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フェアリーゼ。



「わたくしは今日この時を持ちまして、アブソリュートの家名を捨てさせて頂きます」


 愛娘の口から出たその言葉に、私の時は止まりました。ただ涙だけがこぼれ落ちていき、去りゆく小さな背中に言葉を掛けることすら出来ず、八年の想いが砕け崩れて行く感覚に体を支配されたのです。


 アブソリュートの家名を捨てる。その言葉は、『あなた達はもう家族じゃないよ』と言うフェミリアスの意思表明そのもの。


 わたくしは今、愛娘を失ったのです。


 貴族学校から同室の友として、ずっと支えあって居たリリカの顔も涙に汚れ、とても淑女に見えない酷い有様になっている。

 椅子を倒して立ち上がり、娘のリリアライトを抱き締めて行かないで欲しいと懇願するその姿に、ああ、自分もああすれば良かったのか。そう思ってしまった。


 でも、それでも足りなかった。


「うふふ、お母様。いえ、『リリカフェイト様』」

「あぁ嫌よ、だめ。そんな呼び方は止めてちょうだいっ······」

「『遅かった』のですリリカフェイト様。リリアは、そうリリアはですね。『もっとずっと前に抱き締めて欲しかったのです』」


 半年前に見掛けた、自信の無さそうな猫人キャットはもう居なかった。

 抱き締めるリリカの手をほどいて、椅子から立ち上がる彼女の顔は、ともすればフェミリアスと同じ顔をしていた。


「リリアライトは今この時を持ちまして、アブソリュートの名を捨てます」

「いや、いやぁ、いやぁぁぁあ············」


 決意の篭った微笑みで、ハッキリと宣言したリリアライトに縋り、泣き崩れるリリカは、つい先ほどの自分を見ている様だった。


 辛い。


 何故こうも簡単に親子の縁を切られてしまうのか。わたくし達はそこまで娘達にとって軽かったのか。


「リリアもこの場に相応しく無くなりましたので、お暇させて頂きます」

「いやぁ、リリア············」

「············お待ち下さいリリアライト様」


 食堂の扉に向かって歩き始めるリリアライトを止めたのは、わたくしが拾った娘の側仕え、リーフェリアルだった。

 長い銀髪を揺らし、滑るようにリリアライトの元まで歩くリーフェリアルにリリアライトは少し眉を上げて立ち止まる。


「······リーフェさん?」

「ともに行きますので、少々お待ち頂きたく思います」


 リリアライトを止めてくれると思ったリーフェリアルは、信じられない事を口にした。ともに行く? それは、つまり············。


「フェアリーゼ様。私の受け取っていない給金を全て、イーゼルバーンに返納致します。それに伴い、暇を頂きます」

「······待ってちょうだいリーフェ、あなた······」


 フェミリアスにリリアライト、それにリーフェリアルまで去ってしまったら、わたくしはどうすれば良いのか。

 リーフェリアルは、この城で自分が無条件で信頼できる貴重な人材で、だからこそ愛娘を任せていられた。なのに、そのリーフェリアルまで······。


「フェアリーゼ様への御恩は忘れません。この命をフェミリアスお嬢様に賭す事で、その御恩に報いたいと存じます。いままでお世話になりました」

「いや、嫌よ······。お願いだからっ············!」

「『まだ持っている』フェアリーゼ様よりも、全てを捨てたフェミリアスお嬢様を支える事が、恩返しになると存じます。リリアライト様、さぁ行きましょう」


 リーフェリアルの言う事は分かる。分かるが、簡単に納得など出来はしない。何故こうも簡単に大切に思っている人間が去っていってしまうのか。


 涙が止まらない。人前で泣いてしまうのは恥ずかしい事だと言われても、止まってくれない。

