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休暇前の色恋騒動。



「あら、不名誉な噂とは、随分な物言いですわね?」

「そうですわ。フェミリアス様に失礼だと存じます」


 部屋の隅から声をあげたイオの妹に、私を囲んだ女子が壁になって睨み返す。


 良く分からないけど、でかしたブルボア二号! そのまま時間を稼いでね!


 私は今のうちにルフィアを撫で回して、満足してとろけるまで甘やかしてから騒動に参加した。リリアは状況を静観していた。


「お兄様は中領地四位の方に、懸想など致しませんわ!」

「フェミリアス様は領地の位など関係ない程に、王家に貢献されていらっしゃいますわ。トルザークこそフェミリアス様には不足では無くって?」

「馬鹿な事を言わないで下さいませっ!」


 熾烈になる女子の言い合いに、男子は教室の壁際まで移動して我関せずと言った顔になった。どこの世界でもこんなもんだよね。


「あの、盛り上がっているとこ悪いけど、フェミとイオ様は何でも無いですよ? 確かに求婚はされたけど······」

「やっぱり! 噂は本当だったのですね? あぁ、では卒業後はトルザークに嫁ぐのでしょうか?」

「まぁまぁ、是非婚約の儀にはお呼びくださいませ」

「嘘です! お兄様はっ······!」


 私の前半のセリフは聞こえてなかったのか、女子達がヒートアップする。いやいや、何でも無かったんだって。


「トルザークには行かないし、イオ様とは夫婦になる予定は無いよ。求婚といっても、この髪飾りを贈られたのと、初めてお会いしてご挨拶した折に、社交辞令で言われたものだし······」

「フェミリアス様はご存知無いかもしれませんが、イオシュマイア様は在学中、誰一人として社交辞令のご冗談でも求婚などされた事がない方なのですよ」

「そうなのです。それを装飾品まで贈られて居たなんて······、イオシュマイア様が好意を見せた初めての相手がフェミリアス様なのですよ?」


 初耳なんだけど。イオ様すっごい慣れた感じだったし、誰にでも言っているんだと思っていた。

 断った時に惜しまれた反応は、実はガチだったのかな? なんて。


「嘘をつかないで下さいませっ! お兄様はそのようなっ······!」

「あー、じゃぁ本人に聞いてみようか? 求婚自体はホントで、今は何でも無いってさ。イオ様にコールすれば良いんだし」


 私はリリアの所に居たリーアを呼び、拾った子から手紙を受け取り名前を調べた。


「えーと、うわ、何でみんなフェミの名前付けるのさ。リーア、コールフェミリィ」


 私の自意識過剰じゃ無ければ、フェミリィって私の名前から取ったでしょこれ。リリアとルフィアに続いて三人目である。


『繋がったか。フェミか?』

「イオ様、お久しぶりですね」


 教室に広がったイオの声に、女子のボルテージは最高潮。

 その声が届いているであろうイオはビックリしているが、現在の時間から貴族学校の中でコールしたいると分かってくれた。


『ふむ。まぁ良いだろう。久々に声が聞けて嬉しく思うぞ』

「ふふ、フェミもですよ。でもイオ様の声、なんだか疲れてません?」

『············分かるか? 領主業とはなかなか大変なのでな、疲れは溜まっているようだ』

「······休まないとダメですよ? 倒れたら魔道具で治しに行ってあげましょうか?」

『ふはっ、それでは倒れてみるのも悪く無いではないか。やめてくれ。それで、何か用があったんだろう?』

「えーと、イオ様とフェミが、その、恋仲とか、そんな噂があるみたいなので、それを解消するために御本人から、一言貰おうかと思いまして······」

『············誰だそんな下らない噂を流した者は。この声は教室の皆に聞こえているな? いいか、在学している貴族達よ』


 イオは丁寧に、私とリオンの部屋で会ってから紫髪の馬鹿が起こした騒動までを聞かせた。

 ちなみに今は昼の鐘がなった後で、この後昼食になる。


『そういう訳で、私がフェミに求婚まがいの事をしたのは事実だが、連座の危険があったあの時、そんな戯言に意味は無くなったのだ。妻になってすぐ処刑台など、冗談では済まないだろう?』

「本当に連座になったら、助けに行くつもりでしたけどね!」

『······本気だったんだな。ところで、贈った花の髪飾りはどうしたのだ? 捨ててしまったか?』

「まさか。今でも髪に付けてますよ。可愛くてお気に入りなんです」


 見えてないだろうけど、今も付けている髪飾りをリーアに向けて見せる。前世含めても初めて貰った男性からの贈り物だ。捨てる訳ない。

 私は中学でクラス中にポッキー配っても、ホワイトデーには存在が忘れられていた程の女だぞ?


