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ヒュリオースに打診。



「··················は? え、この鳥が魔道具? はぁ?」


 言われた事が理解出来ない商人は、私とリーアを交互に見て、何とか飲み込もうとしているのが分かった。

 ディシェル君はさっきまで楽しそうだったのにまた絶望を顔に見せて俯いている。

 奥さんはただ、成り行きを見守っている。


「平民にも買える魔道具の店、ねぇ? 悪いけどさ、フェミが王都に構えているお店と方針が被ってるの。リーアは、そのリティットはフェミのお店で買える愛玩用の魔道具で、王都では今じゃちょっとした流行りになってるよ。特殊な素材を使って一度魔力を込めたら起動し続けるし、起動用の魔力を注ぐ魔道具までセットで売ってるから、本当に魔力の無い平民でも買えるし使える」


 アトリエで売っているリティットの箱には、メリルが初めてピッピを起動した時に使った魔道具もセットに売っているから、本当にお金さえ払えば誰でも使えるようにしてある。


「······で、でも! こんなに精巧な魔道具、きっと高いのでしょう!? うちのネズミの方が絶対にっ······」

「リリリッ♪ リリリッ♪ リリリッ♪ リリリッ♪」


 よほど値段に自信がある商人の言葉を遮って、リーアにコールが入った。丁度良いから全部見せてあげよう。


「リーアおいで。コールチェック」

「リリリッ♪ コール、ピッピ♪」

「リアスじゃないんだ。コールピッピ」

『フェミちゃーん?』


 リーアから聞こえて来たのはもちろんピッピの主人であるメリルの声だ。周りからうっすらリリアとルフィア、リーフェの声もする。どうやら合流しているらしい。


「どしたのー?」

『えっと、フェミちゃん帰ってこないから、何かあったのかなって。フェミちゃんならどんな魔物でもすぐ倒せるでしょ?』

「あー、うん。えっとね、ワイバーンが居るって聞いて来たんだけど居なくてさ。代わりに盗賊に襲われてる商人の親子を保護して王都に帰る途中なんだ」

『ふぇえ、盗賊なんて本当に居るんだねぇ。その人達、フェミちゃんが近くに居て良かったね? 人連れてるなら遅くなるの?』

「うーん、多分夕刻の鐘には王都に着くかな。あ、そうだ。リーフェ居るよね? アトリエに寄るかコールして、二階の部屋一つ使えるように整えておいて欲しいな」

『畏まりました。この後寄りましょう。保護された方達をお招きするので宜しいですか?』

「リーフェは話しが早くていいねぇ。うん、奥さんも居るから、少しだけ気を使ってあげてって二階の皆には言っといて」


 話しが終わってコールアウトすると、空気を読んで黙っていた商人が声を上げた。


「今のは!?」

「聞いてたとおり、遠方とお話し出来る魔法がリティットには仕込まれてるの。すごいでしょ? さて、こんな凄い機能が付いた精巧で賢く可愛いリティット達は、はたしていくらで売っているでしょーか!?」


 前を見て運転しながら、おどけた口調で聞いてみる。私の話しの流れからある程度察し始めた奥さんとディシェル君は黙り俯き、商人は真面目に考えていた。


「こんな機能が······、鳥も本物にしか見えない······。こんな魔道具百万でも安いはずだが、言うほどの自信は有るのでしょう? 四十万リヴァルくらいでは······?」

