圧縮圧縮、樹木を圧縮。
圧縮圧縮、空気を圧縮! どうした三下ぁ!
『お前の幻想をぶち殺す! ぴぃー!』
お前は、上条リーア!?
資金もハンター業で充分溜まってきた。ティターニオの技術供与で魔力消費問題も解決している。量産設備の設計もファクトリーの中で終わっていて、お店になる建物を土地ごと買うかと計画もしている。なのに。
「マナ結晶ってどこにあるのさぁー······!」
私が作る魔道具のほぼ全てに使われている、トワイライトスターで最もポピュラーな素材であるエーテル結晶が見つからない。
これが見付からないと、私の店を持つ計画が丸っと頓挫するのである。
最近知識を詰め込みまくって理知的になった、身長も少し伸びて大人っぽくなった超絶美少女メリルたんに泣きつく程に困っていた。
「メリルちゃーん、助けてよぉ······」
「フェミリアス様が私をそう呼ぶのは久しぶりですね」
「今はメリルちゃんも夜の鐘になっていいからぁー」
メリルに抱き着くと優しく頭を撫でてくれる。この数ヶ月で急に包容力が出てきてちょっとドキドキしている私は、また豊満になったメリルの胸に顔を埋めていた。
「マナを集める素材を探して、自分で結晶育てないといけないのかなぁ······。鍾乳洞みたいな事になったら死んじゃうよぉ」
ふかふかの胸で弱音を吐いていると、メリルがきゅっと抱き締めてくれる。
ちなみにリリアは一人お茶会に呼ばれている。なんでも側仕えすら排して女の子だけで話したいそうだ。なんだろね。
そのためメリルが私について、リーフェはハンターとして荒稼ぎしている。
ルフィアも部屋に居るけど、さっきまでベッドで可愛がって上げたから疲れて休んでいる。
「マナを集める素材······? 魔樹とかじゃダメなの?」
「······ふぇ、魔樹?」
「うん。マナを吸って育つ樹木があるの」
「マナを吸って、樹木、結晶············」
メリルちゃんを抱き締めてベッドに連れて行き、服を脱がせて押し倒した。
「ふぇえ、フェミちゃん!?」
「メリルちゃんやっぱり天才だよぉー! それだぁー!」
私は嬉しくなって、潰れているルフィアの横でメリルをいっぱい可愛がった後に、詳しく魔樹の事を聞く。うふふ、メリルさいこーだね。
正直、鉱物や魔物素材ばっかり探していた。木の素材とは盲点だったよ。
「はふぅ、フェミちゃん激しいよぉ」
「嬉しかったんだもん! メリルちゃんありがとうね。それで、魔樹のこと教えて欲しいなー」
「う、うん。えーっとね」
どうやらリッドデッドに教えて貰ったらしく、魔樹の詳細がわかった。殆ど私が求めていたマナを吸収する素材その物の上、樹木なので木炭にした後圧縮すれば、人工ダイアモンドを作るが如くマナ結晶を作れるかも知れない。
「うふふ、メリルちゃんのお陰だからもう一回して上げるね」
「やぁん。フェミちゃん上手だからシ過ぎちゃうの。少し休も?」
この世界でもマナ吸収素材は不遇らしく、そこまで高い素材じゃないのもかなり嬉しい。安価にエーテルコアを量産出来れば、いっそエーテルコアだけ売り捌いても儲けられそうだ。
なにせ、エーテルコアを魔法の触媒にするだけで魔法使いとしての腕が馬鹿みたいに上がるのだから。
「ふふー、休みたいって言うのに、ここは欲しがってるよ?」
「やぁ、だめぇ。まだ入れちゃっ、ぁ、まってぇ」
リティットは循環システムで動かせると思ったけど、マナ吸収素材とエーテルコアが同時に手に入るなら従来の設計で行ったほうがコスパ良さそうである。
「ぁ、だめ、また来ちゃぅっ」
「んふふー。メリルちゃん可愛いよぅ」
「ふぅう、ルフィアも混ぜてぇ?」