『············そうか。······だが、それを付けてるから噂が出たのではないか?』

「えー? いや皆これがイオ様からの贈り物だって知りませんでしたし、関係無いですよ。気に入ってるんだから、イオ様に捨てろって言われても捨てませんからねっ!」

『······ふふ、まぁいい。フェミの声が聞けて息抜きになった。またコールしてくれ。リオンも忙しそうで構ってくれんのだ』

「はーい。気が向いたらコールしますね」


 そんなやり取りを最後にコールアウトして、私はドヤ顔で教室を見渡した。ふふ、これで噂もクソも無いだろう。なんせ本人が否定してくれたのだから。


「このように、イオ様とフェミは何でも無いから、皆噂で盛り上がっちゃダメだよ?」


 せっかく誤解を解いてあげたのに、イオの妹は青い顔で立ち尽くしていた。周りの女子もなんか雰囲気がおかしい。


「あの、何でも無いとは、『なんの問題も無く恋仲』と言う事でしょうか?」

「··················え、え!? な、なんでそうなったの? たった今違うって本人から······」

「いえ、あの様に仲睦まじい様子を聞かされて、恋仲で無いと言われましても······」

「求婚が事実で、問題があって嫁げないだけで仲が宜しい事しか分からなかったですわ······」

「なんで!? 違うよ!?」


 なぜ誤解が解けていないのか、私は必死に弁明していった。

 みんなが昼食を取るために散り散りに去っていく中、私はイオの名誉を守るのだった。


 私みたいな喪女がイオの恋人なんて噂が立ったままなのは、イオが可哀想である。これから領主の仕事を学び、領主を継ぎ、お嫁さんだって探して迎えなければいけないのに、こんな噂が残っていたらダメだろう。


「ちょっと、みんな、違うの! 違うんだってばー!」


 私はそれから誤解を解いて回る日々を過ごすも、また別の案件が降って湧いてきた。どうやらヴァルキリーの噂が本格的に学校に出回っているらしく、男子が私達にお願いをしてきた。


「どうか、魔物討伐に連れて行ってください!」


 休暇も目前、朝食を珍しく食堂で食べていた癒しの日。学年入り乱れる貴族の男子に囲まれていた。


「あの、え?」

「皆様は、ハンターとして王都周辺の特に危険な魔物を討伐して回っていると聞きました。是非我々も連れて行って貰えないでしょうか? 騎士志望も多く、後に領軍や騎士団に所属して魔物と戦う事もある我々に、どうか学ぶ機会をっ······!」


 今日は確かにこれから、ハンターとして朝から魔物狩りに行く予定だけども、なんでこうなった?


「そして、一番勇敢だった者に······、ぜひ望む相手と食事をする機会を頂きたいっ!」

「私はフェミリアス様と!」

「リリアライト様! 是非私と食事をっ······!」

「シュリルフィア様あー!」

「メリル先生! どうか私の妻になって頂きたい!」


 あ、もしかしてコイツらヴァルキリー教の行動派の連中か!?


 ヴァルキリー教は早くも内部で派閥が出来ているらしく、積極的に私達と関わり妻としたい行動派と、絶対に迷惑は掛けないように仲良くして行きたい友好派、さらに見ているだけで幸せ静観派の三つになっているとメリルから聞いた。


