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メリルの全力戦闘。



 まだ距離がある。エーテルエコーは屋外だとかなり遠くまで索敵できる。そういう物だとフェミちゃんが言っていた。

 視界の端にあるエコーの透明な板を見て、エコーの機能が数えてくれたパリストルの類似反応を見直しても、やっぱり見てるだけでも四万匹のパリストルが農村目掛けて走って来ている。エコーの切れ目までビッシリ居るから、エコーの外にもっといっぱい居るんだと思う。


「ドルフィナさん!」

「な、なんだいメリっ子。顔色変えてどうした?」

「追加のパリストルです! 村の人達はみんな逃げてください!」

「追加? 倒せばいいじゃないか?」

「数が多すぎます! 私が全力で止めている間に、みんな反対方向へ!」


 詳しく説明している暇は無い。こんな数相手にして農村を守れる自信なんて無い。フェミちゃんならきっと上手く出来るんだろうけど、私には出来ない。


「待ちなメリっ子、何匹来てんだい」

「最低四万!」

「は、えぇ!? よんまっ······」


 農村を飛び出して走る私の後ろにドルフィナさんも走って来た。聞かれた事に短く答えて私は立ち止まって魔法を使う。


「メリっ子何やってんだい! そんな数適うわけ無いだろ! 逃げるんだよ!」

「ダメです! ここで止めないと、真っ直ぐ行かせたらリオライラの城下街に行っちゃいます!」


 ドルフィナさんは私がこんな冗談言わないって分かってる。だから四万なんて馬鹿げた話しもすぐに信じてくれる。

 でもドルフィナさんの言う通り逃げたら、このパリストルの大群は家族の元に行ってしまう。それだけは絶対に許せない。


「私が止めます。ドルフィナさんは······」

「馬鹿言ってんじゃないよっ! メリっ子残して一人で逃げたら、あたしゃ生き恥晒さなきゃいけないじゃないか。 ······勝算はあるのかい?」

「······多分、勝てるか勝てないじゃないんです。勝たないと駄目なんです」

「··················本当に言うようになったじゃないか」


 そもそもなんで四万? なんでそんなに馬鹿げた数が? いくら何でもおかしい。何か原因があるはず。

 パリストルが走ってくる方向は王都方面。ちょうどワイバーンを狩り尽くした山の方から来ている。あそこで何か変化が起きたの? 原因は? パリストルが、魔物が大発生する原因って何がある?


 私はリーフェさんに教わった。魔物には突然変異と呼ばれる異変で産まれる女王個体と言う、繁殖能力が異常に高い個体が生まれてくることを。

 でもそれは、他の上位の魔物に捕食されたりして、四万なんて馬鹿げた数にはならない。


 パリストルの上位魔物ってなんだろう。当然バジリスクとヘゲナ、ワイバーン達だ。他にも居るけど、あの山にはワイバーンが居たから他の魔物はほとんど住み着いて居なかった。


 そう、ほとんど強い魔物は居なかったのである。


 そんな環境の何処かにパリストルの女王個体が隠れていたとしたら? ワイバーンを狩り尽くしてしまったら?


「······原因はヴァルキリー?」


 俄然引けなくなった。私のせいで私の家族が危ない目に会うなんて許せる訳がない。止めなきゃ、倒さなきゃ、一匹残らず。


 私はメリルビットを呼びだして、常時展開のフェアリーリングと共にパリストルが走ってくる方向に放った。広大な畑を踏み散らして走るパリストルが見えて来て、メリルビットとフェアリーリングが走るパリストルを殺していく。


「············分かってたけど、数が······」

「······どうすんだい?」


 私の先制攻撃は確実に大量のパリストルを殺している。殺しているけど、『大量』の規模が違いすぎる。三百ほど殺してもまだ一割も削れて居ない。


 上級魔法でも多分足りない。なら、やる事は一つ。


「ドルフィナさん、行きます」

「······生きて帰るよ。お互いね」


 メリルビットに広範囲攻撃をさせて、なるべく多くのパリストルを足止め。フェアリーリングも一組呼び戻して、私は低空飛行の高速機動でパリストルの群れに突っ込んでいく。

 更に一組をドルフィナさんに付けて援護、残り二組はバラバラの六本に分けてメリルビットの手伝いをさせる。


 パリストルの群れにエーテルシールドを張りながら突撃して、すぐにスラッシャーとハウンドも出して攻撃していく。仕留めるんじゃなく、薄くても弱くても良いから攻撃して、私に注意を向けさせる。


