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ひとときの再開。



 解体場に行ってお肉を受け取り、タブレット端末を六つ作り全て保存する。機能的に永久保存とは行かないので、せいぜい一年くらいしか持たない。


 その間にリーフェにもタブレットを一つ渡して、食器とカトラリーを買ってきてもらう。あとテーブルも。

 それから合流して、強面パーティ、レギャニ、レギャニ兄パーティを連れて街の門から外に出てすぐに街道をそれる。


「いやぁ、まさかヴァルキリーの方達だったなんて」

「アトリエにはお世話になりました!」

「あはは、お買い上げありがとうございますね」


 私達がヴァルキリーだと分かった途端にヘコヘコし始めたレギャニ兄パーティの面々に自己紹介され、ついでに強面パーティにも名乗られた。


 レギャニの兄がルギャニ。白髪の軽装ハンターがディクイット。青髪短髪の大剣使いがワボルス。ジェノバンシーを装備した緑頭の元アーチャーはアスバーク。アトリエ産のナイフ、リヴァイブを二本腰に提げたシーフっぽい黒髪はツェルトで、強面パーティのリーダーのスキンヘッドはバーツァ。お揃いの茶髪が肩まで掛かった中年ロンゲ二人がポルボとリャッケ。


 うん。覚えられん。リーア任せた。


 人の名前覚えるの苦手だから、一度に名乗られると覚えきれないんだよね。


 門のすぐ側、草もなく剥き出しの地面が広がる開けた場所に陣取って、リーフェにテーブル等をセッティングしてもらい、私はその上にワイバーン戦の時に作った七輪を置いていく。


 七輪は全部で十個なので、今のメンバーだと一人一つ使えない。なので悪いがルギャニのパーティとバーツァのパーティには共同で使ってもらう。


 指を鳴らして七輪に火を入れ、別のテーブルにバジ肉を出してリーフェと一緒に切り分けていく。


「あの、お嬢様は座っていても······」

「ふふふ、良いの。リーフェと一緒にやりたいの」


 こうやって並んで調理の真似事なんて、本当に親子みたいで楽しいじゃないか。そう思うとニコニコしてしまう。

 それから結構な量を皿に盛り付けていき、軽く塩を振ってそれぞれのテーブルに置いたあと、食べ方を教えて席に戻る。


 私達のテーブルは、私、リリア、リーフェ、レギャニの四人が座り一人ひとつ七輪があり、もう一個大きめの丸テーブルには残りの男衆を座らせて、適当に七輪を並べてある。


「それじゃ、早めの夕食だよー!」


 夕刻の鐘が鳴り、私の号令で皆が食べ始め、トライアスの城下街正門前には胃袋をぶん殴る焼肉の匂いが漂い始めた。

 初めて食べるバジリスクの肉に、一瞬の時を止める物が何人も居る中、あぁどうしてあんなバケモノがこんなに美味いのかと思いに耽る。


「こ、こんなにうめぇのか!?」

「············ぉぉぉお、腹が喜んでるぜ······」


 バジリスク騒動で街に避難した人達がまた外に出され、門の前に並ぶ列から多数の視線を感じる。

 ただ肉を焼く。だけどそれが古来より一番美味しい肉の食べ方で、いつだってその匂いに人が集まる。


「雑魚助おいし? 自分を追いかけ回してたアイツがそのお肉なんだよ?」

「············信じられない」

「超高級肉だからね! いっぱい食べなね!」


 隣のテーブルでは我慢出来なかったのか、それぞれのパーティから一名ずつ酒を買いに走らせていた。焼肉に酒、いいねぇ! 私も幼女じゃなかったら······!


