リリアの休日。
お姉様がドルフィナさんに装備をお作りになっている間、リリアはリオライラを見て回ることにしました。
そもそも、リリアの年齢ではこうして街を見る機会などある訳がなかったので、王都以外も見て回れる事を嬉しく思います。
まずは中央広場の領主像の前まで来て、辺りを見回します。
メリルが普段生活をしていた街。そう思うと少しだけ愛おしく感じる町並みが目に映ります。活気溢れる街の息遣い。道行く人々の笑顔。そう言った『日常』が色鮮やかなのは、ひとえにリオライラ領主の手腕なのでしょう。
元トライアス領主一族として、見習うべき事かもしれません。
もっとも、リリアはもうヴァルキュリア家なので関係無いかも知れませんが、リリアの勘だと、お姉様はまた『領主一族』になると思います。
「あ、あの······!」
「はい?」
ふと声を掛けられて振り向くと、あまり歳の変わらない平民の子供が五人。
どなたも一度見たことがある顔です。たしか、初めてメリルに出会った時と、メリルを連れて王都に向かう時に見掛けた方々です。
「メリルのお友達の方ですわね? ご機嫌よう」
リリアはそう言ってカーテシーで挨拶をします。今着ているのは、お姉様に初めて頂いたドレスを模してオーダーして置いた、お気に入りの栗色をしたドレスです。
街中では貴族然として目立ってしまいますが、それでも派手過ぎず、かと言って社交の場でも品格が足りないという事の無い絶妙な物になっています。
元になったお姉様に頂いたドレスは、半年の間にリリアが成長してしまって、着れないことは無くても見栄えが悪くなってしまいました。今は大事に宝物としてしまってあります。
「あの、メリルの······、ご主人様、なの?」
「貴族なのか?」
「ちょっとアンタら、言葉遣いっ!」
二人の女の子と、三人の男の子がリリアを見てソワソワしながら言います。いくら為政敷かれるリオライラと言っても、やはり平民にとっては貴族などなるべく近付きたくない存在なのでしょうけど、メリルの事が気になるのと、あとは単純に好奇心でしょうか。
「はい、リリアとお姉様が、メリルの主人ですわ。リリアライト・ヴァルキュリアと申します」
名乗っていなかった事を思い出して、今更ながらに自己紹介を済ませ、メリルなら今お姉様の元に居ることを告げます。
「あ、えっと、違くて······」
「俺ら、えっと············」
「どうしました?」
メリルに会いに来た訳では無いらしく、どうやらリリアに何か用事がある様に見えます。微かとはいえ面識は確かにありますが、ろくに言葉も交わした事の無いリリアに、どの様な用事なのでしょうか?
言い淀んでいる理由も良く分からないまま、言葉の続きを黙して待つと、一人の女の子が慌てた様に頭を下げてきます。
「お貴族様、私達少し、いやだいぶ? 礼儀とか分からなくて······、その、無礼な事とか、えっとっ」
どうやら、言い淀んでいるのは言葉遣いが分からなくて困っていたのですね。リリアはその様な事気にしませんし、むしろ、お姉様もルフィア様もメリルも、みんな平民言葉が基本なので親しみやすいくらいなのですが。
「リリアはその様な小さい事など、気にしませんわ。お好きな様にお喋り下さいませ。メリルだって仕事以外では似たような物なのですよ?」
「え、そ、そうなの?」
「ほっ、よかった······。俺難しい言葉とか、わかんねぇもん······」
精一杯微笑んで言うと、みんなまだ少し不安が残ってますが、緊張は解けた見たいです。
「それで、リリアに何か御用でしょうか? 見ての通り一人なので、メリルとは別行動なのですが」
「あ、違うんです。えっと、リリア様······? でいいの、じゃなくて、いいんです?」
「ふふ、いつも通りに話して貰って構いませんわ。呼び方もお好きになさって下さいませ。メリルは仕事以外だと、リリアちゃんなんて呼んでくれますが」