頭の中で組み上がっていく計画に嬉しくなりながら、三人の時間を楽しんでいく。メリルちゃん柔らかいし、ルフィアは美味しい。最近は性癖が加速して飲ませたがるから、二人っきりの時はお願いを聞いてあげてる。
今日は三人だけど、良いかな? お風呂場行こっか。
お風呂場でルフィアに押し付けられ、出てくる物を飲んであげるが、あれだね、これしょっぱいって言うより、苦くてエグいんだよね。でもその後出てくるルフィアの雫は美味しいから頑張る。
「············私もやってみたい、かな?」
「······え、メリルちゃんも?」
性癖が伝染していく様子に少し面白くなりながら、久々にゆったりした癒しの日を過ごした。
三人で満足したので、色々後始末をしたにも関わらず、帰ってきたリリアは目を細めた。
「獣人の鼻を甘く見ないで下さいませ。ズルイですわ! 夜はリリアがお姉様を独り占めしますからね!」
バレてしまったので夜はリリアが気絶するまで愛してあげて、リーアを抱き締めて眠りに付いた。
次の日から学校終わりに中央区域に行き、最近顔を出しているお店に行く。
「グリアポルトさん居ますー?」
「やぁ、いらっしゃいませフェミリアス様」
「フェミちゃんでいいよ?」
「ふ、そうかい? じゃぁフェミちゃんで」
ポルトの服飾店だ。別に服を買いに来た訳ではない。商人として大きな成功を収めているグリアポルトに顔繋ぎをして貰ったり、情報を貰ったりしているのだ。
今日は魔樹の現物が欲しくて、どこで買えるか聞きに来たのだ。
「魔樹ねぇ、珍しい物を欲しがるんだね?」
「ふっふっふ、もしかしたら金のなる木になるんだよ。魔樹甘く見ちゃダメだよ」
グリアポルトに紹介状を書いてもらい、教えられたお店までビークルを走らせた。そこで取り敢えず手頃な魔樹を切り出した板を一枚だけ買って、アナライズして情報を丸っとファクトリーに送る。
シュミレーターを起動して、魔樹を炭化させて圧力を加える実験を行い、結果を祈る。
圧縮圧縮、樹木を圧縮! ベクトルそうさぁ!
そしてファクトリーのシュミレーターで思い通りの結果が得られたので、この瞬間計画が完成した。
「レイオラシス先生、遂に計画が動かせる所まで来ましたよ」
「本当かい!?」
後日、教室に入ってきたレイオラシスに話しかけた。
この数ヶ月で少し崩れた私の口調を気にしないレイオラシスに、やっと出店の計画が動いた報告をする。一番楽しみにしていた人間のうちの一人だ。
喜んで居るレイオラシスは上機嫌で授業を進め、今日は貴族の嗜みとして音楽の勉強だ。授業が始まると私はリリアの歌声に意識を委ねた。
獣人差別がまだ抜けない貴族以外には、おおむね受け入れられたリリアが今一番輝く授業が音楽の時間だ。
リリアの歌声は可愛く綺麗で、聞いてるだけで心の底から癒される。初めて聞いた時は涙まで流したからね。
リリアも楽しいようで、私のプレーヤーで翻訳された音楽も聞いて、前世の音楽に使う楽器を欲しがられた事もある。
その時は、部屋の隅にシンセサイザーを作ってあげて、リリアのパソコンと繋いで色々編集できる様にしてあげた。
それから数日、遂にお店を買うことにした。
リーフェに伝えてリヴァルカードを持ってきて貰い、商業ギルドに書類を持っていく。
『ご主人、ついにお店持つの? リティット増える?』
「増えるよー。めっちゃ増えるよー」
喋り方が流暢になったリーアと小声で喋りながら、商業ギルドで担当者を呼んでもらう。
前々から目を付けていた物件があり、まだ売れていないかを確認した後契約して、一括で購入した。
場所はハンターギルドの時計台を挟んで向かい側。買うにも借りるにも料金が高いのでまだ残っていたレンガ造りの物件は、高いだけあって立派な物だった。
皆で危険度上級の魔物を乱獲して貯めたお金は今や八千万リヴァルに届いていて、建物は五千二百万リヴァルもした。