「八万リヴァル」

「······························は、はぁっ!?」

「だから、八万リヴァル。リティットはフェミのお店で八万リヴァルで買えるよ。平民でも少し貯めれば買えるの」

「は、はち、八万リヴァルなんて、そんな嘘でしょう!? じゃぁ、数がきっと少ないとか······」

「数少ないならそれこそ値段上がるでしょ? リティットはかなりの数量産してて、売り切れはしないように気を付けてるよ」

「············はは、嘘だ、嘘だ······」


 やっとディシェル君と同じ顔色になった商人に、悪いが追い討ちをかける。王都でお店を開いて失敗して、一家で首括られても目覚めが悪いからね。


「簡単に火が起こせる魔道具だっけ? フェミのお店にも有るよ。値段は四万。他にも便利な便利な魔道具が目白押し」

「··················あの、卸して頂く事は······?」

「無いね。それに、どこで売るの? 王都でフェミから卸して貰ってもフェミの店に勝負するの? どうなのそれ?」


 メリルに伝えた通りに夕刻の鐘で王都に付いた。

 正門の門番がビークルに驚くが、良くヤバめの魔物を持ち込む私の顔は覚えが良く、問題無く入れた。


 アトリエの裏にある馬車の繋ぎ場へビークルを止めると、ミュラちゃんが裏口の前で待っていた。


「お帰りなさいませご主人様。お話しは伺っております」

「ただいまミュラちゃん。店の中も案内してあげて」

「······あの、もしかして私達の部屋を? 先ほどその様なお話しをしていましたが······」

「あ、うん。この時間から宿探すの大変でしょ? ついでに、王都で件の店開くのがどれだけ危ないか、フェミのアトリエを見て理解してもらおうとね。ミュラちゃんに商品の事聞いて見て。ミュラちゃん、今日の集計はフェミがやるよ。皆帰った?」

「いえ、ご主人様の私室にお通ししております」

「ふふ、ミュラちゃん日に日にリーフェみたいになるね」


 何か言いたそうな奥さんも含めて一家をミュラちゃんに任せて、私は売り上げを持って皆が待っている私室に入る。


「ただいまー。フェミは今日空振りだったよー······」

「ふふ、ワイバーンも命拾いしましたわね」

「フェミちゃーん! あのね、あのね! ルフィアのヴァルキリードレス凄かったの! 強かったの! 楽しかったのぉ!」

「えへへ、私も楽しかったよ。リーフェさんもリリアちゃんもフェミちゃんも、いつもこんな魔道具使ってたんだね?」


 みんなの、と言うか二人の装備の使い心地を聞いていく。

 ルフィアはたくさんの動物、特にもふもふが出て来て嬉しかったらしく、それぞれに名前を付けたそうだ。


 バーストタイガーはシマシマのシマちゃん。インパクトレオはレオ君。デストロイドラゴンはゴンちゃんで、ガジェットゴーレムもそれぞれエコーバットのエコちゃん、シールドスワローのシーちゃん、トラップラビットのピョンピョン、マジックキャットのニャンニャン、ウェポンズドッグのワンワンと言った具合に。 


