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死神になったフェミちゃん。



 私のキーワードは設定を迷った。だって死神ってネタの宝庫じゃない? 『命を刈取る、形をしているだろ?』とか『卍解!』とか『死神様のお通りだぁ!』とか『フェミを見たものは、みんな死んじまうぞー!』とかさ。後半は特に武器デザインの参考にしたし、そりゃもう悩んだ。

 結果選べなかったので厨二病チックに落ち着いたら、『死よ嗤え』だった。うんうん痛い痛い。


 そんな悩んだキーワードで展開するのは、私の『フェミリアス・タナトス』だ。


 紫色のフィッシュテールスカートのアメリカンスリーブワンピース。そして前を二本のベルトで閉めるゴシックなボレロジャケットと、同じくベルトで閉める前が開いたコルセットスカートを翻し、背中には蝙蝠を思わせる一対の翼。


 武装はシンプルな黒く長い棒に、黒いエーテルレーザーの刃が付いた死神の鎌『デスサイズ』と、二挺の四バレルガトリング砲『ハイドラ』。そして両腕のエコーとシールド。


 みんなのスーツの様なハイスペックな機能は無いけど、私のゲームスタイルに合わせた私だけのヴァルキリードレス。


「ふぇえ······。フェミちゃん、かっこいい······」

「······強そぅ」

「お姉様······。素敵ですわ······」

「ふふ、お嬢様のヴァルキリードレスは黒いので、私とお揃いですね」

「ふふ、なんかしっくり来る。まさにフェミの戦闘服!」


 トワイライトスターでも私はガトリング使いで、同じハイ・プレイヤーのムラマサさんが提唱したムラマサスタイルを私用に改造した変態スタイルを使っていた。


 ムラマサスタイルとは、私が作ったトリガーエッジと言う斬撃を飛ばせる刀剣を使ってクロスレンジからミドルレンジを対応し、スナイパーライフルを装備する事でオールレンジ対応出来るミドルアームスーツの高速戦闘スタイルの事で、私はそれをフルアームでスナイパーライフルの代わりにヘヴィガトリングをリーサルに積んで運用していた。それが重装甲制圧戦闘の変態スタイル。


「ルフィアも卒業して午後は丸っと空くし、明日からまたハンターやろっか」


 ルフィアとメリルは初めて貰ったヴァルキリー用の装備を早く使いたくて仕方ないと興奮していて、私の提案は賛成二人と超賛成二人で可決された。


 それから従業員に挨拶をして、ミュラちゃんとヴェル君にアトリエ専用仕様のパソコンを押し付けて、集計のみ執務室を解放して結果を私のパソコンに送るように指示して貴族寮に帰る。


 ルフィアは今日もお泊まりで、慣れた側仕えはささっと準備をして中央棟に帰っていった。


「今日はフェミちゃんに勝ったから、ご褒美いっぱい貰うの!」

「そうだね。ルフィア頑張ったしね。何がいいかな?」

「お風呂場で、見て欲しいの······」

「本当に好きだねぇ。ルフィアはもうフェミから離れられないね」

「······うんっ! フェミちゃんとずっと一緒なのっ」


 最近教室でもシュリルフィアで居る必要が無くなったからか、ルフィアはどんどん甘えん坊になっている。

 リリアは少しずつちゃんと淑女になっているのに、対象的な二人だった。


 まぁ、夜はリリアの方が積極的だからプラマイゼロなのかも知れない。


 次の日は皆でバラバラに討伐依頼を探して、各々ヴァルキリードレスの性能を思いっきり試すことになった。私はそろそろバジリスクに飽きたし、絶滅させそうだし、狩りすぎて値段が下がって来ていたので他の獲物を探した。

 皆が決めてさっさと討伐に出掛けても、私はまだ選べずに居た。途中暇そうなバーゼルを見付けて情報を仕入れると、なんとワイバーンの目撃情報があったらしい。ワイバーンってやっぱりアレだよね? 飛竜だよね!?


