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バジ肉げっと。



 ヴァルキリードレスを展開した私達は、トライアス城下街の正門まで走り抜け、やっと門から鳴らされる警鐘を聞く。

 慌ただしく人を受け入れ整理する門番や商人を躱して外に出ると、丁度に街に向かってレギャニが走ってくるのが遠くに見えた。


 街を囲む城壁の上、櫓も兼ねている場所からレギャニに向かって怒号が飛ぶも、当のレギャニはそれどころでは無い。


 ギルドに来た情報と違い、レギャニを追うバジリスクは三匹居るのだ。止まったら瞬殺されてしまう。


「閉門急げぇー! 領軍は出てこない! ハンター達頼む!」


 人の収容が終わって門が急いで閉じられる。門の前に居るのは私達を除いて三人組二つ、四人組一つにソロ二人の十二人に私達を入れた十五人だ。

 ガノドライグの奴、領軍出さないのかよ。


 集まった皆は腕に自信が有るハンターなのだろうけど、遠くに見える敵影は情報と違い三匹居るバジリスクに顔色が悪い。本来上級ハンターが数人で戦いやっと一匹仕留められるらしい魔物と、三匹一度に戦わなくてはいけないのだから当然かも知れない。私達を除いて。


「いやったぁー! 三匹居るよ! あれだけ探して居なかったのに!」

「うふふ、お腹いっぱい食べれますわ」

「一人一匹処理しますか? 彼らにも譲りますか?」


 一組だけ歓喜しているパーティに、他のハンターは悪ふざけしている風に見えたらしく、ほぼ全員が睨んできた。


「おい嬢ちゃん達、ふざけてんなら帰んな! これからここは地獄になんだよ!」

「んー、それなら三匹とも貰っていい? お兄さん達こそ帰って良いからさ。門閉じてるけど」


 ちなみに私達はヴァルキリードレスを装備したままだけど、普通に見たら戦闘用の格好には見えない。


「けっ、んなら先やらせてやるよ。アンタらくたばった後で俺らが街を守る」

「ほんと!? 言質とったからね?」

「お嬢様、それより先にレギャニとやらから許可を得るべきです」

「え、あんな全力で逃げてるんだし良いんじゃないの?」

「念のためです」


 門まであと五十メートル程まで、街道を全力で走るレギャニに向かって、拡声魔法で一応聞いてみる。


『おい雑魚助ー! その三匹貰っていいー?』

「くれてやるわよ馬鹿ー! 早く助けてぇぇぇえ!」


 快諾されたので戦闘準備に入る。よし、バジリスクが食べれるよ!