「ところでさ、雑魚助はあのバジリスクどこで釣ってきたの? フェミ達本当に探し回ってたんだよ?」

「······なんかね、地面から出てきた。ズルっと」

「······地中かっ! なーるほどねぇ」


 そうかそうか。だから見付からなかったのか。


 エーテルエコーは空気中のマナを揺らして索敵をするガジェットで、マナが揺らしにくい場所には効果が薄い。

 例えば岩の中なんかはエコーの効果範囲外で、建物の中も壁を隔てれば隔てる程に索敵範囲が狭まる。

 地面の中なんて地上から一メートル下を索敵出来ていれば御の字なのだ。


「バジリスクは地面の中で暮らしているのかな? でもリーフェが見付けた巣穴って······?」

「どうでしょうね? 繁殖の為の巣と普段は違うのかも知れません」

「んー、地面の中を探れる何かを作った方が良いのかな? それとも、バジリスクを地上に呼びだす何か?」


 焼肉を食べながら次のバジ肉確保に意識を向けると、レギャニは私達のやり取りに慣れてきた様で何も言わずにバジ肉を食べていた。


「時に、お嬢様にお聞きしたい事があるのですが」

「ん? リーフェから質問って珍しいね?」

「······あの、随分さっぱりされてますが、フェアリーゼ様とも縁を切ってしまったのに何故でしょう?」


 リーフェが言いたいのは、ついさっき親を切ったのになんでそんな普段通りなん? って事だろう。でも、私にして見れば当たり前の事だった。


「······あら? リーフェさんは分からないのですか?」

「······リリアライト様はお分かりで? リリアライト様も随分と平気そうですが」

「··················これ、私聞いてて良いの?」


 貴族の内部事情っぽい会話が急に始まったので、レギャニが心配し始めるけど、特に問題は無い。

 すでに私達はトライアスに居るだけでトライアスの貴族じゃ無いのだから、いくら私達の事を喋ってもトライアスには関係無いのである。


「分かるも何も、お母さっ······。リリカフェイト様もフェアリーゼ様も、リリアとお姉様よりガノドライグ様をお選びになりましたもの。そうですよね? お姉様」

「うんうん。リリアも同じ事考えてたんだね」

「············えーと、詳しくお聞きしても?」


 まだ良く分かっていないリーフェは、多分考え方がフェアリーゼ寄りなんだと思う。

 それでもコチラに来てくれたのだから、私にとってリーフェの存在はやはりフェアリーゼより大きい。


「簡単に言うとね。フェミがガノドライグにお金渡した時さ、フェアリーゼ様は現状維持を選んだんだよ。一応ガノドライグに受け取るなとは言ったけど、止めて、行かないでってさ。フェミ達の養育を放り出したガノドライグを諌めるより、フェミ達に折れるように願ったんだよ」

「それ以前に、前々から夫人二人はガノドライグ様に甘いのです。ガノドライグ様がお姉様に対して誘拐を企てたと聞きましたが、その時のフェアリーゼ様の対応はどうでしたか?」


 確かに、あの時の事はいい例である。リリアは本当に私と気持ちを同じにしているらしい。


「············確か、お嬢様にガノドライグ様が潰されないように······」

「そこだよ。おかしいよね? フェミが自分で撃退出来るからって、フェミを止める? 普通は、フェミを連れて実家に帰るとか、色々手があるのにさ、ガノドライグには大して何もせず、フェミが暴走しないように止めてたんだよ?」

「殺さない様に厳命したとして、ならず者など下手を打ってお姉様を殺めてしまうかもしれなかったのに、ガノドライグ様はほぼ野放しだったのです。お姉様とガノドライグ様、どちらを大事にしているかは明白ですわ」


 大した問題も無かったのでスルーしてたけど、フェアリーゼの対応は何もかもがおかしかったのだ。ガノドライグとトルザークのやり取りを潰したのも、フェアリーゼの実家たるイーゼルバーンとトルザークの仲が悪かったから、と仮定するなら、フェアリーゼが私の為にしてくれた事など実は一つも無いのである。


