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アトリエ、開店。



 朝の鐘がなる前に私はアトリエに居た。最終チェックをするためだ。

 接客の確認をして、陳列の確認をして、在庫の確認をする。


 今日休みだったミュラちゃんに、特別給金あげるから出てほしいとお願いすると、嫌な顔一つせずに快諾してくれた。むしろ給金すら要らない、私に頼ってもらった事こそ褒美だと。


 最後にラインナップをもう一度確認して、どれが一番売れるか、スムーズに補充出来るかを確認していく。


 商品はリティット、パソコン、デジカメ、パソコンとデジカメ対応の小型印刷機、トリートメントコーム、ライター、各種武器、新体操のバトン型の魔法杖、リサイズ機能付きの鎧、魔力をストックできるローブだ。後々増える予定だが、今はこれが全て。


 武器は、鞘から抜くと循環システムを使って刃をマナで包み、切れ味が嘘みたいに良くなるロングナイフ、ショートソード、ロングソードに、別売りの実弾を撃ち出すハンドガン、アサルトライフル、スナイパーライフル。

 ただ、スナイパーライフルだけは暗殺等に使われる事も考えて登録性。ハンターや騎士など身分証がある戦闘職にしか買えない様になっている。


 弾丸も火薬を使ったタイプじゃなく、どちらかと言うとレールガンタイプの者で、エーテルを含ませた弾丸と銃器を反発させて撃ち出すから、薬莢が森に散らばるなんて事は無い。マガジンも別売り。


 さらに、武器はかなり高額になるがオーダーメイドも受け付ける。制作に時間が掛かる事も、アホみたいに高額な事も了承してくれる人は予約を受けて、私が空いている時に話しを聞いて作る。


 開店の時に、まだまっさらな鉄製の看板に私が彫金魔法で店名を掘ることにしているのだが、そとの様子を見ると怖くて出たくない。


「なに、この行列」


 そう、アトリエの前から中央広場をぐるっと回って二週目にすら届く行列が出来ているのだ。なんだこれ。


 これは、整列させる案も今考えなくては······。


 私渾身のガラス戸を開けて、一人だけ店から出る。先頭に居るのは何とレイオラシスだった。


「あら先生、ごきげんよう」

「おはようフェミリアス嬢。待ちきれずに日が変わる頃には来てしまっていたんだが、それでもギリギリだったよ。少し遅かったら一番になれなかった」

「側仕えでも寄越せば良かったのでは?」

「まさか、どれほどの性能があるか分からない物は、自分で見て買わなければダメだろう?」


 この世界でもこういうのあるんだね。そして王族が何やってんだまじで。


 私は魔法を使って自分の声を広場に届ける。


『お集まりの皆様、アトリエの店主フェミリアスです。予想以上に皆様が当店に期待を寄せて頂いているようで、店主として嬉しく思います』


 店主と名乗る声が広場に響くと、やっと開店かと騒然となる。


『予想を大きく上回るお客様にお越しいただき、当店は嬉しい悲鳴を上げていますが、皆様を一度にお招きするとお店が壊れてしまいます。なので、一度に三十人まで店内に入れ、その後は一人出る度に一人入れると言う形を取らせていただきます。なお、割り込み等をされたお客様に関しては、店内に絶対に入れないので、どれだけ騒がれてもお帰り頂きます。そして、今並んでいる方には番号を降った整理券を配ります。番号が若い順に優先してお店に入れるので、一度解散して頂いても結構です。朝食もまだ食べていない方もいらっしゃると思いますから、どうか慌てずにお待ちくださいませ』


 それから、入口のレジカウンターに整理券発行の小さい機械をロールアウトして、紙がわりにファイバーを使った布でジャンジャン印刷していく。

 開店まで時間が無いので、従業員とリーフェと私、総動員で配っていく。

 リリアとメリルも来ているが、獣人差別があるかも知れないので私の私室で遊んでもらっている。


 一番の券を持っているレイオラシスは列から動かず、ここまで来たら絶対に一番に入店するんだと意気込んでいた。

 店内にはトイレもあるから、色々大丈夫だとは思うけど程々にして欲しい。


 そして鐘が鳴り響く寸前、私は彫金魔法で看板に名前を記した。


『フェミリアスのアトリエ』と。


 すでにシスケンティアが居るレイオラシスは、パソコンとデジカメ、印刷機に魔法杖にローブとライター、さらに護身用に素晴らしいとハンドガンをマガジンと弾丸セットでお買い上げ。


