エーテルドレス。
妹の柔肌を堪能した。うん、超楽しかった。
私の栗色のドレスを着せてあげて、ベッドに腰掛けてリリアちゃんの寝顔も堪能する。
「お嬢様、私の着替えも許可して頂けますか?」
「あ、そうだね。でもリーフェは着替えなくて良いよ。先に黄昏の首飾り使っちゃおう。そうすれば着替えの手間無くなるから」
ベッドから降りて、まだろくに動けないリーフェの元まで歩いていき、テーブルの上にあるネックレスを取って後ろから首に付けてあげる。
「詳しい使い方は後で、リリアちゃんが起きてから教えるから、今は首飾りの機動だけしちゃおうね。この宝石部分に触りながら『エーテルドレス』って唱えて見て」
「······はい。えーと、エーテルドレス」
キーワードに反応して、ネックレスに保存してある衣装参照型のエーテルドレスが起動して、ふわっとリーフェのメイド服が揺れた後に、汗を吸ってグシャグシャだったメイド服がまるで新品の様にパリッと乾いた服に変わっていた。
「これ、は······?」
衣服の明らかな変化に、驚愕に染まるリーフェの顔を眺める。
「それはね、着ている服と同じ形、同じ色で入れ替わる服型の魔道具だよ。着ていた服は一時的に首飾りの中に保存されてて、次出した時には綺麗に洗われているオマケ付きだよ」
「この服が魔道具、ですか?」
「うん。フェミも今着ている服が同じ魔道具で、リリアちゃんを抱えて持ち上げられたのもコレのお陰。名前はエーテルドレス。他にも色々便利な機能が付いているから、後で教えるね」
ベッドで寝ている可愛過ぎる妹を眺めて、冷めてしまったお茶を飲む。
二人にエーテルドレスを渡すにあたって、私のエーテルドレスも含めて機能を一新した。
トワイライトスターで使われていた規格を一度捨て去り、基本設計から作り替えた。
そしてトワイライトスターの規格をもった物をエーテルスーツ、規格を捨てた物をエーテルドレスと定義し直し、二人のネックレス端末には、二つのエーテルドレスと四つのエーテルスーツを保存してある。
エーテルドレスは、スロットを一度全て排してキーワードにて武装を展開するシステムを取り入れた。
リーフェを救出する際に、スカートの下にあるナイフとハンドガンが取り出しづらくてイライラしたからこの仕様に変えた。
内蔵型ガジェットはそのままだけど、腰周りの非内蔵型ガジェットは全て取り払い、メインスロットも外した。
全体の仕様で言うと、フルアームを基本にメインスロットとガジェット五つを外し、サブスロットを二つ増やして、デュアルユニットでは使えない強目のナイフ二本とハンドガン二挺を、キーワード反応型として組み込み、右手にはエーテルの質量を変換して障壁として展開するエーテルシールドを付けて、左手にはお馴染みエーテルエコー。取り払ったガジェット分の容量を使い、リーサルスロットに魔法発動補助システムを組み込み、エーテルドレスに内蔵する形で常時起動させている。
全体の装甲と耐久を落として、衣服として振る舞う事に重きを置いた。
さらにメインスロットを二つの容量を削る事で、布に偽装している人工筋肉が包めていない場所もエーテルで保護、強化出来るシステムや、怪我等に反応して自動で治療するシステムも入っている。
総合すると、全体的身体能力の向上と護身武装やシールドの展開が出来て魔法の補助をする服になっている。
「あ、リリアちゃん起きたかな?」
ベッドの上でモゾモゾしているリリアちゃんの元に行き、薄目が開いた所でフワフワのお耳を撫でてみる。
擽ったそうに身をよじったリリアちゃんは、まだぼんやりしている視線で私を見る。
「あの、お姉様、どうなりましたか······?」
「ちゃんと取り込めてるから大丈夫だよ。それより、汗で服がグシャグシャになっちゃったから、着替えさせたよ。リリアちゃんお肌真っ白でスベスベだねー」
「······は、え!? はぅ!?」
リリアちゃんが私の言葉を理解した瞬間、バッと跳ね起きて体を確認する。
大丈夫だよ。綺麗な体のままだよ。私にはリリアちゃんを汚すための股間の装備品が備わっていないんだ。残念。
まぁ装備あっても年齢的に使えなかったかな?