「マジックゲート連結!」


 私は破壊の歌を口ずさむ。リーフェさんに教わった方法で、エルフ独自の戦闘術でもって、この大群を倒しきる。


 お家だって買ったんだもん。まだまだお父さんとお母さんに孝行して、クリュリとシリスにいっぱい優しくするんだもん。


 エコーを見る。私を無視しそうな個体はメリルビットとフェアリーリングが誘導して、まだ射程を出たパリストルは居ない。間に合って······。


 澱まない様に丁寧に、覚えにくい古代呪文を歌って、パリストルを捌いて深く深く切り込んで行く。なるべく真ん中に、出来るだけ射程に······。


「テルパスタルトス、シュクリルバース。タルパスパルカス、レクユイール」


 ゴリゴリ削られていく魔力がどんどん補填されていく。今までに感じた事の無い魔力の移動に脂汗が止まらない。


「イーヤトルト、ゼクビアス。シールヘルへ、レグルブドルツ! 戦場よ鳴け! 『戦禍せんか淫雨いんう』! ドルフィナさん、私の傍に!」


 マジックゲートを三つ繋いで使うのは、初めて放つ戦術級魔法。一撃で戦争の形勢すら変えてしまう大魔法。


 まだまだ大群の最後尾が見えないパリストルの大群の先頭を、すっぽり射程に収めて放つ魔法は戦禍の淫雨。空に魔法陣が浮かび上がって広がり、回り、淡く光り消えていくと、空には夥しい火の矢が現れ続ける。


「メリっ子ぉ!」

「ドルフィナさん、私にくっつくくらい近くに!」


 私が手を振り下ろすと、空の火が雨のごとく農地に降り注ぐ。そして響く魔物の断末魔。

 今も進み続ける魔物の大群は淫雨の射程に入っては燃えていく。


「まだまだぁ!」


 リーフェさんに教わった、魔法で魔法を紡ぐエルフの技。

 降り注ぐ火の矢が地面に刺さり、燃え上がって他の矢と繋がろうと燃え広がる。その繋がりが大規模な魔法陣を描きあげる。


「魔法陣起動! 詠唱省略、巻き起これ怒りの烈風! 『厄災の吐息』!」


 戦禍の淫雨とぴったり同じ範囲に巻き起こる極太の竜巻。その中心に居る私達のごく細い領域だけが無風。


「うぅぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!」


 そのまま竜巻の中で暴れる風の刃を繋いでまた違う魔法陣を組み上げる。魔物の群れが全部死ぬまで止まれない。


「メリっ子、顔色が······」

「『戦意砕きの雹弾』!」


 降り注ぐ氷の弾が湧き出るパリストルの体を貫いていく。


 フェミちゃんのお陰で魔力は尽きない。でも体力は別。魔力は勝手に動いてくれる物じゃなくて、体力を少しずつ使って自分で動かす手足の延長。

 戦術級や国崩級の魔法は数十人数百人の魔法使いが組み上げる大魔法で、その魔力を一人で流し続けるのは、終わりの無い全力疾走をしている様だった。


 また地面に氷を繋いで魔法陣を作り上げて、次の戦術級魔法を準備する。ドルフィナさんが心配してくれるけど、止まれないの。


「『葬送砂突そうそうさとつ』!」

「メリっ子! アンタ大丈夫なのかい!?」

「まだぁ、半分······」


 やっとエコーに終わりが見えたパリストルの大群は、まだ半分ほど残っている。見渡す限りの鳥の死骸を燃やして斬り裂いて凍らせて串刺しにして、やっと半分。見えていただけで四万、全てがエコーの範囲に入った大群は果たしてどれだけの数だったのか。


 地面から突き出る無数の砂が槍となって、走る鳥の魔物を屠っては崩れていく。その砂をまた繋いで次の魔法に備えていく。

 汗が止まらないし足も震えているけど、もう数も分からない魔物の群れは依然として走り続けている。


「メリっ子、もう十分だよ! あとはリオライラの領軍にでも任せなって!」

「だめぇ······、責任がぁ、あるのぉ············。『挽歌の······、火畑』······」




 何回魔法を使ったのかも覚えていない私は、知らない天井を見ながら目を覚ました。あれ······?


