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賢者の石。



「よし、真面目おわり!」


 リリアちゃんが真剣な顔で強さを欲したので、私はリーフェとリリアちゃんにコネクトコアをあげることに決める。


「ただ、詳細は秘密にする事と、渡す時は人払いする事だけ了承してね。護衛も側仕えも認めません」


 両手でバッテンを作って見せると、リリアちゃんは頷いてくれたけど、その後ろに居た犬人ドッグの護衛兵士が我慢出来ないとばかりに吠えた。


「黙って聞いていれば、領主の話し辺りは良い事を言うと感心したが、今の話は何なのだ! お嬢様の体に得体の知れない魔道具を入れ、死ぬ程の苦痛を味あわせるうえに、側近を全て排して行うだと? 認められる訳が無いだろう!」

「うん。別に認めなくてもいいよ? リリアちゃんに魔道具を渡せなくても、フェミは困らないもん。じゃぁ魔道具は要らないんだね?」

「そんな、お姉様待ってくださいませ!」

「うん、待つよ? これはフェミの問題じゃなくて、リリアちゃんの問題なんだから、話し合うのも決めるのも、リリアちゃんだよ?」


 正直あの犬耳の護衛さんの言う事は尤もだと思う。

 自分の仕える人間が、一人だけの状況で苦痛を伴う魔道具を体内に取り込む?

 バカ言ってんじゃねぇよって思うよね。


 でも断るなら断るで私は構わないのだ。魔道具渡さないだけだし。

 でもリリアちゃんのお願いだから、初めての妹からのお願いだから、叶えてあげたいかな。


「クエルト! リリアからお姉様にお願いしたのですよ! その態度はなんですか!」

「お嬢様こそ、本当に信じるのですか!? 体内に入れる魔道具など聞いたことがありません! それが毒じゃないとなぜ言い切れるのです! それに、何故人を排す必要があるのだ! おい、答えよ!」


 え、そっちで話し合ってって言ったのに、コッチに話しが飛んできたよ。


「うん? 自分の作った魔道具を秘匿したいって、そんなにおかしい事じゃ無いよね? リリアちゃんのお願いを聞くために止むを得ずソレを使うけど、使い方や見た目、詳細を秘匿するための人払いだよ?」

「クエルト、だからその態度を改めなさい! あまりに不遜ですよ!」

「あー、リリアちゃん、それは大丈夫だよ。むしろリリアちゃんを大事にしてるからこその態度に見えるし、今は気にしないよ。だからリーフェも怖い顔やめよ?」


 後ろを見ると、クエルトと呼ばれた犬耳護衛兵士さんの態度に、リーフェが人殺しの様な目で殺気が篭った魔力を放っていた。


 エーテルドレス装着したままだから、エーテルの流れが背中にビンビン来るんだよね。


「それに、うーん。信用出来ればいいんだよね? じゃぁ命でも差し出そうか?」

「·········え? あの、お姉様、何を······?」


 一度目を閉じてファクトリーの起動を念じる。

 目を開くといつも通りの半透明のウィンドウ。


 設計図のシステムを選んで起動して思い付いた物を作っていく。

 最後まで殺し合う系の映画御用達の爆発する黒い首輪と、それを起爆するスイッチ。


 念のためにスイッチは誤操作防止にスライドしてから押し込むようにして、それにカバーを付けるという安全策を取る。手違いで押されるのだけは勘弁願いたいからね。


 ナックルガードが付いたサーベルから刃だけを取って、刃の取れた所に起爆スイッチが付いた見た目の起爆装置が完成したところで、首輪と一緒にロールアウトする。


 そのまま黒い首輪を自分にはめて、起爆スイッチをクエルトに投げ渡す。


「はい。それを起動すると、この首輪が爆発してフェミが死ぬよ」

「······ッ!? お姉様!? その魔道具はどこから······!?」

「な、何を馬鹿な事を······。どうせ嘘だろう。突然何を言い出すのだ馬鹿らしい」

「ふふふ、そう思うなら、その起爆装置を押してみればいいよ。透明な覆いを指で跳ね開けて、突起を親指で手前にズラして下に押し込むんだよ。そうするとフェミの首輪が爆発するから。あ、リリアちゃんは多分巻き込まない程度の爆発だから安心してね。血は飛ぶと思うけど」


 脅しじゃなく、本物の爆弾と起爆装置だ。

 アレを押されたらエーテルドレスを着てても死ぬ。そういう風に作ったのだから。


「は、ははは、有り得ないだろう。初めて会った人間に、そんな物渡すわけが無い」

「だから、そう思うなら押せば良いよ? その起爆装置を操作しないと首輪は外せない仕様にしたしね。でもリリアちゃんの目の前でフェミが死んで、リリアちゃんの心が壊れても責任取れないからね」

「お姉様止めてください! クエルトもそれをお姉様に返して!」


 あまりの出来事に、とうとうリリアちゃんが泣き出してしまった。あれ?