「噂程度だが、良いのか?」

「うん! 新装備の初陣でバジリスクとか雑魚倒してもつまらないからね」

「············バジリスクは雑魚じゃねぇよ馬鹿野郎」

「いいの! バーゼルさんだってフェミ達と同じくらい力があったらきっと同じ事言うもん」


 さっそく街を出てタナトスを起動。ワイバーンが目撃された場所へ飛んでいく。

 ちなみに、私の移動速度に順位を付けると、障害物が無い直線移動速度ならビャッコで走るのが最速で、次点がウィザードを使った暴風連鎖複数起動による超高速飛行だ。重ねがけするとスザクより早いんだよね。


 専用ヴァルキリードレスを除いた場合は、タナトスの飛行よりスザクの方が早い。直線飛行型か曲線飛行型の違いである。

 メリルと私のヴァルキリードレスに付いている飛行ユニットは、スザクと違って避けたり回り込んだり小回り重視で、スザクの飛行ユニットは例えるなら戦闘機の様に真っ直ぐ早く飛ぶ事に重きを置いている。


 しかしエーテルスーツは基本的に禁じているので、エーテルスーツ抜きなら直線移動ならビークルで走るのが一番早く、森や街を超えるなら飛ぶ方が良いという具合だ。


 暫く飛んでいると、中央が管理する土地の端に山が見えて来て、その麓にワイバーンが居たらしい。

 さっそく降りてエコーを飛ばすと、反応はパッとしない。


「バジリスクもパリストルもヘゲナも居ない。ワイバーン居なかったら外れオブ外れじゃない」


 エコーに映るのは大量のブルボア。そして同程度の下級の魔物だけで、ワイバーンと思える様な強大な反応は無い。

 山の麓をグルグル回って飛ぶが反応は無く、噂は噂でしか無かったのかとガッカリした時、麓から少し離れた街道に人の反応があった。


「うわ、初めて見た! 盗賊だよ盗賊!」


 反応の様子がおかしかったので見に来たら、街道には一台の幌馬車に二頭の馬。父母息子の商人一家に倒れた護衛二人。そしてそれを囲む十三人の盗賊団だった。


 十三人に二人じゃどうにもならないよね。


「ねぇリーア、助ける?」

『え、悩むとこなの?』

「うん。だって縁もゆかりもない商人助けてどうするのさ」

『············ご主人、身内以外にはアサヒよりスーパードライだよね』

「喉越し良いかもよ? スーパァ、ドゥラァイ······!」


 トワイライトスター製のAIの癖に、前世のネタばんばん入れてくるリーアを肩で撫で、上空から事の成り行きを見守っている。


「待て! 待ってくれっ! 子供と妻だけは許してくれっ!」

「はっはぁ! お前の尻で満足しろってのかぁ? 馬鹿言ってんじゃねぇよ!」


 幌馬車の中に家族を隠して一人懇願する商人。それを一蹴して嘲る盗賊達。うーん、これぞファンタジーのトラブルよ。


「どうなるのかなー?」

『ホントに助けないの?』

「助けたい?」

『と言うか、見捨てるご主人を見たくないよ』

「············それ狡くない? もう、仕方ないなぁ、おいでデスサイズ」


 盗賊達は周りに何者も居ないからか、すぐには商人を殺さずに殴り飛ばし、幌馬車から息子と母親を引っ張り出して来て、『見世物』にするつもりらしい。あぁ、これは確かに見るに耐えない。