「うぇっ!? え、メリルそんな命知らずな······」
「リリアとメリルは、主従の前にお友達なのです。仕事を抜けば対等なのですわ」
度々話が逸れてしまいますが、話しを聞くと特に用事があった訳ではなかった見たいです。
「リリア様がお一人だったから、えっと、貴族が一人で街歩いてるの変だなって······」
「そうそう。迷子なのかなって思って見てたら、見たことあった顔だったんだ」
「······なるほど。確かにリリアが一人で歩いていたら、そう見えますわね。ご心配お掛けしました」
本当なら、そんな理由で貴族に話しかける事などしたくなかったと思います。迷子を助けるのと、貴族に無礼を働く可能性を天秤に掛けたら、どちらに傾くかなんて誰でも分かることでしょう。それでも声を掛けてきたのは、彼らの人となりなんでしょう。
少し心が暖かくなりながら、せっかくだからとお話しをすることに。
メリルは平民ですが教養を身に付けましたし、 リリアが一番よく知る身内以外の平民となると、プリシラさんになります。でもプリシラさんは大人ですし、リリアと歳の近しい平民の方になると、本当にメリル以外知りません。今日はいい機会だと思います。
「あら、ではそちらの三人は皆、メリルの事を?」
「そうなの! 身の程も知らずにメリルに何回も言い寄って······」
「おまっ、ちがっ!」
「言うなよ! メリルには言うなよ!」
中央広場近くにある屋台で飲み物を全員に買って、広場にある休憩用の長椅子に座ってお喋りです。みんなスグに、リリアを怖がらなくなりました。
貴族であり、猫人であるリリアに少しも嫌な顔をしないので、リリアは皆様のことが少し好きになりました。
「でも、メリルは心に決めた人がいらっしゃいますよ?」
「······は、えっ!? 嘘だ!」
「メリルは好きな男なんて居ないって言ってたぞ!」
「ね、ね、リリア様、それほんと?」
「はい。ランド国王陛下直々に許しを得ています。それと、確かに好きな『殿方』はいませんわ。お相手は淑女ですもの」
「王様直々!?」
男の子達は顔を真っ青にして、女の子達はびっくりしています。
お姉様が当たり前の様に障害を次々排除してしまうので忘れそうですが、お相手が女性と言うのは本来有り得ない事なのです。
「リリア様、メリルのお相手って、どんな人なの?」
「知りたいなっ!」
「ふふ、リリアのお姉様ですわ。リリアも妹ですが、メリルと同じ様にお姉様に貰って頂ける許しを、陛下に頂いて居るのですよ?」
「すごーい! ねぇねぇ、お姉さんはどんな人なの?」
絶望したままの男の子達を無視して、女の子だけで盛り上がってしまいます。リリアはドレスのポケットからパソコンを取り出して、中に保存してあるお姉様の写真をお二人に見せていきます。
魔道具に親しみの無い平民である彼女達は、最初はパソコンに驚いて居ましたが、次第にお姉様の写真に釘付けになります。
「きゃー! 可愛い、綺麗、すてき!」
「髪の毛がすごい、真っ黒って汚い色だと思ってたけど、こんなに綺麗なんだね」
「ふふふ、お姉様は可愛らしいだけではなく、とっても博識で、強いのです。魔物だって一人で倒せるのですよ?」
「············ま、魔物? あ、そうだ! なぁ、メリルがハンターやってるって本当なのかっ!?」
絶望から立ち直った男の子達も、慌てて会話に入ってきます。本当にメリルの事がお好きなのですね。
でもメリルはお姉様のものなので、諦めて下さいませ。
「メリルだけでなく、リリアもお姉様もハンターですわ。戦いの様子もお見せしましょう」
パソコンを全員に見えるように、画面を拡大して行きます。そして連携の確認様にお姉様が残したヴァルキリーの戦闘映像を流すと、男の子達はもちろん女の子も盛り上がりました。