「一応、リリアの生活改善を手伝ってもらったけどさ、それはあくまでフェミがお願いしたからだよ。貴族学校に持っていった魔法書だって、あれリーフェの発案でしょ?」

「······確かに、お嬢様に何かを贈りたいと言い出したのは私で、フェアリーゼ様がそれに乗る形で······」

「そんな感じでさ、フェアリーゼ様ってフェミを大事に思ってるだけ《・・・・・・・・・》で、大事にしてくれて《・・・・・・・・》は無かったんだよ。それがフェミから見たフェアリーゼ様かな」

「リリカフェイト様も同じですわ。大事に思われて居たのはわかります。でも、リリアを一番大事にしてくれたのはお姉様ですわ。物心ついてから初めて抱き締めて貰ったのはお姉様なのです。ガノドライグ様を気にして、愛情を制限していらっしゃったリリカフェイト様より、リリアはお姉様と一緒に居たかったのですわ」


 私達二人の弁に言葉を失うリーフェは、フェアリーゼに恩を感じている人間である。その心中はどうなっているか分からない。


「今日は、ハッキリとフェアリーゼ様ごとガノドライグを切ったんだよ。いつも言ってるよね。フェミにはフェアリーゼ様よりリーフェだって。ホントなんだよ?」


 意図せず会話を聞いてしまったレギャニは黙りこくり、目頭に涙を浮かべて私を見ていた。ふふ、同情してくれるのかな。


「······ぐすっ、アンタ、その······」

「ふふ、なぁに雑魚助、貴族なんてこんなもんだよ」

「そんなのって······」

「利権や多少のお金、見栄や伝手一つで容易に崩れるのが貴族の繋がりなんだよ。だからこそ、そんな物に左右されないリリアやリーフェ、ヴァルキリーの皆が大事なの」


 フェアリーゼはガノドライグよりは大事だったけど、こちとら八歳の女の子だ。構ってくれないフェアリーゼなんてそんなもんである。

 しんみりしてしまった空気の中焼肉を食べ終わり、後片付け。

 男衆も食べ終わっていたので七輪を綺麗に魔法で洗った後に回収して、テーブルも燃やさずタブレットにしまう。


「ふむ。これは便利ですね」

「これもグレードを落として商品化する予定だよ。取り敢えず確定なのが、リリアの歌声と、タブレット。あと槍と戦斧かな? 長く売るためには消耗品が強いんだけど、消耗する魔道具って欠陥品だもんね」

「銃の様に、必要な何かを別売りしては如何でしょうか? 使う度にそちらが消耗すれば良いかと」

「うーん。考えておくよ」


 電池っぽい物でも売り出してみようか? 魔力が詰まってて、それが無いと動かないとか。でもそうすると循環システムがなぁ······。


「······本当にお店を持ってるのね」

「ん、そうだよ? これでも結構自分の手で稼いでるんだよ? もう親にも頼れないしね」

「············リリアも何か、その、お仕事をした方が良いのでしょうか······?」

「それは大丈夫。音楽プレーヤーとは別で売るリリアの歌の売り上げは、リリアに還元するから。リリアはそのまま歌を作ってね」


 リリアの歌を売って私の懐に入れる気なんてサラサラない。ちゃんとリリアに還元して、もっとリリアに歌を作って歌って貰うのだ。


 それから撤収が終わったので皆で街に戻り、夜の鐘がなる前に解散した。宿に帰ってベッドに入り、湯浴みが面倒になって洗浄魔法でベッドごと綺麗にして乾かす。ほんとこの魔法便利。