「話しを簡単にしたかったのに、余計にややこしくなっちゃったね。でも、そんなに不思議かな? 可愛い妹の為に姉が命を懸けただけだよ?」


 首を傾げてしまう。前世では病気の家族のために自分の臓器を捧げるとか、そう言う話も無いじゃ無かったし、そこまで驚くかな?


「······どう言うつもりなんだ。これで何をさせるつもりだ?」

「簡単だよ? ソレを持っている限り、フェミはリリアちゃんに酷いこと出来ないでしょう?」

「·········仮に本当に爆発するとして、この起爆装置とやらと同じ物を作れば首輪が外せるんだろう?」

「そういう事も出来るけど、問題はそこじゃないんだってば」


 んー? なんか鈍いなこの人。


「いま、その手に、間違いなく、フェミの命を一度預けてるんだってば。今押されたらフェミは死ぬ。後がどうとか関係無くない?」


 後で解除する気なら、そもそも渡さなければいい。

 一度命を差し出している。この事実で信用を買おうとしているのに、なかなか分かってくれないな?


「クエルト、それをこちらに渡しなさい。押したら許しませんよ!」


 席を立ち、ボロボロ涙を零しながらクエルトの持つ起爆装置を取り上げるリリアちゃんは、そのまま私の所にやって来た。


「お姉様、どうすれば外せるのですか?」

「怖がらせてごめんね。そういうつもりじゃ無かったんだけど。その起爆装置の下に有る魔石みたいな石を、首輪に当てれば外れるよ」


 教えてあげると、すぐに起爆装置の柄頭を首輪にコンっと当てられ、その瞬間ガチャっと音がして首輪が外れて膝の上に落ちた。


 その首輪を拾い上げ、またクエルトに投げ渡す。


「それを窓から外に、なるべく遠くに投げ捨てて」


 訝しむクエルトは、だけど言われた通りに壁際に歩いていき、窓を開けて外に首輪を投げ捨てた。


「リリアちゃん、それ押してみて?」


 リリアちゃんが震える手で、さっき説明した通りにカバーを外してボタンを押し込む。


 ······ボンッ!


 ここからじゃ見えないけど、クエルトの目線の先では確かに首輪が爆発した様だ。


 私の首で起きていたら、確実に頭が弾けただろう威力で。


 クエルトは呆然と立ち尽くし、爆発音を聞いたリリアちゃんもその場にへたりこむ。


「ね。フェミは確かに命を預けてたよ?」

「·········お姉様、なんっ、で·········」


 掠れた涙声で、リリアちゃんが聞いてきた。

 見上げられたその目には、まだ涙が溢れたいた。


「だーかーら、フェミは可愛い妹の為に、命を使って信用を買おうとしたんだよ? それとも何かな」


 リリアちゃんの頭を撫でながら、クエルトやその周りに居る者全員に問いかける。


「あなた達の仕えるリリアライト姫は、姉が命を掛けるに値しない、その程度の主なのかな?」


 私の言葉にクエルトが目を見開き、執事さんは俯いた。


「クエルト、アナタの負けです。確かに今、フェミリアス様はお嬢様のために、簡単に命を我々に差し出しました」

「ドレイク!? お前まで何を!?」

「まだ分かりませんか? フェミリアス様はお嬢様の事を、命を預けるに値する者だと言っているのです。ともすればその信用は、我々よりも重い。クエルトはお嬢様の為に、あそこまで簡単に命を差し出せますか?」


 久々に口を開いた執事さんは、クエルトを言葉で叩きのめす。

 執事さんは分かってくれたみたいで良かった。

 流石に分かってくれないと、私の命って何なのさって思っちゃうからね。


「ただ、フェミリアス様に一つ伺いたく存じます」

「なーに?」

「なぜ、今日会ったばかりの、妹とはいえ腹違いの妹君の為に、そこまで簡単に、軽く、命を預ける真似が出来るのですか? なぜそこまで?」


 え、執事さんまで何言ってるの?