購入した建物は地下に一階地上に三階。地下は倉庫の様で壁など無いブチ抜きの広い空間があり、地上一階がお店になる。二階より上は居住区で、従業員を住まわせられ、私の要求が全て通っている理想オブ理想の建物だった。
契約が終わり、土地や建物の権利書など書類を貰って鍵を受け取ると、さっそく買った建物に行き徹底的に掃除とリフォームを行う。
建物全域を魔法やファクトリー機能をフル活用して、隅々までお店の魔改造を終えるのに長い日数を要した。
住みやすく改造して、店部分も理想の店内にリフォームし、地下は量産設備をぶち込み、技術供与で誰にでも使える様に作れた貨物用エレベーターなども取り付け、納得の行く自分の城になった事を確認したら、次は素材の卸売り業者を回って話しを付けて、従業員も『買い』に行く事にした。
リーフェだけ連れて来た場所は奴隷商店。攫ったりした奴隷じゃなく正規の奴隷を扱うちゃんとしたお店だ。
量産設備とか色々、信用が置けない者に任せたく無いお店になるので、だったら奴隷買おうと前々から決めていた。
この世界の魔法具は、特に便利な物は決まって私産かティターニオ産で、私の魔道具は出回っていないからティターニオの魔道具オンリーになる。そして、ファンタジーよろしく『隷属の首輪』とか『従属の首輪』なんて物は存在せず、やるとしたら下手くそな精神干渉魔法を使った調教か、徹底的に苦痛を与える調教か、利害を見せて大人しくさせるくらい。
例えば隷属の首輪なんて付けて魔力を奪い続けたら、奴隷として仕事など出来ないので当たり前だった。
奴隷にも何種類かいる訳だけど、大別すると『重犯罪奴隷』『軽犯罪奴隷』『一般奴隷』『特殊奴隷』の四種類で、私は重犯罪奴隷と特殊奴隷は除外して、軽犯罪奴隷と一般奴隷を紹介して貰う。
重犯罪奴隷とは、言うに及ばずその手のクズが集まっているので論外。特殊奴隷とは体に障害があったり、ヤバイ薬に手を出して日がな自慰に耽ってしまうような本当に特殊な奴隷で、前者は超裕福な者がペット感覚で買ったり、後者はプリシラの様な性欲の持ち主が買っていくらしい。
障害者を差別する訳では無いが、これから任せるのは普通に労働なので除外だ。
「はい、じゃぁ買われたい人、居るかなー?」
粗末な服を着て並べられた女性の奴隷に気さくに言うと、皆必死で手を挙げてアピールを始める。ちょっと煩かったので端から順に聞いていくことにした。
「ふむ。大体わかった。それで、この中に獣人嫌いな人居る?」
私の中の重要事項を伝えると、何を勘違いしたのか六割程が喜々と手を上げるので、全員部屋から出ていかせた。
「フェミの妹が獣人だから、あなた達は買えない。ばいばーい」
私が獣人を虐める為に奴隷を買いに来たと思った様で、手を挙げていた者は慌て始めるけど、そんな事で掌返すような奴は信用出来ないし、どっちにしろアウトである。
「うん。比較的マトモな人が残ったね。もう一度言うけど、フェミの妹は獣人なの。本当に嫌じゃない人だけ残ってね。もし妹に何かしたら、あらゆる手を使って重犯罪奴隷に落としてあげるから」
私の殺気を入れた脅しで更に何人か落ち、二人の女の子が残った。十二歳の緋色の髪の女の子と、十六歳の茶髪の女の子。
「よく残ったね。自分で言うのもなんだけど、待遇は期待していいよ。高い宿並の部屋に毎日のご飯もちゃんとあるし、給金もまぁまぁあると思う。自分を買えた後も残って働くか辞めるか自由にしていい。ただ逃げ出すのは止めてね」
それから一般奴隷の女性も並べて同じ様にして、次に男性の軽犯罪奴隷、一般奴隷も精査して買っていく。
男女を四人ずつ計八人を買った所で、奴隷商人のおじさんがホクホクの顔だった。