「はぅ、おね、お姉様······」
「汗拭いて着替えさせただけだよー。それより、起きたなら黄昏の首飾り付けちゃって。使い方軽く教えるから」
必要以上にお肌をさわさわした事は内緒だ。リーフェも余裕無さそうだったし、多分そんなに見られてない。
またリリアちゃんをお姫様抱っこで椅子まで運び、静かに座らせてあげて、そのまま木箱からネックレスを取ってリリアちゃんにつけてあげる。
「ん、良く似合うよ。その宝石に触って『エーテルドレス』って唱えてね。リーフェはもうやってるから」
「は、はい! え、エーテルドレスっ!」
リーフェの時と同じ様に、一瞬だけ服がふわっとする。
違うのは着替えさせていたので、汗で汚れていたりしないから変化が分からないことか。
「えーっと?」
「リーフェと違って違いが自覚出来ないね。いまリリアちゃんが着ているドレスは魔道具になったんだよ。その時着ている服と同じ形で入れ替わるの。脱ごうとしたり脱がされる時には自動的に元に戻って、入れ替わっていた服は綺麗になるから」
リーフェにもした説明をした後、私も自分の椅子に座る。
魔道具を着ていると言われて、隅々まで確認しているリリアちゃんを待っていると、リリアちゃんがスンスンと鼻を鳴らした。
「魔道具になっても、お姉様の匂い······」
少し頬を赤くしているリリアちゃんが何を呟いたのかギリギリ聞こえなかった。
嬉しそうにしているけど、何かあったのかな?
「どうしたの? フェミのドレスだけど、気に入ってくれたかな?」
「あ、えっと、これはお姉様が良く着ているドレスですか?」
「うん。比較的良く袖を通しているかな? 普段着は落ち着いた色が好きなんだ。ここぞって時は自分の気持ちも持ち上げたいから、派手な色選んだりするけど」
「そうなんですね。えへへ·········」
「気に入ったなら、あげようか? 似たような物ならまだ有るし、フェミの普段使いだと失礼かもしれないから、まだ袖を通してないの選ぶ?」
「え、だ、ダメです! リリアはこれが良いのです!」
「そ、そう? ならそのまま着てていいよ。今日はお泊まりだから、また途中で着替えると思うけど。じゃぁ魔道具の説明しちゃおうね」
二人を座らせたまま、二人から丁度正面に見える場所に立つ。
「今の状態がエーテルドレス。使いっぱなしで大丈夫な作りにしてあるから、朝起きて着替えたらすぐにエーテルドレスに変える癖を付けるくらいでいいよ。それでこの魔道具の効果は、二種類の武器の召喚と、魔法の補助。あと防御力が全身甲冑くらいに増えて力も強い騎士の倍くらいになってる」
スカートを摘んだままクルクルと周り、エーテルドレスの全部を見せた後に両手を前に出す。
「武器を召喚する呪文は、『スラッシャー』と『ハウンド』で、こんな感じで手に武器が出てくるよ」
スラッシャーと唱えると右手にナイフが、ハウンドで左手にハンドガンが現れる。
トワイライトスターで高級素材をふんだんに使った大型エーテルナイフであるスラッシャーは、両手で握れる大きく黒いグリップが手に合うように指の形に波打っていて、滑り止めにエンボス加工もされている。
刃が出る方の先端には銀色に窪んだ場所があり、エーテルを流すとそこから、輪郭のハッキリした鋭く厚い光の刃が一瞬で伸びる。
そして同じく高級素材で組み上げられた大口径エーテルハンドガンのハウンドは、前世のデザートイーグルと呼ばれる超大型拳銃のグリップを握りやすいサイズにした上で、スライドからバレルまでをシンプルな四角いデザインに変えた様な見た目で全体が真っ黒いが、グリップの中心に見えるエーテルコアから青白い線が脈動する様にハウンド全体に線を走らせている。