 特にレオ君の鬣がもふもふのもふもふでお気に入り何だとか。


 メリルは妖精の羽で飛び回り、可愛い衣装に『暴風円環大連鎖』と言う厳つい名前の魔法が常時展開なのに悩んで改名を考えていたらしい。

 魔法の改名と言うのは存外難しく、名前とイメージが強く結び付いてしまっているので新しい名前だと構築に支障が出るのだ。


 魔物を軽く屠った後に、悩んでも悩んでも可愛くしっくり来るニューネームを思い付かず、私に丸投げしようと早々に帰ってきたのだと言う。


 だからコールして来たのがリリアじゃなくてメリルだったのか。待ちきれなかったんだね。


「フェミも長いと思ってたし、改名しよっか。えーと、どんなのが良いの?」

「フェミちゃんが装備に付けるみたいな、オシャレでカッコよくて可愛いのがいいな!」

「ふむ。『フェアリーリング』なんてどう?」

「ふぇえ、すぐ出てくるよぉ。フェミちゃん凄いよぉ······」

「しっくりくる? 夢の世界で『妖精の輪』って意味なんだけど」

「ふぇ、良い! 凄く良い! 意味聞いたらしっくりきた!」


 暴風円環大連鎖は私が名付けたんだけどね。風環連鎖を改造した時に捩ったからセンスはメリルのものだけど。

 ともかく、今日この時をもって暴風円環大連鎖はフェアリーリングに改名された。


「あ、ちなみにフェアリーリングと羽は消せるからね」

「消せるの!? 普通の可愛いお姫様になれるの!?」


 私のタナトスもそうだけど、翼には光学迷彩で隠せる機能を一応付けている。フェアリーリングは普通に魔法を解除出来る。

 教えてあげるとメリルは、部屋でディザスターを起動してさっそくフェアリーリングを解除して羽も隠した。


「うわー! うわー! 可愛いよぅっ! フェミちゃん大好きー!」

「ふふ、フェミもメリルが大好きだよ」


 みんなの戦果を確認して、ギルドで換金も終えてリーフェが管理するリヴァルカードに入っているそうだ。

 ちなみに、リーフェはお馴染みの蜥蜴蛇バジリスクを討伐。リリアはパリストルと言う孔雀型の魔物を倒し、メリルはヘゲナと言う、燃えている様に赤く逆だった毛皮の大猿を。ルフィアはディスアイズと言う単眼の巨人を討伐したらし。


 その話しを聞きながら集計を終えると、今日の売り上げは八百万リヴァルだった。大分減っては居るけどまだ充分凄い稼ぎである。王都は人も多いし、まだ需要が埋まりきって居ないのだろう。


「よし、フェミは下に行くけど、みんなはどうする?」

「一緒に帰りたいし、待ってるよ」

「ええ、お姉様と帰るのです」

「うん、分かった」


 私は一階まで降りてミュラちゃんを探して、ミュラちゃんに商品を全て教えて貰って絶望を加速させている親子を見付けた。


「どう? 分かった?」

「··················ええ、良く分かりました」

「なら良かった。始める前に分かったら、まだ何とかなるでしょ? せっかく助けてここまで送ったのに、一家で首括られたりしたら嫌だもんね」

「············え、もしかして、それが理由で?」

「え、うん。だって嫌でしょ? ここまでしてあげたのに結局死なれたら、フェミ何のために助けたのって思うよ?」


 しかも死因がフェミリアスのアトリエの存在と来たら、あの時盗賊と一緒に斬り刻めば良かったなと思うだろう。


「とまぁ、分かったみたいだし、ミュラちゃん、お客様をお部屋に案内してあげて。お風呂入る時は奥さん三階ね? 二階のお風呂は男湯なの。旦那さんと入りたかったら外の大衆浴場使って。二階自体が本当は男性の階層なんだけどさ、そこは我慢して欲しいかな。お風呂とトイレは特殊だけど便利だから、ミュラちゃんに詳しく聞いて」


 王都に永住するなり、故郷に帰るなり準備が出来るまでは居てくれて良いからと伝えて、待たせている皆をコールで呼んで学校に帰る。


 部屋で集計した売り上げは執務室では無く私の部屋に管理してて、そのまま置いてきてある。ミュラちゃんのみ入室を許可してるので、簡単な管理は任せている。

 私室貯金が一定額に達したら少しを残して、アトリエ用のリヴァルカードに保管する様にしている。このカードは私が持っていて、アトリエに残しておくのはみんなの給金用だ。


 新商品もいくつか出来てきたし、休暇の後にでもドドーンと出そっか。

 すぐに並べても流石に皆お金無いでしょ。アトリエの魔道具を使ってお金を稼げる時間を作ってから、またアトリエに貢いで貰おう。



 それからまた数日、貴族学で建国の歴史を学んだり、ヴァルキリーのメンバーでハンター業をしたり、指名依頼が来たりと過ごした。


 この国、ランド王国がある大陸は全部で五つの国があり、ランドは周りを他国に囲まれている。

 それぞれの国に象徴するドラゴンが居て、これを大陸五竜と呼び建国に関わる伝説のドラゴンらしい。


 伝説のドラゴンとか、めっちゃファンタジーだね!