「いやぁ、ありがとうございますぅ! しめて六百万リヴァルですが、五百五十万にマケましょう! こんな大口の買い付けは久しぶりですよぉ!」
「では支払いを。リヴァルカードで良いですね?」
「もちろんです! 今支払い箱を持ってまいりますから」
それから奴隷の証明書類にサインをして、特に魔法の効果が無い普通の『奴隷の首輪』を全員にはめて、鍵をリーフェに預ける。
全員を一度リーフェに任せて服を買いに行かせた後、一人で中央広場の店に行く。
三階を女性専用にして、二階は男性用。三階には私の私室も用意して、執務室は二階に準備した。
地下の量産工場、『工房』も点検して、建物に不備が無いことを今一度確認出来たところでリーフェが皆を連れて入ってきた。
「じゃ、改めてフェミリアスだよ。みんなにはフェミが売る魔道具を扱うお店の管理、経営、店番をお願いしたいの。相応の利益が出る予定だから、給金は期待しててね。それじゃぁ皆も改めて自己紹介お願い」
特に男性の奴隷と女性の奴隷は奴隷商店の外で初対面だった。同僚になるんだからお互いを知ってもらわないと困る。
「カラドラです。十二歳。えと、こんなに普通の仕事させてもらえるなんて、思ってなかったです。ご主人様、ありがとうございます。貞操が散る覚悟もしてたので······」
「本当にね。私はミュラフラウです。ご主人様、買っていただきありがとうございます。歳は十六歳です」
カラドラとミュラフラウは、最初に買った緋色と茶髪の女の子だ。軽犯罪奴隷なんだけど、何をしたんだろうね?
「アイルです。歳は十五、よろしくおねがいします」
「マリアートです。歳はアイルと同じ十五です。ご主人様の懸念する獣人嫌いは絶対無いので安心して下さい。むしろ猫人と兎人は可愛くて好きです」
薄紫のロングヘアのアイルと、クリーム色のミディアムヘアのマリアートで女性は終わり。ふむふむ、マリアートは獣人好きと。
「ふふ、妹は猫人だよ。猛烈に可愛いから楽しみにしててね」
「はいっ!」
次に男性陣も自己紹介して貰う。
「ミーズラです。騙されて借金をし、詐欺の罪で軽犯罪奴隷に落とされました。助けて頂いたご主人様には感謝してもしきれません」
「ミーズラと同じ手口で落ちましたバムステルです。ご主人様に感謝を······」
こっちも軽犯罪奴隷二人に一般奴隷二人の買い付けになり、奇しくも女性陣と比率が同じになった。
ミーズラは私と同じ黒髪の短髪で、私に本気で感謝している事からも親近感が湧いて既に若干愛着も出てきた。
バムステルはマリアートの髪を濃くしたような色で、茶色何だか乳白色なんだか判定が難しい長髪。
「一般奴隷のビットアです。力仕事は任せてください」
「元ハンターのヴェルナードです。同じく力仕事は得意です」
ビットアは白髪の坊主頭で、優しそうな顔に強さが見える男前。ヴェルナードは本当にハンターだったのか怪しいくらい弱気な顔をしたくすんだ金髪。ガタイは良いから力仕事は言う通り得意なのだろう。
「うん。カラちゃんと、ミュラちゃんと、アイちゃんとマリちゃんね。ミー君にバム君、ビッ君ヴェル君。これからよろしくね。じゃあ、まずは皆にお部屋を与えるから、その後お仕事の話しをするよ。一人一部屋あるからね。男性は二階、女性は三階で男性は三階に上がったら罰を与えます。でも自分の部屋に娼婦を呼ぶのは許してあげるし、それくらいは出来る給金もあげるから。あ、あと皆で勝手に恋仲になるのも自由だから、気になったら正々堂々行ってね。夜這いなんて掛けたら承知しないぞぉ? 女性が男性の部屋に行くのは有りだけど、こっちも無理矢理迫ったら女性でもキッチリ罰を与えるよ」
一人一部屋ある事に皆驚き、私が娼婦の話しをし出した当たりで男性陣が慌て始めた。でも共同で生活する場所では大事な事なんだよ?