「すげっ、すげー! メリルが魔法使ってる!」
「このメリルの服可愛い。好きだ」
「すごいすこいっ、女の子でもこんなに強くなれるんだね!」
「この銀髪のお姉さんと、青い髪の子はだーれ?」
「銀髪の人はリーフェさんと言って、お姉様の側仕えですわ。メリルの師匠ですわね。青い髪の人はシュリルフィア・クィンタート様ですわ。この国で一番大きい領地の領主一族ですわ」
「······お貴族様って、こんなに強いんだ············」
「ばっか、お前何言ってだよ。メリルは平民だろうが」
「あ、そっか」
「ふふ、メリルは今、貴族に魔法を教えられる程に魔法が使えるのですよ」
「············メリル、本当に凄い······」
ひとしきり見終わると皆、特に男の子三人が興奮し過ぎて収まりそうにありません。女の子二人も、男性じゃなくても強くなれると言う事に少なからず高揚しています。
「今日、休みだと思ったけど、やっぱり狩りに行こうぜ!」
「そ、そうだな! 俺たちだって、強くなったらメリルも······」
「メリル好きだ」
先程絶望から立ち直った三人のうち、一人がメリルに対する愛を言葉にする事へ抵抗が無くなった見たいで、何となく性格まで変わったように見えます。
「······わ、私達も行こうかな······? ね?」
「そ、そうだね! 行ってみたい、かな?」
「なんだよお前ら、来んのかよ」
「な、なによー! ダメだっていうの?」
「いつも、狩りなんて野蛮だから、メリル連れていくなって怒ってたじゃねぇか」
「そうだそうだ! やっぱりメリルは狩りの方が似合うんだよ!」
「メリル好きだ。可愛い」
さっきまで楽しそうだったのに、急に喧嘩が始まってリリアはびっくりしてしまいます。本気の諍いと言うわけでは無いことは、見て分かりますが、こう急に空気が変わると言うのは、驚いてしまいます。
「それによ、今の見て簡単に出来そうって思ってんなら馬鹿にするなよな。狩りって狩るだけじゃなくて、色々覚える事も多いんだぞ。素人が遊びで来ると怪我するんだぞ」
「そ、そんなに言う事無いじゃない······。誰だって最初は素人でしょ! それともアンタらは最初から全部出来たって言うの?」
「うぐっ、いや、それは······」
「メリル可愛い。あ、パンツ見え······」
「お前いつまで見てんだ! て言うか見えてねぇよ! 妄想で補うな!」
一人だけ未だにパソコンにかぶりついて見ている男の子を置いて、少し険悪になりつつも狩りに行くことになったみたいです。せっかくですから、リリアもご一緒しましょうか。
「リリアもついて行って宜しいですか? お姉様にお願いして、皆様の簡単な装備も準備しましょうか?」
「え、いいの? お貴族様の道具って、高いんじゃ······?」
「現役のハンターが来てくれるのは、俺達も助かる······かな?」
「はい。初めて行くのでしたら、装備も無いと思いますし。お姉様はご自分で装備を作れる人なので、代金の心配はいりませんわ」
離れた所でリリアの様子を見ていたリアスを呼んで、お姉様にコールします。その様子に皆様がまた驚きますが、魔道具に馴染みが無いので、『とにかく凄い』と言うだけで終わりました。
『はいはーい。どうしたの?』
「お姉様、ドルフィナさんの装備はどうなりましたか?」
『ん、試作を終えて今森で軽く使ってもらってるよ』
「そうですか。今リリアはメリルのお友達と居るのですが、狩りに行くことになりまして、それに合わせて装備を準備してあげたいのです」
『ん、わかったー。んー、慣れてない子達だよね?』
「普段からメティア狩りをしている男の子三名に、初めての女の子二名ですわ」
『ふんふん。装備は弓かな?』
お姉様の質問を受けて、男の子に視線を送ります。
「えっと、うん。父ちゃんが作ってくれた弓で狩りをしてる」
