二人の母に贈り物。
「はい。じゃぁパパの言い分を聞くよ!」
あれから、他の使用人を呼び付けリーフェを任せた後、城の小さい会議室に私と両親が居た。
丸いテーブルを囲むように等間隔に置かれた椅子にそれぞれ腰掛け、静かな論争が繰り広げられる。
ガノドライグはまだ顔色が悪いなか、必死で言い訳を考えているのが分かる。
フェアリーゼにはこの会議室に移動するまでに、大まかな事情を話してあるからだろう。
なぜリーフェが閉じ込められていたかはまだ分からないけど、十中八九リーフェが私の魔石の秘匿を提案して、ガノドライグは魔石を使ってのし上がろう画策したのだろう。
魔石を集めていたと言うことは調べが付いているし、その辺の背後関係もガジェットを駆使してメイドたちの噂話からある程度把握している。
まぁリーフェがフェアリーゼ独自の使用人だとは知らなかったけど、そうなるとガノドライグの旗色が一気に悪くなるのは理解出来た。
今日までリーフェに色々聞いたり、本をねだったり、アナライズやガジェットを駆使した結果集まった情報を整理すると、まずこの国の名前がランド王国と言って、国の中央に王家が居て、その周りに大小様々な十二の領地があり、大中小と四領地ごとにランクが分けられている。
私達が居るトライアスと言う名前のこの領地は、中領地の中でもトップの広さを誇るにも関わらず、王家への貢献度が小領地のトップといい勝負と言う落ち目の領地らしい。
そしてフェアリーゼは貢献度でトライアスに勝る中領地から嫁いで来た人で、実家は当然ガノドライグより立場が上。
その立場で勝る領地の人間であるリーフェを正当な理由も無く無断で拘束したとなれば、領地間の問題になってしまうのだ。
「改めて言いますが、リーフェリアルはこの城で働いていても、わたくしの実家であるイーゼルバーンから連れてきた事になっている、実家の使用人ですわ。それをわたくしに断りもなく、どのような理由で拘束したのです? 場合によってはトライアスへの支援を打ち切る事も考えなくては行けませんわ」
「フェアリーゼ、お前はもうトライアスの一員で、我がアブソリュート家の人間なのだぞ!?」
「わたくしはそうかもしれませんが、リーフェリアルは違うと言っているのです。話をすり替えないでくださいませんこと?」
おお、うちの家名アブソリュートって言うんだ? 無駄にカッコいいね。
興味なかったから初めて知ったよ。
色々情報集めてたのに、家名をスルーしてる自分の収集傾向に頭を抱えながら、フェアリーゼに集めた情報を開示する。
「あのねママ。パパはトルザークって言うところに、フェミが作った魔石を流そうとしてたみたいだよ?」
トルザーク。大領地の第四位、つまり大領地の中では最下位の領地と結託しようとやり取りしていた事はメイドの噂話から得ている。
そしてフェアリーゼの実家イーゼルバーンはトルザークと仲がよろしくないとも聞いた。
「あら? それは本当なのですか?」
「ち、違うぞ! フェミリアス、適当なことを言うんじゃない!」
部屋から出れなかったし、裏が取れていないから適当と言えば適当なんだけど、口から出任せを述べているわけでもない。
「ママ、これ聞いてー?」
エーテルドレスを保存している端末からラジコンガジェットとその操作盤を取り出す。
フェアリーゼは、ガジェットをどこから取り出したのか気にしながらも、話の腰を折ることはしなかった。
ラジコンはビー玉程度の大きさで銀色の鉄球にしか見えないが、青い線で様々な記号が書かれた十センチ四方の鉄板にしか見えない操作盤をタップすると、私の目の前からテーブルの上を転がり、フェアリーゼの前で止まる。
さらに操作盤を弄ると、鉄球から音声をボカして個人を特定出来ないようにしたメイドの会話が再生された。
『ちょっと聞いてよ。旦那様がまたトルザークの領主様に早馬を出したみたいよ』
『フェミリアスお嬢様が作った新しい魔石だっけ? それならフェアリーゼ様のご実家に連絡するのが筋じゃないのかしらね』
『イーゼルバーンと戦争にでもなったら、私達どうするのかしら?』
『フェアリーゼ様に言って、イーゼルバーンで働かせて貰いましょうよ。トルザークは私嫌よ? あそこの貴族は使用人をつまみ食いするって噂だもの』
この会話は永遠と愚痴が続くのだけど、取り敢えず必要な単語は出たので再生を止める。