「呼んだ順に右手から召喚されて、右手が埋まっていたら左手に出てくるよ。そして手を離せばこんな感じに自動で召喚解除される」
パッと手を離すとスラッシャーとハウンドが青白い光を放った後にフワッと消える。
「それで、同じ武器を両手に出したい時は『デュアルハウンド』と、頭に『デュアル』って言葉を付けてね。こんな感じで出てくるから」
次に出てきたのは二挺のハウンド。まったく同じ作りだけど、これはリーフェとリリアちゃん、そして私でハウンドもスラッシャーもサイズを変えてある。
ゆっくりとした成長なら自動でリサイズ出来る仕様にしておいたので、ずっと使える筈だ。
ちなみにエーテルドレスとエーテルスーツにも同じ仕様を組み込んだ。
「次に、ナイフの使い方は魔力を込めて切り裂くだけなんだけど、こっちは分からないよね?」
両手のハウンドを二人に見せて聞いてみるけど、やっぱり分からないそうだ。
この世界の遠距離武器といえば、魔法と弓らしい。あと投石かな?
「これは魔力を弾に、いや分かりやすく言うと魔力を矢に変えて真っ直ぐ打ち出す魔道具で、防具を付けてない人間の頭にでも撃てば、頭を弾け飛ばせる武器なの。だから気を付けて使ってね。全身鎧を着ている相手でも、何回も撃ち込めば多分殺せる」
そう言って、蝙蝠型の自立機動マシンをロールアウトして部屋の中に飛ばしたあと、暫く待ってからそれをハウンドで撃ち墜とそう、としたら威力が高過ぎて弾け飛んだ。
「·········あの、お嬢様、これが基本の魔道具なのですか? もう目を疑う程の性能を見せられているんですが?」
「うん。だって人を相手にするつもりで作ったわけじゃないもん。人を想定して考えたら過剰に見えるのは仕方ないよ」
そう、人相手の為に作ってない。この世界には魔物が居るのだ。
エーテルスーツはそもそも、同じエーテルスーツを着ているプレイヤーや、惑星に居る巨大なモンスターと戦う事を目的に作られているのだ。だからエーテルドレスも人に使うと過剰になるのは当たり前なのである。
「あと、いくら魔力量が増えたと言っても、あの様な威力の魔道具、そう何回も使えるのでしょうか?」
「あれ、リーフェにも言ってなかったっけ? 賢者の石を取り込んだこの場にいる三人は、無尽蔵に魔力を生み出せるんだよ」
リーフェが苦笑いで聞いてきたので、なんて事無いように答えると、二人の顔が凍った。
リーフェは苦笑いしたまま、リリアちゃんは真顔のまま。
「あの、え?」
「お嬢様、もう一度お聞きしても······?」
「だから、二人は賢者の石の効果で、魔力が無限になったんだって。基本的に使ったそばから自動で魔力が生成されるし、自分の中の魔力を胸の当たりに集めると意図的に増やせるよ」
私の説明に、リーフェもリリアちゃんも揃って魔力を操作して確認している。そして数分ほど固まると、二人が爆発した。
「はぁぁぁぁぁぁあ!? え、あ、お、お嬢様どういう事ですか!?」
「お姉様、あの、えぇぇぇ!?」
「だから、無限なんだってば。洒落にならないってフェミ言ったよ?」
「いや洒落にならないと言うか、もうそんな話では有りませんよ!?」
「分かってるよ。だから人払いしているんだよ? リーフェこそ、そんなに大声出して分かってるの? 外にはクエルトもドレイクも、フェミのお部屋付きのメイドも居るんだよ?」
「ッッッ·········!?」
「あの、あの、お姉様、無限ってどれ位でしょうか? リリアは今少し考えられなくて······」
「凄くいっぱいって覚えてくれれば良いよ。魔力にはもう困らないから、好きなだけ魔道具も魔法も使えるよ」
驚くリーフェを黙らせて、混乱しても可愛いリリアちゃんを宥める。
「驚くのは後でも出来るから、今はエーテルドレスの性能の続き説明するね」
「まだ有るのですか!?」