「はははぁ! おい何だ、えれぇ別嬪じゃねぇかよ! 今から目の前で可愛がってやるから、楽しみにしとけよぉ······」

「やめろぉぉお!」

「へいへい、楽しそだね。フェミも混ぜてよ」


 私は翼の浮力を一時消して旧落下、男の子を抑えてる盗賊の首を跳ね飛ばした。

 そのままデスサイズを振るい、薄いエーテルの刃を撃ち出して何人か殺す。

 残りは五人? 思ったより減ったな。


「な、なんだァ!? 何が起きて······、誰だテメェ!」

「ハンターだよー。はい旦那さん、息子さんは無事。奥さんも助ける?」

「頼むっ! 謝礼なら払う! 妻を助けてくれ!」

「はーい、という訳なんだけど、死ぬか逃げるか選んでくれる?」


 ハイドラとデスサイズしか武装が無いタナトスだと、人質巻き添えぶっ殺し作戦しか使えないので、そのままエーテルドレスを起動した。『起動時に着用している衣装を参照して模倣』するシステムのおかげで、タナトスの見た目のまま翼もある。飛べる機能は失っているけど。


 デスサイズが消えた代わりにスラッシャーとハウンドを両手に出して、人質を抱えていない四人の盗賊の頭も吹っ飛ばす。


「はい、一人になっちゃったよ。······あれ? 盗賊を突き出す時頭部が要るんだっけ? 四人分値段下がった? まぁ雑魚突き出して端金貰っても仕方ないかぁ······」

「······っ!? な、どうなってんだよ!? 何が起こったんだよぉ!?」


 怖くて声も出せない商人の奥さんに、場違いな笑顔で手を振ってみせる。商人さんはこの惨状を見せないために息子くんの顔を手で覆っていて、震えながら事の推移を見ている。


「ほい、で? 死にたいの? 奥さん解放するなら、見逃してあげてもいいかなー? どうせ一人じゃ盗賊続けられないでしょ?」


 この場所、街道ではあるが街からは相当離れているし、山が近く野生の動物も魔物も沢山居る。普通の人間が一人で野営なんてしたらあっという間にもぐもぐされる。

 盗賊を続けるにしても、誘導役見張り役強襲役と人数が必要なのが普通だろうから、この盗賊のオッサンはほぼ詰みの状態なのだ。


「ほ、本当に見逃してくれんのかよっ!? 女放した瞬間殺すんじゃねぇのか!?」

「えっとね、フェミにしてみたらアナタが死のうが生きようがどうでも良いの。今商人さんを助けてるのは気まぐれだし、もし商人さんが悪徳奴隷商人とかだったら、アナタ達と一緒になって商人さんを殺してたかも知れないの」

「違うぞっ! 奴隷商人じゃない! 俺は小間物専門だ!」

「うん、大丈夫。幌馬車の中に『商品』が居ないのは分かってるから」


 私はスラッシャーを指で弄び盗賊の返事を待っているのだけど、後ろから撃たれないか怖いらしい。未だに答えは出ない。


「あのさー、正直、奥さん盾にしてても殺せるんだからね? 今返事待ってるのが見逃してあげる証左そのものなんだよ? 奥さんごと足を撃ち抜いたりしても良いし、見え隠れしてる頭を直接パーンッ······」

「ひぃっ!? や、やめろ! 分かった! 解放するからやめろぉ!」

「うん。フェミの気が変わらない内にそうして欲しいな」


 ゆっくりと奥さんから武器を引き、腕を離して後ずさる盗賊と、解放されて腰が抜けたのか崩れ落ち、それでも旦那の元に這いずって行く奥さん。


「ほ、本当に見逃してくれんだな?」

「うん。フェミの気が変わらない内は大丈夫だよ」

「······へへっ、じゃぁな!」


 仲間の死体を蹴り飛ばしながら背中を向ける盗賊に、私はタナトスを起動してデスサイズを取り出した。

 振りかぶり、斬撃を撃ち出して逃げる盗賊の足を斬り飛ばした。


 ふふ、一度言ってみたかったんだよね、彼のセリフ。


「なっ、なぁ!? 話しがぁ······、違っ······」

「うんうん。だからね、『気が変わらない内は大丈夫』って気が変わったんだよ」

「なぁぁ······!? こ、のぉ、大嘘付き野郎がぁあっ!?」

「そう、オールフィクション。名前だけでも、覚えて逝ってね」


 うっひゃぁー! 気持ちいいっ!