「ね? 適当じゃないよ?」
「フ、フェミリアス!? その魔道具はなんだ!?」
「パパがリーフェに会わせてくれないから、フェミが作った魔道具だよ? リーフェの居場所を探してたら、偶然このお話が聞こえたの」
既に青い顔をさらに青くするガノドライグだが、リーフェをあんな目にあわせた男に手加減などしない。
フェアリーゼが現れなければ、あの場で全周囲シールドを使った上でパラライズボムとパラライズモードのハンドガンでボッコボコにするつもりだったし。
「······フェミリアス、良くやりました。この魔道具は借りてもいいかしら?」
「うん。リーフェは見つかったから、ママにあげる」
テーブルの上を滑らせて、操作盤をフェアリーゼの前まで送る。
「その板の端っこを押すとお話を集めて、真ん中を押すとお話が聞こえるよ。真ん中を囲んでる丸い所を弄ると、玉が転がるの」
軽く使い方を説明してガノドライグを見据える。
この世界でなら、この程度で証拠としては十分だろう。
「ガノドライグ様、このお話はきっちりと実家に報告させて頂きます。覚悟しておいてくださいませ」
「パパ、フェミはリーフェの為に魔道具を作っても、意地悪なパパには作らないからね」
フェアリーゼと私からトドメを刺して、ろくに発言も出来なかったガノドライグをほっといてフェアリーゼと席を立つ。
「フェミリアス、あなたのお部屋でもう少しお話出来るかしら?」
「うん。でも先にリーフェの様子が知りたいな」
そんな会話をしながら、真っ青なガノドライグをよそにフェアリーゼと部屋から出てリーフェの容態を確認に向かう。
途中メイドを捕まえ、リーフェが寝ている部屋へ案内させると、場所は私の自室の隣部屋だった。
自分の部屋から出る時は、ワイヤーダートのガジェットを使ってL字のドアノブを捻って出たが、ここではメイドが開けてくれるのを待つ。
そして開けられた扉から中を覗くと、殺風景な部屋の奥にあるベッドの上、体を起こしているリーフェが居た。
「リーフェ、大丈夫?」
本当は駆け寄って抱き着きたいけど、リーフェは相当弱っていたし、何よりリーフェの前で少しやり過ぎた自覚があるので、扉から顔だけ出して声を掛けた。
自重は辞めたけど、それ以前に心が体の幼さに引っ張られている気がする。
この喋り方も癖となってしまったし、檻の前で爆発した怒りも今の気まずさも、感情の制御が難しい。
「お嬢様、奥様、使用人の身で床に付いたままの無礼をお許しください」
「いいのよリーフェリアル。アナタとわたくしの仲じゃない」
「フェミもママも、辛そうなリーフェに立てなんて言わないよ? それよりもう起きてて大丈夫なの?」
先に部屋に入ったフェアリーゼの後ろに付いていく形でリーフェのベッドまで歩いていく。
「はい。お気遣い有難うございます。私はもう大丈夫ですよ」
嘘だと思った。
だって顔色がまだ良くない。
辛いのに私達が来たから無理をさせてしまって居るのは明白だ。
「ママ、やっぱり辞めよ? リーフェ辛そうだもん」
「·········そうね。リーフェリアル、無理させてごめんなさいね」
「いえ、拘束されていた時に比べれば本当にマシになったのですよ。それに私も、お嬢様と奥様とお話がしたく思っていたので、ご用がお有りでしたら何なりと」
そう言ってリーフェが微笑むから、私は何も言えなくなった。
「わたくしもフェミリアスも、アナタが心配だっただけよ。アナタからはお話があるのかしら?」
「はい。まず私の為に無理をして探しに来てくれたお嬢様に、お礼を言わせてください」
静かに頭を下げるリーフェを見やり、フェアリーゼの後ろから出てベッドにあるリーフェの手を握る。
「もっと早く行けばよかった。遅くなってごめんね?」
本当に十日間もウジウジしていた事を後悔する。
リーフェがこんなに弱っているとは思わなかった。
「お嬢様、お聞きしてもいいですか?」
「······なーに?」
とぼけて見るが、言いたい事は分かってる。
リーフェには少なくともエーテルナイフを見られているし、檻の鉄柱もぶった斬った。
何も聞かれない訳が無い。
胸がキュッとして、リーフェの口から放たれるだろう質問に恐怖する。
そう身構えた私に掛けられた言葉は、予想とは違うものだった。
「······どうして助けに来てくれたのですか?」
···············は?