「メリっ子······? 目が覚めたかっ!?」

「メリルぅ!」

「ドルフィナさん······? お母さん······?」


 さっきまで戦ってたのに、急にお母さんが居て混乱する。起き上がろうとすると体に力が入らなくて、寝台の上で動けない。

 首だけで周りを見ると、寝台の周りを衝立で囲ってあって、結局ここが何処かも分からなかった。


「えっと? あれ、パリストルは······」

「······アンタが全部倒したよ。あんな数を本当に······」

「メリル、大丈夫なのかい? 私はアンタが倒れたって聞いて、心の臓が止まりそうだったよぉ」

「お母さんごめんなさい······。でも、私が頑張らないと行けなくて······」

「············確かに、アンタが頑張ったから被害は無かったんだけど、もうあんな無茶するんじゃないよ。農村の人達も感謝してたんだから、今度ちゃんとお礼を言われてきな」


 ドルフィナさんに後のことを詳しく聞くと、私は戦術級魔法を十二回使ってパリストルを倒しきった途端に倒れたらしい。十二回······。私五回目以降全然覚えてないよ。

 それで、避難の準備だけして結局誰も逃げ出さなかった農村で少し休ませても意識が戻らない私を、ドルフィナさんが抱えてリオライラに帰ってきたんだって。

 ここはギルド二階の医務室で、今はアレから一日立った夕刻の鐘が鳴る頃らしい。


「ギルドの職員が護衛を連れて、あの農地に確認に行ってる。女王個体が出たかも知れないから、捜索の後の討伐作戦が始まる」

「······女王個体の場所は多分、王都とリオライラの境にある山だと思います。私のパーティがそこで大規模な狩りをしたから、女王個体の繁殖を邪魔する魔物が居なかったんだと思うんです······」


 まさかワイバーンを倒してこんな事になるなんて、思ってなかった。教えてくれるドルフィナさんに申し訳なくなって俯いてしまうと、ドルフィナさんが頭を撫でてくれた。


「······だから責任がどうとか言って、逃げなかったんだね。馬鹿、そんなの女王個体がいた事自体が偶然なんだから、気に病むんじゃないよ」

「でも······」

「歓談中失礼する」


 話しの途中で、深い緑色の外套を着た白髪のおじさんが衝立の中に入ってきた。知らない人だけど、着ている服の感じからどんな人かはすぐに分かった。


「ギルドマスターさんですか?」

「いかにも。リオライラの城下街、リストルの支部でギルドマスターをしているヘケットという者だ。ヴァルキリーのメリルさんだね?」

「······はい。ヴァルキリーのメリルです」

「済まないが、他の団員は集められるかい?」

「············みんな休暇中で、私以外はお貴族様なので······」

「······あぁ、そうだった。ヴァルキリーは貴族のパーティだったね」


 なんでそんな事を言われるか分からないけど、私はフェミちゃん達を呼びたくない。会いたいけど、せっかく家族に会える時間を邪魔したくない。フェミちゃんもリリアちゃんも、ルフィア様も優しいから、困ってたら絶対に来てくれるけど、だからこそコールすらしたくない。


「······現場に行かせた職員から確認が取れた。最低でも九万以上のパリストルの死骸が見付かったと。デマであって欲しかったが······」

「デマなもんか! メリっ子がぶっ倒れるまで頑張った証だろうが。巫山戯た事言うなら張り倒すよ!」

「······鎖殺の麗人に凄まれると流石に怖いな。失言を詫びよう」


 ギルドマスターさんが謝ってくれるけど、それより話しを進めて欲しい。まだ起きたばかりで分かってない事の方が多いんだから。


「あの、ヴァルキリーを集めるって言うのは?」

「女王個体が見つかり次第、大規模な討伐依頼が出る。ヴァルキリーにも参加して欲しかったのだ」

「······私が一人で受けます」

「メリル、メリルゥ! アンタがそんなに頑張る事無いじゃないか······、まだアンタは子供なんだよぉ!」

「······お母さん、ごめんね? 次はもっと上手くやるから」


 親孝行したかったのに、お母さんを泣かせちゃった。こんなつもりじゃ無かったのに。

 ワイバーンを倒したお陰でこんなにいっぱいお金が有るんだけど、ワイバーンを倒したせいでお母さんを泣かせているんだったら、私はどうすれば良いんだろうね?