 リリカも酷い顔だけど、わたくしも同じ顔になっているのだろう。



「な、な、なんだと言うのだ! 家名を捨てる!? 馬鹿な事を言うな! おい、誰かアレらを連れてこい!」


 未だに自分が何をしたのか理解していない、最愛の夫が喚く姿に、わたくしは初めて彼が憎いと思った。

 なぜあの様な馬鹿な真似をしたのか。親が子供に養育費を返済させる? そんな事、お前は家族で無いから金を返せと、夫自身が口にした事と同義ではないか。


「お前達も何を泣いて居るのだ! はやく連れ帰ってこい!」

「············お黙りください。全ての原因が何を喚いて居るのですか」

「······ガノドライグ様は、そこまで愚かだったのですね。リリアの言う通り、『遅すぎましたわ』」

「なんだと貴様らっ!」


 悲しみと憎しみと怒りで、気が狂ってしまいそうな気持ちを夫にぶつけて均衡を保つも、気持ちが延々と湧いてくる。


「私が何をしたと言うのだ!」

「娘に養育の資金を出させたのですよ!」

「他人の子を育てていた訳では無いのですっ! 何故受け取ったのですか! 受け取ってしまったから、リリアも······、フェミリアス様も······、我々が養育した愛娘では無くなったのです! あの子達は自分の資金を自分で用立てた、他人になってしまったのではありませんか!」

「な、馬鹿な事を言うな! 金を払わせただけで、私は父親だぞ!」

「父親としての愛情を注いだ事も無い方はお黙りなさいっ!」

「愛情も無く、養育の事実も無くなったのです。あぁ············、返して下さいませ······。リリアを返して······」


 終わらない口論。止まらない涙。


 普通の子供ならこうはならなかった。もし出ていってしまっても、世間知らずの貴族の子供が、家名を捨てて生きていけるわけが無いのだから。


 でも、フェミリアスは違う。愛する才女は、きっと何処でもその才能を使い生きていける。決して親元などに帰ってこないし、助力も求めない。


 何故こうなってしまったのか。先ほどまでは楽しく話せて居たのに。

 フェミリアスが持ったと言う王都の店に、フェミリアスとともに赴き案内をしてもらう。そんな心躍る会話をしていた筈だ。


「まだ連れ戻せぬのか!」

「············旦那様。手遅れだった様です」

「なにぃ! 詳しく話せ」


 もうこれ以上聞きたくなかった。無かったのに、娘の現状は知らなければいけなかった。

 フェミリアスの行動は素早く的確で、すぐに自身が持てる最大の伝手である陛下に連絡して、新しい家名を貰ってしまったと。もうどうしようも出来ない所まで、親子では無くなってしまったと。様子を見に行かせた者の口から伝えられた。


 陛下直々に拝命したのだ。もうわたくし程度が何を言っても覆らない。


 気が遠くなり、わたくしはそこで一度意識を手放した。



「お目覚めになられましたか」

「············ここは、離宮ね」


 わたくしが意識を取り戻したのは、リリアライトに与えられていた離宮でした。自分が寝ている寝台の隣にはリリカも眠っています。

 何故同じ寝台に寝ているのかと側仕えに尋ねると、リリカがせめてわたくしと離れたくないと言って聞かなかったと。


 泣き腫らした目元は、側仕えの魔法で綺麗にされていました。

 それでも少しヒリヒリするのは、側仕えの実力不足なのでしょう。フェミリアスだったら、この程度完璧に治してみせるのだから。


「ヴァルキュリア······、だったかしら」

「······はい。フェミリアス様の家名はヴァルキュリアとなりました。国王陛下直々に認められたそうです」

「フェミリアス・ヴァルキュリア······。ふふ、素敵な名前ね。ぅぅう、ぐぅぅぅっ······」


 自虐にも似た言葉に、自分が耐えられなくなってまた涙が溢れてきます。


 -本当に、受け取るのですね?