「え、だってリリアちゃん可愛いよ? 愛らしいよ?」


 まだ私の足元で泣いているリリアを、椅子から降りて抱きしめる。

 柔らかくていい匂い。お耳と尻尾もふかふかで、すすり泣いている甘い声が私の耳朶をくすぐる。


「さっきからずっと、フェミは言ってるよ? 可愛い妹の為だって。こんなに可愛いんだよ? フェミの命の一つや二つ、いくらでも掛けるよ?」


 前世の私には妹も弟も、兄も姉も居ない。

 私に興味の無い親しか居らず、中卒ヒキコモリの私はこんなに可愛い存在を知らない。

 もしかしたら、狂気に近いのかも知れない。

 ただただ可愛い妹のお願いを、私の出来る限りの行動で叶えてあげたいだけだ。


「フェミ言ったもん。『お姉ちゃん、何でもするよ』って。聞いていなかったのかな? 何でもだよ。リリアちゃんが強くなりたいってお願いを妨げる者を、フェミの命を使ってまで引き下がらせて、お願いを叶えようとしてるんだよ? ただそれだけのお話なんだよ?」


リリアちゃんを抱き締めたまま、執事さんとクエルトを見詰めてハッキリと告げる。


「て言うかさ、今までリリアちゃんはお父様にも疎まれて、自分のせいでお母様に迷惑をかけたとか、ずっとそう思って肩身の狭い暮らしをしてきたんでしょ? 良いじゃん! フェミくらいリリアちゃんの為に命かける馬鹿な家族が居てもさ! そろそろ救われようよ! リリアちゃん何にも悪くないんだよ!? お父様が獣人嫌いなのはリリアちゃんのせいなの? 獣人が差別を受けてるのはリリアちゃんのせいなの? リリアちゃんが獣人に産まれてきたのはリリアちゃんのせいなの? 違うでしょ! 全部違うでしょ! フェミの妹は何も悪くないよ! 悪くないんだよ!」


 ちょっと頭に来て、言いたい事を全部ぶちまけた。

 それを聞いた、私が抱いてる小さい肩が少し揺れた。


「聞きましたか、クエルト。これを聞いてもまだ文句があるなら、アナタはクビです」

「·········俺は······」


 どうやら納得してくれたのかな。

 結果に満足していると、抱き締めている私のお姫様が泣きながら口を開いた。


「お姉······さまっ······!」

「ん、どうしたの?」

「もう、こんなこと······しない····くださ······!」

 

 絞り出す様な声に、でも私は首を縦に振ることはしなかった。

 

「えへへ、ごめんね。約束出来ないや」

「············なんで······?」

「リリアちゃんのお姉ちゃんだからかな? さっきから後ろで震えて我慢してくれてるリーフェもね、ずっとフェミの事を大事にしてくれる、もう一人のお母さんでね、フェミの為にお父様と戦ってくれたの」


 そう、この成り行きを自分を殺してまで見守ってくれているリーフェは、我慢しすぎて震えている。

 本当はスグにでもクエルトを張り倒して起爆装置を取り上げ、私を叱り飛ばしたかったはずのリーフェは、私が自分の命を差し出す真似を止めないで、私のしたい事を優先してくれた。


「そのせいでお父様に、リーフェはお仕置き部屋って言う牢屋にまで入れて、ご飯も死なない最低限。そうまでして、フェミを守ろうとしてくれたんだよ」


 死なない最低限の食事が有るとはいえ、いつ殺されるかも知れないそんな状況で、自分の意見を翻す事なく、私の敵にならないで居てくれた。


「フェミも同じだよ。リリアちゃんのお姉ちゃんだから、味方で居たかったんだよ」


 伏せてしまった猫耳ごと頭を撫でる。

 サラサラの髪は触っていて気持ち良く、ずっとこうしていたい。


「お姉様は······、リリアの事が、お嫌いではありませんか?」

 

 不安そうな声で、小さく呟くリリアちゃんは、今まで怖かったのだろう。

 せめてその不安よ小さくなれと、優しく頭を撫で続ける。

 