「女王個体の捜索はこちらでやっておくので、それまで英気を養って欲しい」

「······こんな小さなメリっ子に頼らないといけないなんてね、情けないよ。あたしゃこんなに弱かったんだねぇ」

「······ドルフィナさんは強いもん。私は、仕えてる貴族様の魔道具とかのお陰で強いだけだよ?」

「馬鹿言ってんじゃないよ。どんな凄い魔道具があったってね、あんなに必死に魔法を使って、ぶっ倒れるまで人を救えるアンタがね、強いって言ってんだよ」


 憧れていたドルフィナさんに褒められて嬉しくなって、ドルフィナさんがお母さんの説得もしてくれる。

 それから討伐作戦が開始されるまで、ハンター業はギルドにもお母さんにも、ドルフィナさんにも止められた。

 お父さんは、心配してくれたけどいっぱい褒めてくれた。


「危ねぇ事はして欲しくねぇ。でもな、たくさん助けたんだろ? 感謝されたんだろ? だったらそれだけは誇るんだよ。メリル、お前がお前をまず褒めてやるんだよ。俺ァこんなに小さいのに、たくさんの人を助けたメリルが誇らしいぜ?」

「············お父さん、お父さん大好きだよぉ······!」


 それから無事に新しいお家に引っ越して数日、家具や服も買って、どんどん生活の水準を上げながら、家族や友達とも遊んで休暇を過ごす。

 楽しいけど、まだパリストルの女王個体は生きているんだと思うと心が休まらない。


「メリル、どうしたんだよ? 心配事か?」

「え、あ、ううん。大丈夫だよ。それより何だっけ?」

「あー、いや、そのさ······」

「メリルって旦那とか決めてんのかっ?」


 中央広場の辺りで友達の男の子数人に、なにやら話しが有ると呼び出されたある日、目の前にはモジモジと顔を赤くしている、私を呼び出した男の子達が居る。


「んー? 旦那さん? どういう事? 私が仕えてるのはお嬢様だよ?」

「ちげぇよ! その、夫婦になりたい男は居るのかって、聞いてんだよ」

「そうそう! メリルはどんな男が好きなんだ?」


 質問の意図が良く分からないけど、私が好きなのはフェミちゃんだから、好きな男の人は居ない事になる。

 フェミちゃんの奥さんになれても、フェミちゃんを旦那様と呼ぶかは分からないし。


「んー、居ないかな? 好きは男の人は。あ、お父さんは大好き!」


 あ、あとシェネルート様も結構好きかも知れない。初めて会って褒められた時はドキドキしたし、貴族寮で見かけた時も優しいし。


「居ないんだな!?」

「じゃ、じゃぁよ、将来は俺が貰ってやろうか!」

「あ、馬鹿お前、メリルは俺が貰うんだよ!」

「なんだとぉ!」

「··················あの、別に貰ってくれなくていいからケンカしないで?」


 フェミちゃんが貰ってくれるし、そんな余り物引き受けてやるみたいな言い方しないで欲しいな。みんなと違ってフェミちゃんは私を可愛い可愛いって言ってくれるし、余り物だなんて言わないもん。


「それより、みんなメティア狩りに行くんじゃないの?」


 呼び出されたから来たけど、みんな弓を持っているからこの後兎狩りに行くんだと思う。呼び出された理由が良く分からなかったけど、エコーが無い皆は早く行かないとメティアが巣穴に帰って見付けられなくなっちゃう。


「そ、そうだ! メリルも来いよ! 俺が守ってやるから」

「俺達がメリルに傷一つ付けさせねぇからな!」

「······あれ? メティア狩りって何か怪我する事あったっけ? それに、私は今狩りに行けないの。ギルドに禁止されてるから」

「な、え? なんでギルドに禁止されるんだよ······?」

「何か悪いことしたのか······?」


 みんな顔色が悪くなる。ギルドは正当な理由があった場合、貴族も罰することが出来る団体であり、国を跨いだ組織である事から国内で不祥事を揉み消すことが困難で貴族もそれを分かっている。

 だからギルドに悪い事をしたと思わるのは、普通に一大事なのだ。


「あはははは、違うよ。ちょっと指名依頼を受けることになってるから、他の仕事しちゃダメってギルドマスターさんに言われてるんだ」

「は? し、指名依頼······?」


 詳しく説明出来ないから、さっさとメティア狩りに出掛けてもらう。下手にパリストルの大群が攻めてくるなんて教えて広がったら大混乱だ。リオライラの街が壊れちゃう。


 全然見付からない女王個体のお陰で、お母さんの機嫌も治った水の季節、一の水月九日癒しの日。

 遂に女王個体が居るらしき場所の絞込みが終わって、私に指名依頼が来るのと同時に、リオライラにお客さんがやってきた。


「メリちゃーん! 遊びに来たよー?」

「ルフィア様ぁぁぁあ! 最高の時に来てくれましたねー!」

「う? ん、どしたの? なになに?」


 みんな家族と楽しんでいる。そう思って遠慮していた援軍が来てくれた。しかも個にして群であるルフィア様が。


 ビーストマスターを着てレオ君に乗ったままのルフィア様を連れてギルドに行って、ギルドマスターにヴァルキリー団員の追加が来てくれたと報告する。

 作戦を詰めていたギルドマスターと上級ハンターさん達の会議に、子供の私達が割り込むからたくさんの人に睨まれたけど、九万のパリストルを屠ったのが私だと分かるとみんな優しくなった。