 その後も噂を聞いた人々に、予想通りにリティットが飛ぶように売れる。予め一人二つまでしか買えないと棚にもレジにも張り出して居るが、三つ四つ理由を付けて買おうとする人間も居た。


「どの様な理由が有りましても、例外は御座いません。ご満足頂けない様でしたらお帰り頂いても結構ですわ」


 あくまで強気に対応して、暴力に訴えようとする人間は私が直々にねじ伏せた。

 私の戦力を知らない従業員には驚かれつつも、また信頼度が上昇した。


「大事な従業員に暴力を振るう方はお客様ではありません。リーフェ、叩き出して次のお客様を」

「畏まりました」


 私もレジに入り、休憩を何とか回しながら水の鐘も過ぎるが、一向に客足が途絶えない。


 支払いは商業ギルドに申請して『支払い箱』なるリヴァルカードの魔道具も置いているが、レジの金庫もそろそろ晶貨がはち切れそうである。


「これ、夕刻の鐘までに捌けるの?」

「あはは、無理じゃ無いですかね?」


 休みを返上してくれたミュラちゃんとレジで客を捌きながら、どうするか考える。

 配った整理券は全て回収したのを確認したから、未だに途切れないのは新規の列だ。


「あ、アナタ様は先ほどリティットをお買い上げ頂きましたよね? それで三つ目ですので、お買い上げは諦めてください。どうしてもと言うなら、また明日お越しくださいませ」


 前世でもあった、しれっと二回目くる奴も普通に居て、レジをやっていない時もレジカウンターに座っている私が全て管理している。


 くっそ、飯が食えねぇ!


 夕刻の鐘が間近に迫っても客足は途切れない。不安になってリーフェを工房に行かせると、リティットの在庫がデッドラインらしく緊急生産中だと。


 ちなみリティットは、赤、緑、黄、紫の四色のみ売っていて、私が今までに作った愛玩用リティットとは色被りしない。フェアリーゼのリティットと少し被るがあれは愛玩用では無いからノーカンだ。


 リティットは赤と紫が特に人気らしく、入店を三十人ずつにしているのに補充がギリギリだ。


「夕刻の鐘で店閉めたら、暴動起きそうだね。あー、皆残業お願いしていい?」

「もちろんです。ご主人様の為に稼がないといけませんからね」

「リーフェ、みんなにも聞いてきて。一人でも嫌がったら無理矢理にでもお店閉めて、暴動は捩じ伏せる」

「ふふ、誰も反対しないと思いますけどね」


 リーフェの言う通り、工房の男性陣を含めて誰一人反対しなかった。それどころか、工房は店と違って全員は要らないとちゃんと休めたビッ君もお店に戻ってきて働き始めたと。

 うちの従業員まじ皆いい子。今日の売上ちょっとヤバそうだし、ボーナスあげよっと。


 私はレジカウンターから出て、ガラス戸を開けて魔法を展開する。先と同じ拡声の魔法だ。


『お集まりの皆様、本来は当店夕刻の鐘で閉める予定なのですが、本日はまだまだ足をお運び頂けているご様子なので、閉店時間を延長致します。取り敢えず夜の鐘まで様子を見ます』


 夕刻の鐘がなってもまだ途絶えない。在庫が本気でやばそうな客足の中に、見知った顔も混じり始めた。

 同じ上級組の貴族や、食堂で癒しの日に見かける上の学年の貴族。リコルシュリアまで来店した。


「フェミリアス様、ごきげんよう。来てしまいましたわ」

「ご来店ありがとう存じます。列に並ぶのは大変だったでしょう?」

「ふふ、それだけフェミリアス様の開いたお店が素晴らしいと言う事ですわ。わたくし、魔道具を売るお店にこれだけの平民が居ることがどれだけ素晴らしい事か、言葉に出来ませんもの」


 店内は貴族と平民が入り乱れている。レイオラシスがリッドデッドやティターニオに話し、さらに別の教師に伝わり、それが貴族街に伝わったのか大人も子供も大量に来ている。

 たまに何故貴族区域に店を出さなかったのかと、嫌味を言うものまで居たくらいだ。


 私が割り込みをした貴族を本当に追い返した事から、貴族と平民の間でトラブルは特に起きておらず、店の外で平民を並ばせてリティットを多く手に入れている者は流石に目こぼしした。