「こんなに可愛い妹を嫌いになるって、逆にどうやるか聞いていいかな? フェミはちょっと方法が分からないよ?」

「本当に······?」

「全部全力で本心だよ! て言うかね、フェミはリリアちゃんが可愛過ぎて困ってるくらいだよ? リリアちゃんにお願いされたら、フェミは国だって滅ぼしちゃうよ?」


 泣き止んでくれたリリアちゃんを抱き締めたまま、取り敢えず話しを進めちゃおう。

 こう、自然な形で、私がリリアちゃんを抱き締めているのが当たり前の空気で。


「それで、リリアちゃんに魔道具あげて良いのかな? 効果は保証するよ?」

「はい。お嬢様が願った事ですので」

「うん。じゃぁ準備するから、明日の水の鐘にフェミの部屋に来て欲しいな。側仕えも護衛も来ていいけど、部屋の中には入らないでね。割と本気で洒落にならない魔道具だから」

「畏まりました。しかし、フェミリアス様が例外的に外出出来るのは理解していますが、お嬢様が城に入るのは問題になりませんか?」

「文句言われたら全部フェミのせいにして良いよ。お父様の意見は捩じ伏せてあげる。門番も城を巡回している兵士も、全部根回ししておくし、リリアちゃんの不当な噂も先祖返りの話しを流しておくね。リリカフェイト様に手伝ってもらえば、明日には間に合わないと思うけど、ご実家の文献とか調べてもらえばリリアちゃんの事は証明出来ると思う」

「お気遣い有難うございます。ではその様に」

「あと、魔道具を取り込むのに結構体力使うから、離宮に帰るのは遅くなるし、最悪フェミの部屋に泊めるかも。その頃には部屋に入って大丈夫だから安心してほしいな? ん、いやお部屋で一緒に寝るの素敵じゃない? 是非そうしよう。リリアちゃんどうかな? お姉ちゃんと一緒のベッドで寝よ?」

「あの、良いのですか······?」

「うん。せっかく会えたんだし、明日は一緒にゆっくりしよ? その次の日にでも魔道具を実際に使ってみよう」

「ドレイク······」

「ええ、お嬢様のしたい様に」

「リーフェもいい?」

「畏まりました。ですが、二度と先程の様な真似はお控えください。我慢するために、噛み締めていた奥歯が欠けましたよ」

「ごめんねリーフェ」


 話しが纏まったので、メチャクチャになってしまったお茶会をやり直す。

 リリアちゃんのメイドさんがお茶の準備をしている間に、リリアちゃんを抱き上げて椅子まで運ぶ。


「ふぁ······、お姉様、重くないのですか?」

「ん、これも魔道具のお陰だよ。この魔道具も明日リリアちゃんにあげるから、楽しみにしててね」


 目を赤くしているリリアちゃんを椅子に座らせて、もう一度頭を撫でる。

 正直もっと抱き締めていたいし、頭を撫でていたい。けど我慢。


 それから、他愛ない話しをして、名残惜しい気持ちをねじ伏せてお茶会を終えた。


 自室に帰ると、リーフェに本気で怒られた。

 部屋に帰るまで我慢していたのだろう、涙目のリーフェは初めて見た。


「私をもう一人の母親と仰ってくれるなら、母の前で命を捨てるような真似は二度としないと誓ってくださいませ!」

「うぅ、ごめんなさい······」


 それから湯浴みをして、フェアリーぜのリティットの腕輪付けていた隠し機能を利用して、今日の出来事と根回しのお願いメールを送り、夜の鐘がなったら食事をした。


 その後は私が寝るまで扉の前でリーフェが待機する中、眠くなるまでリーフェとリリアちゃん用のエーテルドレス系のエーテルスーツを設計する。


 トワイライトスターではなく、現実で使うスーツの設計は楽しくやりがいがある。


 全ての設計が終わり、ファクトリー内でシュミレーションまで終わらせてから、私のネックレスと同じ物をロールアウト前まで出力してそれぞれにスーツを保存する。


 銀色の石のネックレスと、金色に赤みを含ませた石のネックレス。


「あ、リーフェ。今から魔石って準備できる? あの魔道具は魔石無いと作れないの」

「手配しておきます」

「ん、ありがと。愛してるよリーフェ」


 ベッドから顔だけだしてリーフェを見て、軽く手を振ってから寝に入る。



 次の日、朝の鐘で目を覚ますと朝食と魔石が二つ準備されていた。

 リーフェに挨拶をして顔を洗い、手早く着替えると朝食を食べながら二人用のコネクトコアを新しく設計する。


 トワイライトスターで使う機能は全部要らないから、魔力無限生成機能とエーテルスーツの制御。あと各種兵装とのリンク機能を持たせつつ、私が新しく設計したり作ったエーテルスーツや兵装を、コネクトコア経由でスーツ管理ネックレスに送る為、私のファクトリーと一方的に接続する。