「それでは、私は別室に」

「うん、おやすみリーフェ」

「うふふ、今夜はお姉様を独り占め出来るのですね。リリアは幸せです」


 リーフェは側仕えのスタンスを崩さずに別室を自腹で取り、夜の鐘が鳴ると同時に部屋から出ていく。

 二人きりになったリリアが今までに無いくらい甘えて来たので、安宿の壁に逆転させた拡声魔法を使って遮音しておく。

 声を拡げる魔法の構築を弄って、部屋の中の音を部屋の中に送り返す物だ。


「······お姉様、リリアはもう我慢できませんっ······」


 既に横になっているのだけど、妹に押し倒される形で掛け布団を被ってリリアの相手をしてあげる。リーアとリアスは仲良く部屋備え付けのテーブルで先に寝ていた。


 何気に二人きりでしっかり相手をして上げるのは初めてなので、リリアが満足して気絶するまで頑張ったあと、愛しい妹を抱き締めて自分も眠りについた。



 そうしてヴァルキュリアとして生まれ変わった私は、休暇をハンターとしてエンジョイした。途中様子を見に来たフィオやフィア等が見えたので、ハウンドのパラライズを撃ち込んで撃退した。ごめんねフィアにフィオ。乱暴者のお母さんで。


「私の事を鍛えなさいよ!」


 そしてある日、レギャニにそんな感じで絡まれたので、容赦なく鍛えてあげた。

 訓練草原まで行って虎型を出して、ぶっ潰れるまで戦わせていく。ルギャニに追い付きたい一心なのか、根性は見せるんだけど······。


「うっわ、下手くそ······」

「······えぇ、何故そこで前に······?」

「見るに耐えない才能の無さですね」


 そう、戦いが下手くそだった。前に出てはいけないタイミングで踏み込み、距離を詰めるタイミングで引き、流すべき攻撃を真で受け止め、受け止めるべき攻撃を流しやがる。


 あぁ、だから七級で止まってるのかと。納得の実力だった。


「雑魚助、本当に雑魚助なんだね」

「············そんなに酷い?」


 ボッコボコになったレギャニを回復魔法で癒しながら休憩して、どこがダメだったかを懇切丁寧に教えていく。そして休んでる間に、手加減したリリアに虎型の相手をして貰ってお手本を見せる。


 リリアは肉弾戦が得意で、スピード寄りのパワーゲームが戦闘スタイルだ。小さい得物をコンパクトに振るって、そこにエーテルスーツの膂力を足して居る。

 私は長物やガトリングなど、力こそパワー的な戦い方を技術で補うパワーアンドテクニックなスタイルで、レギャニのお手本にはリリアの方が向いていたのだ。


 レギャニはナイフを一本だけ装備しているシーフスタイルのハンターで、リリアのナイフ捌きに思う所があるのか、息も絶え絶えだったのに食い入る様にリリアと虎型の戦闘を見詰めていた。


「······リリア強いでしょ」

「凄い······」

「ふ、お嬢様に鍛えて頂いたのです。当然でしょう」


 何故か誇らしげなリーフェが胸を張ってお茶を入れてくれる。訓練草原にはリーフェがタブレットに仕込んだテーブルセットとティーセットが並べられていた。

 私はリーフェがタブレットを持ち歩ける様にする為、タブレットをしまうための指輪端末を作ってあげている。某マインをクラフトするゲームで言うと、チェストの中にチェスト系アイテムを入れるイメージだ。


「ちなみに、ゼルビア達も虎型は一人で相手出来るんだよ」


 ドラゴン型を倒せるようになったゼルビア達は皆、虎型を一人で潰せるくらいに強くなってくれた。

 レイナも走って攻撃を避けたり、受け流したりしながら呪文を紡いで虎型をぶっ飛ばせる。


「それと、ゼルビア達はかなり長い間教えたけど、雑魚助はそんなに長く見れないよ。フェミ達は休暇明けたら王都に帰るし」

「そんなっ!?」


 それから毎日、取り敢えず火の季節が終わる日までレギャニと虎型を戦わせて見た。途中話しを聞いたルギャニがパーティ連れてやって来たので、パーティにはドラゴン型を戦わせて見た。


「リリリッ♪ リリリッ♪」

「ん? コールチェック」

「リリリッ♪ コール、フェミリィ♪」

「······は? え、なんでイオ様からかかってくるの?」


 レギャニとルギャニパーティの戦いを指導していた季節の終わり、なんとイオからコールがかかってきた。


 もしかして、妹にした仕打ちを知って苦情でも言われるのかな······。


 私は気が重くなりながらコールフェミリィと口にして、リーアをコールモードにする。


『フェミ! 大丈夫か!?』

「ぅえ? え、イオ様? どうしたの?」


 怒られるのかと思ったら、突如心配されて狼狽してしまう。いやいや意味が分からないよ?