 某少年誌で伝説的な人気を博した彼のセリフは、それはもう気持ちいい。なんだこの快感。

 私は終幕のセリフと共にデスサイズを振り下ろし、最後の盗賊を涅槃に送った。


「いやー。最後は詐欺師がぁとか言われなくて、ちゃんと大嘘付きって言ってくれたのが良いよね。うんうん、大嘘憑オールフィクション大嘘憑オールフィクション


 所々違っては居るが、大筋言えたので問題ない。彼のセリフを一度は人生で使ってみたい厨二病罹患者は多いのではないだろうか。


「さて、怪我ないよね? フェミはもう行くけど、次盗賊に襲われたら全力で逃げなね?」

「あ、あの、待ってください!」

「頼むっ! このまま護衛を引き受けてくれないかっ!? 報酬は払うから!」


 ······えぇ、嫌だぁ。


『ご主人、顔に出過ぎ』

「いや顔に出るよ。報酬出るったって、フェミ要らないよ? 護衛の時間自分で稼いだ方が早いし多く稼げるもん。それにアトリエの売り上げでお金困ってないし、わざわざ護衛依頼受けて拘束される時間考えたら、フェミは不利益しか無いよ? 盗賊十三人ぶっ殺しただけでも十分じゃない?」


 この商人に、私の一日分の稼ぎか、アトリエ一日分の売り上げを超える報酬を払えるとは思えない。

 依頼を受けただけで損害なのだ。


 ニール君のようにその日生きるのすら大変な人達ならまだしも、妻子ある幸せな商人に対しても慈悲を施すほど私はお人好しでは無い。て言うかこの場所から最寄りの街まで護衛してたら学校行けない。


「······ちなみに、いくら出すの?」

「謝礼とは別に、五万······、いや八万で······!」

「やっす!? 無理無理、ほぼタダ働きじゃん!」

「なっ!? 八万だぞ!? 中級の仕事じゃ破格だろう!?」

「誰が中級だコラ! これ見なさい!」


 私は常備している貴族証とギルドカードから、準特級のギルドカードを取り出して見せた。何気に所持品やアクセサリーをそのままに装備を換装するシステム組むの大変だったんだよね。


「ほら、銀色の中級じゃないか!」

「よく見てよ! これ準特級! 銀製じゃなくて白金製! 宝石も中級には使われて無いし、彫金もされてないでしょ!」

「······っ!? はぁ!? 準特級!?」


 準特級のカードなんで白金なんだろうね。誤解されやすいよこれ。完全魔石製とかにしてくれれば良かったのに。


「中級が盗賊十人以上の団体さん一人で撃破出来る分けないでしょ。準特級に指名依頼出すのに八万じゃ不足だよ」

「そ、そんな······」

『ご主人、本当に送ってあげないの?』

「うん。そこまでフェミお人好しじゃない」


 だいたい、この長い街道を護衛二人しか雇ってないのがおかしいのだ。盗賊は珍しいにしろ魔物は居るのだから、どれだけの群れに襲われるかも分からないのに護衛代ケチった向こうが悪い。


「なんで護衛が二人しか居ないの? 受ける二人も悪いけどさ、護衛代惜しんだ結果死にそうだった訳でしょ。命があるだけ運が良かったのに、これ以上フェミに押し付けないで? フェミはねぇ、ワイバーン探してたのに見付からなくて、いま落ち込んでるんだから。お金を惜しむのは命を削るのと同義だと覚えておいて」