三階をリーフェに任せて、男性陣を二階に連れていく。
ここには執務室も有るから、ここには勝手に入ると大変な目に合わせると念を押した。
買った建物が高かっただけに、部屋も多くて広々している。なんと二階は八部屋も有る。三階は六部屋で、それぞれ一室を風呂場に改造したので七部屋と五部屋。さらに私の私室と執務室が有るから六部屋と四部屋になる。
三階はすでに定員だ。まぁ一部屋二人に仕様を変えればまだ行けるけど、女性は四人で十分なので増やす気が無い。
部屋を選んでもらって、扉のプレートにそれぞれの名前を彫金魔法で記してあげると、手軽に使われた魔法に四人とも驚いていた。
「はい、じゃぁ仕事を割り振るね。まず女性陣」
全員降りてきた一階は、ほぼ全フロアブチ抜き。二階に繋がる階段と店のトイレ、あとスタッフオンリーの小さな倉庫以外の壁は全て取り払って居る。
建物を支える柱も上手く利用して陳列棚を設置した店内は広々している。大きさはコンビニ四つ分くらいだ。
スタッフオンリーの倉庫は休憩室の役割も持たせていて、裏口にもなっている。外に出ると馬車を止められるスペースだ。
「女性はお店で接客と商品の売買を担当してね。休みも普通にあげるから、そのへんは四人で話し合って。最低二人はお店に居るようにしてね。じゃないと手洗いも行けないでしょ」
「や、休みが貰えるのですか!?」
「うん。もちろんだよ。毎日こき使って疲れ果てた人が、十分な仕事が出来るなんて思わないからね。フェミの為にもしっかり休日を過ごす義務をみんなに与えるよ。もちろん男性もだからね。女性陣を逢瀬に誘いたい時は、休み合わせて頑張って!」
男性陣にサムズアップして激励すると、ソワソワと動揺し始める男達がなんだか幼く見えて面白い。
ちなみに男性陣の年齢は、なんと四人とも二十ピッタリ。
「なんなら、ここらで評判の美人も紹介するよ? 適齢期逃してて皆と同じ二十歳なんだけど、めっちゃ可愛くて綺麗だよ」
「あ、あの、ご主人様、それより我々の仕事の話しを······」
いたたまれなくなったミー君が話題を戻す。むー、お世話になってるプリシラに、安定した仕事を私が提供した男をプレゼントしようと思ったのに。上手くいかないもんだ。
ちなみに、各部屋は私が本気の防音を施したので、部屋の中でどれだけハッスルしようと隣には聞こえないし、鍵も全員の部屋に付いている。マスターキーは私が持っているので、入れるのだが。
「じゃぁ、男性の仕事は地下になるよ。女性陣もおいでー」
階段を降りて工房に着くと、四メートルほどの高さに見える天井にティターニオの照明魔道具を改造した物が並び、地下室を煌々と照らす。
その真四角の地下室、工房には五台ほどの汎用ファクトリーが設置されていて、階段から見る工房の最奥四分の一程を陣取っている。
見せられたあまりの設備に一同唖然として固まってしまうけど、慣れてほしいな。
「フェミが作った『魔道具を作る魔道具』、ファクトリーだよ。使い方は教えるし、文字読める人には書き出した物も準備してあるから。で、出来上がった魔道具はコッチの昇降機で一階に運んで、陳列してあげてね。重いものもあるから、女性には優しくね? ただ、お店で並べているとお客に何か聞かれるかも知れないから、ある程度は接客できる様にして、自分には無理だと思ったら、『担当を連れてきます』って言ってすぐに女性に頼って。やっぱり男の人より可愛い女の子の方がお客も嬉しいからね」
店の裏には、一階に入らずここに直通の昇降機が準備されているので、素材の運び込みも問題ない。
そうしてオーバーテクノロジーが詰まった地下での仕事を全て教え終わる頃に、最後に皆を集めた。
