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閑話休題の戦乙女。



「いやー、楽しかったね。でもルフィア来なかった」

「そう言えば······。絶対に来ると思ったのですが······」

「メリルの所で捕まってるのでは? メリルは自分以外も家族団欒を楽しむのだと言ってましたから、お嬢様に気を使ってシュリルフィア様を止めているかも知れません」

「あっはは、フェミ達家族団欒どころか一家離散したけどね!」


 休暇も終わりに近付いてきて、一の水月九日、癒しの日を迎えた私達は、そろそろ王都に帰ろうかと挨拶をして回ってた。


 ルギャニとレギャニにも、王都に来るならまた鍛えてあげると言って、トルザークに帰るイオ様達も見送った。

 結局あれからリオン達には会えず、イオ様から話しを聞くと家族が散り散りになってしまったそうな。

 フェアリーゼがイーゼルバーンに帰り、リリカフェイトがリディアットとリオンをつれてフェミニストルデへ帰るらしい。後継が軒並み居なくなったガノドライグはざまぁみろとしか言えないよね。


 そもそも上位の領地であるイーゼルバーンとフェミニストルデには圧力なんて掛けられないし、もうガノドライグには養子を取るか別の妻を娶って急いで子作りする他に手がない。


「フェアリーゼ様も、もう少し早くその判断をしてれば、フェミだって考えたのに」

「お嬢様に切られたからこそ、気付いたのでは?」


 トライアスの城下街を囲う街壁を門から出て、昼の鐘を聞きながら空へと飛び立つ。いつもは胸元や肩にしがみついているリーア達も一緒に羽ばたいて、急ぐ旅では無いからゆっくりと空の風を切っていく。


 リオライラの街までは、スザクを使っても少し時間が掛かる程度には距離があって、リーア達の羽ばたきに合わせていたらなかなか辿り着かない。

 しかし休暇のまったりとした時間に急ぐ理由もなく、雑談を三人でしながら飛んでいた。


「鐘二つ分は飛んだかな? 少し暗くなってきたね」

「······お姉様、リオライラ街がエコーに映りましたけど、メリルの反応が有りませんわ」

「あれ、ホントだ。狩りに行ってるのかな?」


 リーアとリアスをそれぞれ胸元に押し込んで、私達は少し速度を上げてリオライラの近くに降りると、正門から門を潜ってハンターギルドに向かった。

 メリルがハンターやってるなら、ギルドで聞けば分かると思って、コールするのは辞めておいた。

 せっかくメリルがこっちに気を使って一つのコールもしなかったんだから、私もメリルの団欒は邪魔するまい。もしかした狩りじゃ無くて、誰かとピクニックをしている可能性もあるからね。

 メリルの家族は街の中に反応があるけど、なにもメリルは家族だけと交流している訳じゃないだろう。


「しっかし、近場の森とかにも反応無いね。あのー、ちょっと聞いていいですか?」


 私はギルトに入りながら独りごちた後、適当な窓口でメリルの事をきいてみた。そうするとカーキ色の制服を着た職員のお姉さんが顔色を変えて、ギルドマスターを呼んできた。


「ヴァルキリーの方々でお間違いないか?」

「······えーと、そうだけど。どしたの?」


 ギルドマスターが簡単に教えてくれる内容を聞いた途端私は駆け出した。

 今日の朝からメリルとルフィアが多くの魔物を、他のハンター達と食い止めていると。


 私はそれだけを聞いて現状を正しく把握した。ルフィアが居る。つまりゴンちゃんがいる状況で朝から夕方まで討伐が終わらないほどの魔物が異常発生しているのだ。そして、そんな魔物の群れを相手に他のハンターが居る。


 ルフィアは人懐っこい所もあるけど、基本冷めている。自分の身を挺してまで平民を庇ったりはしないと思う。だけどメリルはだめだ。あの子はお人好しが服を着て歩いている様な女の子だ。ゴンちゃんが居ても時間が掛かるような魔物群れの中、ハンター達を守るために傷付いていく姿が容易に頭に浮かぶ。


 後ろに付いてくるリーフェにお願いして、リリアと私を抱えてフェアリーリング多重展開による超高速移動で街中から空に飛び上がる。いつもは門をちゃんと通ってから出ているけど、今は緊急事態だ。私は世界のルールより身内が大事。