 メリルは魔法学で仲良くなった生徒からちょくちょく情報を仕入れて来てくれるのだ。


 行動派のリーダーはさっきまで頭を下げてお願いしていた奴らしく、友好派はなんとシェネルートがリーダーらしい。静観派はまだ分かっていないが、中級組に居るらしい。


 シェネルートは下級貴族だが、私達と度々登校しているのが神格化して、派閥の頭に祭り上げられている。


「あの、連れていくのは構わないのですが······、流石に人数が······」


 今日これからカチコミを掛けるのは、いつもと違って少し気合がいる場所なのだ。

 バーゼルにフラムヴェルの料金代わりに情報の収集を依頼してて、ついにワイバーンのガチ情報を昨日手に入れたのだ。


 しかも群れらしく、裏を取りに行ってきたバーゼルの顔は真っ青になっていたくらいなので、あまり多く連れていくと守りきれないかもしれない。


 なので条件として、合図してから王都の正門まで走って、辿り着いた先着十五名のみ連れて行くと言うと、みんな準備運動を始めた。


「えーと、まぁ交代で守ろっか」

「行きはどうするの? 飛んで行く予定何でしょ?」

「ビークルを使うのですか?」

「あー、そうだね。ビークル使おうかー······。いや、リーフェにフェアリーリング多重展開して貰って何とかならないかな?」

「畏まりました。しかし帰りは? 群れを討伐して持って帰るのにフェアリーリングを使いますが」

「······それは自動で動くビークルでも使って、王都の近くまで勝手に来てくれるようにしよっか。みんな連れて帰ったら取りに戻ってもいいし」

「ゴンちゃんに運んで貰う? フェミちゃんがゴンちゃんの持てる大きい椅子とか作ってくれれば、運べるよ? 背中にはルフィア乗るの」

「それだ!」


 みんなが乗れる自走のゴンドラを作って、ゆっくり王都を離れた後にゴンちゃんに運んでもらおう。速度さえビークルで出さなければ良い。


 急いで昼食を食べて、武器を携えた男子含め全員で寮の前に集合し、私達ヴァルキリーは変身する。


「死よ嗤え」

「へ、へんしん、にゃんっ······♡」

「我が名はウィザード」

「ルフィアの眷属よ、ここに集え!」

「吹き荒れろ大災害!」


 総勢五十三人の貴族男子の前で変身する事に、リリアだけは真っ赤になって居た。

 男子全員からは皆の衣装が変わった事に驚き、可愛くなった事に歓声が上がった。真っ赤になって可愛いリリア推しからの声が一番でかい。


「それじゃ、ヴァルキリーは先に門の前で待ってるからね。馬車とか使わないで己の体一つで来るんだよ?」


 ルフィアはニャンニャンを召喚して、リーフェと一緒にフェアリーリングで空を飛ぶ。

 私とメリルは翼で飛び、リリアはプリンセスに登録されている技、アーツを起動して空を走る。


「お姉様が作ってくれたこのアーツは、とても便利ですわ」

「ふふ、リリアだけ空中移動出来なかったからね」


 足の裏で空気中のマナを一瞬固定して足場にするシステムをリリアライト・プリンセスにアップデートして置いたので、今はみんな空を移動できる。


 昼も向こうで摂る予定だけど、野営装備は持っていない。

 食料は現地で狩れば良いし、火も水も魔法で出せる。

 一応煤けない金網を小物用腕輪端末に入れてあるので、現地で岩を砕いてバーベキューに出来る。


 そして王都街壁の正門前に空から降りてきた私たちは、今や門周辺の人にとっては日常なので大して驚かれなかった。


「勇敢だった者と食事、ですか」

「いや、戦わせる気ないし。相手ワイバーンの群れだよ?」


 心配するリリアだけど、さすがに賢者の石も無い貴族の子供に戦わせられる相手では無い。悪いがゴンちゃんが持つゴンドラの中で観戦しててもらおう。


 私はまだ姿が見えない男子達が来るまでゴンドラの設計をしながら待つと、人混みを掻き分けながら凄い顔で走ってくる貴族男子が数名見えてきた。


「超本気で走ってんだね」

「そんなにお姉様と食事がしたいのですかっ!」

「いやリリアもだからね?」

「フェミちゃんの人気が一番だょ」


 ルフィアがレオ君とシマちゃんを出しながら面白く無さそうに言う。ルフィアはそのままレオ君の背中にメリルと乗って、シマちゃんにはリーフェとリリアだ。私は男子用のゴンドラを運転する。