「お嬢様が、今とてもお強い力を持っているのは分かりました。どうやって手に入れた力なのかは分かりませんが、城の兵士に止められない程なのは理解しました。でも、なぜ私なんかを助けに来てくれたのですか? 本当の親でも無く、ただの世話役の側仕えの私を」
その言葉に、またフツフツと怒りが湧いてくるのを感じる。
え、リーフェは本気でそれを言ってるの?
「ただの側仕えの為に、城の兵士や父親である旦那様にさえ抵抗して探しに来てくれたのは、何故ですか?」
「·········リーフェ、それ本気で聞いてるの? フェミ怒るよ?」
なんで本当に分からないって顔をしてるの?
フェアリーゼ······、お母さんだってちょっと呆れてるよ?
「そんなの、リーフェが大好きだからだよ? なんで分からないの?」
「······お嬢様、私はただの側仕えです」
困った顔でリーフェがそう言うから、教えてあげる事にした。
「······あのねリーフェ。知らないみたいだから教えてあげるね。ママに悪いから一回しか言わないよ?」
なんで分からないんだろう。
当たり前の事なのに。
生まれてからずっと傍に居て、毎日愛情を注いでくれて、私の成長を一番に喜んでくれて、ひどい仕打ちを受けながらも、私の事を思って誰かに意見をしてくれる。
そんなリーフェをなんで助けたかって?
そんなの決まってる。
「あのね。フェミは誰よりも何よりも、リーフェのことが一番大事で、一番大好きなんだよ?」
それこそ、隣に居るお母さんよりも。
「ふふ、こうハッキリ言われると、母親として悲しいものが有るわね」
「ママごめんなさい。でもね、フェミとずっと一緒に居てくれたのはリーフェなの。ママが忙しいのはフェミも分かってるけど、それでもね······」
「いいのよ。それはしょうがない事だもの。それよりも、リーフェリアルは何をそんな顔をしているのです?」
「あ······。いえ、お嬢様は······その」
ただただ驚いて、言葉が出てこないリーフェの様子に、私もフェアリーゼもため息が出てきた。
「ねぇママ。なんでリーフェは驚いているのかな?」
「そうねぇ。わたくしにも分からないわ」
握った手を離し、ベッドから一歩離れて両手を腰に当てる。
「リーフェはフェミのこと、好きじゃないの?」
「そ、そんな事はありません! 有り得ません!」
「フェミのとこ、大事じゃないの?」
「私の命よりもお嬢様が大事でございます。その様な事お聞きにならないで下さい」
「悲しくなった?」
「······はい」
私の問にリーフェが少し俯く。
でも私は三歳児の身長だから、そんなリーフェの顔もちゃんと見える。
「フェミも、なんで助けたのって聞かれて、悲しかったよ?」
そう告げると、リーフェは弾かれたように顔をあげた。
「······リーフェが大事なのに、なんでって聞かれたら、フェミ困っちゃうよ?」
「あ·········」
やっと少しだけわかってくれたリーフェに、もっとしっかり分かって貰うために言葉を紡ぐ。
「ほかのメイドさん達がフェミの事、子供らしく無くて気持ち悪いって言ってるのフェミは知ってるよ。さっきもリーフェの前で変なことしたし、フェミが普通じゃ無いことをフェミは知ってるよ」
私だって、読み書き完璧で流暢に空気を読みながら喋る三歳児とか、気持ち悪いと思うもん。
「でもリーフェはフェミを大切にしてくれたよ? どれだけリーフェが良くしてくれたか、フェミはちゃんと知ってるよ?」
そんな気色悪い子供に、愛情を惜しまず注いでくれたリーフェのお陰で、この幼い体はすくすくと成長できたと思う。
「フェミはね、フェミが変でも気持ち悪くても、大事にしてくれるリーフェが大好きだよ」
段々気持ちが抑えられなくなって、ついにリーフェは泣き出してしまった。
「これからも、フェミの傍に居てね」
ベッドによじ登って、膝立ちでリーフェに抱きつく。
ふわふわの胸に飛び込むと、震える手でリーフェも抱きしめてくれた。
「······奥様、奥様に拾われ救われたこの命を、これからはお嬢様の為に使う事をお許しくださいますか······?」
「ふふ、ええ。もちろんよ」
フェアリーゼは私の頭を優しく撫でながら、ベッドに腰掛けた。
私も靴を脱いでベッドの下に落とし、リーフェの隣まで膝立ちで移動して座る。