「見えたぁ!」


 まだ遠いがメリルとルフィアの反応をエコーに捉える。それと森を踏み散らして暴れるゴンちゃんを目視した私は、リーフェの腕から離れて自分の翼で空を飛び、両手にハイドラを出して過ぎ去る森に掃射していく。

 人の反応はメリル達の所に集まってて、森の中には守護獣が居る。ここはワイバーンか居た山だったか、麓には有り得ない数のパリストルが蠢いていて、守護獣が森から出さない様に奮闘しているが見えた。


 リーフェも多重展開したフェアリーリングをほぼ全て森に向かって放った。六重展開された七十二本の鎖の輪から、飛行用に三本だけ残した六十九本の殺意の刃が森に散って、数分の間に山の周りのパリストルを間引きする。まだ数は居るが、ゴンちゃん達の奮闘のお陰で大分数は減っていたみたいだ。


「ゴンちゃん! 麓はこれくらいで大丈夫! ルフィアの元に!」


 私が叫ぶとゴンちゃんはすぐさま飛び立ち、ルフィアの反応がある山の山頂付近まで飛んでいく。私達も後を追うと、そこにはハンター達を守るために傷だらけになったメリルと、そのメリルを守るためにボロボロになったルフィアが居た。


 山頂の近く、クレーターの様に抉れている広大な広場。直径は一キロほど有るだろうか、本当に広い山のポケットの中、おぞましい数のパリストルと、それを産み続ける女王個体が三匹居て、その増え続けるパリストルの波をメリルとルフィアが必死に押し留めていた。


「メリっ子! もう十分だ!」

「だめぇ! みんな、まもるのぉお!」

「ゴンちゃんが······、来てくれたから、大丈夫だもん······」


 逆さにした涙滴型のクレーター、その尖った部分が森への出口になっていて、そこに五十人ほどのハンターが集まってメリルとルフィアに守られていた。

 メリルは最大展開の四重フェアリーリングを全て盾に使ってハンター達を守り、メリルビットで迫り来るパリストルを倒していた。

 ルフィアはその盾の外でレオ君とは別々に動き、ハウンドとスラッシャーで魔物の波と戦っている。


 私は空で言葉を失っていた。


 なんで? なんであんなにハンターが集まってて、みんなメリルに守られてるの?