「リーフェ、一応お兄さん達の防御と、後ろの二匹の足止めお願い。リリア、フェミが止めて雑魚助を助けるから、ブチ抜いて。リーアはその辺飛んでて!」


 二人の返事は確認せず、私はレギャニに向かって走り出す。

 本当に全力の全力で走っているだろうレギャニは限界で、そろそろ足がもつれそうなのだ。

 レギャニを追うバジリスクの先頭との距離も一メートル程しか無く、真後ろに迫る殺意には肝が冷えていると思う。


「雑魚助走れぇー! エーテルシールド最大出力!」

「はわわわわぁー!」


 ついに限界を超えて転んでしまったレギャニと、やっと獲物に齧りつけるバジリスクの間に割って入る。

 バジリスクは個体によって色が違う。目の前のバジリスクは真っ黒で、巨大な蛇に足が生えた様な体をした化け物だ。


「クァァァァアアアアッ!」

「へいバジリスク! スイカ割りしようぜ! スイカはお前の頭な!?」


 エーテルシールドでバジリスクの噛み付きを止めて、転んだレギャニも門の方へ蹴飛ばして距離を取らせる。

 後ろに走ってきたリリアは門に向かって飛んでいくレギャニを躱してアーツを起動した。


「アーツ、マグナム猫パンチ!」


 リリアが私の前に出て、拳を腰だめに構えた瞬間に合わせてエーテルシールドを消す。

 止める物が無くなったバジリスクの頭部が、弾かれたようにリリアに向かい、リリアもまた拳撃を放った。


 次の瞬間、鳥肌が立つような音がして、バジリスクの頭部の上半分が消し飛んでいた。


「さすがリリア、牙も素材だからね」

「うふふ、当然ですわ」

「リーフェ、足止め解除! リリア右お願い」


 後ろで触手魔法に絡まれている白と緑色のバジリスクが自由になり、私は緑のバジリスクに肉薄した。


「デスサイズ!」

「アーツ、マグナム猫パンチ!」


 私はデスサイズでバジリスクの頭を縦に裂き、リリアは先ほどと同じ様に頭頂部を拳撃で爆散させていた。


「リーフェ血抜きおねがーい!」


 リーフェの血抜き魔法三重展開でスグにお肉が美味しく食べれるようになり、そのまま血抜きの水に魔力を流して巨大化させて、バジリスクを包み込んで門まで運んでくれる。いやー、仕事に無駄が無いね。さすがリーフェ。


「雑魚助良くやったよー! 取り分あげるからねー!」

「な、は、はぁ、え? なに、今のどうなったの? え、バジリスクは?」


 門の前でリーフェに抱き留められたレギャニは大混乱をきたしていた。近くに居るハンター達も同じだ。

 私はリーフェに下ろされたレギャニの元まで走って、とにかく褒めた。


「いや本当に良くやったよ! どこに居たのあのバジリスク? 凄い探してたのに全然居なくてさ、お手柄だよー! 街まで持ってきた事怒られたら、フェミ達に押し付けて良いからね! バジ肉食えるぅー!」


 門が閉じた壁の上、後詰をするつもりだったのか大量の兵士が弓を構えたまま放心していて、構えていたハンター達もやっと再起動した。


「な、はぁ!? どうなってんだ!」

「え、なに? 三匹ともくれるって言ったよね? 今更変な事言わないでよ? 取り分は雑魚助にあげる分だけだよ」

「ちげぇよ! 何をどうやったらバジリスクが一撃で倒せるんだよ! アンタら何やった!?」


 何と言われても、殴ったり斬ったりしただけである。


「そんな事より、門番さぁーん! 門開けてー! バジリスク傷んじゃうからぁー!」


 大声で門の向こうに呼び掛けて、固く閉じた門を開けてもらう。はやく、はやく解体場で解体してもらってお肉食べるんだい!


「くぅ、お昼食べなければ良かったね!?」

「ある程度は保管しておきましょうか。············ああ、城を出たから場所が無いんでしたね」

「そうだった! 空間魔道具をお肉用に作っちゃう!? ティターニオ様の食器魔道具を参考にして作れば、食品用の空間保存魔道具作れるかも知れない!」


 門が開いたのを確認して、私はリーフェとリリアにバジリスクをお願いして、ファクトリーを起動した。


 メリルとルフィア用に作った装備保存魔道具は、元祖とは違ってファクトリー産以外のアイテムも入れられる。

 なにせファクトリーの修理用擬似倉庫使ってないからね。


 デザインするのは誰もがよく知るタブレット端末。タッチペンを長く作った他はイメージそのまま。


 機能は、タッチペンで保存したいアイテムを触ると端末内に保存出来る他、画面を操作して収納物のリスト化、状態確認、収納の空き容量の確認、保存した物の排出が行える。排出は収納と同じくタッチペンの先に収納物が出てくる仕様だ。


 あ、これ容量別でいくつか作れば売れるんじゃない?


 今作ったのは魔石に適当な晶貨を五つ使って百五十キロほど入る物だけど、五キロ仕様、十キロ仕様、五十キロ仕様と複数作れば用途に合わせた人が買っていきそう。


 物流にも影響を出しそうだけど、ビークルと違って事故の恐れが無いから、これは商品にしちゃおう。うん。


 ティターニオが使っていた、特定範囲の時間の流れを遅らせる鮮度保存魔道具を参考にして、亜空間の中の時間を極限まで遅らせる事にも成功しているから、ほぼ完成したと思っていいだろう。