『お、その男の子かな? ナイフと防具は必要かな?』
「えっと······」
リリアには慣れてくれましたが、声だけしか聞こえないお姉様に遠慮してしまう皆様に、変わってリリアがお姉様にお願いします。
「普段使い出来る仕様で、一式お願い致しますわ。ちゃんとオーダーメイド料金でリリアのリヴァルカードから出しますので」
『ふふふー、可愛い妹のお願いに、フェミがお金取るわけ無いでしょ? それにオーダーメイド料金で仕事受けたら、その子達普段使い出来ない超性能の装備になっちゃうでしょうが』
「それもそうですわね」
ともかく、五人分の装備をすぐに設計して、森で合流したら簡単な採寸をして再調整すると決まり、このままみんなで森に行くことになりました。
他の貴族に会う緊張と、もしかしたら凄い物が貰えるかもしれない期待で受け足だっているみんなを連れて、森へ向かいます。
その間に今更ながら五人から自己紹介されます。会うのが一応は二回目だったので、既に名乗っているつもりで気が付かなかったそうです。
「私はシーナ。普段はお母さんのお手伝いで染物の工房で見習いをしてるの」
「ミークだよ。よろしくね? 私もリリアちゃん、って呼んじゃだめかなぁ?」
「ふふ、大丈夫ですわ。よろしくおねがいします」
「俺はガス」
「ジジルだ。弓が得意なんだぜ」
「メリル好きだ」
「············こいつはイッド。こいつの父ちゃんがメリルの父ちゃんと友達で、俺らとメリルが知り合ったんだ」
そんな話しをしていると、門も抜けてあっという間に森へ着きました。森の入口にはリーフェさんが待っています。
「お待ちしていました。ご案内します」
軽く挨拶をして早速お姉様のところへ。少し離れていただけなのに、早くお姉様に会いたくて仕方ありません。
森を歩くと、すぐにお姉様達が見えました。当然メリルも居ます。少し離れた所ではドルフィナさんが新しい鎖を縦横無尽に振り回しています。
「お、来たね。リリアいらっしゃい。準備は出来てるよ」
リリア達に気が付いたお姉様は、ドルフィナさんの観察、装備の善し悪しを見ていた視線を切って、座っていた丸太からこちらに歩いてきます。その横にはメリルも手を振りながら一緒に来ます
「初めまして、フェミはフェミリアスだよ。気軽にフェミちゃんって呼んでね?」
自分の両頬を指でぷにっと押しながら、微笑んで首を傾げるお姉様のなんて愛らしい事でしょう。すかさずドレスの影からカメラを使ってお姉様のお姿を残してしまいました。お姉様はこう言う事を『盗撮』と言って、イケナイ事だと言って居ましたが、お姉様と夜にイケナイ事をしているリリアには今更なのです。
お姉様はその笑顔と、明るいお声で緊張していた五人の心をあっという間に開いてしまいます。その際にさりげなく採寸している事も分かりました。
お姉様には特別な力が備わっていて、その一つに道具を使わずに物を調べられる力があります。それを使って装備の大きさを再調整するのでしょう。
「まず、ガスくんジジルくんイッドくんね。ほい、女の子達とほぼ同じ装備になるけど、先に教えるから慣れてね。これが弓の代わりに作った『ガンスリング』で、子供用ロングナイフ。あと簡単な防具一式。軽装くらいはしといた方が良いでしょ」
「メリル可愛い、好きだ」
「ふはは、この子面白い! メリル可愛いよねー? このガンスリングでメリルにいい所見せてあげようね。この武器は、矢の代わりにその辺に落ちている小石を使うから、それをこうして、こうやって、こうっ!」
お姉様が武器を使い方を教えながら、リーフェさんがささっと男の子達に防具を装備させて行きます。
お姉様が作った武器は、以前お姉様が話していた『スリングショット』なる物の様ですね。威力も申し分有りません。あれはもしかして、アトリエの新商品にするのでしょうか?