『今どこに居るんだ!? 教えてくれないか?』

「えっと、休暇なのでトライアスですが······?」

『それは分かる! トライアスのどこに居るんだ?』

「え、えっと、今は街の外のとある草原で、ハンターを育成中ですね。あの、どうしたのですか? 話しが見えてこないのですが······」


 何故トルザークに居るイオに、自分の居場所を聞かれるのだろう? もしかして、イオ様に婚約者が出来るから、髪飾りを捨てない宣言をしている私が邪魔になったとか······?


『······いま、リオンと共にトライアスに来ている。話しは聞いた。家名を捨てて城を出たと······』

「あ、え? イオ様トライアスに居るの!? フェミもう街に戻るんで、一緒にご飯食べましょうよ!」

『············良かった、元気そうだな······』


 どうやらイオは妹と一緒に、リオンに連れられてトライアスまで来たのだとか。二人きりになりたいリディアットの微妙な顔が辛かったと教えてくれた。

 今はトライアスの城に入り、様子のおかしいフェアリーゼ、リリカフェイト、ガノドライグにリオンが問い詰めたところ私の縁切りが判明して、今は手分けしてトライアス内を探しているらしい。


『もっと早くコールすればいい事に気が付けば良かったぞ。それで、どこに行けばいい?』

「んー、イオ様は、お洒落なお店で優雅に昼食を採るのと、野趣溢れる野外での食事、どっちがお好きですか?」

『ふむ? んー、気取った食事は常日頃味わっているからな、野趣溢れる食事とやらが気になるな』

「ふふふ、じゃぁトライアス城下街正門の外で待っていますね。リオンハルト様とリディアット様にも伝えておいて下さいませ。昼の鐘がなる前にはそこに居ますから」


 イオと昼食の約束をして、戦ってる皆に撤収を伝える。用事が出来たと言えばルギャニは二つ返事で聞いてくれて、レギャニは少し渋るけど「回復役居ないけど、平気?」と脅すと従ってくれた。


 このまま自由討伐に出かけると言うルギャニ達と、それに付いていくと言い始めたレギャニとその場で別れ、リリアとリーフェを連れて街への帰路につく。

 その道すがら事情を説明すると、二人の顔が少し怖くなった。


「············お姉様に髪飾りを贈った殿方ですわね」

「お嬢様のお相手に相応しいか、この目で確かめましょう」


 二人が小声で何やら話し合って居るけど、何の話ししてるの? たまに皆、私を除け者にするよね。


 街の門まで来たら中には入らず、前回のバジ肉パーティの場所を陣取ってセッティングを始める。

 リーフェに飲み物や野菜類をすぐに買ってきて欲しいと伝えて、私はその間に七輪の準備とお肉の切り分けだ。


 久々に会えるイオにバジ肉を振る舞ってあげたくて張り切っていると、リリアの顔が少しだけ暗くなるのが見えた。どうしたの?


「リリア?」

「······いえ、お姉様はその方と会えるのが楽しみなのですね」

「え、うん。半年ぶりだからね。凄くいい人だから、きっとリリアも気に入るよ!」


 もしかしたら、初めて会う人に緊張しているのかも知れない。私に初めて出会った時など涙目だった事を思えば当然か。

 姉として配慮が足りなかったと反省しつつ、イオの良いところを羅列していく。


「くっ、違うのです······、いい人であればある程心配なのです······」

「ん? どしたのリリア。何か言った?」


 小声で何か言ったリリアに首を傾げていると、リーフェが戻って来てお肉の切り分けを手伝ってくれた。

 ホントはリリアも手伝おうとしてくれて居るのだけど、生肉と猫耳幼女の組み合わせが個人的に効きすぎるので止めた。


 ただでさえ可愛いのに、生肉捏ねくる野性味まで手に入れたら怖すぎる。これ以上魅力的にならなくていいよ!