 私は一人先に門の外に出て、男子の誘導は皆に任せてゴンドラを召喚する。


 ゴンちゃんが持ちやすい様に頭頂部に取っ手を付けた二十人乗りの、観戦しやすい様に窓を大きく作ったタイヤ付きのゴンドラは、エーテルシールドを自動で最大出力展開する機能を付けている。


 ぱっと見バスにも見えるゴンドラの運転席を見て不備が無いことを確認しているうちに、突発的持久走大会は終わったらしく、選ばれた十五人が汗を滝のように流しながら門をヴァルキリーと共に出てきた。


「みんなお疲れ様。まずは汗流しちゃおうね。目を閉じて口閉じてねー」


 私は男子をまとめて洗浄と乾燥のいつもの魔法で綺麗にしたあと、ゴンドラの中に案内した。

 初めて見る乗り物に疲れながらも興奮して、ふっかふかの長椅子にも喜んでくれる。


 それから私が運転席に座り、アクセルを踏み込んで馬車くらいの速度で走り出すと、さらに男子が騒ぎ出した。それからレオ君とシマちゃんに並走されながら適度に王都から離れて、街道に人気が無くなったら停車する。


「よし、この辺で良いかな。みんなはまだ乗っててね。今からビックリするけどなるべく気にしないでね。ルフィアー」

「はーい。デストロイドラゴン! ゴンちゃんアレ持って飛んで!」


 ルフィアのキーワードでリーサルスロットに内蔵された殺戮用ゴーレムが召喚され、ルフィアのお願いを聞いていゴンドラを持ち上げた。


 ゴンちゃんは高さ二十メートルを超えるガチのドラゴンで、青銀に輝く鱗は一枚一枚が尖っていて、かっこ悪い表現をすると何かを荒く擦りおろせそうな体表をしている。

 翼も骨格に翼膜を貼ったタイプのもので、周囲のマナに反応して飛行できる。

 鰐の様な口に二本の角が頭から後頭部に向かって斜めに生え、その双眸は蛇の様に割れている。


 貴族男子の悲鳴を無視して私はゴンドラから出て空を飛び、陸路を止めて空を飛ぶみんなを先導して飛んでいく。速度を調整しずらいリリアは私の横まで来たり後ろに下がったりして付いてくる。


 突然のドラゴン出現と、急に味わう浮遊感に絶叫していた男子達もすぐ飛行に慣れ、今では悲鳴の代わりに歓声をあげている。


 目的の場所は前回バーゼルに伝えられた山なのだが、私があの時行った山は間違っていたらしい。そりゃ居ないわけだよ。


 しばらく飛んで目的地が見えると、山の麓に少し開けた場所が見えたのでそこに降りる。


 ゴンちゃんに一度ゴンドラを降ろして貰って、ゴンちゃんから飛び降りたルフィアも抱き留める。

 朝の鐘から既に火の鐘が鳴る時間になっていて、少し早いけどお昼にする事にした。


「よし、みんなでお昼狩ろう! 周りには······、ブルボア四頭に、メティア十二羽。あと一応ヘゲナ居るっぽいね」

「ヘゲナ!? 上級の魔物ですね!」

「うん。ヘゲナ美味しく無いから、フェミがすり潰して埋めて来るね。バジリスクより安いしコイツ要らない。ヘゲナよりブルボア食べよう! バジリスク居ないのは残念だなぁ······」


 十五人の男子を五人組三つに分けて、リリアとメリルとルフィアに引率を頼んだ。

 リーフェには金網を渡してここで食事が出来る様に整えて貰う。


 私が一人でヘゲナを潰しに行こうとすると男子が全員止めてきたけど、ヴァルキリーの面々がヘゲナ如きじゃ私に傷すら付けられないと言って聞かせて、ブルボア狩りに出発した。