 向こうからファクトリーを起動ないし干渉出来ないけど、私から二人のコネクトコアにエーテルスーツを送ると、自動でネックレスに転送する様に設定するのだ。


「うん、全部終わった」


 リーフェに言って木箱を準備してもらって居る間に、魔石を新型コネクトコアに作り替えてネックレスもロールアウトする。


 それから小さい木箱を持ってきたリーフェからそれを受け取り、ネックレスとコネクトコアをそれぞれ入れていく。


 まだ大分時間が余っているので、リーフェやリリアちゃん用に作ったエーテルスーツのデータを引っ張り出して、私用に作り替える。

 お揃いのエーテルスーツ、ふふふ。


 まだ時間があるので、その間にコネクトコア無しでも使える兵装や、いつか使いそうな乗り物を設計し始める。


 その内お店を持って売り出したい。


 設計に没頭していると、あっという間に時間が過ぎる。


 あれ、私いつの間に昼食食べたんだ?


 水の鐘が鳴るとほぼ同時に、部屋の扉がノックされた。

 すぐにリーフェが出迎えると、昨日とは違うピンク色のドレスを着たリリアちゃんが入ってきた。


「ほ、本日はお招き頂き······」

「あー要らない要らない! 人払いしてるし崩そうよ!」


 話通りにクエルトと、ドレイクって呼ばれてた執事さんは入口の外で待機している。

 部屋の中には私とリリアちゃんとリーフェのみ。

そうして入って来て挨拶をするリリアちゃんに、飛び付いて堅苦しい挨拶を止めてお姫様抱っこをする。


「ふぁー!?」

「お姫様、お席にご案内致しますわ」


 気取った口調で腕の中に居る妹に歯を見せて見ると、慣れてない初心な反応で赤面してしまう。


 うむ、実に可愛い。


 一応お茶会の体で集まっているので、リーフェにお茶の準備をしてもらう。


「お茶飲んだら、さっそく魔道具渡すね。ほんとに辛いから覚悟だけはしておいてね」

「辛いだけでお嬢様の様な魔力量が手にはあるなら、願ったりですよ。私は乳母兼教育係兼側仕えですが、お嬢様やリリアライト様達貴族は魔力量が重要ですからね」


 この世界の魔力の保持量と言うのは、貴族と平民で差があるのだとか。

 貴族が独占しているエネルギーって訳では無いのだけど、平民はとても多い場合でも、貴族平均の五割の魔力があれば天才と呼ばれるらしい。

 まぁ私と、今からリリアちゃんとリーフェの魔力が無限になるから、貴族平均って考え方は消え失せるけど。


お茶のお代わりとお菓子の準備が終わり、テーブルの近くにワゴンを止めたリーフェを捕まえて、席に座らせる。

 側仕えが座るなんて有り得ないと拒否されたけど、この後どうせ魔道具を取り込んだ後暫く立てないから、床の上に転がる前に座るべきと説得した。


「じゃぁ、これが二人に渡す魔道具だよ。ネックレスの名前が『黄昏の首飾り』で、魔石の方が『賢者の石』だよ。賢者の石を体に取り込んだ後、黄昏の首飾りが使えるようになるの」


 二人の前に、用意してあった木箱を出す。

 リーフェの前には銀色の賢者の石と、同じ色の石が嵌められている黄昏の首飾り。リリアちゃんの物は金色に少しだけ赤いグラデーションが掛かっている賢者の石と黄昏の首飾りだ。


「見たとおり、二人の髪の色に合わせてあるから、間違えないでね。黄昏の首飾りには、フェミ特製の魔道具がいっぱい保存してあるから、大事にしてね」


 お茶を一口飲んで、説明する。

 と言ってもまずは賢者の石を飲み込んでからだ。

 

「じゃぁ、覚悟できた人から賢者の石を口に入れて、飲み込んでね。飲み込んだ瞬間から暫く辛いから、ひたすら耐えて」

 