 元々、その五竜がこの大陸で争ってい所に人間が便乗して、どんどん戦いは熾烈になっていき、最後には自然と縄張りが出来て、それが時間とともに国になったのだと。


 ランド国は夜竜と言うドラゴンが、どこかに居るらしい。


 他には迷宮国家ラビル帝国に迷宮竜。教国パラセイルには聖竜等が居ると授業で習い、残らずパソコンに記録した。歴史楽しい。


「夜竜、迷宮竜、聖竜、暴竜、獣竜か。国の特色は竜に左右される事もあると······。てことは獣竜の国ペケラシスは獣人の国なのかな? 行ってみたい!」


 迷宮国家も気になるけど、もふもふワンダーランドは絶対行ってみたい! 右も左もリリアみたいな子がいっぱい居るんでしょ!? 幸せすぎて死んじゃう!


 勉強、商品開発、ハンター業、恋人との営み、そうして毎日を過ごして火の季節も残り僅か、九の火月になってしまった。


 まだアトリエに居る商人一家は、アトリエの手伝いを始めていた。今日も様子を見に足を運ぶと、ディシェル君が頑張って商品の陳列をしていた。


「ディシェル君頑張るねー。正式にアトリエで働く?」

「あ、お姉ちゃん! ぼく働きたい!」


 アトリエのみんなは幸い子供が好きみたいで、ディシェル君は可愛がられていた。

 父親の、後でマグコルドと名乗った商人さんは今でも何とか別の商機を探して奔走していて、母親のヒルルーナはアトリエの皆に食事を作ったりしていた。


「あのね、お父さんね。お姉ちゃんのお店は凄いって言ってたよ。勝てる訳が無かったから、諦めさせられて良かったって」

「ふふ、良かった。腐ってないんだね」

「だからね、ぼくね! ここで働きたい! いっぱいお姉ちゃんのお店の凄いところ勉強して、お父さんの役に立ちたいの!」


 何この子健気過ぎる。


 小さくて可愛いからホール担当でも良さそうな上に、大きくなったら工房にも入れる。二階は空きがあるし本当に雇っても良い。

 そんなディシェル君を撫でていると、アトリエにエリプラムが来店した。


「あら、フェミリアス様」

「ごきげんようエリプラム様。何かご入用?」

「ええ、お母様にトリムを贈ろうと思いまして」


 エリプラムは家族にもリティットを贈っていて、よくコールで話しをしているらしい。その時にトリムの話しをしたら母親が食いついたのだと。


 汎用のトリムは私の物と違って、一回で劇的に効果があるものでは無いのだけど、それでも女性客の人気は後を絶たなかった。


 無限の魔力を使って垂れ流しにする設計から、循環システムで生み出される魔力で効果を出す様に変えているから、毎日使って手入れを重ねると髪がトゥルントゥルンになるアイテムなのが、石鹸で頭を洗うのが主流のこの世界ではほぼ唯一確実なトリートメントが出来るアイテムとして、今ではトリムを持っていない女性貴族は王都に居ない程だった。


「して、そちらの方は?」

「ああ、前に盗賊に襲われてる家族を拾ったってお茶会で教えたでしょ? その子供だよ。ディシェル君、こっちの綺麗で可愛いお姉さんは、ヒュリオース領主の娘、エリプラム様だよ」

「············ヒュリオース? ぼく達のお家ヒュリオースにあるよ? お姉さんもヒュリオースの人なの?」

「あら、お父様の領民だったのですね」


 なんと商人一家はヒュリオースの人間だった。

 元々平民が好きなエリプラムはディシェル君を可愛がり、優しくされたディシェル君は嬉しそうにエリプラムに懐いた。様子を見に降りてきたヒルルーナも話しを聞いて驚愕し、ペコペコと頭を下げる。