 このティターニオの時間遅延の魔法式は、禁魔法のティリアの遡生と違い、不可逆な時間の流れに逆らうのでは無く、あくまで遅くしているだけなので、もちろん大変で難しい構築式では有るけどリスクは無い。


 本当にティターニオ様々だった。


 私は出来上がった試作品をロールアウトして、バジリスクを持っていったリーフェ達の後を追う。


 集まっていたハンター達は、リーフェ達について行ったのか姿は無く、レギャニだけは後ろを歩いて来た。


「ん? どしたの?」

「ひぅ、なんでも無いわよ!」


 なんでコイツ私に着いて······、ああ、分け前あげるって言ったもんね。七級じゃ逃せない話しか。


 まぁ今渡しても良いんだけど、どうせならバジリスク換金した後そっから出した方がいいよね。獲物から生活の糧を得るのがハンターなんだし。


「リーフェ、どうなったー?」


 タブレット作りに結構時間を食ったので、リーフェとリリアは既に解体場へバジリスクを預けて、ギルドの酒場に居た。


「驚かれましたが、肉以外は全て売りに出すと伝えて解体中です。保存の魔道具は完成しましたか?」

「うん、何とかね。取り敢えず試作品がこれ」


 私はタブレットをテーブルの上で滑らせてリーフェに渡し、椅子に飛び乗る様に座る。レギャニが所在なさげにしてるけど、どうしたのよ。


「············座れば?」

「ぁう······。す、座るわよっ」

「分け前は待ってね。解体中らしいから。それよりバジ肉どこで食べる? 街の外で焼く?」

「この酒場で焼いて貰うのも手ですが」

「今回は振る舞わないのですか?」

「うーん、バジ肉が貴重だって気付いたからね。保存できるようになったし、取っておきたいかな」


 縮こまっているレギャニには触れずに会話を進める。どこでバジ肉を食べるかが問題だ。


 バジリスクの騒ぎでギルドの中は空気が熱くなり過ぎていて、渦中の私達には無遠慮な視線が突き刺さっている。

 この中でバジ肉を食べるのは嫌だ。絶対だれかご相伴に預かろうとして来る。


 そんな理由で食べる場所を議論していると、強面パーティがまたやって来た。


「嬢ちゃん達、ホントにバジリスク倒したんだってな!?」

「ふぇ? あー、うん。倒すの自体はいつもやってるし。それよりバジ肉だよ! やっと手に入ったんだよ!」

「······本当に美味いのか?」

「あげないからね! 食べたかったら自分で狩ってきて」

「あ、お姉様。昼食は食べましたし、夕食に回しませんか?」

「そうしよう! お腹いっぱいバジ肉食べるよ! リーフェもだからね!」

「ふふ、私は今回一撃も入れていませんので、給仕をさせて頂きますよ?」

「ああしまったっ! リーフェ休ませるんじゃなかったっ······!」


 強面パーティもさり気なくテーブルに座り談笑が始まるが、未だにレギャニは小さくなっている。

 それに気が付いた強面パーティのリーダーが、レギャニをつついて弄り始める。


「おいレギャニ、嬢ちゃん達に助けられたんだって?」

「な、何よ! あんなの勝てるわけ無いじゃない!」

「あんな啖呵切った相手に助けられたんだろぉ? いつも威張り散らしてる癖によぉ?」

「う、うるさいうるさい!」


 強面リーダーによると、レギャニはいつも八級以下のハンターに威張って居るらしい。

 今日は子供パーティに威張ったところ、超格上の私達だったと。


「············雑魚助、恥ずかしくないの?」

「う、うるさぁい! 普通子供がそんなに強いなんて思わないじゃない!」

「いや、そこじゃなくてさ。格下に威張り散らして、どう言うつもりなの? もしその相手に後で階級抜かされたら、相当惨めじゃない?」

「抜かされないわよ! 頑張って階級あげるわよ!」

「いやだからそこじゃ無いんだってば」

「············どっちが子供か分かんねぇぞコレ」


 話しをしていると、結局強面パーティがバジ肉パーティーに参加する事になった。ちくしょう! コイツら懐に入ってくるの上手いぞ!?