 私はライオンとかが生肉引き千切りながら餌食べてるシーンとかが可愛く見えて好きなのだ。リリアにそんな事されたら『お姉ちゃんリミッター』が外れてどうなるか分からない。


 合流したリーフェにリリアが何やらまたコショコショ話して、それを聞いたリーフェに微妙な顔をされたりしながら時間が過ぎていく。


 昼の鐘が鳴ると同時に門から二人、見知った貴族が出てくるのが見えて、私は思わず嬉しくなって大きく手を振ってしまう。

 淑女失格かも知れないけど気にしない。余計なのがくっ付いていて居るべき人が二人ほど足りないけど気にしない。


「イオ様ー、こっちですよー」

「フェミ! 無事だったか!」


 手を振る私に気が付いたイオは一緒に門を潜った妹を連れ立って駆け寄って来た。妹はあからさまに嫌な顔をしているけどそれも気にしない。


「ふふ、お久しゅうございますね」

「ああ、良かった。城を出たと聞いた時は心配で心配で············」


 本当に心配してくれていたのだろう。最後に見た顔よりも領主業の勉強のせいでやつれてしまった顔が、私の無事を確認して少しだけ優しくなった。


「護衛は連れていないんですね? 一応隠れて付いてきているみたいですが」

「なに!? 来るなと言ったのに······。まぁいい、フェミリアス、また会えて良かった」

「うん。フェミも嬉しいな。リオンハルト様達はいらっしゃらないのですか?」

「ああ、トライアス領主に無理やり昼食会に呼ばれたらしい。それどころでは無いだろうに······。それより、リオンをもう兄とは呼ばないのだな············」


 私がリオンを名前で呼ぶ事に、少し悲しそうな顔をするイオ。でも申し訳ないが、すでに私はアブソリュートでは無いから。


「フェミはもう違う家名になってしまったので、領主一族の方を気安く呼べないんです」

「············私のことは、今まで通り呼んでくれ。文句を言う輩が居たら私が黙らせる」


 イオの気遣いに心暖かくしながら、所在なさげな妹にも挨拶をする。


「妹様もお久しぶりですね。十五日ぶりでしょうか?」

「······ご、ごきげんよぅ······」

「ん? 待て待て。なんだその呼び方は? 他人行儀にも程があるだろう? そんなに仲良く無いのか?」


 私が彼女の名を呼ばない事に疑問の声をあげるイオに、妹は顔色を青くした。そして私に誤魔化してくれと言わんばかりの視線を送ってくるけど、知らないよ?