 私はその後ろ姿に、「ブルボアさえ狩れない殿方はみんな視界に入らないなぁー」と言うと気合いを入れていた。


 ブルボアは飛び級試験の課題に使われていて、私達にとってはスライム程度の魔物だけど、一般人にしてみたら超強い。

 前世で言うと成体のヒグマよりちょっと強いくらいの危険度で、野生の個体はヒグマより攻撃的で危険だ。


 わざわざ引率を付けたのはその為で、男子だけで行かせると大怪我の可能性も普通にあるのだ。


 まぁヴァルキリーのメンバーが引率しているから、間違っても人死は出ない。


 私はエコーの反応を辿って、全身が燃えるように赤い毛皮が逆立つ大ゴリラ、ヘゲナを見付けて手を振ってみた。


「へいっ、ヘゲナァ! 野球しようぜ! お前ボールでコレがバットな」


 私はデスサイズを出してその場でフルスイングして見せると、知能が高い割には凶暴なヘゲナが、なんと全力のダッシュで逃げ出した。


「は、はぁ!? え、ヘゲナって逃げ出す魔物だっけ!? 相手が勇者でも襲ってくる奴じゃないの!?」


 予想外の事に急いで追い掛けると、リリアが引率している男子にかち合いそうになる。


「やっばいやっばい! あ、野球にこだわる必要無いじゃん! ハイドラァー!」


 私はデスサイズを投げ捨ててツインガトリングを両手に装備、背中を見せて必死に逃げるヘゲナに掃射した。が、掃射した後にデスサイズのままでも斬撃を飛ばせば良かったと気付いた。


「いきなり逃げんじゃねぇーよ焦るだろバカー!」


 蜂の巣にされながらも息があるヘゲナに追い付いて、今度こそその頭にデスサイズを出してぶち込んだ。


「ふぅ、びっくりした」

「······お姉様、大丈夫ですか?」

「ん、ああリリア。こいつフェミ見た途端逃げ出すんだよ? 失礼じゃない?」

「············魔物界隈でも、お姉様が死神として有名になったのではありませんか?」

「魔物界隈ってなに!?」


 私がヘゲナを仕留める所を目撃した男子五人は放心しているが、ブルボア狩らないとご飯ないよ?


「ふふ、さぁ、お姉様のお強い姿は後でまた見れますので、今は狩りを致しましょう」

「は、はいっ!」


 ブルボアを探しに行ったリリア達に手を振って、私はヘゲナの死体を燃やして埋めた。


 それからリーフェの元に戻って昼食の会場設営の手伝いをした。


 リーフェが岩を砕いて、砕けた石を積み上げて網を乗せて薪を入れてバーベキューの準備をしているところで、私はデスサイズで近くの木を切り倒して丸太を作り、焼き台の近くにまで運んで丸太を横たえ、上三割程をデスサイズで切り飛ばして長テーブルを作る。


 ············この長テーブルの真ん中にさ、七輪を等間隔でぶち込んで焼肉とかサイコーじゃない?


「ごめんリーフェ! ちょっと予定変更させて!」


 バーベキューの焼き台を作り上げてしまったリーフェに誠心誠意謝って、変更点を伝えると賛成された。


「十五人も一度に給仕出来ませんから。各々自分で焼いてすぐ食べる、そんな新しいやり方なら貴族らしく無くても受け入れやすいかも知れませんね」

「そもそもリーフェに今日の昼は給仕させないからね」


 野営装備は無いけどリーフェが持ち歩いている調味料から焼肉のタレもどきを作って貰い、私は思い付きの代償で腕輪端末の容量を食う事を甘んじて受け入れ、高性能七輪を十個作る。


 丸太を二つ並べて長テーブルにして、中を各五箇所くり抜いて七輪を嵌め込んだ。

 そのあと座りやすい様に七輪の前を足が入る様に削り、切り飛ばしたテーブルの端材で椅子を切り出した。


 まぁ、大丈夫大丈夫。七輪十個なんてエーテルスーツフルアーム一着分未満だから。


 二人で一つの七輪を使う形で長テーブルに十人座れる。ヴァルキリーも入れて全員で二十人なのでピッタリだ。


 まぁ、座るポジションで戦争が起きそうだけど。


 列が五人四列なので、引率した男子とヴァルキリーを座らせるにしても、六人組になるので上手くいかない。

 それにメリルはともかく、リリアとルフィアは絶対に私の隣を譲らないと予想できるので、その対面三つに隣と斜め前が超激戦区になるだろう。私の対面に座れれば、正面に私、リリア、ルフィアになるのだし。