「それで、バジリスクっていくらになるんだ?」

「一匹、三百六十万リヴァルくらいだっけ?」

「今回は三匹なので、一千万弱でしょうか?」

「いっ、せんまんっ······!?」

「雑魚助にはいくら渡そうか? 百万くらい?」

「ひゃっ!?」


 うーん、少ないかな? でも釣ってきただけで多く渡すのもなー。


「報酬代わりに武器などどうですか? お姉様のお作りになる武器は、どれもこれも一級品ですから」

「んー。いや実力が無い人に渡して無理されるのも嫌だし、難しい所だよね」

「アトリエの銃なら丁度良いのでは? あれは実力が関係ありませんし。当てる練習だけです」

「いや、弾がアトリエでしか買えないじゃん。魔力を撃ち出すハウンド系渡しても、雑魚助の魔力だと一発撃つと気絶しそうだし」


 流石に魔力を撃ち出すタイプは、まだ循環システムで生み出せる魔力では作れない。ハイブリッドでも良さそうだけど、魔力量で扱いに差が出るものはやっぱり表に出したくない。


「ぶ、武器も報酬も要らないわよ! 助けて貰った事くらい分かってるもの!」

「あ、そう? でも、こっちもバジリスク探してて助かったのは事実なんだよねぇ。何か希望とか無い? 実力も財力も権力······、はさっき捨てちゃったけど、コネも有るし、大体叶えてあげられるよ?」


 一応ジークザーロに上級貴族として認められて居るから、権力も有るっちゃあるけど、新興貴族だしなぁ。


「············なんで、あんなに強いのよ」

「······ん? あー、強くなりたいの? じゃぁ訓練用ゴーレムでも貸してあげよっか?」

「······何よそれ」

「みんな知ってるか分からないけど、白銀の翼ってパーティ居るでしょ? あの人達育てるのに使った、人造の魔物って言えば分かるかな? 怪我くらいはするけど、危険は少ないけど普通に強く作ったから、訓練の相手には持ってこいだよ」


 そんな私の言葉に、聞いて居た周りのハンター達も騒ぎ始める。

 あれ、ゼルビア達ってそんなに名前売ってたの?


「おい今、白銀の翼育てたとか······」

「レイナの姐さん達をか······?」

「······あ、俺見たことあるぞ。ゼルビアさん達が門の前あたりで、黒髪の子供にペコペコ頭下げて、師匠とか言ってんの······」

「それなら俺も······、たしか前の水の季節の終わりくらいだったか?」


 予想以上にゼルビア達はトライアスのハンターに人気だった様だ。元々私達を助ける為に、ドラゴン型にまで突っ込んでいったパーティなのだから、お人好しなのは分かるけど。

 きっとこの人達も、何かしら助けられたんだろうなぁ。


「あ、アンタ達、白銀の翼の知り合いなの······?」

「ん? 一応、白銀の翼の師匠してたよ。フェミがゼルビア教えて、リリアがジェイドを教えて、リーフェがレイナの面倒見たね。ゼルビア達の白銀の装備を作って贈ったのもフェミだよ。一番強いゴーレムを倒せたお祝いにさ」


 リリアもリーフェも、その時を懐かしむような顔になり、三人思いを同じにする。たった半年しかたってないけど、なかなか楽しかった。

 話しを聞いているレギャニは顔色を変えて清聴して、強面パーティの人達も真面目に聞いていた。強いパーティの強さの秘訣、気にならないハンターなんて居ないのかも知れない。


「そ、そのごーれむって奴と戦えば、強くなれんのか?」

「し、死んだり、しないの?」

「うーん、物凄く運が悪かったり、動きが悪ければ死ぬ事もあるよ? 偽物とは言え、でかい竜の下敷きになって生きていられる? 無理だよね。そう言う事故が起きない様に、倒すより上手く動く事を意識して戦うんだよ」

