ヴァルキリー。
「結果を聞かせろ」
「おう。とりあえずこの嬢ちゃん達は中級じゃ効かねえ。上級まで飛び級だ」
「そう············、なに!?」
「いや、俺が適わねぇんだから、中級じゃ不味いだろ。他の奴にも聞いてみろよ」
バーゼルとギルドマスターが何やら言い合って、視線を向けられた他の試験官は身振り手振りで私たちのヤバさを語り始めた。
「バーゼルが手玉にされてたぞ。こんなの中級に置かれたら俺らの仕事無くなるぜ」
「そうそう。死にそうなバーゼルを笑いながら追い回す姿は、死神に見えた。バーゼルには同情したぜ」
「他のお嬢さんも相当だぞ。戦いたくねぇ」
「目で追えない程の連打を撃つ猫の嬢ちゃんに、とんでもねぇ魔法を使う桃頭。依頼で敵同士になったら土下座して許してもらうね俺は」
いや待て誰が死神だゴルァ。
ギルドマスターはみんなが口を揃えてヤバいと言う私達を一瞥した後、他の受験者にも意見を聞く。
「他の者も同じ意見か? 自分達と同じ試験を受けて、一組だけ上級に行くのを認めてしまう程に?」
わざわざ含みを持たせた質問をするギルドマスターは、だが意味が無かった。一番ヤベェって思っていたのは同じ立場のはずの受験者なのだから。
「うん。俺達は文句無い。と言うかお願いだから上級に行ってくれ。おっかねぇよこの姉ちゃん達」
「兄ちゃん言いすぎだよ。お肉美味しかったでしょ」
「いやいや、少年たちの言う通りさ。このお嬢さん達は格が違う。同じ階級に置かれて同じ能力を求められたら、我々はハンターなんて出来ない」
「ふはは、そうだね。フェミリアスお嬢さん達は中級じゃダメだ。ギルドとしても中級に置いておくのは損害だと思いますよ」
「··················ディオル君、フェミいっぱい優しくしたのに、おっかないって······」
地味にショックだ。ご飯も作って、ナイフもあげて、あんなに優しくしたのになんで怖がられないといけないのか。
「フェミちゃん。バーゼルさんを追い回したのが一番悪かったと思うよ?」
「いいえメリル。お姉様は悪くありません。試験官なのに逃げ回っていたバーゼルさんが悪いのです。最後までちゃんと戦っていれば、お姉様の印象は幼くても勇敢でカッコイイ素敵な貴族だったはずです」
リリアが何かズレたフォローを入れてくれる。が、意外とみんな納得してるのか頷いていた。
「確かに、試験官が最後まで斬り結んで居たら、普通にカッコよかったね。敵に武器まで与えて打ち勝ったのだし」
「そう言えば、そうか。姉ちゃんはおっちゃんにスッゲェ剣まで渡して戦ったもんな。自信満々だったのに最後に逃げたおっちゃんが悪いのか?」
「おいおい! お前ら無茶言うなよ! 魔法の刃入れたら何十本あったと思ってんだ!」
「············怪我しても文句言うなよ?(キリッ)」
「パジェスラてめぇ!」
みんなが私のフォローをし始めて、試験官さんが戦う前のバーゼルのモノマネをドヤ顔で披露した。ちょっとウケる。
「············そこまでだと言うのか? 貴族とは言え、まだこんなに幼い者が?」
「ギルマスさんよ、騙されちゃ行けねぇぜ。さっき下で嬢ちゃん達の連れが獲物納品してたんだがな、バジリスクを一人で殺って有り得ないって揉めてたくらいだ。嬢ちゃんが言うには同じくらいの強さだとよ」
「な、はぁ!? バジリスクなんて上級ハンターでも数人がかりで倒す魔物だろうが!?」
ほほう。そんなに強いのかね。バジリスク君とは。
「しかも、難癖付けるならもう一匹狩って来るっつって出ていったからな。なぁ嬢ちゃん、あの姉ちゃんはバジリスクもう一匹殺ってくんだろ?」
「うん。どこかに居るなら間違いなく、サクッと殺って来ると思うよ? 見つからなければ無理だけど」
流石に存在しないものは倒せない。いくらパーフェクトビューティなスーパー側仕えのリーフェでも、それは無理だ。
ギルドマスターは信じられないと気持ちが張り付いた顔で、取り敢えず私達の事は後回しにすると決めたらしく、他の人達から発表になった。
グリアポルトは四級まで飛んで、ディオルは五級。ランズとビシュネは六級で全員めでたく中級ハンターに昇格。やったね!