「さて、じゃぁフェミリアス。色々と聞かせてちょうだいね?」
そして人払いを済ませてから始まる質問の嵐。
嵐と言うには静かな問いだったけど、その量で言えば嵐と言って差し支えないだろうと思う。
まず前提に、前世の事を話した。
流石にバカ正直に話すとマジで気味悪いと思うから、少し設定を変えた。
フェミリアスとして物心付くまでの間に、こことは違う夢の世界の記憶の中にいた事にして、その世界は正しい前世ではなくトワイライトスターのゲームの中の世界を現実として語る。
できる限り噛み砕き、理解しやすいように二人に聞かせてどれ位の時間を使ったのだろうか。
「その世界で使われてるエーテルって言うものが、マナと同じものだったの。だからフェミは夢の中でお勉強してて、魔道具の作り方を覚えたの」
ファクトリーに付いてどう説明しようか悩みながら、前提となる情報をなんとか飲み込んでもらう。
「ではお嬢様は、最初に魔石を手にした時には、もうその使い方を知っていたのですね?」
「うん。夢の中と同じ使い方をしたら、同じ様になったから、夢がただの夢じゃないって分かったの」
フェアリーゼはまだ上手く飲み込めていない様子だけど、ずっと私の成長を見守っていたリーフェは疑問はあれど、疑う事はしないようだ。
「·········突拍子もない話しだけど、この魔道具の事もあるし、ホントの事なのよね······?」
そう零すフェアリーゼの手には、ラジコンガジェットが握られている。
「材料はどうしたのですか?」
リーフェから遂に革新に迫る質問が来た。
んー。私自身もまだ良く分かってないし、理由は分からないけどこうなっている、と言う説明でいこうと決める。
「えーとね。フェミが魔道具作ろうとするとね、少しだけ夢の世界と繋がるみたいなの。夢の世界で集めてたたくさんの材料がそのまま使えるみたいで、不思議な呪文をとなえると、夢の世界で考えた魔道具を目の前に出せるの」
私でも首を傾げる説明が何とか口から出ると、フェアリーゼはともかくリーフェまで困った顔になってしまった。
「······どう言う事でしょうか?」
「えっとね。あ、ママ、それ少し貸して?」
上手く説明する方法を思い付いて、フェアリーゼからラジコンガジェットと操作盤を受け取って、ラジコンをベッドから放り投げる。
「あのね、このベッドがフェミ達の世界で、ベッドの外が夢の世界だと思ってね。フェミがここで、うごけーって思うと、夢の世界で動かせる魔道具があるの」
操作盤をタップして、鉄球を転がしてみせる。
リーフェは真剣な顔で理解しようと頷いてくれるから、取り敢えずフェアリーゼは置いておく。
「それでね、夢の世界で動かせるのは魔道具を作る魔道具なの。それで作りたい物が完成したら、不思議な呪文を言うの」
『ロールアウト』の事だけど、本当は呪文じゃ無いし唱える必要も無いし、念じるか視界の端にあるファクトリー画面のロールアウトボタンをタップするだけでいいのだけど、『不思議な呪文』と言う単語の力でリーフェの理解力に捩じ込む。
「リーフェ、なにか欲しい物ないかな? いま作ってみせるよ?」
「欲しい物ですか?」
「あら、わたくしには無いのかしら?」
「えへへ、ママもいいよー」
ガノドライグには絶対嫌だが、フェアリーゼなら大丈夫かな。
正直私は、ゲームとは言え戦争に使う兵器を作っていた人間だから、悪用も軍事転用も構わないのだけど、一つだけ許せないものがある。
私の知らないところで私の意図しない使われ方をする事。
私は私が産んだ作品が生み出す結果を眺めてニヤニヤするのが生き甲斐でトワイライトスターを始めてのめり込んだ。
だから私の知らない所でニヤニヤ出来ない使われ方をする事だけは拒否するし、ガノドライグはまさにそれだった。
「あ、それではお嬢様が作られた魔石を使った杖など······、あ、それだと魔石が必要ですか?」
「んーん。もう魔石は要らないの。あの時魔石が欲しかったのはね、触りたかっただけなの。魔石に触らないと夢の世界の魔道具が動かせないって思ったの」
リーフェが魔法の杖を所望するので、とびっきり素敵なものを作ろうと思う。
お茶を濁した説明になんとなくの理解を示してくれるリーフェの細かい要望を聞くと、指揮棒型の杖が良さそうだ。
細部までデザインにこだわり設計する魔法の杖、『タクト』と呼ぼうかな?