「あの、領主一族の方ですかっ······? 息子がご迷惑を······」

「いいえ。とても素直でいい子ですわ。ねぇディシェル君?」

「えへへ、お母さんあのね、ぼくね、このお姉さんに褒められたの!」


 私も領主一族だと皆に教えていたので、ディシェル君にとっては私より優しいお姉さんが増えただけなのだろう。


「あのね、ぼくお姉ちゃんのお店で働きたいの。お父さんが凄いお店を持つまで、勉強するの!」


 ディシェル君はエリプラムに、今日までの話しを一生懸命に話して聞かせて、私の店に一度絶望に叩き込まれた話しまでしていた。


「それは、災難でしたわね。フェミリアス様の魔道具は、今や王都に無くてはならない物ですから」

「うん! お姉ちゃん凄いの! 凄く凄いの! 王都ではお姉ちゃんのお店あるから無理だけど、いつかヒュリオースで、お姉ちゃんのお店みたいな、みんな楽しそうに買って行ってくれるお店を持ちたいな」

「ふふ、その時はわたくしも、是非足を運びますわ」

「··················ねぇ、今思ったけど。良かったらアトリエをヒュリオースでやる? ディシェル君達親子には、いつかと言わずぱぱっとお店任せようか?」


 ディシェル君が語る夢に、一つ思い付いた。

 この家族を教育して、ヒュリオースでアトリエ二号店出せば良いんじゃね?


「それは、アトリエをヒュリオースに移して頂けるのですか!?」

「いや、違うかな? ヒュリオースにもアトリエを増やすんだよ。ディシェル君達にお店のやり方をここで学んでもらってさ、フェミがヒュリオースでお店を出して、ディシェル君達に任せるの。ディシェル君はフェミのアトリエみたいなお店が良いんだよね? ならいっそアトリエ任されてみる?」

「やりたーい! ぼくやりたい! お姉ちゃんのお店で働きたい!」


 私の提案にディシェル君は喜び、ヒルルーナはマグコルドを探して伝えて来るとアトリエを出ていった。

 エリプラムも慌ててプラムから誰かにコールして、プラムの口から野太い声が聞こえてきた。


『どうしたエリプラム。急用か?』

「ええお父様、大変なのです! フェミリアス様が、アトリエをヒュリオースにも出して良いと今お話が······」

『ぬぁに!? アトリエとは、例の店だろう? このリティットや、他にも素晴らしい魔道具が山ほどある······』

「そうなのです! まだお話しの段階ですが、この話しを逃すのはヒュリオースにとっての損害ですわ!」

『でかしたぞエリプラム! 出来ればその、フェミリアスと言う娘の話しも聞いてみたい。出来ないか?』

「フェミリアス様、お願い出来ませんか? わたくし、領地にフェミリアス様のお店が出るなんて、嬉しくて嬉しくて······」


 コールの相手は、ヒュリオース領主その人ヘだったらしい。まだ戯言の域を出ない話しだけど、エリプラムも領主も乗り気らしい。


「ヒュリオース領主様、お声のみでの挨拶失礼致します。トライアス領主が娘の一人、フェミリアス・アブソリュートでございますわ」

『おおぉ、そなたが。私はヒュリオース領主、エザートマクリムだ。エリプラムからそなたの話しは良く聞いている。才色兼備で品行方正な素晴らしい人物だと』

「ふふ、それはお言葉が過ぎるかと存じますわ。エリプラム様の方が才気に満ちて器量も良く、日頃の行いも領主一族に相応しい、ほかに見ない程素晴らしい淑女かと思いますわ」