 -リリアは、そうリリアはですね。もっとずっと前に抱き締めて欲しかったのです。


 -まだ持っているフェアリーゼ様よりも。


 居なくなってしまった三人の言葉を振り返る。特に、リリアライトの言葉を。


 フェミリアスは、自分の考えの全てを外には出さない娘だった。優秀で気さく、繊細なのに大胆で、深いところで何を考えているのか分からない、そんな娘だった。


 でもリリアライトは、フェミリアスに会った後から気持ちを伝える努力をするようになり、なるべく自分の想いを語ってくれる子になった。


「遅かったのです······。ね」


 リリアライトは、フェミリアスの考えまで深く知っているようだった。リリアライトの言葉の真意を紐解ければ、少しでも娘の心に触れられると思った。


 何が遅かったのか。どう遅かったのか。考える。


 -もっとずっと前に抱き締めて欲しかったのです。


 抱き締めて居たはずだ。リリカは愛娘を抱き締めていた。わたくし何かよりずっと。

 ガノドライグ様の手前、多少控えて居たとは思うが、それでもわたくしよりも愛情を注いでいる様に見えた。

 それでも、遅かった?


 フェミリアスとリリカの愛情の差は何でしょう。どこに差があったのでしょう。


 フェミリアスがリリアライトにした事。出会ってすぐに容姿を褒め、抱き締め、甘やかし、妹の不安の種であったリリカの不貞疑惑の真相を見抜き消し去り、リリアライトの側近全員を黙らせるために命すら投げ出そうとしたらしい。


 リリカがリリアライトにした事。ガノドライグ様がリリアライトに害を成さぬように見守り············。他には?


「あ、あぁ、嘘············。そんな······」


 気付きたくない。いや、そんな筈無いのです。


 リリカとわたくしを置き換えて、フェミリアスとリリアライトを置き換えた時、わたくしはフェミリアスに何を残したのでしょう?


 大事に思っていた。愛していた。可愛く優秀で、健やかに成長していく娘を何よりも大事に『思っていた』。


 それで? 思っていたから、どうしたの?


 ガノドライグ様に誘拐されそうな時にも、守ってない。自分で危険を退けてしまう娘に感心しつつ、わたくしはフェミリアスがガノドライグ様に何か仕返しをしない様に止めていた。何故? 何故襲われている娘の方を止めていた?


 わたくしは娘に何を残せた?


 何かあるはず。八年も一緒に居たのだから、何かあるはずなのです。


 でも探せば探すほど、わたくしがフェミリアスに何もしてこなかった事だけが思い出されます。


 あの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時も。


 何故フェミリアスを止めていたのですか? 何故ガノドライグ様を止めなかったのですか?


「はは、あははははっ············」


 もう止まらなかった。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。フェミリアス帰ってきてお願いよ。何もして来なかったお母様が悪かったわ、気付いたから、許してちょうだいっ。駄目な母でごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい愛しているわフェミリアス、愛しているの············」



 リリカと共に離宮に篭って、何日も娘達に謝って過ごす日々。娘に贈って貰ったリティットを飛ばしてフェミリアスを探して、追い払われる。

 明らかな敵対行動を目の当たりにして、また娘に許しを乞う。届かない声を何度も何度も口にしては、許される日をこいねがう。



「母上! ここですか!」


 手の届かない娘に謝り続け、何日過ぎたのでしょうか。

 ある日、息子が離宮の扉を跳ね開けて入ってきました。淑女の部屋は男性が入ってはならない場所なれど、この離宮はその決まりが薄い。


 ガノドライグ様がリリアライトに男性の側仕えを付けた事が原因で、その事が頭を過ぎるとまた謝る事が増えて悲しくなる。


「寝室に失礼します! 母上っ············、母上!?」


 リリカとともに寝台に潜って部屋に籠り続け、わたくし達の身なりは酷いものになっています。

 髪は荒れてアチコチ跳ねて、涙の後に顔は腫れ、およそ領主の妻には見えないでしょう。


 部屋に入ってきた息子、リオンハルトのその後に未来の妻と、見た事の無い殿方と幼い淑女を連れていました。


「母上! 何事ですか! もしや、ご病気で············」

「違うのですリオン。わたくしの事は、気にしないでちょうだい」

「そうはいきませんよ! 母上、今の母上達はご自分が思っている以上に酷い有様で······」

「分かっています。でも良いのです。今のわたくし達は、これで良いのです」


 娘に許されもしない愚かな女が、身なりを整えてどうすると言うのか。思い出せば思い出す程に、娘にどれだけ酷いことをしていたのかが浮き彫りになって、寝台に篭って謝罪に塗れないと壊れそうなのです。