まずエーテルコアを太めの針のように加工して、エーテルを練り込んで硬化と軽量化したゲーム内で人気のエーテルチタン鋼を蔦のように絡ませていく。
握りの部分はエーテルコアを全て覆い、蔦が絡む部分は青白く光るように設定したエーテルコアが見え隠れするデザインだ。
最後に細かい彫金を施し、必要な事にしている呪文を口にする。
「『ロールアウト』」
瞬間、淡く光った右手にエーテルスーツに接続しなくても使える様に設計したタクトが出現する。
その後継に息を飲んだ二人を交互に見たあと、リーフェにタクトを渡す。
「はい。リーフェの為だけに作った杖だよ。杖の名前はタクト」
「······これは見事としか言えませんね」
ふふ、そうでしょう。
自慢じゃ無いけど、トワイライトスターで私の作る武器やスーツは、その性能だけじゃなくてデザインでも高い評価をされていたんだからね。
「フェミリアスは想像以上に素敵な物を作るのね? わたくしは何にしようかしら? 悩んでしまうわ······」
「ママも思い付いたもので大丈夫だよ。フェミ多分なんでも作れるから、無理とか有り得ないとかは気にしなくて良いの」
まぁコネクトコアが前提のゲームだったから、必要なエーテル、魔力量とかで動かせない可能性もあるけど、その時は改めて魔石を準備してもらえば個人で動かせる設計に出来ると思う。
流石に魔力無限生成の機能はダウングレードさせてもらうけどね。
トワイライトスターだと宇宙船とか動かさないと行けないから、エーテルを無限に生成する能力が前提だっただけなのだ。
「そうねぇ。例えば鉄を金に変える魔道具とか出来るのかしら?」
私が有り得ないものでも作れると言ったから、冗談を言うように聞いてくるフェアリーゼに、だが真っ先にそんな俗なアイデア出されるとは思わなかったので、少し顔をしかめてしまう。
「ママお金ほしいの? 条件付きだけどソレも作れるよ?」
「え!? 出来てしまうの?」
本当に冗談だったのだろうけど、トワイライトスターの最上位技師を舐めないでほしい。
エーテルを作用させればただの物質など分子配列やその他を弄れば錬金術的な物も作り出せる。
「うん。でも、そういうの作っちゃうと、フェミはいろんなひとに追いかけられるよね?」
「······そうね、今のはわたくしが悪かったわ。忘れてちょうだい。それよりも、リーフェリアルがガノドライグ様を止めたのは英断だったわね。フェミリアスの力がバレたら······」
「えい、私は旦那様に意見しただけで仕置部屋に入れられましたから、止めた等と言えません。お嬢様をお任せされている身にも関わらず、お護り出来ずに申し訳ありませんでした」
また落ち込みそうなリーフェに抱き着いてギューッとする。
もう済んだことで落ち込むの禁止!