「みんな、守るんだ······、守るんだもんっ······!」


 目が虚ろになるほど長く戦っていたのか、メリルの集中が乱れたせいでパリストルの魔法が盾の回転をすり抜けてメリルの目に入った。


「ぅぅうぐぅぅぅうあああっ······!」

「メリちゃん!」


 メリルが展開していた出口を塞ぐような全周囲盾が、その瞬間崩壊した。入り込んできた夥しい数のパリストルがハンター達に殺到して、メリルにもその凶刃が迫った。

 虚ろな目で迫るパリストルを見やるメリルが、小さく呟いた。


「······ごめんなさい、フェミちゃん······」


 絞り出す様なメリルの言葉に、私は空を駆けた。


「············呼んだ?」


 私はハイドラを捨ててデスサイズを出して、メリルを守ろうと駆け付けたルフィアと、知らないハンターのお姉さんの周りに居るパリストルを全て薙ぐ。


「闇祓いの焔、五連装」

「アーツ天撃、連弾!」


 リリアとリーフェもハンター達に押し寄せる全てのパリストルを潰して、私達三人はクレーターの出口を塞ぐように地に立った。

 振り返り、愛しい恋人の顔を確認すると、メリルとルフィアは少しずつ顔を歪めて泣き出して、体を引き摺るように私に近付き抱き着いた。


「············フェミちゃんっ、フェミちゃぁぁん······!」

「うん、頑張ったねメリル。大丈夫だよ」

「フェミちゃ、リリちゃん······、リーフェさん······」

「ええ、シュリルフィア様。ただ今参上致しました」

「待っていてくださいね。いま、リリアのお友達をこんな目に遭わせた魔物を············」

「······ぶっ殺すから」


 私はデスサイズに魔力を流し込んだ。デスサイズが軋むほど魔力を流して、ただ一閃。


 それだけでクレーターを埋め尽くしているパリストルの四分の一が消し飛ぶ。


「ゴンちゃん、やっちゃえ」

「グゥォォォォォオオオオオオオオオオオ!」


 主人をここまで痛め付けた魔物に怒りの砲撃。私の消した魔物と同量を地面ごと一瞬にして消し飛ばした。

 ゴンちゃんの口に内蔵されている砲撃はシマちゃんの高出力エーテルカノンとは別物で、いわゆる荷電粒子砲が積まれている。

 それは現代科学でもまだ、再現しか出来ずに実用化されていない超兵器。


 全てを薙ぎ払う、薙ぎ払ってしまうこの兵器は下手に使うとルフィアすら巻き込んでしまう。だからこそ、守護獣が入り乱れる山の麓の森では全力では使えなかった殲滅兵器をいま放つ。


「私も合わせましょう。『招雷』」

「天撃連弾」


 いつの間にか準備を終わらせたリーフェが国崩級魔法を、ゴンちゃんの砲撃がカバーしていない場所に範囲を絞って解き放ち、リリアも天撃の射程を両手で連打した。

 夥しい雷が雲の無い空から降り注ぎ、横からも地を抉る範囲拳撃が一キロ近い広場を濁流の如く蹂躙して、蠢いていたパリストルは次々と潰され、消し飛ばされる。


「リリア、二人の治療お願いね」

「ええ、行ってらっしゃいませ。お姉様」


 リリアがプリンセスを解除してエーテルドレスになって、回復魔法でメリルとルフィアを癒し始める中、一気にスッキリした広大なクレーターを真っ直ぐ飛んで、攻撃の範囲から運良く外れて居た三匹の女王さんを仕留めに行く。


 今もまだ有り得ない速度で成体のパリストルを産み続ける女王の前で止まり、浮かんだままデスサイズにまた魔力を流す。


 デスサイズは、魔力を溜めて斬撃を強化出来る、そんな機能は付けていない。流した魔力をそのまま斬撃に変える大鎌だ。

 それでも流し込む。軋んで鳴動して、壊れてしまう寸前まで魔力を込めて、臨界に達したデスサイズからパリパリと稲光が漏れるまで魔力を溜めて、私は静かな怒りを込めてデスサイズを振るった。




 一撃の元に全てを終わらせた私は、黒焦げに壊れたデスサイズを携えたままメリルとルフィアの傍に駆け寄った。


「さぁ帰ろっか。メリルもルフィアも、頑張ったね。今日は良く休んで。添い寝して上げるから」

「······うん」

「フェミちゃん······、ごめんなさいっ」


 安らぐルフィアと、泣き出すメリルを抱き締めて、残ったハンター達には撤退を指示する。幼い私の命令でも、さっきの光景を見て反論する者は居なかった。


「フェミちゃん、わたし、一人で出来るって、おもっ······、でも、ダメだったのっ」

「いいんだよ。メリルは優しいから、倒す事より守る事を優先したんでしょ。一人も死んで無いみたいだし、メリルの勝ちだよ」


 泣きじゃくるメリルを抱き締めて、撤退しないで残っている鎖がいっぱい着いた金髪のお姉さんをみやる。


「······アンタが、メリっ子の親分かい?」

「うん。お姉さんはもしかして、ドルフィナさんかな? メリルから聞いてるよ。とっても凄いハンターさんだって」

「··················止めておくれよ。······何が凄いハンターだよ。何が上級ハンターだよっ! メリっ子の足しか引っ張れなかったじゃないか! 私達が居なきゃ、メリっ子はもっと上手くやれたんだよっ······! こんなにボロボロにならずに済んだんだよ············!」


 目に涙を溜めて声を荒らげるドルフィナは、溢れる涙を拭いもしないで、しゃがんでメリルの頭を撫でた。


「済まなかったねメリっ子。もっと強くなるからさ······」

「······ううん。ドルフィナさんは、強いもん。フェミちゃんの装備があったら、フェミちゃんくらい強いもん······」

「············ほう?」


 メリルがそう言うので、私はドルフィナに興味を持った。でも今は。


「とりあえず、帰ろっか。パリストルの残党は、後日でいいでしょ」


 リーフェのフェアリーリングでハンター達を置いて先に帰る。ルフィアが少し心配だからとシマちゃんを護衛として付けて、ヴァルキリーとドルフィナさんは一足先にリオライラの城下街に帰ってきた。