「生きてさえ居れば、強くなれますからね」

「事故にさえ気を付ければ、あのゴーレム達は致死性の攻撃はしてきません。死ぬ程痛い程度です」


 そう、死ぬ程痛いだけである。爪や牙をパラライズを施したエーテルで覆って、搭載したAIが攻撃を調整して致死性の攻撃を避ける。

 そうやって徹底的に攻撃の数を捌かせて動きを良くするための訓練方法なので、食らっても良いやと開き直らない程度には痛くしてある。


「話しは聞かせて貰った!」


 ゴーレムの説明をしている私達のテーブルに、更に別のハンターパーティが現れる。五人組で全体的に若い、声を出したリーダーらしき男も見た感じ二十代前半に見える駆け出しハンターといった見た目のパーティだった。


「············だれ?」

「······兄さんっ!?」


 私が首をコテっと傾げると、テーブルに居るレギャニが声を出して驚いている。実は兄妹でしたパターン多くない?


「ぶっちゃけ殆ど話しは聞いていなかったが、聞かせて貰った! ハンター同士で助け合い、階級を上げるんだな? いいぞー! いい事だ!」

「兄さん、中央に居たんじゃ?」

「今帰った! 王都で凄い店があってな、そこの武器を使って三級にまでなれたから、一度帰ってきたのだ! 見よ! この······、なんだったか?」

「··················ジェノピクシーだよ。そっちの人の奴はジェノバンシー」


 レギャニと同じ髪色、同じ髪型の兄貴ハンターが腰から抜いたのは、アトリエで売っているエーテルハンドガンの『ジェノピクシー』で、後ろのメンバーの一人が装備しているのはエーテルアサルトライフル、『ジェノバンシー』だった。お買い上げ、ありがとうございます。


「おお、そうだった! ジェノピクシー! なんだお嬢さん、詳しいな? この武器はな、王都で名を上げているヴァルキリーと言うパーティの頭が、ハンター達の為に作ったと言われる武器なんだよ」

「全然会えなかったけどな! なんでも、幼い貴族と従者で出来ているパーティらしいぜ。全員が全員化け物見てえに強くて、王都の三級ハンターのバーゼルさんなんか、死にかけにされたってよ」

「貴族なのに気さくで、この武器買った店もほとんど平民の為に開いたって言う話しでよ。つえーし優しいし、是非会ってみたかったんだが······」


 レギャニ兄のパーティの面々が褒めてくれるけど、目の前。目の前に居るよ!

 話しを聞いているリリアもリーフェも誇らしげにしていて、私は背中がむず痒い。王都のハンターギルドで私達の評価ってそんな感じなんだね。


「ふふふ······、やはりお姉様はどこに居ても人気なのです」

「ええ、当然でしょう。お嬢様なのですから」


 何かを察したらしいレギャニがチラチラと私を見るけど、正解だよ。強面パーティも話しの初めくらいで察している。


「弾もたんまり買ってきたし、トライアスでも暫く仕事できるぜ」

「コイツは本当に凄い武器なんだぜ。信じられるか? 弓より強いのに連射が出来るんだ。すんげぇ速度で弾がどんどん撃てるんだよ」

「はは、お前弓使いなのに弓捨てたもんな」

「るっせぇ。頭なんか剣捨てたじゃねぇか」

「捨ててねぇよ! 主武装と副武装が入れ替わったんだよ! ほら、まだ腰に提げてるだろが!」


 兄ハンターがジェノピクシーと、腰に吊るしてあるショートソードを強調する。

 出来れば剣士はそのまま育って欲しいところだけど、銃に魅入られてしまったなら仕方ない。そのうち剣の良さにも気づくでしょう。

 もしかしたら彼らは、ギルドマスターが言っていた『燻っていた中級』なのかも知れない。アトリエの銃を持った途端に階級を上げた中級が数組居たと、準特級のギルドカードを受け取る時に聞いた。


「に、兄さん。三級になったの?」

「おう! お前に追い付かれるつもりは無いからな。で、お前は何級になったんだ? もう四級くらいにはなったのか?」

「················································えっと、な······ぅ」

「ん? なんだって?」


 うわぁ、やめたげてよぅ。

 強面パーティと私達は物凄く可哀想な人を見る目でレギャニを見てしまう。重い期待の中で、まだ下級ハンターですなんて言えないよね。


「············な、きぅ············」

「······あん? 聞こえねえよ。もっとハッキリ言えや」

「············ぅぅぅうあぁぁぁあああっ!」


 レギャニが遂に泣き出してしまった。本当やめてあげて。

 