「······それより、リオン? ガノドライグ様の所には戻ったのかしら?」

「いえ、城に戻るとどこもかしこも、空気がおかしいのです。事情を聞こうと母上を探してここに······。あ、そうです。皆の紹介を············」

「おいリオン、今は紹介より、母君達の介抱が先だろう? 見るに、食事もまともに摂っていなさそうだぞ」

「そうですリオン様、淑女のこの様な場面でご紹介されても、わたくし困ってしまいますわ」

「······確かに、お客様の前で失礼でしたわね。すぐに召し変えますので······」


 息子の友人と妻だ。これ以上母として失態を演じてはいけない。

 側仕え達数人がかりで、フェミリアスが作ったと言う水と風の魔法を使いわたくし達の身なりを整えて、側仕えが服を召し変えていきます。


 フェミリアスなら、一人でこの魔法を完璧に使いこなすのです。


「それでは、改めて婚約者のリディアットと、友のイオシュマイアです」

「リディアット・パラメシニャスと申します。見ての通り猫人キャットでございますわ」

「トルザークの次期領主、イオシュマイア・ビギアイアです。お見知り置きを」

「ミルツマイア・ビギアイアですわ」


 紹介を終えて、リオンに何があったのか問われるも、答えられる事なんて無いのです。ただただ、母が愚かだっただけなのです。


「何も無いわけ······、それとフェミリアスはどこに居るのですか? 探しても居ないのです」

「っ······! わたくしにも分かりません······」

「······母上? どうしたのですか? フェミリアスが何か······?」


 また、考え無しでした。わたくしが娘を失った様に、リオンも妹を失ったのです。その事に考え及ばず、一人嘆くなんて、どれほどわたくしは浅ましいのでしょうか。


 何を喋っても、何をしても駄目な気がして、わたくしはとうとう喋る事すら出来なくなりました。

 見かねた側仕えがわたくしの代わりに事情を説明すると、リオンは激昂しました。イオシュマイア様とリディアット様も言葉を失う中、リオンは声を荒らげます。


「どういう事ですか! フェミリアスが追い出された!? 父上はそこまで阿呆だったのですか? 私は、私がどれだけフェミリアスに······。父上と話してきます。リディアット、イオ、それとミルツマイア嬢はしばらくここに居てくれ」


 側仕えすら置いてガノドライグ様の元に走り出すリオンは、なんと兄らしいのでしょう。わたくしとは大違いです。

 残された皆はリオンを待ち、リディアット様は涙を流し始めました。


「なぜ、フェミリアス様が······? わたくし、フェミリアス様のお言葉に······」


 ポツポツと語る彼女の言葉に、胸が苦しいほど締め付けられ、フェミリアスがどれだけ人に慕われていたのかが分かります。

 自慢の娘なのに、娘と呼べない。


「人に愛されるために······、生まれて来たようだ。そう言われ······、わたくしの心は救われたのです······」

「······私も、フェミリアスには世話に······。トライアスの領主は何を考えて······!」


 それから、鐘一つも経たずに戻って来たリオンの顔は怒りに満ちたものでした。尊敬していたはずのガノドライグ様を愚か者呼ばわりして、フェミリアスを探しに行くと。


「フェミリアスの性格なら、まだトライアスの城下街でのんびりしているはずだ! 探してくる!」

「まてリオン、私も行くぞ。ミルツはここで待っていなさい」

「わたくしもお兄様と行きますわ!」

「リオン様、わたくしも連れて行ってくださいませ。フェミリアス様にわたくしは何も返せて居ないのです」


 そうだ。探しに行けば、またフェミリアスに会える。そう思って立ち上がろうとすると、ろくに食べて居なかった私は動けません。よろけて隣のリリカに寄り掛かってしまいます。