『ご主人、今日本気出した?』

「ん、少しね」

『流石にびっくりしたよ? 山が消し飛んだんだから』

「でも、デスサイズが壊れちゃった。無理な壊れ方してるから自動修理で直りそうにないんだよなぁ」

『ご主人、ハイドラ要らなくない? デスサイズだけにして直すついでにもっと強くすれば?』


 私がパリストルの女王個体を殺そうと振り抜いた斬撃は、莫大な魔力を注ぎ込んだ為に山の頂上が消し飛ぶと言う結果を招いた。

 自分でも驚いたし、見ていたハンター達からは畏怖の視線を注がれた。


「あー、いいねぇ。翼をメイン二つに移してデスサイズをリーサルで作り直そうかね」

『あの時のご主人、マジ死神だった』


 街の中に直接降りて、ギルドへの報告はドルフィナさんに任せて一同メリルの家を目指そうとして、


「あ、フェミちゃん。お家こっちなの」


 メリルに案内された三階建て風の二階建て、庭付きのすっごい良い家に驚いた。私が買うまでもなく、メリルが親孝行してた。


 白いモルタルの壁が基本なんだけど、家のデザインが丸みを帯びた可愛い物で、ふわっふわの桃色ヘアーでお姫様衣装を着たメリルが住んでると思うと、なかなか萌える。


 それからメリルの家族から歓待を受けて、改めてメリルを貰うことを親に伝える。陛下直々に許可すら貰っていると言うと、お父さんは酒瓶を持ってはしゃぎ回っていた。


「ちゃんとお孫さんも見せれると思いますよ! フェミのお腹から産まれるか、メリルのお腹から産まれるかは分からないけど······」

「十分だよぉ。本当に凄いお貴族様だったんだねぇ」

「ふふ、フェミちゃんは凄いんだよ! さっきの討伐もね······」


 楽しそうにメリルが、先ほど私が山を吹き飛ばした出来事を語り、まるで英雄が駆け付けた物語のヒロインにでもなった様に頬を染めながら体いっぱいで表現していた。


「本当にカッコよかったの。ドキドキしたょ?」

「ふふ、ありがとうルフィア。でも、フェミが行かなくてもゴンちゃんがちゃんと動けたら何とかなってたよ」


 実際、ルフィアとメリル、あとハンター達が連携して麓のパリストルを駆逐しながら、ゴンちゃん単騎を女王討伐に向かわせていたのなら、かなり楽に終わっていたはずだ。


「うーん。もっとみんなに上手く指示を出さないと······」


 ルフィアも反省点を振り返り、まだクルクル回りながら喋るメリルを眺めてささやかな宴は終わった。


 私達は次の日、ギルドへの改めての報告など諸々を済ませてから、数日リオライラで過ごす事にして、休暇の間に起こった事を共有した。


 一番私が褒め回したのはルフィアだ。

 なんと親の事情で獣国ペケラシスに行って、その街の大きな問題をサクッ片付けて帰ってきて、メリルの手伝いまでしたのだ。そのハードスケジュールを思えば、ルフィアには何か御褒美があって然るべきだと思う。

 しかも、ペケラシスでの依頼達成で今回の討伐に使う魔獣もスムーズに借りられたとか。素晴らしい。心をこめた御褒美を準備しなくてはならない。


「じゃぁ、えっとね、フェミちゃんと一日で良いから二人っきりで夜を過ごしたいょ?」

「リリアとメリルが許せば良いよ。特にメリルかな? リリアは休暇中二人っきりでシたし」

「うぐぅ、それを言われると······、リリアは何も言えませんわ······」

「私もいいよ! ルフィア様が来てくれて本当に助かったんだもん。それに、ルフィア様だけフェミちゃんと二人っきりになれてないから、公平にした方が良いと思う」

「恋人になってからは、メリルもそうじゃない?」

「そうなんだけど、ルフィア様は部屋も違うから、ね?」

「うぅ、メリちゃん優しぃ。大好きー!」


 メリルの気遣いに感極まるルフィアが抱き着く。


 そんな私達が今居るのは中央広場の領主像の真下、ドルフィナさんと待ち合わせをしている。


 改めてメリルがドルフィナさんを紹介したいと言うので、こうして待ち合わせしながら情報を擦り合わせていた。


「えっ······? 一家離散······?」

「うん。ガノドライグが馬鹿だったから、みんな散り散りだよ。トライアスはそう遠くない未来に終わると思う」

「······そんなっ」

「良いの良いの。フェミ気にしてないし、むしろウザったい奴と縁が切れて助かってるから」


 それより、イオと会えて一緒に過ごせたのが嬉しかった。正直親への義理とリオンにリリアを会わせる以外に帰る理由が無かったのだけど、あそこまで有意義な時間を過ごせたのは嬉しい誤算だった。

