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告白前夜

作者: SOUTH

初恋はどんな未来だろう。

初めての気持ち。初めての感触。初めての自分。

初恋はどんな世界だろう。

どうか連れてって欲しい恋の神様よ。

意地悪なその手招きでーーーーー。



……よしっ、送れたぞ。

真新しいそのスマートフォンはとあるSNSを開いている。画面の時計は20:00を超えるところだった。

吹き出しの中には「話したいことがあるから、明日の放課後午後5時に玄関前で待ってるから。」

ぎこちない日本語だが、これが精一杯であった。好きな人へ送るメッセージは日常会話でもひどく緊張して固くなってしまう。ましてや告白の呼び出しなど…。

君と出会って約一年、片想いに気づいて約半年。告白の決意にこれだけの時間を要するとは思ってもいなかった。はじめての感情、もしかして恋?そんな自問自答もあった。


既読の文字が付くのにそう時間はかからなかった。そしてただ一言、「わかったよ」とだけ返事が来た。恐らく向こうも察しているはずだ。これから何が起こるのかということに。


神経の電位の法則に全か無かの法則というものがある。0か100か、全か無か、というものだ。

だが人間関係はそう明解なものではない。恋人が100なら友人は0なのか?違う。恋人と友人のスコアがほぼ近似している人だっているだろう。100に限りなく近い友人だっているだろう。

僕は今、君にとってどこに位置しているのだろう。0寄り?100寄り?さっぱりわからない。告白前夜の複雑化したショート寸前の思考回路はとっくにキャパシティを超えている。溢れる感情に冷静さを欠きそうになる。実際、メッセージを送る前から妙な汗が止まらない。今日はもう眠ってしまおう。深く考えても僕は君じゃない。答えなんて出ない。顔色が少しでもよく見えるように…そう念じながら灯りを消した。


翌る日、目覚めはすこぶる良かった。

普段通りの日常を、普段の通りになぞる。学校に着いてからも変わりようはない。ただ、これらの生活の中でも胸のどこかに憂鬱にも似たモヤモヤがあった。

そしてそれは、時計の針が時を刻む毎に心の全てを奪いかける。1秒、1分、1時間…。勉強なんて頭に入らない。これから起こることのいくつものシミュレーションを重ねに重ねる。そして最後のチャイムが鳴る。

血の気が引ける思いだ。脈拍が速い。鼓動を感じる。呼吸が浅い。

幸い放課してから5時までは少々の時間がある。そこでメンタルコンディションを整えよう。深呼吸をする。吸うと心拍数は上がり、吐くと心拍数は下がる。吐く時間を長くする。だんだんと落ち着いてくる。行ける、そう思った頃には約束の場所へ足を歩き出していた。

今日はすべての部活が休みの日で、生徒の殆どが家路を急ぐ。待ち合わせの時刻の玄関はひと気がなく、クラスの下駄箱の前、既に君がいた。

臆病な自分が言う「まだ引き返せる」と。しかし決めたのだ、もうその選択肢は無い。

「歩きながらでもいいかな?」自然と口は開いていた。君の承諾をもらい僕らはゆっくりと家路を辿った。

夕暮れが二人の影を伸ばす。しばらく無言が続いた。君も僕を急かすことはなく、ただ静けさだけが広がっていた。ようやく決心がついて「あのさ…」と話しかける。

向かい合うと君の綺麗な顔に左から陽が当たり、もう半分は影になっていた。穏やかな風、君の髪を撫でる。瞬き。優しい表情。透き通る眼に映る僕。

どういう言葉をかけたのか。なんて伝えたのか。殆ど覚えていない。残ったのは最後に言った「好きだから、付き合ってほしい」その一言だけだった。

コンクリートの影は動かない。住宅街に車もない。あれから何秒たった?長い。答えまでが長い。長い。長い。

瞬間、息を含んだ君の口元から言葉が放たれた。

「私も同じ気持ちでした。よろしくお願いします。」

優しく微笑む眼差しは真っ直ぐに僕をとらえていた。


意地悪な恋の神さまは試練を与えて、愛をくれた。寂しい思いはさせないよ。総てが笑顔へ帰れるように、初恋の思い出を今も、これからも、ずっと刻み続けてゆく。

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