「いや、まだ武器しか説明出来てないよ? むしろ殆ど説明出来てないんだよ?」
何回も驚かれながら、魔法補助システムの説明と、エーテルエコーとエーテルガードの説明を終える。
エーテルエコーとエーテルガードは前の話しの通りだが、魔法補助システムの効果は簡単に言うと、一度使った魔法の構築を保存して、発動を意識すると魔法を再現してくれる。
さらに別口で魔法陣と呪文を登録しても使う事が出来る。その場合は初めて使う時に魔法の構築に通常の手順を補助システムが踏んでいくため、魔法の行使に少し時間がかかるものの、一度使ったらその構築を保存するので二回目からは一瞬で魔法が完成する。
いわゆる無詠唱魔法って奴が使えるのだ。
ただ、エーテルドレスのままだと上級魔法と呼ばれる魔法までが限界で、戦術級魔法や国崩級魔法と呼ばれる物になると、システムの容量が足りずに保存出来ない。
中級魔法までは個人で使えるけど、上級魔法になると魔法使いが三人から五人ほどが協力してやっと使える魔法で、戦術級魔法や国崩級魔法は魔法使いが数十人とか一個師団とかが大規模な魔法陣を使って長々呪文を詠唱してやっと発動できる。
「これが、フェミが魔法の勉強で使ってた魔道具だよ。ね? ズルいでしょ」
「そんな事ありません! むしろ、これだけの魔道具をお一人で作られたなんて······。リリアは、お姉様の事を心から尊敬しますわ」
「リリアライト様の言う通りです。お嬢様はちょっと自分の偉業を軽く見ている様に見受けられます。これだけの結果をもし王家にでも献上すれば、どれだけの地位と財産が得られるか計り知れません」
「んー、王家にはその内、何か繋がりを作る気で居るけど、この魔道具は二人以外にはあげる気ないよ? 大事なお母さんと可愛い妹にだけ。王家なんてそれこそ、このハウンドだけでも充分食いつくと思うしね」
と言うか、いずれ敵になるかも知れない人間や組織に、無限の魔力とオーバーテクノロジーを渡す程私はマゾでも馬鹿でも無い。
リーフェとリリアちゃんは私の敵にならないと思っているから、コネクトコアを改造までして賢者の石を作って渡したのだから。
「あぅ、お姉様の信頼に答えられるように、リリアは頑張りますっ······!」
「そうですね。従僕の身に余る光栄、必ず報いて見せましょう」
二人が何か盛り上がっているけど、まだエーテルドレスだけしか終わってないよ?
「次は二人の専用装備だよ」
「······まだ有るのですね······?」
「あわわわわわ······」
「うん。賢者の石が一番重要なんだけどさ、エーテルドレスは正直この程度、普段着作っただけだから」
「この性能の普段着が必要な日常は勘弁して頂きたく存じますが······」
「細かい事はいいの。まずはリーフェね。専用装備だから呪文も違うから、間違えないでね」
それから私は、右手を額の位置に構え、腰の右側に左手添え、一言口にした。
「『我が名はウィザード』」
キーワードに反応してネックレスが保存していたエーテルドレスを展開する。
頭には漆黒のホンブルグハット、いわゆる中折れ帽と呼ばれる帽子が現れて右手に触れる。
体を包んでいたドレスは光に包まれ、瞬きの間に黒いピークドラペルのロングタキシードに変わる。
前は開けられていて、中に見えるベストもシャツも、パンツもジャケットから覗くチーフまでも全てが黒い。
「お、おぉ·········」
帽子を前にズラして顔を隠すようにした後、スッと帽子を胸の前まで持ってくる。
「リーフェ専用の、基本機能以外の機能をほぼ全て魔法に回した魔法行使特化型エーテルドレス、リーフェの為の戦闘服『リーフェリアル・ウィザード』だよ。さぁ、使ってみて」