「······悲惨だぜ」

「本当にね。······早く解体終わらないかな。逃げ出したいこの空気」


 私の願いが届いたのか、渦中に飛び込む勇者······、職員のお姉さんが書類代わりの木札とお金の入った革袋を持って割って入って来た。

 このグループに話し掛けるの凄い嫌だったろうお姉さんは、決心した顔でテーブルまでズイズイ来て、頭の私の前で止まり要件を口にする。


「バジリスク三匹、解体が終了しました。つきましては、討伐者様のご指示通りの部位の戻しと買取りを行いますので、コチラをご確認ください」

「ん、ありがとうございます。えーと、お肉だけ戻しで、総額一千三百······、あれ? 多くない?」

「緊急発生の指名任務扱いにさせて頂きました。ギルドマスターのご指示です」

「なるほど。それ、門に集まってたハンター達全員に?」

「······いえ、討伐者のみですが?」

「フェミ達が結果的にバジリスク全部貰っただけで、あの人達だって相応の覚悟をして集まってたんだよ。ギルドから少しくらい何かあっても良いんじゃないかな?」

「············はい。ギルドマスターに進言しておきます」


 木札の内容を確認して、不備が無いので職員さんからペンを受け取り、木札にサインする。

 肉の総量が思ったよりずっと多かった。タブレット一つじゃ足りないな。


「確かに署名頂きました。フェミリアス様、リリアライト様、リーフェリアル様。此度は危険な魔物の討伐、誠にありがとうございました」

「いやいや、気にしないで。バジ肉食べたくて探してたくらいなんだし」


 お姉さんが晴れやかな顔で帰っていくのを見送ると、レギャニ兄パーティが口を開けて居たけど、取り敢えず無視である。


「思ったより貰えたね。じゃぁほいっ、雑魚助に虹晶貨どーん!」

「うぁ、きゃぁぁぁぁああ!? こんな所でなにしてんのよ! 柄の悪いやつに狙われちゃうでしょ!」

「そんな事になったらフェミに言いなよ。そいつ等を狩る側から狩られる側に突き落としてあげるから」


 私達が仕舞わないもんだから、雑魚助は懐に虹晶貨を隠すしかない。そしてそれは受け取る事と同義なので、報酬はこれで良いかな。


「もう一本いる?」

「要らないわよ!」


 解体が終わったから、やっとバジ肉食べれる。そう思って移動しようとすると、レギャニ兄がやっと再起動した。


「ば、ば、ば、ばじ、バジリスクとか言ったか!?」

「三匹!? なんの冗談だ!?」

「············兄さん達、まだ気付かないの?」

「相変わらず察しの悪い奴らだぜ」


 分かっていないのは、私の服装もあるかも知れない。リリアのリリアライト・プリンセスとリーフェのリーフェリアル・ウィザードは、リーフェが男装と言う事を除けば貴族に見える物だけど、私のフェミリアス・タナトスは、翼を消しているし、ただのちょっと豪華な異色な衣装である。


 そう思ってネックレスを叩き、一度ドレスアウトして貴族然としたドレスに戻る。すぐにエーテルドレスを起動するのも忘れない。


 突然の変身にみんなが驚く中、リーフェとリリアも私に続いてドレスアウトとエーテルドレスのキーワードを口にした。

 リリアは元々、プリンセスの参考にしたドレスなのだ大きな変化は無かったけど、リーフェはタキシード姿から品の有るメイド服になる。


「な、おいまさか······」


 タキシードも執事に見えただろうけど、ハッキリと貴族令嬢と側仕えになった事で、やっと何事かを察したらしいレギャニ兄のパーティに、椅子から立ち上がり、カーテシーを一つして見せた。


「ふふ、初めまして。ヴァルキリーの頭をしているフェミリアス・ヴァルキュリアだよ」



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