 悩んでも答えは出ずに、三組ともブルボアを仕留めて帰ってきた。おそらく初めての狩りだったのか興奮気味で、擦り傷など見えるものの皆満足そうな顔をしている。


 リーフェがそのブルボア三頭をすぐに血抜き魔法とフェアリーリングを多重展開して解体していき、木をよく磨いた即席の皿にそれぞれ同量の肉が一口サイズに魔法で器用に切り分けられてテーブルに並べられると、男子の期待値は否応にも膨れ上がる。


 貴族ってこう言うレジャーした事ないだろうし、そりゃ楽しいよね。


 私は先に座らずに男子を座らせて、見事にバラバラになった所にヴァルキリーを座らせた。

 隣に座れなかったリリアとルフィアが物凄く不満気だがしょうがない。

 指を鳴らして七輪に火を入れて、七輪にセットで作っていたトングで焼いて木製のフォークで食べる様に教えて食事が始まる。


 飲み物は魔法で出した水で、前菜も何も無い肉のみの食事だけど、初めての狩りに初めて体験する『焼いてすぐ食べる』と言う行為に概ね好評だった。


 何より、優秀者に贈られるはずのヴァルキリーとの食事がイベントとして舞い込んだのだから、嬉しくないわけが無い。


 メリルは平民だけど、リーフェの指導のお陰で貴族にも品のある対応が出来ているし、私の身内という事で強引に迫られたりしていなかった。そんな事をしたら『不運な事故』が起きて、魔物の餌食となって帰れない貴族が出てくる事をみんな分かっている。


 平和に終わった昼食は、ブルボアを狩るのと解体まで含めたら良い時間になっていて、こっそり七輪を回収した後に、テーブルごと使った機材を全て燃やし尽くして戦闘の準備になった。


 エコーの端にはバッチリ、さっきからワイバーンらしき反応が見えているので、男子達にはゴンドラに乗り込んで貰ってからゴンちゃんに持ち上げて貰う。


 ちなみにゴンちゃんはずっと居たよ。ゴンドラの傍に。


「ところで、何を狩りに来たのですか? ブルボアが狙いでは無かったのですよね?」

「あ、言ってなかったっけ」

「ふふ、今日の狙いはワイバーンらしいですわ。お姉様がずっと狙っていたのです」


 ゴンドラの窓を開けて聞いてきた一人の男子にリリアが答えると、ゴンドラの中は騒然となった。


「わ、ワイバーン!? 竜種じゃないですか!」

「うん! 楽しみだよねぇ。しかも群れらしくてさ」

「ルフィア様のゴンちゃんはお留守番ですが、どうするので?」

「あー、そっか。でもゴンちゃん出ると過剰戦力な気がするしなぁ。シマちゃん辺りでなんとかならないかな?」

「シマちゃん強いから大丈夫だよぉー」


 食事が終わって私にベッタリ張り付いたリリアとルフィアがふにゃふにゃになっているなか、ルフィアの地上戦がしやすいようにこの場所にワイバーンを釣ってくる事にした。


「私が行きましょう。お嬢様達は準備を」

「任せたね。イザとなったらスーツも許可するよ。みんなもね」


 ルフィアがフェアリーリングで山頂辺りに飛んでいき、ワイバーンに向かって何発か魔法を叩き込んで挑発しているのが見える。


「さて。みんな、今からワイバーンが沢山くるけど、そこは安全だから安心してね。最悪ゴンちゃんが守ってくれるから」

「いやいやいやいや、本当に大丈夫なんですか!?」

「それより、聞けませんでしたけど、このドラゴンは何なのですか!? シュリルフィア様の配下にした魔物ですか!?」

「ゴンちゃんもフェミが作ったルフィア用の魔道具だよ。凄い強いから大丈夫」


 いくら話しても意味は無く、実際に安全だと見せるしかない。


「お嬢様、釣ってきました」


 リーフェが凄い速度で戻ってくると、その遥か後ろには夥しい数のワイバーンが着いてきていた。うっは、何て数よ。

 エコーで見ると総数六十八。馬鹿じゃないの?


 私は急激に漲るアドレナリンを体のアクセルに流し込み、パーティのリーダとして号令を出した。


「ヴァルキリー、総員戦闘準備!」



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