 こっちに迷惑を掛けない策を用意したのなら、無理矢理大量に買おうとする奴よりは余程好感が持てたからだ。

 買わせた平民にも小遣いげてるみたいだったしね。


 レジカウンターから外が見える様に窓ガラスを設置したのは正解だった。


 夜の鐘がなる寸前で、やっと客足が減ってきた。が、依然として列は存在する。


「え、もしかしてフェミ今日寝れないの?」

「ご主人様、ここまで来たら私達で大丈夫です。私達は休憩させたのに、ご主人様は食事さえしてないではありませんか」

「そうです。ご主人様はお休みください」

「いやいや、初日の売上集計したいから、寝れないよ」

「でしたらせめて、私室で休憩を取ってください。昼も夜も食べないのは、ご主人様のお歳だと体に悪いです」


 皆が想像以上に私を心配していたので、大人しく私室に向かう。私の私室は寮とほぼ同じ作りにしているので、皆の部屋と違って個人の風呂がある。シャワーも付けてあるし、かるくさっぱりしようかなと部屋に入ると、歌が聞こえた。


「お願いリティット、届けて想いを······♪」


 リリアがシンセサイザーとパソコンを繋いで、なんと歌を作っていた。メリルはベッドの上でそれを聞いてうっとりしている。


「お願いリティット、届けて願いを······♪」


 私が貸していたプレーヤーから前世の曲調にハマったのか、リリアが歌うのはJPOPだった。

 私も聞き惚れてしまって、扉を開けたまま動けなくなってしまった。

 猫耳をピクピクさせて、リリア専用のイヤホンを耳につけ曲を流しているのだろうか、歌はアカペラだったけど、むしろリリアの可愛くて綺麗で澄んだ歌声がダイレクトに耳に入ってきて、いつまでも聞いていたい。


「あ、ファミちゃん」

「······へ? にゃぁ!? お、お姉様!?」

「リリア、リリアー! 素敵だったよー! もっと、もっと聞きたい! メリルだけズルいよ!」

「あ、あの、まだお姉様のお耳を汚すほどでは······」

「汚すなんてとんでもないよ! 洗われたよ! 綺麗になったよ身も心も!」

「ねー。リリアちゃんの歌、私大好き。なんで隠してたの?」


 メリルに食事の準備をしてもらって、夜の鐘がなる中リリアと夕餉を楽しむ。

 メリルも席に座らせて、リリアの歌の話しを聞いていく。


 プレーヤーの音楽を、私の夢の世界の音楽と説明していたが、リリアは大層気に入ったみたいで、自分も作ってみたいと思ったようだ。なんと今は七曲も出来ているらしい。


「全部! 全部聞かせて! リリアの歌ききたい!」


 食事の後に、恥ずかしがるリリアのミニコンサートが開催された。私が土下座までしたからリリアが歌わざるを得なかったのだ。


 歌は、さっき歌ってたのが『お願いリティット』で、リティットが恋心を伝えてくれるラブソング。私宛らしい。照れるね。

 他にも『にゃんにゃんにゃん』『騎士歌』『夜明けの花』『舞踏会に笑顔』『美味しいご飯』『ハンター活劇』と、多様な曲が仕上がっていた。


 中でも『にゃんにゃんにゃん』は私の胸をぶち抜いた。リリアがにゃんにゃん言って、手を猫の手作って、かわっ、可愛いよぉぉぉぉお!


 ちょっと巫山戯た曲も作ってみたくて出来た歌らしいが、一番気に入った。私はリリアにまた土下座して全部新たしいプレーヤーを作って保存した。


「ねね、リリアちゃんの歌も、お店で売れば? お店で流しっぱなしにしてさ」

「ほんとにメリルは天才過ぎる! 絶対売れるじゃんこんなの! プレーヤーと音源を別売りにして、新曲出る度に売り出そう! 王都の人全員リリアのファンにしてやる!」

「にゃぁぁぁぁああ!? 無理です! リリア恥ずかしくて死んでしまいます!」


 それからメリルと二人がかりで、リリアがどれだけ可愛いか、世間に知られるべきか、この曲を公表しないのは世界の可愛いに対する冒涜であるとか、洗脳を続けて許可をもぎ取った。