 私が半ば脅すように促すと、リリアちゃんは強ばった顔で止まっているが、リーフェは優雅な仕草のまま賢者の石を手に取り、すぐに口に入れた。

 

「······ん!? ふぅ、ぁあ······!?」


 賢者の石を嚥下した瞬間、リーフェの顔が苦痛に歪む。うんうん。苦しいよね。

 

「がぁ、ぁぁああ·······!」

「······ひっ···」

 

 楚々とした対応で自身を持て成していたリーフェが、人前でこれだけ顔を歪めて胸元を抑えて呻いているのだ。見ているリリアちゃんは恐怖だろう。

 次に飲むのはリリアちゃんだしね。

 私はリーフェに準備してあったタオルをテーブル近くのワゴンから取り、発汗を続けて呻くリーフェの顔を拭いていく。

 

「リーフェ、頑張って」

 

 横からリーフェに抱き着いて、背中をさする。

 

「お、お姉様、本当に大丈夫なのですか······?」

「少なくとも、大丈夫だった結果がフェミだからね」


 目の前の惨状に賢者の石に手が出せないリリアちゃんに、私が成功例だよと少し胸をはる。


「がぁ、お嬢様······! あぅぅ······!」

「ん。大丈夫だよ。フェミはここに居るよ」


 リーフェをギューッと抱き締める。その体は私の時と同じく発熱していて、服は汗でぐっしょりだ。


「ぅう、はぁ、はぁ······、お嬢様、もう大丈夫、ですっ······」

「うん。でも暫く休んでてね。服はすぐに何とかなるから、今は我慢してね」


力無く背もたれに体を預けるリーフェの頭を撫でてから、リリアちゃんの横に移動する。


「どうする? 辞める?」

「ぅぅ······、えい!」


リリアちゃんが意を決して金色の石を口に入れて喉を揺らした。

 

「んぁっ······、ぁぁぁぁぁぁあああっ······!」


 大粒の涙を流して叫ぶリリアちゃんを、ワゴンから新しいタオルを取って汗と共に拭いてあげる。

 扉の外が騒がしくなるけど、ドレイクには多分こうなるから部屋には入るなと昨日の時点で厳命しておいた。

 多分クエルトが騒いでドレイクが抑えているんだろう。


「リリアちゃん。お姉ちゃんはここに居るよ」


 傍に居る私のドレスを小さい手で握りしめて、テーブルに突っ伏して歯を食いしばるリリアちゃんを、優しく撫でて抱き締める。

 辛そうなリリアちゃんには悪いんだけど、メチャクチャ艶めかしくて、イケナイ事をしている気分になってきた。


 新しい扉開いちゃいそうだよ!


 耳は痙攣してるのかビクビクと不規則に動き、尻尾は私の腰に巻き付いて離れない。

 真っ赤になったほっぺたに伝う汗と涙をタオルで拭い、抱き締める力を少し強めた。


「リリアちゃん頑張ってね。もう少しだよ」

「あぅう、にゃぁぁあっ·········!」


 リリアちゃんの手が私の腕を掴み、痛いくらいに握り締めてくる。

 やがて、リリアちゃんが一気に脱力した。


「おね······、お姉様······」

「うん。頑張ったね。少し休もうね」


 意識がぼやけているリリアちゃんをお姫様抱っこで、私のベッドの上に運ぶ。

 汗まみれで汚れるとかどうでいい。むしろ可愛い妹の汗が自分の寝床に染み込むとか御褒美では無いだろうか?

 今夜はベッドの匂いをクンクンしよう。


 ベッドに寝かせると、すぅすぅと可愛い寝息が聞こえて来る。

 今寝られると、流石に風邪ひいちゃうかなと思い体だけでも汗を拭こうと思い、そこで思考が飛んだ。


 あれ? 今リーフェ動けないし、リリアちゃんの汗を拭けるのは私だけだよね? つまりリリアちゃんを脱がせて、この白い肌を堪能してしまうのは不可抗力であり、私には何の非も無いよね? ね?


 体格もそう差が無いから、私の服を貸せば良いだろう。ベッド近くのクローゼットからドレスを取り出してリリアちゃんの横に投げ出す。

 

「ふふふ、リリアちゃんお洋服脱がすよー?」


 これは必要な事、大事な事。

 リリアちゃんが風邪を引かない為の行為であり、私の目が邪だったり胸がドキドキしている事は些事なのだ。

 

 うふふふふ、やっば興奮してきたよ!



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