「メリっ子、その子は?」

「ドルフィナさん、この方はルフィア様です。私のご主人様のお友達で、パーティの仲間です」

「ん? メリちゃんメリちゃん、その説明だとルフィア、メリちゃんと友達じゃ無いみたいだよ? 寂しいな?」

「あぁぁあごめんなさいっ! ドルフィナさん、私のお友達のルフィア様です!」

「えへへ、皆さん初めまして! えっと、ギルドマスターさんが居るから家名も名乗った方がいいのかな? シュリルフィア・クィンタートだよぉ。良く分からないけど、お手伝いすればいいの?」

「············クィンタート!? ゼイゲルドットの領主一族じゃないか!?」

「そうだよっ! パーティの頭もトライアスの領主一族だから、パーティの半分はそんな感じなの!」


 ギルドマスターはルフィア様の家名を知ってて驚くけど、このパーティに居るとそういう感覚が分からなくなるんだよね。王様にだって会えちゃったし。


「どんな貴族かは知ったこっちゃないよ。メリっ子、その子は戦えるのかい?」

「ん? ルフィアは強くないの。みんなが強いの!」

「大丈夫ですよドルフィナさん、ヴァルキリーの隠れた最大戦力です!」


 ルフィア様個人じゃなくて、ルフィア様のゴンちゃんが、だけど。

 国崩級魔法が使えるリーフェさんも、拳一つで広範囲を薙ぎ払えるリリアちゃんも一番強いのはフェミちゃんと疑わない中、フェミちゃん自身が「ゴンちゃんはやり過ぎた······。フェミも全力の全力で引き分けるのがやっとだよ」って言ってた。


「え? パリストル? そんなに強く無いよね? メリちゃんなら一瞬でしょ?」

「ルフィア様、違うんです。凄い数が予想されてるの。私はもう九万匹倒してて······」

「わぁ············」


 結局、この支部で一番実力の高いドルフィナさんを主に陣形の組み方など話し合って、かなり大規模な討伐団を組織してワイバーンの山に向かう事になった。私とルフィア様は先行して、出来る限りのパリストルを倒して後続のドルフィナさん達の介入を楽にする事に。

 そして馬車にも普段は絶対に使われない馬代わりの魔物、ジェイクホースを使った高速馬車で行くことに。

 ジェイクホースは中級指定の中でも特に危険な魔物とされているけど、ギルドマスターが農村のパリストルを討伐した日から獣国ペケラシスのギルドに掛け合った所、二つ返事で調教済みのジェイクホースを貸してくれたらしい。


「ミルシュア支部が抱えるジェイクホースがこんなに簡単に借りれて良かった。シュリルフィア様のお陰らしいのですが······」

「シーカライドさんかな? 結局報酬払わせた事になるのかな······」


 ギルドを出発する時にギルドマスターさんがそう言うと、ルフィア様は申し訳なさそうに俯いた。

 なにやらルフィア様がペケラシスのとある街に凄く感謝されてて、ジェイクホースくらいいくらでも持ってけと言う話しになったらしい。


 ルフィア様のレオ君に一緒に乗せてもらって、ジェイクホースの高速馬車の遥か先を走って目的地に向かう。


 山に近づくにつれてパリストルの反応が増えていき、通り過ぎる森の中には普通では有り得ない数十匹単位の群れが出来ていた。

 メリルビットと四重展開のフェアリーリングを飛ばしてエコーに映る全てのパリストルを狩りながら進んで、目的地の山に辿り着くと目を疑う程のパリストルが麓の森に居た。


「······麓でこの数、嘘でしょ······」

「エコーに八万? 大きい反応はまだ無いし、山の奥に女王さんが居るの?」

「ルフィア様、ここからもう全力で行きましょう」

「うん。シュリルフィア・ビーストマスター、オーケストラ!」


 ルフィア様の呪文で、ふわふわのコートから光りが溢れ出して全て守護獣がレオ君の下、地上に召喚された。

 ゴンちゃんは大きいので顔が横にあった。


「みんな、手当り次第に魔物を倒して進んで! ゴンちゃんも本気でいいよ!」

「私も行きます!」

「レオ君も行くよー!」


 私はレオ君から飛び降りて妖精の羽で空を駆ける。

 一人だったら絶望していたかも知れない魔物の数は、だけどゴンちゃんの本気・・はそれを上回り、シマちゃんを超える砲撃、レオ君を超える肉弾戦であっという間に数百単位のパリストルをすり潰していく姿は頼もしいの一言だった。