 そして来年からは休暇にわざわざ帰らなくて良いのである。もともと領主などなる気はは無かったし、中央貴族として生きていくのは願ったりなのだ。


 ティターニオと一緒に魔道具開発の日々や、アトリエで新商品を考えながらみんなと過ごす日々。


 なんとも甘美な毎日だろうと想像する。ティターニオと組めば王都を科学都市さながらの街に変えられそうだし、アトリエを大きくして行けば同じ結果に出来そうだ。

 そんな妄想でデへへーと緩む私の隣まで、やっと姿を現したドルフィナさんが歩いて来た。今日はハンターお休みなのか、純白で仕立ての良いワンピース姿だった。所々に護身用の鎖が見えるけど、それもまた装飾品みたいに見えた。


「待たせたかい?」

「いえいえ。今来たところですよ」

「······嘘つくんじゃないよ。はぁ······。改めて、ドルフィナだ。三級のハンターさ」


 ドルフィナに改めて名乗られて、私達もそれぞれ名乗る。女性しかいないパーティも、貴族が本格的にハンターをしているパーティも、ましてや子供が大半の高ランクパーティなんか前代未聞であるが、実力は本物だと知っているドルフィナさんは何も言わない。


「さて、適当なお店にでも入ってお話ししましょう。まだメリル視点でしか聞いてないから、なんであんな人数が居てメリルに守られていたのか、フェミまだ分かってないんですよ」

「······そうだね、全部話すよ」


 私はハッキリいって納得していなかった。

 メリルとルフィアの負担になるなら、あんな大人数のハンターなんか撤退して欲しかった。私達が駆け付けたから良かったものを、間に合わなかったら取り返しが付かなかった。

 なんでああなったのか、ルフィアやメリル以外の当事者から話しを聞いておきたかった。


 私たちは街の食堂に入り、昼食を摂りながら話しをする事に。

 入った食堂は特に綺麗でもなく、かと言って汚いわけでもない普通の食堂。中に居る客の男達がドルフィナさんとリーフェに一瞬いやらしい目を向けるけど、ドルフィナさんが誰なのかをハッキリ知覚すると目を逸らした。


 適当なテーブルに陣取って注文を済ませる。それからドルフィナさんは語り始めた。


「とまぁ、こんな感じさね。本当にメリっ子には申し訳なかったよ」

「そんな事ないもん! ドルフィナさんは戦えてたのに、他のハンターさんが······」

「いいや、どっちにしろ私も限界が近かったんだよ」


 メリルから先に聞いた話と、ドルフィナさんから語られた内容をまとめる。


 まずワイバーンの山にパリストルが大量発生して討伐団を組織、ルフィアの功績で借りられた特殊な馬を使って急襲を掛ける。ルフィアとメリルは先行して、後続のハンター部隊が戦いやすい様に場を整える算段だった。


 しかしたどり着いて見れば予想を遥かに上回るパリストルの異常発生。元凶を止めないとハンター部隊がまともに戦えないと判断したメリルはルフィアと共に元を止めに行く。


 私だったら先の通りに、ここで自分じゃなくてゴンちゃんを単騎で送って女王殺してきて貰うのが正解だと思うけど、二人はそうはせずに麓の維持をゴンちゃんに頼んで、レオ君だけ連れて女王の巣に行ってしまった。


 ゴンちゃんは単騎で多数を殲滅する為の超火力兵器だ。そのゴンちゃんが後続のハンターが加わった麓の戦闘で上手く立ち回れる訳もなく、さらに火力を落として戦闘。ルフィアはその様子をメリルに報告すると、じゃぁもうこっち来て貰おうとシマちゃんとシーちゃんに誘導を任せて、女王の巣まで何とかハンター部隊を移動させる。