「そんなっ、フェミリアス様、褒めすぎですわ! 照れてしまいます······」

『ふははは! エリプラムは確かに自慢の娘である。が、改めて言われると嬉しいものだ。して、ヒュリオースに店を出したいと言うのは?』


 先のやり取りを含めてプラム越しに伝えていく。

 すぐにとは行かなくても、休暇明けくらいに予定を詰めていくと話しをした。


「と言う訳で、暫く領民をお借りいたします」

『保護までしてくれたのだ。何も問題ない。店はこちらで見繕えばいいのだな?』

「御手数ですがお願い致します。なにぶん、ヒュリオースを訪れた事が無いので、勝手が分からないのです」

『任されよう。ふはは、これでまた領地が賑わうぞ!』


 話しが終わりコールアウトしたタイミングで、ヒルルーナがマグコルドを連れてお店に入ってきた。

 思い付きから始まった事の流れを全て説明して、懸念している事を確認してみた。


「自分のお店じゃなくて、フェミのお店に雇われる店主になる訳だけど、気にしない?」

「構わないとも! 是非やらせて欲しい!」


 と、言う事なので、しばらくはアトリエで学んで貰うことにした。マグコルドは工房に出入りを許可して男性陣に教われる形にして、ヒルルーナとディシェル君はホールで女性陣に学ぶ。

 三人に制服も手配して、今日から正式採用として祝いの生活費を渡す。


 雇われた途端にお金が貰えるが理解出来なかった親子にはミュラちゃんとマリちゃんが「全員そうだったの。ご主人様は私達のためならお金を惜しみなく使うのよ」「給金とは別だから、ビックリするよね」と宥めていた。


 マグコルドは『魔道具を量産する魔道具』に驚愕し、今後のため集計を手伝わせたヒルルーナは売り上げを見て倒れそうになっていた。


「悪いけど、これ大分減った方だからね。開店した初日なんて純利益二千万超えたし。良く宣伝一日であそこまで人集まったよね」


 そう言ったらヒルルーナは本当に卒倒してしまった。


「またフェミちゃんが仕事増やしたの。ルフィア寂しい」


 ある日教室でルフィアがそう零した。

 ルフィアが本気で寂しそうなので、何か手を考えなくては行けない。いっそ同じ部屋にしてしまおうか?


「············それはもうルフィアが調べたょ、ダメだったの」


 贈ったリティットが届いたとイオから来た手紙を教室で読みながら、ルフィアの頭を撫でてあげる。

 どうやら側仕えが最近少し感づいてるらしく、部屋の移動は領主に相談してからだと言われたらしい。


「フェミちゃん、休暇はトライアスに帰るの······?」

「うん。一応そのつもり」

「············また会えなくなっちゃう······」


 肩を震わせて声が湿り、感情を絞り出すように喉を震わせて、教室で本気泣きしそうなルフィアに、私は慌てて手紙を放り出して抱き締めた。


「ルフィア、今日から休暇まで夜はずっと寮に居るから、毎日泊まりに来ていいよ。だから泣かないで?」

「············ぅん」

「うん。いい子だね」


 今ばかりは流石にリリアもやきもち妬かなかった。リリアは休暇も一緒に居られるのだから。

 ルフィアを抱き締め宥めていると、見ている周りの貴族がソワソワしている。


「あら、これは············?」


 そのうちの一人が、私が投げ出した手紙を拾い上げた。人の手紙を読むのはどうかと思うが、読める状態で投げ出した私が悪い。

 大した内容では無いそれを読んだ女の子は、段々と頬を染め、ルフィアを抱き締めてる私にはしゃぎ始めた。


「フェミリアス様、イオシュマイア様と文のやり取りをされているのですかっ······!?」

「え、えーと、やり取りって程じゃ······」


 女の子の声に、イオを知る教室中の女の子達は一気に盛り上がった。うおー!? 久々にイオっつぁんの人気を目にしたよ!?


「あの、フェミリアス様はイオシュマイア様といい仲なのでしょうか?」

「わたくしも聞きたいですわ。フェミリアス様とイオシュマイア様············、はぁ、お似合いですわぁ······」

「求婚までされたと噂がありましたが、本当なのでしょうか?」


 待て待て待て、今ルフィアが寂しいモードなのに、そんなに来られたら本当にルフィアが爆発してしまう。


 そんな慌てる私に助け舟を出したのは、あの事件から教室の隅でキュリルキアと小さくなっていたイオの妹だった。



「おやめ下さいませ! お兄様の不名誉は噂は不愉快ですわ!」



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