「母上達は無理です。何か食べて休んでいてください」


 皆が部屋を出ていき、ああ、また人に任せるのかと、自分が嫌になる。だからフェミリアスに見限られたのだと言うのに。


 鐘が一つなってしばらく、側仕えの持ってきたスープを口にして休み、少しだけ動ける様になった頃にガノドライグ様の側仕えがやって来ました。

 昼食に出て来いと言伝です。


 リオンがフェミリアスを探してくれている間、そちらはわたくしの仕事だと言い聞かせてリリカと共に久々の城に移動します。


 食堂の前まで何とか歩いて来ると、リオンの怒声が後ろから聞こえて来ます。


「放せ馬鹿者共が! 今は昼食会などしている場合では無いだろう! フェミリアスが見つかったのだ! 放せ、放せぇ!」

「申し訳ありません。領主のご命令ですので」


 二人の騎士に腕を掴まれたリオンが食堂まで引っ張られて来るのが見えました。後ろにはリディアット様も見えます。

 騎士に獣人差別者は少ないと言っても、トライアスは全体的に騎士の質が低く、リディアット様も乱暴に扱われています。


「おい、リディアットを丁寧に扱え! トライアスの客人だぞ!」

「············獣人などこれで十分でしょう」

「······そなたの顔は覚えたからな。その言葉忘れるなよ······!」


 まるで罪人の様な扱いに、悲しみに薄れていた激情が湧き上がってきて、わたくしはまだ遠い騎士を怒鳴りつけました。


「今すぐ手を話なさいっ! 自分の家族が大事ならば、今すぐです!」

「············ちっ」


 フェミリアスが城を出てしまってから、本当にここはトライアスの城なのか疑いたくなるほど、嫌なところばかりが見えてきます。


 こんな領地、無くなってしまった方がいいのでは?


「来たか。座れ」


 リディアット様を守りながら食堂に入ると、ずいぶん血色の良くなったガノドライグ様が見えます。

 ······まさか、フェミリアス達から受け取ったお金で······?


「父上! どう言うつもりですか!」

「うるさいわ馬鹿息子が! その様な獣を妻に選びよって。トライアスを滅ぼす気か!」

「リディアットを侮辱する事は許さないっ! トライアスが滅びるなら全て領主たる父上の手腕の賜物で、リディアットのせいではない!」

「なんだと! 父親に何を言うのだ貴様!」

「事実ではありませんか! 娘に金をせびる程に落ちぶれた領主のせいで、トライアスは滅びるのでしょうから!」

「貴様ァ!」


 昼食会とは名ばかりで、ただの口論が始まる。


「この様な領地はもう知りません! 私はフェミニストルデに行き、リディアットの家に入ります!」

「ならぬ! 何を馬鹿な事を言っているのだ! お前がトライアス最後の領主の子なのだぞ!」

「············そんな事知りません。フェミリアス達を追い出した誰かの責任でしょうから、その者を罰せば良いのでは?」

「どこまで親を愚弄するのだ貴様ァ!」


 その日からリオンとリディアット様は、城に閉じ込められる様に外へ出られなくなり、毎日の様に口論が起こる。

 時折イオシュマイア様達も昼食に参加してもらい、ガノドライグ様はトルザークを敵に回したく無いのか顔色が悪くなります。


 そんなガノドライグ様にも容赦なく、イオシュマイア様は言葉を重ねてガノドライグ様を脅し、フェミリアス達の元に向かい様子を見てくる日が過ぎます。


「············わたくし、イーゼルバーンへ帰ります」

「わたくしも、フェミニストルデの実家に戻らせて頂きます」

「な、なぁ!? 何を言っているのだ!」


 わたくしはある日、我慢出来なくなり昼食会の最中席を立ち、リリカとともに荷物をまとめに戻りす。後を追ってくるガノドライグ様を無視して部屋に入り、鍵を閉めて側仕えに指示を出します。


「最初から、こうすれば良かったのですね。ふふ、確かに『遅すぎましたわ』」


 フェミリアスが名を捨てたのですから、わたくし達もさっさと捨ててしまえば良かったのです。


 イオシュマイア様がいらっしゃれば、リオンも城を出れるでしょう。


「フェミリアス、ごめんなさいね。もう母では無くなっても、せめてアナタの力になりたいの」


 その年の休暇が終わる頃、トライアスからはガノドライグ以外の領主一族が居なくなりました。



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