 私が商人を諭すと、成り行きを見ていた奥さんが前に出てきた。


「あの、どうかお願いできませんか······? お金ならいくらでも働きますから、奴隷に落ちても返しますから······」


 奥さんは地面に額を擦り付けて懇願する。子供の為だと。


「············止めてよぉ、フェミが悪者みたいじゃないのさ。あー、もう、分かった。でも条件があるよ」

「あぁ、ありがとうございますっ! お金は必ずっ······!」

「いや、お金は要らないよ。条件は馬車を捨てる事。それと荷物もある程度諦める事。馬はその辺に逃がして、フェミの移動方法に合わせる事」


 私は奥さんの懇願に折れた。子のために身を削る話しはやめて欲しい。そんな事を言われて断ったら本当に悪者みたいじゃないか。


「馬車を!? そんな、積荷は!?」

「だからある程度は諦めて。命と荷物、どっちが大事なのさ。奥さんは身を削る覚悟をしたのに往生際悪いよ。少しは荷物も運んであげるって言うんだから納得してよ。嫌なら本当に断るし、このまま帰るからね」

「大丈夫です、荷は捨てます。あなた、生きていればまたお金は稼げるのよ?」

「············ぐぅっ! どのくらい持って行っていいのだ?」

「······待ってて、すぐ出すから」


 私はファクトリーを開いて、設計図欄から乗り込み型のビークルを選んで改造していく。

 本来は悪路でも関係無く走れる様にホバークラフトの様に浮いて走るビークルだが、タイヤを付けたデザインに変えていく。


 本当は出したくない。ビッグスクーター型のいつものビークルなら多少見られても、少し荷を詰めるだけですごい早い馬と変わらないが、乗り込み型で多くの荷を運べるビークルになると、世界の物流が変わってしまうからだ。

 目を付けられて王命でも掛けられる自体は避けたかったけど、子を想う母には勝てない。


「ほいっ、ロールアウト。これの後ろに積めるだけ積んで」

「なんだこれはっ!?」


 鋭角が目立つデザインの黒塗りの装甲車をロールアウトして、リアハッチを開いて見せると、想像通りに商人が食いついた。

 とても高価かつ魔力を馬鹿みたいに使う魔道具で、普通の貴族にすら使えない物だと説明して黙らせた後、この話しを広めた場合の私の対応も全て伝える。

 ついでに貴族証も見せて全ての話しに信憑性を持たせた。


「き、貴族様でしたかっ······!?」

「うん。態度は改めなくて良いから、言うことは聞いてね。後で酷いことになるから」


 真っ青になる夫婦にさっさと積荷を移すように言って、その間に手持ち無沙汰の男の子にも言い含める。


「んーと、名前は?」

「あぅ、えと、ディシェル······。六歳······」

「ディシェル君ね。今日の事は内緒に出来る?」

「うん。あ、はいっ」

「内緒に出来なかったら、フェミはディシェル君のお母さんとお父さんを、その辺の盗賊と同じにしなくちゃいけないの。わかる?」

「············ぅう、わかっ、る」

「うんうん。死体は見なくて良いから、絶対内緒ね?」

「······はいっ!」


 途中ブルボアがのそのそ出て来たので、軽く魔法を浴びせて追い払った。今は荷物になるから要らん。


「あの、お姉ちゃん······」

「ん? どしたの?」

「······鳥さん」

「ああ、気になるの? リーア」

『やっほ、リーアだよ』


 肩のリーアが気になるディシェル君にリーアを触らせてあげる。ふかふかな手触りに満足してなで続ける様子を眺めながら、珍しく男を嫌がらないリーアの紹介をしてあげる。


「この子はリーア。フェミの作った魔道具で、大事なお友達だよ」

「············えっ!? これ、魔道具······?」

「そう、だけど。······どうしたの?」


 驚かれるのはいつもの事だけど、何故かディシェル君は真っ青になっている。反応がおかしいな?