「リリア、可愛い、リリア、歌う······」

「······やり過ぎた」


 目を回しているリリアをベッドに寝かせて、超絶リフレッシュ出来た私は店に戻った。


「ご主人様、もう良いのですか? なにやら幸せそうですが」

「あのね、マリちゃん。三階にね、天使が居たの。猫耳の天使が、歌姫が居たの。フェミもう幸せで死にそう」

「詳しくっ!」


 私と同じリリア大好きマリちゃんに、先ほどの事を喋ると是非見たかったと悔しがった。


 お店はやっと客足が途絶えたので、すぐに店を閉めてシャッターを下ろした。


「初日、乗り切ったぞー!」


 青いツナギ姿の工房勢も集めて、店で初日終了を宣言する。

 本当は宴会でも開いてあげたいけど、明日もお店開くので、せめてめちゃくちゃ労う。

 執務室でやろうと思ったけど、この場で支払い箱の分も合わせて売上を集計していく。そうしているとリリアとメリルも降りてきて、マリちゃんに捕まった。


「うわ、すご。何この売上、引くわぁ」

「······とんでもないですね」


 リーフェにも手伝ってもらって、晶貨や支払い箱を長い時間使って集計を終えると、私は引いていた。


「ご主人様、どうなったのでしょう?」

「えーっとね。今日の売上、なんと、二千六百二十八万リヴァル、バジリスク何匹分よこれ」


 私の宣言に皆大歓声をあげる。いやまさか二千万を一日で超えるとは思ってなかった。ほんとどれだけ売れたんだよ。

 いや商品の単価が高いのにアレだけ売れたんだ、納得の数字なのかな?


 武器も良く売れたし、ハンドガンとナイフは十万リヴァル。ショートソードとアサルトライフルは十五万リヴァル。ロングソードは十八万リヴァルにスナイパーライフルは二十五万リヴァルだ。


 ローブは五万、リティットは八万、デジカメは十万等、どれもこれも高い。だが客からして見れば魔道具がこの値段なのはそもそも破格な上に、性能はピカイチと来てる。売れるのは当たり前だったのかも。


「よし、皆今日は残業ありがとうね。ささやかだけど特別給金あげるよ」


 ほぼ技術料で、それを加味しない場合純利益だけでも二千万超えている。素材も大量に買い付けて値段を落としていたので、一人一本虹晶貨渡してもいいくらいなんだよね。


「いくら欲しい? 予想を遥かに超えたから、虹晶貨二本くらい行っちゃう? 今日みんな奴隷解放しちゃう?」

「虹っ!? 二百万リヴァルですか!?」

「いやいやいや、ご主人様がいくらいい人でもそれはダメですよ。無い無い無い」

「そう? だって純利益が二千万超えてるよ? 初日くらいどかーっと行きたくない?」

「俺たち今日やっと働けたんですよ? それまでも給金貰ってた事考えると、特別給金だって畏れ多いですって」

「気にしなくて良いのになぁ。じゃぁ虹晶貨一本?」

「たがら一旦虹晶貨から離れましょう!? 平民がそんなに持っても怖くて使えませんって!」

「あ、そうかそうか。虹晶貨なんて持っても買い物出来ないか。じゃぁ金晶貨九枚と銀晶貨十枚で············」


 皆が凄い謙虚なので、一人五十万リヴァルで落ち着いた。むう、皆今日は頑張ってくれたから、もっとワガママ言って良いのになぁ。


「俺、ここに買われて良かった」

「心から思うわよ。私達、とんでもなくいい暮らししてるわよね?」


 女の子は服だってカワイイの欲しいだろうし、貰えるだけ貰えば良いのに。そう言えば、グリアポルトさん来なかったけど、他の人に来させたのかな?