「じゃぁそうね、フェミリアス。コレのもっと使いやすくて、見た目も美しい物は作れないかしら?」
「わかった」
フェアリーゼはラジコンガジェットの新しい物をご所望らしい。
「えっとね、自分で操作しなくても、お願いするだけでお話しを集めてきてくれる魔道具とかどうかな?」
「あら、それはとても良いわね。詳しく聞いていいかしら?」
「うん。ママの言うことだけ聞いてお話を集めてくる鳥さんなんかどうかな? 鳥さんならどこにでも居るから怪しくないし、空も飛べるからどこでも行けるでしょ?」
望まれた情報を自分で精査して集められるAIはトワイライトスターで使っていた物を流用すれば、使えば使うほど学習して、所持者に合わせて成長してくれる諜報ガジェットになるだろう。
リーフェの杖と違ってコッチは完全にガジェットだ。さっそく設計図を引き始める。
「鳥さんも三羽くらい作るね? あと、鳥さんが集めたお話を見るための魔道具と······」
腕輪型の端末を作り、諜報ガジェットの現在地や集めた情報を音声や文書に置き換えてその場で確認出来る物にする。
キーワードを唱えると装着者にしか見えないホログラムのウィンドウが表示され、それをタップして操作する私のファクトリーみたいな物に仕上げる。
「鳥さんはどんなのがいいかな? ママは好きな鳥さんとかいるの?」
「そうね、青いリティットなんかは可愛らしくて好きだわ」
リティット。たしか野生のインコみたいな小鳥だったかな?
「三羽ともそれにする? 色だけでも変えられるよ?」
「じゃぁ、黄色と緑もお願いしようかしら」
設計は大体終わったけど、これ思ったよりエーテル使用量多いな。
魔石を使うと諜報ガジェットを捕まえられた時が面倒だから、周囲のエーテルを自動で取り込むタイプにしようかな。
確かトワイライトスターのイベントボスの素材にそう言うのあったはず。
無限にエーテル生み出せるゲームだと完全にゴミ素材だったけど、まさか使う日が来るとは思わなかった。
「これでいいかな。『ロールアウト』」
座った私の膝の上に、三話のリティットが現れ、青いリティットの首には腕輪がかかっている。
インコそっくりのリティットの頭をくりくり撫でると、擽ったそうにする。
「うん、本物みたいに作れたよ。はい、ママはこの腕輪つけてみて」
腕輪の装着者が指示を出さないと動かないので、フェアリーゼにさっそくリティットのマスターになってもらう。
「本当にリティットにしか見えない魔道具も見事だけど、この腕輪も素敵ね? これ程の物、装飾品としても幾らの値が付くか分からないわ······」
端末として作った腕輪は、エーテル回路を補助する為に色とりどりのエーテルコアをふんだんに使ったから、フェアリーゼの言う通り装飾品としての見栄えも良くなっている。
細い紐を編み込む様な一センチ幅の腕輪に埋め込まれたエーテルコアが光を反射して、所々にあしらわれた羽や翼の意匠もなかなかの出来だと思う。
腕輪を付けたフェアリーゼの肩や腕にリティット達が飛んでいき、静かにとまる。
「その子達はママの言うことを聞くから、さっそくなにかお願いしてみる? あ、名前付ける?」
別々に動かすためにも、名前は必要だと説明すると、青いリティットが『フィア』黄色が『フィル』緑が『フィオ』と決まった。
「それじゃぁ、フィオとフィル。ガノドライグ様の行動を監視してちょうだい?」
フェアリーゼがそう言うと、スグにフィルとフィオが飛び立ち、部屋の窓ガラスに突っ込む様に外に出る。
「······あの、窓は開いてませんでしたよね?」
「うん。壁は無理だけど、ガラスは通り抜けられる様にしたの」
場所によって材質が変わる壁は無理だけど、素材がどこでもほぼ変わらないガラスなら、予めリティット達に設定して、ガラスに特定のエーテル派を打ち出して物質の境界を中和させる事が出来る。
「なんでも出来るって、フェミ言ったよ?」
ドヤ顔をリーフェに向けると、また困った顔をしたけど頭を撫でてくれた。
それから、リーフェの隣で抱きつきながら、フィアだけ残して肩に乗せているフェアリーゼに、端末の使い方を教えて過ごすのだった。