 しかし森の中と言う敵の全体が見えない場所から移動して、あれだけ見晴らしのいい女王の巣でパリストルの軍勢を見てしまったハンター部隊の半分以上が戦意喪失。予想外の出来事にメリルは攻め手を止めて防衛戦にシフト。


 ドルフィナさんはルフィアの手伝いをしていたけど、あまりに数が多すぎて危うい場面も多くなり、メリルがそっちの援護までし始めるのをドルフィナさんが確認してしまって、自分も一人でフェアリーリングの結界を出て戦っていたところで邪魔にしかならないと判断。


 そしてドルフィナが何とか撤退出来ないかと作戦をハンター部隊達と話しを詰めるも、戦意喪失して使い物にならない雑魚達相手では話しが進まず、イタズラに時間が過ぎて行ったらしい。


 そして私達が駆け付けたのだと。


「ふむ。取り敢えず、戦意喪失してたって雑魚ども殺してこようか。メリルとルフィアが命懸けで戦ってるの中ポケーっとしてるなんて有り得ないから殺しとこ」

「ダメだよフェミちゃん! その人達だって家族が居るんだから······」

「知らない。フェミはフェミの家族の方が大事。メリルはフェミの奥さんになるからね」


 私が笑顔のまま顔に青筋を立ててヴァルキリードレスを起動すると、慌ててメリルが抱き着いてきた。


 うん。やっぱりメリルの胸、でかくなってる······。これ以上大きくなるの······?


「まぁ殺さなくても、ハンター引退させるくらいしとこうか。一人で死ぬのは勝手だけど、団体で行動してそれなのはダメだよ。有り得ない」


 そいつらが戦う意思を投げ出さなければ、メリルとルフィアはもう少しまともに戦えたと思う。


「······いや、王都に帰ったらギリックに依頼でも出そうか? ここのハンター鍛えてくれって」

「······お姉様。ギリックさんより階級の高いハンターも居たようですが······?」

「関係無いよ。生存能力極振りに育てて貰うだげから。今回は事が事だし、ヴァルキリーの名前出せば自尊心高めの上級ハンターも従ってくれるんじゃない? と言うか従わないと殺す気だし」


 山頂を消し飛ばした斬撃が人間に向かって放たられるだけの話である。と言うか戦って日々の糧を得るハンターが戦わなかったんだから、もう死んでるのと同じじゃね? くらいには思っている。


「まぁ話しは分かったよ。残党狩りはフェミ達出なくて良いんでしょ?」

「あぁ、言う通りにハンターは戦ってナンボの職だ。もちろん雑用の依頼も採取もあるが、今回何も出来なかったんだから、残党くらい命懸けで狩らせている」

「······ま、それならいいや」


 話しが終わったからか、ドルフィナさんは席を立とうとするが、まだ本題が終わって居ない。メリルはドルフィナさんのスカートを摘んで軽く引き、もう一度着席を促した。


「な、なんだ? まだ何かあるのかい?」

「あるよぉー。昨日のメリルの言葉が気になってさ」


 昨日、メリルはこう言った。私の装備があればドルフィナさんは私と同じくらい強いと。

 私の強さなんて、ゲーマー特有のスーパー動体視力とオーバーテクノロジーでゴリ押ししている強さだ。しかしドルフィナさんは違う。魔力を湯水の様に使えるわけでも無いし、前世の様に安全な動体視力訓練が出来るわけでも無い。正真正銘、努力だけで掴んだ強さなのだろう。


「ドルフィナさんは、力が欲しい?」

「············? いや、力は誰だって欲しいだろう?」

「うん。そうだよね。力があれば、昨日だってアナタはもっと戦えたもんね」

「ッ! ······ああ、力が欲しいね」

「ふふ、欲しいんだね? じゃぁあげる」

「············は?」


 私はパソコンを取り出して、ファクトリーの設計システムとリンクさせる。そのままパソコンの向きを変えてドルフィナさんに画面を向ける。

 私服に付けたままの護身用武器をアナライズして、鎖の重さや大きさを正確に分析して設計システムにフィードバックさせて、そこからいくつかのデザイン案をピックアップしてドルフィナさんにも見るようにした。


「フェミがあなたに力をあげるよ」



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