「まぁ、仲良くは無いんだけど、それ以前に名前を知らないんですよ。名乗られて居ないもので」

「······あの、お兄様っ、ちがっ······!」

「··················どういう事だ?」


 私の暴露にイオの顔に青筋が入る。ゆっくりと振り返って妹を見るイオの視線は凍てついていて、妹は兄から向けられるその殺意にも似た視線にすくみ上がる。


「······おに、お兄様、あのっ」

「貴族学校で学ばなかったのか? 名乗らないと言う事は、相手が名乗るに値しない者だと言う貴族間の最大級の侮辱だと。貴族学一年で最初の方に学ぶ筈なのだが?」

「あの、そのっ······」

「その、なんだ? 言い分があるなら聞こうか。まさか私の妹がそこまでの無礼を理由も無く働く訳が無いからな。ん? どうなんだ?」


 イオと過ごした時間は僅かだけど、ここまで怒るイオは始めてみた。感情に押し出された魔力が体から溢れ出しているのさえ見える程だ。


「な、名乗る機会が、その······」

「機会が無かったと? 半年間一度も? その愚かな言い訳を私が信じると思っているのか?」

「あー、イオ様。違うの。フェミもすんごい意地悪してね、名乗りづらくさせた事もあるんだよ」


 妹の怖がり様に少し可哀想になって、助け舟を出した。私が苦情を貰うと思っていたノーパン事件のあらましを隠さず教える。

 それを聞いたイオは怒ると思ったけど、そんな事は一切無く私の味方だった。


「名乗りもせず、その様な厚かましい態度をとった者相手に随分優しい対応だ。私だったら、相手の家まで巻き込んで相応の処分が下るまで追い詰めるだろう。フェミは優しいのだな」

「えぇ、フェミ周りからエグすぎるって言われたくらいなんだけど······」

「確かにやり方の切り口はずいぶんとエグいが、やり過ぎては居ない。貴族の間でそれで済んだなら運が良かったのだぞ」


 容赦なく虐めた気だったけど、イオに言わせるとまだ温かったらしい。

 ともあれ、改めて名乗り合う事になったのでついでにリリア達の紹介も済ませる事にした。

 

「改めまして、ミルツマイア・ビギアイアですわ······」

「ふふ、フェミリアス・ヴァルキュリアだよ。家名変わったの」

「リリアライト・ヴァルキュリアですわ。同じく家名が変わりましたの」

「リーフェリアルです。お嬢様の側仕え兼、パーティヴァルキリーの後衛担当です」

「本当にハンターをやっているんだな。私はイオシュマイア・ビギアイア、トルザークの次期領主だ。気軽にイオと呼んでくれ。二人に会えて光栄に思う。特にリリアライト嬢はフェミから散々話しを聞かされているからな」


 自己紹介も終わったので、昼食の席を進める。本来は側仕えが居て毒味などもするのだけど、私とイオの仲で毒殺など有り得ない。


「こんな感じで、焼いたお肉をすぐに食べるのです。焼肉と言う食べ方で、お肉の美味しさのみを享受できます」

「ほほう? この肉は見た事が無いものだが······」

「これはバジリスクの肉ですよ。貴族でもなかなか食べれる物では無いそうですね」

「バジリスクだと? 王族が食べる物じゃ無いか。どうやって手に入れたのだ?」

「ふふふ、フェミ達はハンターですよ? 自分で倒したのです」

「············ふむ? バジリスクとは、相当に強い魔物だと聞いたのだが······」


 未だに私の強さが良くわかって居ないのか、イオは首を傾げている。でもわざわざ強さを主張する必要も無く、私はそんな話よりイオの話しを聞いたり、リリアの話しを聞かせたい。


「それで、闘技場の天井にはでっかい穴が開いているんですよ!」

「上級魔法を一人で? 凄まじいな······」

「うふふ。お姉様のご指導の賜物ですわ」

「ふむ。ミルツもフェミに任せればそうなれるのか? どうだミルツ?」

「お、お兄様っ、わたくしは大丈夫ですわ! まだ人間で居たいです······」

「そうだねぇ。魔法に関してはフェミよりメリルの方が良いかな。魔法だけはフェミ、メリルに勝てなさそうだもん。教え方も上手いって評判だし」


 他愛ない話しをして、違えた時間を擦り合わせて重ねていく。イオと中央区域で遊んだ時の様な心地いい空気に安らぎながら、イオにも好評な焼肉の昼食は無事終わった。


 その日からイオとミルツマイアはちょこちょこ私達の所に来て、ルギャニパーティとレギャニの訓練にも興味を持って着いてきたりした。

 リオンはずっとガノドライグに捕まっている様でコチラには来れず、リリアとリオンは未だに会えていない。



 そんな日々を過ごして休暇が過ぎて行った。

 


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