「あ、あの! この子は、お姉ちゃんが自分の為に作ったの?」

「うん? そうだよ。リーアはフェミ用のリティットだし」


 良く分からない事を聞かれて答えると、ディシェル君は安堵の息を吐いた。心底ホッとしたように。


「······じゃぁ、この子は沢山いないんだね」

「うんにゃ? いっぱい居るよ?」

「························え?」

「フェミは自分のお店も持っててね、貴族でハンターで商人なの。で、リティットはうちのお店の主力商品だし、超大量生産して王都で売ってるよ。国王陛下も使ってくれるくらいには人気かな」


 私の言葉に次は完全に血の気の引いた顔をしている。だから何事だよ。

 あまりの絶望顔に理由を聞こうとした時、積み込みが終わったと夫婦に報告された。


「······まぁいっか。じゃぁ乗って。横の取っ手を捻ると扉が開くから、乗り込んで」


 ディシェル君も奥さんに任せて、全員が乗ったのを確認して運転席に座った。そしてコネクトコアと装甲車ビークルを繋いで魔力を流し、全システムを起動する。

 その様子に親子は恐々とするが、ビークルを走らせると別の意味で騒ぎ始めた。エコーを常時発動して事故は絶対起こさない様に注意しながら、高性能サスペンションが振動を殺してくれるのをいい事にアクセルを全力で踏み込む。


 あっという間にトップスピードになるビークルは、最寄りの街、つまり王都グライバルに向かって爆走する。


「はっ、はやぁい! うわー!」

「ふふーん。二度と無い事だから楽しむと良いよ」


 ディシェル君は先ほどの事は忘れてしまったのか、窓から見える景色に大興奮している。その様子に奥さんも微笑み、和やかな空気が車内に生まれた。


「ねぇ、もしかして扱ってる商材って魔道具?」

「ん、よくお分かりになりましたね」

「ええ、私どもは平民にも買える魔道具のお店を持つために、王都を目指していたんです」


 ······ん?


「平民にも?」

「はいっ。愛玩用の動物を模した魔道具や、火を簡単に起こせる魔道具をぎりぎり平民でも買える値段で売り出す店です!」


 ······ん? んん?


「愛玩用の動物魔道具? どんなの? いくらで出すの?」

「あ、見せますね。確かにここに······」


 商人が服のポケットから取り出したのは、歪なネズミのぬいぐるみだった。それに自分の魔力を半分ほど注ぎ魔道具として起動する。


「ちゅー、ちゅっちゅ」

「はぁ、はぁ············、このように、愛玩動物として可愛がれる魔道具なのです。値段は仕入れぎりぎりの二十三万リヴァルです!」


 しょっぼ!? 値段たっか!?

 魔力効率が悪く既に動かなくなったネズミは、特にネズミらしい動作をすることなく、ただ鳴いただけだった。


『ウッソだろお前。愛玩用って、リーア達と同じ魔道具なんだよね? リーア、これと一緒なの······?』

「比べる訳ないから安心して」


 ディシェル君が絶望した訳が分かった。


「ディシェル君、そう言う事なんだね。うん。分かったよ。あのさ、正直に言うね? 王都に送るけど着いたらすぐ帰りな。絶対王都じゃ売れないから」

「なっ!? 売れますよ! 何言ってるんですか!」

「いいや売れない。それが二十三万リヴァル? 無理無理。王都では絶対に売れないよ。ね、リーア?」

『無理ゲー過ぎて泣けてくる』


 リーアが商人の肩に飛び移り、翼で頭をぽふぽふする。

 いきなり自慢の商材を馬鹿にされた商人はいきり立つが、ディシェル君の顔色は土気色だった。


「この小鳥に何が分かるんですか。良く躾られて居ますが、ただの鳥でしょう?」

「············あの、お父さん、違うの······」


 肩で商人を慰めるリーアを睨む商人と、それに何か言いたそうに袖を引くディシェル君。私は運転席から後ろを見やり、教えてあげた。


「その小鳥、リティットはね、魔道具なの」

 


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