「皆が慣れるまでお店は開かない。男性陣は特にね。この工房を今日から使って商品の在庫をいっぱい作って、慣れたらお店開くね。女性陣は悪いけど、それまでに接客とかを覚えてね」
既にある程度の素材は運び込んである。設備の使い方と言うが、投入口に素材をぶち込んでパネルを操作するだけになっている。
後は備蓄の素材が無くなる前に各卸問屋と契約してくれば万事終わりである。
「リーフェ、服屋に行って注文した制服、いつになりそう?」
「男性用は二週もあれば出来ると言われました。女性用はひと月は欲しいと」
「ん、わかった。はーい皆、最後の最後に、皆の生活費を渡すよ!」
皆に与えた部屋は、風呂は無いがキッチンとトイレが付いていて、各々が普通に生活を区切れる作りにしてある。
風呂と言う共同施設があるから、最初から無理に突き合わせるのは避けたのだ。
だからそれぞれに同じ額の生活費を渡し生活してもらう。
一応、これは給金の前借りでも何でもないから、安心して美味しい物を食べてくれと伝える。
「さ、さすがに、あの、待遇が······」
「良すぎませんか······?」
「うん? 奴隷商店で待遇は期待してって言ったよね? フェミにとって今ここに居る皆は、フェミが買って来た『粗末に扱っていい道具』じゃなくて、『仕事をして欲しくて集めた人間』なの。人間なんだよ。人間はね、不満があると動きが悪くなるの。フェミは動きの悪い人にお金払いたくないから、皆が気持ちよく働ける様にする義務が有るんだよ。その上で怠ける人は容赦なく潰すから、覚悟しててね」
それから一階に戻り、戸締りなど建物の注意事項を説明した後、また様子見に来るから、今はここの仕事に慣れてねーと言ってお店を出た。
生活費は一人二十万リヴァル渡しているので、必要雑貨や必需品、着替えなども買えると思うし、制服の注文に行かせた時にそれぞれ一着、すぐに着れるものをリーフェに指示しておいたので大丈夫なはずだ。
風呂も魔道具をこれでもかと使った超豪華な物になっているし、トイレも落下式で下水に繋がっていた不思議な物を、絶えず循環システムで生み出す魔力が水に変換されている水洗式にしてあるから、慣れるまで大変だろうけど慣れたら二度と離れられない快適さのはず。
『みんな、ご主人を崇めてたね。ご主人は神?』
「ふはっ、止めてよリーア。フェミは普通の女の子だよ」
『ご主人が普通の女の子だったら、普通の女の子がご主人スペックだったら、世界滅んでる』
リーアの辛辣な突っ込みを頂戴しつつ、火の季節七の火月の二日目、水の日に私は何回目かの様子見に来ていた。
「みんなどう? 慣れたかな?」
「あ、ご主人様! 皆ご主人様が来たわよ! 工房の人も呼んできて! あのご主人様、ミー君とマリちゃんが今日は休日でして」
「うん、大丈夫だよ。大事な休日返上しろなんて言わないから」
リーフェと一緒にお店に来ると、ミュラちゃんが出迎えてくれた。
与えられた制服は黄色と白を使った華やかなエプロンドレスと給仕服で、とても似合っている。
従業員の呼び方は私を真似して、ちゃん付けと君呼びが定着していて、特に相性の悪い人も出なくて雰囲気は良好だった。
「ご主人様、いらっしゃいませ。店も工房もばっちりです」
「ふふ、良かった。じゃぁもうお店開けそう? そろそろ稼いで貰わないと、王都周辺の魔物が絶滅しちゃうからね」
「魔物が居なくなるのはいい事だとおもいますけど、稼いでいない私達にちゃんと給金も出して頂いて、一同早く働いてご主人様のお返しがしたいのです」
パーティヴァルキリーは、ちょこちょこ王都周辺の危険な魔物をぶっ殺しては皆の給金に充てるための活動をしていた。
そのため、リリアもメリルもリーフェも、もちろん私も店の皆には本当に神の如く感謝されていた。
