淑女の鑑として懸命に努力していたが、はたして自分に相応しいのか?
そう思うことがあった。
「私といる時殿下はどこか窮屈そうだったわ。マリア様に向けるような面差しは一度だって向けていただいたことがなかったもの」
「それは・・・」
「政略結婚なんだもの。仕方ないわよね」
平民の様に思い思われて一緒になるなんてことはできないとはわかっていたが、貴族であり政略結婚をした両親は貴族の間でも変わり者だと言われていた。
貴族は結婚しても愛人を作るのが普通。
恋人と結婚は別物として考えているのが昔から根強かったのだが、アリシアの父、フランシスは浮気なんて一度もせず妾も作ろうともせず、周りからはは奥方好きといわれるほどだった。
「さぁお嬢様、お風邪を引かれませんよう」
「ええ」
アンナに手を引かれ馬車に乗りブルーメリア邸に向かった。