「それじゃ、明日も大変だと思うけど、フェミ抜きで頑張ってね? このまま行けば、皆の給金増やせるからー」

「もう充分貰ってるって、どうやったらご主人様はわかって下さるのかしら」


 私こそ皆が分からない。私は世の中お金が全てだと思ってた口だし、働いた分しっかり貰えない事もザラだった前世を考えると、くれるって言うなら飛びつくべきだと思う。


 そんな事を考えながら、貴族区域が閉まるギリギリに門を入った。今日の騒動を聞いたらしいいつもの門番さんは待っててくれたらしい。


「門番さん、いつも見掛けますがお休みはあるのですか?」

「ふふ、要らぬ心配だ。だがありがとう」


 明確な答えは貰えずに見送られて、私達は貴族寮に帰った。


 次の日、食堂もすれ違う貴族も、教室の中もリティット祭りだった。


「ごきげんようフェミリアス様。わたくしもリティットを買いに行きましたわ。もうとても可愛らしくて、わたくしどうにかなりそうですの」

「私も側仕えに買いに行かせました。ずっとレイオラシス様やフェミリアス様のリティットを羨ましく思っていまして············」


 教室に入ると、主役が来たと言わんばかり私とリリアは囲まれた。今日ばかりは獣人差別派の貴族もリリアを気にせずはしゃいでいる。

 さらにはパソコンとデジカメ、印刷機まで買った者もいて、リティットを羊皮紙に印刷しては眺めていた。いや肩のリティットを構ってあげてよ。実物そこに居るじゃん。


 流石にデジカメと印刷機は希だけど、パソコンも人気だった様で、教室の八割はパソコンを持っていた。

 使い方は昨日のうちに練習したのか、授業の内容は漏らさず記録すると気合を入れている者が多く見られた。


 教室に入ってきたレイオラシスもパソコン、デジカメ、印刷機と授業に使うため印刷してきた大きな羊皮紙を抱えていて、さっそく仕事に有効活用していた。


「ふふ、皆おはよう。皆もその様子では知っての通りだが、昨日フェミリアス嬢が魔道具の店を中央区域に開いた。売っている物はどれもが素晴らしい出来で、貴族学校でも大いに役立つだろう。私も仕事がこれ程簡単に············、ぐすっ」


 レイオラシスが今までの苦労を思って涙して、授業が始まった。今度、レイオラシスにプロジェクターでも作ってあげよう。羊皮紙に印刷するのでは、まだコストがかかるだろう。


 授業の休憩時間にはまた人だかりに飲まれ、リリアとルフィアを連れてトイレに逃げ出す。いやいや着いてこないで。


「フェミリアス様達のリティットは、色が売られていない物なので、とても目立ちますわね」

「本当に。そこまでして目立ちたかったのかしら?」


 よりによって何でお前らが着いてくるんだキュリルキアとイオの妹! 何なんだよ本当お前ら!


「お兄様にもお贈りしたいので、特別に作って頂けないかしら?」

「まぁ、それは良いですわ。ついでに私達のリティットも」


 それは良いですわ、じゃないよ! お前ら何かに誰が作るか!


「ご心配には及びませんわ。イオ様には既に、特別に作ったリティットをお贈りしておりますので。ほんの数日ですが、イオ様『個人』には、大変お世話になりましたもの」

「···なっ!?」

「お兄様とリディアット様にもお贈りしたので、数日後には仲良くコールで友好を深めていると思いますわ。では、失礼しますわね」


 実際お店を開く前に、お兄様にはリディアットの髪を模した深緑のリティットを、リディアットにはお兄様の髪を模した漆黒に深緑のハート模様を入れたリティットを、イオにはトルザークの領主紋を翼に入れた金色のリティットをそれぞれ手紙と一緒に贈っている。


 普通に馬の便で送ったので時間はかかるが、いま妹から送るより早く着くし、私はコイツの願いなど聞く気は無い。


 先手を打っていた私に驚く二人を置いて、三人でトイレに入る。後から来るだろうが個室に入ってしまえば顔なんか見なくていい。


 貴族学校のトイレは、前世でも見たタイプの個室プラス洗面台と言った物だが、個室は完全防音の超豪華仕様で、ここに誰が住むん? と首を捻りたくなる造りだ。洗面台も、高級ホテルを思わせる清潔感のある白い大きな陶器で出来ていて、洗面台同士の距離も広く取られている。


 私は水洗もどきの落下式トイレで下着を下ろし、完全防音に安心して用を足す。

 ちなみにトイレの作りは洋式と和式が中途半端に合体した感じで、和式の形のまま膝の高さ程まで上に迫り出していて、そこに跨って腰掛けるようなやり方で済ませる物だ。最初はなんだこれって思ったけど、慣れるもんだね。

 そこから、湧き出る水に流されて、小さな穴の中に落ちていく仕組み。


 スカートが汚れない様に備え付けの紐があって、スカートをたくしあげて縛る事で用を足せる。


 ちなみに、私がアトリエに設置したトイレは完全水洗式で、前世でも良く見たアレだ。使い方も張り紙したし、大きく問題はないどころか是非広がってくれ水洗式トイレ!