「ふふ、じゃぁ皆集まったね。ミー君とマリちゃんには皆が伝えておいてね。明日、お店を開きます。お店の名前は今から『フェミリアスのアトリエ』で、みんなには贈り物が有るよ」
リーフェから皆に小さい木箱を贈る。中には全員同じ真っ白いリティットが入っている。アトリエで働く者専用のカラーリングだ。
使い方はもちろん商品として知っているので、皆すぐに名前の登録をして肩に乗せた。
「フェミのリティットの名前は知ってるよね? 何かあったらすぐに連絡を。まぁ自分で処理できたらそれでいいけど。アトリエは朝の鐘で開き、夕刻の鐘で閉まるよ。最初は凄く忙しいと思うから、大変だけど頑張ってね。開店三日の売上は、多ければ多いほど皆の給金に上乗せするから、何とか耐えて!」
「ま、待ってくださいご主人様! 今でも十分に貰っています!」
「そうですよ! 俺たち、それはもう何の不自由も無いんですよ」
「············皆忘れてない? まだ皆奴隷なんだよ? ぱぱっと解放されたくない? 解放されても、ここで働いてくれていいんだし、貰えるものは貰っとこ?」
恐縮してしまう皆を宥めて、明日も朝の鐘で来ると言って、準備だけは念入りにする様指示を出し、ミー君とマリちゃん用のリティットも置いて店を出る。
それからグリアポルトにも明日開店する事を伝え、商業ギルドにも同じ事を伝えて、一応ハンターギルドにも行き、バーゼルや試験官だった人にも明日の開店を伝える。
試験官は特に、バーゼルのフラムヴェルを羨ましがっていたので、オーダーメイドとは行かなくても、私が作った業物が買えるとはしゃいでいた。
そのまま是非宣伝してくださいな。
寮に帰り、エリプラムの部屋に行って開店を伝えると共に、彼女には贈り物を渡す。
「随分待たせたけど、思えばエリプラム様には凄くお世話になったから、結局贈るね。ファミ謹製のリティットだよ」
「まぁ♡ まぁまぁ、フェミリアス様、ありがとうぞんじます!」
感極まったエリプラムに抱き着かれ、身長差もあってエリプラムの胸に顔が埋まる。うむ、柔らかい。程よい大きさだね。
エリプラムのリティットは、水色に所々薄らと水玉模様を入れて可愛くして見た。翼の先やお腹に、光の加減で薄ら見える程度に。
「ああ、名前はどうしましょう。困りましたわ······」
「んー。エリプラム様の名前からとって、『プラム』なんてどうかな? 可愛らしいし、自分の名前を分けるから愛着わくよ」
「まぁ、とても素敵ですわ······。名前を分ける、ふふふ。きっと可愛くて仕方なくなりますわ」
またお茶会をしようと話しをして、あと誰に言わなきゃ行けないんだっけ············。
あ、思い出した。でもどこに行けば会える? あー、いいや。この時間なら仕事空いてるでしょ。
「リーア、コールシスケンティア」
私はコールを飛ばして、レイオラシスに連絡を取る。貴族学は終わってるから、今なら雑務中のはず。コールしても大丈夫だと思う。
『フェミリアス嬢? コールしてくるのは初めてだね』
「ごきげんよう先生。王族の方に気軽にコール出来ませんもの」
『ふむ。では今は気軽では無いと?』
「ええ、実は、明日やっとお店が開くのです。お約束した通りにお伝えを、と思いまして」
『なにっ!? あ、明日だと!? 実に急では無いか!?』
「申し訳ありません。従業員の教育が予想より早く終わりましたので、こうなってしまいました。他の方にも急いでお知らせして回っているのですよ」
『まっ、うぐぅ、わかった。必ず行こう』
「朝の鐘から夕刻の鐘までお店はやっておりますので、是非」
さてさて、後はみんな勝手に宣伝回してくれるでしょ。