想像以上の物をもらって、萎縮しながら大はしゃぎすると器用な男の子が早速遠くに見える木に向かって試射して行きます。
その間にミークさんとシーナさんにも同様にガンスリングの説明と、防具の装着を済ませていきます。
ミークさんが「なんで胸までこんなにピッタリなの!? いつ測ったの!?」と少し涙目になりますが、問題なく進んで行きます。
お姉様が作った防具は、お姉様特性の軽くて硬い合金で出来ていて、腕、胸、腰、太腿、脛にベルトを使って簡単に装着出来るようになっています。
腰のプレートにはナイフとスリングショット、否ガンスリングを装着出来る部分も作ってあるようで、たぶんこの時点で戦闘用の装備だけで言えば中級ハンターも羨む物になっていると思います。
「フェーミちゃん、ブルボアが近くに居るよ?」
「ん? お、本当だ。へい少年達、ブルボア狩ってみるー?」
「「狩るー!」」
「メリル可愛い」
「············あはは、ありがとね」
未だに様子がおかしいイッドさんの言葉に、メリルが頬をかいて苦笑いしています。
ルフィア様を先頭に近くに居たブルボアが見える所まで移動して、代表してジジルさんがガンスリングでブルボアを狙うそうです。
お姉様がガンスリングの注意点を何回も説明して、やっとジジルさんがガンスリングを構えます。
弓よりも圧倒的に軽く引き絞れるガンスリングにも、既に試射を経て慣れてたジジルさんが指を話すと、空気を切り裂く小さな音がした後にブルボアの側頭部にボスっと音がして穴が開きます。
「············すげぇ」
「ブルボアが、即死······?」
「ね。ねぇ、これもしかしなくても、凄い武器、だよね?」
「ほんとに貰って良いのかな?」
「メリル好きだ」
「イッドお前そろそろいい加減にしとけよ」
せっかく仕留めたブルボアなので、すぐに捌いて『ばーべきゅー』と言う物をしようとお姉様が言い、手慣れているヴァルキリーの面々はすぐに準備します。
「へい、フォアの部分はそっちの五人で独占していいからねー」
「え、いいの?」
「いいのいいの。自分が狩った獲物でしょ? 自分が仕留めた獲物の一番美味しい所を食べる。控え目に言ってもサイコーじゃない?」
リーフェさんがお姉様の開発した『タブレット』から次々必要な物を出しては準備を終わらせ、メリルとルフィア様とリリアであっという間にブルボアの血抜きと解体も終わらせて、リーフェさんが調理していい匂いが森の中に漂います。
リーフェさんが結界まで貼り終えてて、イッドさんを除いた四人はもう待ちきれない様です。すぐに食事が始まりました。
食事をしながら、お姉様が追加の装備品を五人に配り、これで狩りに慣れたらハンターにでもなると良い、そう言ってドルフィナさんの装備の調整に戻りました。
お姉様の代わりにメリルが、すでに聞いていた装備の使い方を教えていくのをリリアも一緒に聞きます。
リリアは使いそうに無い装備ですが、お姉様のお店に並ぶのなら、リリアも性能を把握しておきたいのです。もしかしたら、リリアもアトリエでお姉様謹製の魔道具を販売する立場になるかもしれません。
と言うかリリアもアトリエで店員をやってみたいのです。今日この瞬間もお姉様の為に働けているアトリエの皆様がリリアには羨ましいのです。
お姉様の為に頑張って働いているアトリエの皆様は、常にお姉様に褒めて貰えるのです。リリアもお姉様に褒めて欲しいのです。
「その箱はね、蓋の中に石を入れておくと、下の箱の中に大きさが揃った石の玉に加工されて溜まるの。そうやって玉を確保しておけば、小石が拾えない場所でもガンスリングが使えるでしょ? フェミちゃんが言うには、五百個くらい貯めておけるんだって」
「大きさが揃った玉······? 石の加工って難しいってお父さんが言ってたわよ?」
「そこはほら、フェミちゃんだから。フェミちゃん凄いんだよ?」
「あは、ねぇメリル。リリアちゃんに聞いたんだけど、メリル奥さんになるんだって?」
「ふぇ、ふぇぇぇえええええ!? な、なんでリリアちゃん······、ふぇええ······」
「め、メリル本当なのか!? あ、あの人とその、結婚すんのか!?」
「ふぇぇえ、け、結婚、するよぉ······。うわぁぁあん恥ずかしいよリリアちゃんのバカぁ! もうお休みの日でもずっとリリア様って呼んじゃうからね!」