ポーズはカッコつけたかっただけなんだけど、リーフェも椅子から降りてテーブルから少し離れて、同じ様に顔の前に右手をかざして、左手を右の腰に添えてキーワードを口にした。
次の瞬間、リーフェは光に包まれた後に私と同じ様に漆黒のロングタキシードとホンブルグハットを身に纏っていた。
「······ふふ、何だか気分が良いですね」
「うん。似合ってるよリーフェ。凄くかっこいい!」
「ふぁあ······。とてもお似合いです······」
リリアちゃんも息を飲んで見蕩れるほどに、黒いタキシードに銀髪が映えるその姿は恰好良く、タレ目で可愛らしかったリーフェの新たな魅力を引き出していた。
「『ステッキ』って言うと、リーフェの持ってるタクトと同じ性能の杖が右手に出るよ」
「ふむ、ステッキ」
前に突き出したリーフェの右手に、これも真っ黒な一メートルくらいのステッキが現れた。先端部分には透明にした小さめのエーテルコアが控えめに鎮座している。
「使い方はエーテルドレスと一緒だよ。ただ、武装もステッキ以外全部外して、シールドもエコーも付いてない。その代わり魔法だけは凄いよ。マジックゲートって言う魔法を制御する機能を六個付けたから、魔法を同時に六個展開できて、さらにマジックゲートを三つ使用することで戦術級、五個使うと国崩級まで使える様にしたんだよ」
「わ、私一人で国崩級魔法まで使えるのですか!?」
「うん。戦術級や国崩級が文献で調べた通りの物なら、大丈夫だよ。ただそれなりに発動までに時間がかかるし、上級までみたいに完全に無詠唱とは行かなかったよ」
その他も色々、リーフェリアル・ウィザードの機能を滔々と聞かせた後に、リリアちゃんの方を向く。
既に椅子から降りて、期待に胸を膨らませて目をキラキラさせている様子は素晴らしく可愛いな君は。また来たまえ。
「お姉様、リリアも、リリアにもあの様に素敵な魔道具があるのですか!?」
「もちろんだよ。リリアちゃんの為にとびっきり素敵な物を用意したんだよ?」
「ぁあ、お姉様大好きですわ!」
おっほー!超絶可愛い猫耳幼女に大好きって言われながら抱き着かれるとか、私勝ったわ。今世まだ六歳だけど人生に勝ったわ。
「じゃぁ、呪文を教えるから、よーく聞いててね?」
「はい! リリアもお姉様のご期待に答えるのです!」
こんなに喜んでくれるなんて、作って良かったな。
やっぱり自分が作った作品が望まれ、喜ばれるのは技術者として製作者として、本当に嬉しいものだよね。これ以上の誉れは無いと断言できるよ。
勿体ぶった私は、腰を少し曲げお尻を後ろに突き出して、両手を軽く握って手首を下げ胸の上くらいに構える。
「いくよー? 『変 ♪ 身 ♪ にゃん♡』」
リーフェとお揃いだったタキシードが再び光に包まれると、次の瞬間には高級な質感を持って揺れるドレスに変わっていた。
紫と白の布を交互に重ねたミレモ丈のティアードスカートが可愛らしい、パニエを入れてふんわりボリュームを出したプリンセスラインのフリルドレス。
スカートはウェディングドレスの様に華やかに、上身頃は紫を基調に白をあしらい、ゴシックな雰囲気を持たせつつフリルたっぷりに愛らしく。
おまけにヘッドドレスには私の髪色の猫耳まで付けて、スカートのお尻にも黒猫の尻尾がにょろにょろ。
「ふふー、名前は『リリアライト・プリンセス』。フェミが着ているのはリリアちゃんと色違いのお揃いなんだよ! 昨日初めて会った時にリリアちゃんが着ていたドレスを参考に、もっとリリアちゃんを可愛く······、どうしたの?」
見ると、リリアちゃんが固まっていた。
いつもなら、素敵ですって喜んでくれる場面なはずなんだけども、リリアちゃんが若干絶望寄りの顔をしている。
「あ、あのお姉様、もう一度、呪文をお聞かせ頂きたく存じますわ」