 用が終わり、使い捨ての布が重ねてある場所から一枚取り、洗浄魔法で自分の臀部を洗ってから拭いた。

 個室の隅にある蓋付きのゴミ箱にそれを捨てて、布を使い捨てるって貴族本当に何様とか思いながら個室から出た。手を洗おうと洗面台に行こうとすると、隣の個室からルフィアが出てきて連れ込まれた。


「ふぇ、な、なに? ルフィア?」

「ぅう、フェミちゃん見てて············」


 いつもは寮の部屋で行うルフィアの痴態を見せられて、急にどうしたのかとビックリしてしまう。


「ルフィア? どうしたの?」

「あぅう、我慢出来なかったの······。弄るのは我慢するから、見てて欲しいのぉ······」

「うん。大丈夫だよ。皆がいっぱいきて、あんまり喋れなくて寂しかったんだね?」

「······ぅん」


 黄色い水がルフィアから零れるのを見て、満足したルフィアを拭いてあげる。


「本当に見られてするの好きだね?」

「ぅん。フェミちゃんに見られてると、気持ちいいの······」

「ふふ、飲ませなくて良かったの?」

「ぅぅう、いまフェミちゃんのお口、付けられたら、我慢出来なぃ。教室戻れなくなる······」


 大領地一位のお姫様を、落とす所まで落としてしまった私の罪はどれほどなのか。

 確かに最近お店開くために走り回って居たから、ルフィアはお泊まりも出来なかったし、教室で会える僅かな時間も他の貴族に邪魔されたら我慢出来なかったのだろう。


「ふふ、今日も少し出掛けるけど、今夜は泊まっていいよ」

「······ほんと? ぅれしぃ」


 エコーで個室を出るタイミングをはかり、キュリルキアとイオの妹がトイレを出た確認の後二人で個室を出た。流石に見られたら不味いもんね。


 リリアも同じようにしていたのか、私とルフィアが個室を出たタイミングで出てきて、涙目だった。


「ぅぅぅう! ルフィアさんが寂しいのは分かりますが、一緒に個室なんて······、ズルイですわ······」

「ごめんごめん。でもリリアはいっつもお風呂もベッドも一緒だよ?」

「違うのです。手洗いの個室は、その、他とは違って、ドキドキすると思うのです!」

「············ぅん。ドキドキ、した」

「にゅぅぅう······! お姉様、貴族学が終わったら······!」

「貴族学が終わったらアトリエ行くよ?」

「ふぇええん······!」


 泣き出したリリアを抱き締めて甘やかしながら教室に戻る。泣き腫らす程では無いけど、魔法で綺麗にしてから教室に入る。


 休憩の後は音楽の時間で、リリアの歌声に浸ったあと、授業が終わりアトリエに向かう。


 ルフィアは賢者の石の効果と、メリルの指導のおかけでそろそろ魔法学を卒業出来そうだと張り切って行った。


 ちなみに今ではメリルがリッドデッドの助手として魔法学の授業を手伝っていたりした。

 ハンター業がある時は返して貰っているが、リッドデッドがめちゃくちゃ渋るのだ。メリルの才能は相当気に入られた様子だった。


 今日はメリルはそのままに、リーフェも寮に置きっぱなしでリリアと中央区域でご飯を食べてからアトリエに行くと、今日も行列が出来ていた。


 昨日は普通の貴族が多めだったけど、今日は昨日の噂を聞いて武器を求めるハンターや騎士が多い様だ。


 店に入る時に割り込みと勘違いされそうになったけど、この店の店主だと知っている者がその後ろに居たのでお店に入れた。


「やっほー。売れてる?」

「あ、ご主人様! あのっ······」


 なにやらミュラちゃんとマリちゃんが慌てている。事情を聞こうとカウンターに入ったところで、原因が分かった。


「おぉ、来たか! 随分賑わっているでは無いか」

「国王陛下!? なにをしているんです!?」


 店にはジークザーロ国王が来店していた。



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