「······ほんとなんだ、な······」
「ぐっ、くそぅ······」
「ねぇねぇメリル、リリアちゃんのお姉様と結婚したら、メリルもお貴族様になるの?」
「気軽にフェミちゃんって呼んてね!」
お姉様がパソコンをカタカタと操作しながら『フェミちゃんだよ! フェミにゃんとかフェミたんでもいいよ! 貴族だけど別に偉くないから気軽にね! ね!』と、少し強引に呼ばせ方を固定させてしまいました。
「まぁ、陛下の信用さえ勝ち取って頼りにされているお姉様が偉くない貴族なら、どの貴族が偉いんでしょうね」
「だよね。フェミちゃんが偉くなかったら貴族も平民も関係ないょ」
「まったくですね」
「······メリっ子の親分ってそんなに偉いのかい?」
リリア、ルフィア様、リーフェさん、ドルフィナさんで雑談をしながら、子供達に囲まれてはしゃぐお姉様とメリルを眺めます。
「王都に魔道具のお店を持っていて、陛下も重用しているのです。今は特に貴族として『爵位』も持っていませんが、お姉様が会いたいと言えば陛下はすぐにでも謁見してくださると思います」
「······『爵位』ってなんだい?」
「大陸五竜のお話はご存知ですか?」
「ああ、ガキの頃に誰もが聞く御伽噺だろ?」
「五国が建国されるお話しですが、では五国が出来る前のお話しは聞いたことありますか?」
「······いや、無いね」
「大陸五竜の争いに乗じて五国が建国された訳ですが、それよりも前にあった国で使われていた貴族の格の様な物ですね。ランド国王では大陸五竜物語よりも昔の文献から、貴族社会の基礎を模倣して出来た国だと、貴族学校で教えられます」
「······へぇ。で?」
「はい。それで、失われた文献も多く、残った文献からは複雑な貴族社会の触り程度しか分からず、再現しきれずに貴族の格は上級、中級、下級と王族の四つとして定着しました。その後、新しく発見された文献から『爵位』の正しい形なども発掘されたのですが、すでに定着していた四つの格を変えることが出来なかったので、代わりに勲章という形で与える権力を『爵位』と呼ぶようになりました」
「ほへぇー」
「今ある四つの格を変えないまま、なるべく文献通りに歴代の陛下が爵位を貴族に与えていますが、結局は家が持つ財力や影響力の微細な差を埋める程度の格にしかならないので、結局誰もが下級や上級と四つの格で表すのが一般的ですわ」
昔はそもそも、爵位が貴族の階級の全てだったらしいのですが、現在では後付けの勲章です。
例えばランド国王では格が四つしか無いため、同じ格の家が家柄を競う場合に使うのが爵位です。
文献では爵位とは土地と共に個人に与えられる階級ですが、ランド国王では家その物に与えられます。
騎士爵、準男爵、男爵、子爵、伯爵、辺境伯、侯爵、公爵と位が上がるのですが、爵位によっては王族を指すもの、または王族に匹敵する意味合いを持つものも有るのです。ですが、ランド国王で使われている爵位はただの勲章であり、下級貴族でも爵位第一位の公爵の位を与えられたりします。
下級貴族同士であれば公爵を持つ家が最も強いのですが、そこへ中級貴族と並べた途端にどんな爵位の中級貴族が相手でも、下級貴族の公爵は勝てないのです。
完全に四つの格の中で同格の家が争う時にしか使わないので、今でも基本的には四つの格でどの貴族家も呼ばれます。
また、下級、中級、上級の格を決定するのは領主一族と王家に対する貢献と影響力で決定されます。
お姉様が陛下に上級貴族として認められたのは、ひとえに陛下からそれだけの期待が寄せられての事。逆に言えばそれだけの貢献を求められてるとも言えます。
「······なるほどねぇ。もっと言えば、メリっ子の親分は王様にそれだけ構われてる立場って事かい」
「参考までに、お嬢様の店舗に陛下が私用で遊びに来たりします」
リーフェさんがボソッとドルフィナさんに言うと、「客の心臓に良くない店さね」と苦笑しています。リリアもドルフィナさんと同意見です。
陛下には感謝していますが、お姉様のお店の邪魔をするのは頂けません。
「よっし、そろそろ休憩も良いかな。ドルフィナさーん、武器に慣れたならるのフェミとちょっと模擬戦しよー?」
メリル達と談笑していたお姉様が、待ち切れないとばかりの笑顔です。