 私も魔法を駆使して、無理をしないように森の中を飛んでパリストルを切り刻んで行き、ゴンちゃんに巻き込まれない様に動き回る他の守護獣も凄い勢いでパリストルを潰していく。


「ルフィア様が来てくれて本当に良かった······」


 森の木々を薙ぎ倒しながら倒してるけど、大丈夫だよね。パリストルが大挙として押し寄せる方が不味いもんね。


 倒して倒して倒して、ほとんどゴンちゃんが倒してくれたけど、もう数万は倒している筈なのにエコーが数えるパリストルの数は一向に減らない。


 何かがおかしいと気付いたルフィア様と合流して一度引くことに。


「メリちゃん。減らないよ?」

「······おかしいですよね」

「ゴンちゃん達には続けて貰ってるけど、ルフィア達だけ奥に行く?」

「そうしましょう。女王個体を見付けないと終わりませんし」

「············メリちゃん、いつも通りでいいょ? リーフェさん居ないもん」

「練習なので、このまま居させて下さい。言葉遣いは繰り返さないと物に出来ないんです。ルフィア様もご存知でしょう?」

「············うん。つい最近感じたよ」


 ゴンちゃんとシマちゃんを中心に、後続でくるドルフィナさん達の援護と、麓からパリストルが出ないように七匹の守護獣にお願いして、私もメリルビットを解き放った。


 ルフィア様と風を裂いて一気に山の上を滑り駆け上がる。エコーには依然として夥しいパリストルが見えるけど全てをゴンちゃん達に託して飛ぶ。

 パリストルの数が減らないのは、きっと今も女王個体がパリストルを産み落とし続けて居るからだ。

 リーフェさんに聞いた女王個体の怖い所が、魔物を成体を産み落とす事だ。産み落とされたその瞬間から戦える状態の魔物を、延々と排出し続ける怖い存在。それが女王個体。

 いくら女王個体でもこの数はおかしいと思うけど、とにかく女王個体を倒さないと討伐が終わらない。


「メリちゃん、エコちゃんが見付けたよ。でも······」

「本当ですかっ! 良かった、早く倒しちゃいましょう!」


 そして私は思い知った。ルフィア様の顔色が悪かった理由を。


 辿り着いた山の中腹、大きく窪んだ山肌にソレ・・・は居た。


「··················女王個体が、三匹······?」


 抉れる様に窪んだ山肌。まるで建物が一切取り払われた街のような広場。その再奥に、本来大人の男性より少し大きい程度のパリストルの数十倍は大きい女王個体が三匹、岩壁にもたれ掛かるように子供を産み続けていた。


 岩壁から見える大きな魔石から滴る雫を競うように口にしては、一度に数百匹ずつ産み落とす、三匹の巨大な悪魔。


 あんな速度で増やされたら、大陸中がパリストルで埋め尽くされてしまう。


「ゴンちゃん達は麓周りを任せてるから呼べないよ······」

「······やりましょう。やらきゃ、駄目です。あんなのは残して置いちゃ駄目ですよ!」


 くり抜かれた空間から押し出されるように森へと溢れるパリストルは、今も増え続けていて、エコーに映る数字も『エラー』と出ててもう分からない。


「ルフィア様、せめてシマちゃんを呼んでください」

「······うん。そうだね」


 後ろを見ると、物凄く遠くに後続ハンターが到着していた。ゴンちゃんを中心にパリストルを減らしている守護獣達に任せておけば、ドルフィナさん達は大丈夫。ピョンピョンとニャンニャンが協力して、山の裏側のパリストルも外に出ていかない様にルフィア様が指示していた。


 だから、ここからは。


「······頑張ったら、フェミちゃん褒めてくれるかなぁ······」

「褒めてくれるもん! だから、頑張ろ?」


 せめてゴンちゃん達が麓のパリストルを全部倒すまで、ここから追加はさせない。



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