「ん、うん。ちゃんと聞いてね?」
なんだ、キーワードを聞き逃したからそんな顔をしていたのか。
良かった、ドレスが気に入らないのかと思っちゃったよ。
また猫の手作って、踵に重心を乗せてお尻を後ろに······。
「行くよ? 『変 ♪ 身 ♪ にゃん♡』」
私のポーズとキーワードに、今度こそリリアちゃんが絶望顔になった。
「お姉様! なぜリリアの呪文はリーフェさんの様な洗練された素敵な物では無いのですか!?」
「え、え、え、なにどうしたの? ドレス気に入らなかった?」
「違うのですお姉様! 気に入らないのは変身の呪文だけですわ!?」
「え、変身にゃん? リリアちゃんが言ったらきっと可愛いよ? フェミ楽しみだったんだけど」
「リリアよりお姉様の方がずっと可愛らし······、って違うのです! そうじゃ無いのです!」
涙目になってしまったリリアちゃんに、だけど私も頑張って作った物を受け入れてもらえず、泣きそうになってきた。
「リリアちゃんのために、頑張ったんだけどなー······」
「ぁあお姉様、泣かないで下さいませっ······! あー! リリアはどうすれば良いのですか!?」
ややあって、観念してくれたリリアちゃんが顔を真っ赤にしながら、猫の手を作り立っている。
「あ、あまり見ないで下さいませ。恥ずかしくて······、リリアはお嫁に行けなくなってしまいます······」
「大丈夫! フェミが貰ってあげるから! て言うか誰にもリリアちゃんを渡す気なんて無いからね!」
「え、あ、はい♡ えと、あの、不束者ですが······」
「リリアライト様、そこは受け入れる所ではありませんよ?」
一悶着あったけど、とうとうリリアちゃんの変身だ。ワクワク。
余談だけど、私は本気でリリアちゃんを誰にも渡したくない。
「へ、へん···、あぅはずかし······。へ、へんしん、にゃんっ······♡」
ガハッ!
あまりの可愛らしさに私が耐えられず、吐血すると同時にリリアちゃんの栗色のドレスが光に包まれ、今私が着ているドレスとほぼ同じ物に変わる。
紫と白の代わりに金と赤の布が交互に使われているスカート。上身頃は赤を基調に金色のフリルがたくさん使われ、ヘッドドレスの代わりには金色の宝石とフリルがたっぷり使われた赤いリボンが猫耳の下で揺れる。
スカートの尻尾穴を隠す様に、耳元の物と同型のリボンを大きくした物が腰でふわりと膨らみ、可愛らしさに拍車をかける。
「可愛らしさの権化だよー! ああ、生きてて良かった······」
「確かに、大変愛らしいですね。でもお嬢様も可愛らしいですよ?」
「いいのリーフェ。リリアちゃんの前では全てが等しく無だよ······。あぁ神よ、ありがとうございます」
私女の子で良かったよ。じゃなかったら今のリリアちゃんを見て間違いを犯さない自信が無い······。あれ?
その時私に、電流走る。
「あれリーフェ? もしかして同性であり家族であるフェミがリリアちゃんにイケナイ事をしても、実は問題無かったりするのかしら?」
「お願いですから正気に戻ってください。問題しかありません」
「あの、リリアは、その、お姉様でしたら······♡」
「うん良し、ちょっとリリカフェイト様に娘を下さいって挨拶してくるね!?」
「待ってくださいお嬢様!? 本気で不味いのでお辞め下さいませ!?」
邪魔しないでリーフェ! あ、馬鹿! さっそくウィザードを上手く使って私を止めるんじゃない! なんだこの触手みたいな魔法!?
「あぁ、お姉様が何やら細い物に縛られて······、なんだか見ているとドキドキしますね」
六歳児の私と、五歳児のリリアちゃんは、年齢に似つかわしくない新しい扉を開いてしまったようだった。