他の人も殆ど中級になれているなか、領軍崩れは八級だと発表された。
まぁ、獲物切り刻んでダメにするわ、料理もパッと見た感じ生ゴミ生産していただけだったし、戦闘も腕力に任せたゴリ押ししかして来なかった。体格差が無ければ全員ディオルが鼻で笑いながら倒せる様な雑魚だった。
「で、嬢ちゃん達はどうすんだよ。普通の貴族と違ってえれぇ優しいけどよ、不当な結果にされたら怒るかもしれねぇぞ? ギルドだって好き好んで貴族を怒らせたくねぇだろ」
「分かっとるわ! ただ、本来飛び級は中級までしか認めておらん。簡単に例外など作れんのだ」
「············ファミ達、別に中級でも······」
「無い」
「無理」
「やめてくれ」
「頼むから」
みんなにダメだしされた。
落ち込んで居るとリリアとメリルが頭を撫でてくれた。うん。ちょっと元気でた。
「マスター! あの、お話がっ······!」
「なんだっ!? 次から次へと!」
ギルドマスターが唸っていると、先ほど五番窓口にいた職員が会議室に乗り込んできた。それにいい加減イライラしていたギルドマスターが怒鳴り散らし、私とリリアはビクッとした。
「あの、あの! バジリスクが、いっぱい!」
「······話しは聞いた。このお嬢さんの仲間だろう? 二匹目を本当に狩って来たのか······」
「いえ違うんです! 一匹どころか六匹も持ってきたんです! 今のギルドじゃ一度には買い取れません!」
「はぁ!? バジリスクが六匹!? そんな馬鹿な事があるか!」
「最初に持ってこられたバジリスクと合わせると七匹なんですよぉ!」
おおう。リーフェがやらかしたらしい。
とにかく手に負えないとギルドマスターに丸投げしたいお姉さんは涙目だ。
ギルドマスターもどうしていいか分からず、取り敢えずここにリーフェが呼ばれる事に。
「ここですか。············おや、お嬢様もこちらでしたか」
「リーフェいらっしゃい。なんかやらかしたみたいだね」
「また難癖付けられたく無かったので、手当り次第に倒して来たのですが、逆効果だった見たいですね」
「そんなにいっぱい居たの? 珍しいんじゃ?」
「いえ、巣穴があったようです」
「バジリスクの巣穴!?」
リーフェと会話しているとギルドマスターが椅子からずり落ちた。まぁ上級が数人がかりで倒す魔物が結構な数いて、巣穴まであったらそりゃ驚くかね。
「心配には及びません。女王個体は居ませんでしたし、巣穴に居たのは全部仕留めました。その結果六匹です」
「············そうか、助かった。で、済まないんだが、全部は買い取れんのだ······」
「そうでしょうね。では内臓系の素材を優先で買い取ってください。解体も任せます。鱗や牙はコチラで保管します。ああ、肉も戻して貰いましょうか。せっかくですし、貴族寮の食堂で振る舞えば喜ばれるでしょう。お嬢様の名前も上がりますし」
「············バジリスクって美味しいの?」
「とても美味なのですよ。絶対数が少ないので殆ど出回りませんが、ブルボアやケリュフの希少部位なんて比べられない美味しさです」
「あれより美味しい肉があんの!? 嘘だろ!?」
私とリーフェの会話を聞いていた少年団、ディオルが絶叫した。美味しくて泣いてたもんね。
ランズもビシュネも涎を垂らしそうな顔で物欲しそうにしているので、ちょっと可愛いからリーフェにお願いしてみる。
「ねぇリーフェ、七匹分なら結構な量だよね? ここの皆で食べちゃお?」
「お嬢様の為に倒してきましたので、お望みのままに」
私の提案にリーフェが頷き、少年団の顔が輝き、バーゼルまで喜び始める。いやお前も食う気かよ。いや食わせるけどさ。
「ね、姉ちゃん、俺も、その······」
「ふふ、良いよ。皆で食べよ。血抜き失敗して美味しく食べれなかった人も、皆食べましょー? ギルドマスターもどうですか?」
私の提案に、ギルドマスターがギルドの調理室を貸してくれる事になり、リーフェは必要分の肉を解体場から持ってくると部屋から出て行った。
みんな、高級なお肉と言うことで浮き足立ってり、さっきお代わりまでした少年団はお腹まで鳴らしていた。
「で、食わせてくれるのは良いんだけどよ。ギルマスさんよ、階級結局どうすんだ? バジリスク数匹一人で倒してくる奴や、同じくらいっつぅ奴を中級なんて寝ぼけた事言わねぇよな?」
「············ぐぬぅ」
「そもそも一級でも足りんのかよ。バジリスク一匹なら二級でも頑張りに頑張って腕の一本くらいくれてやれば、一人でも倒せるけどよ、七匹だっけか? どうすんのよギルマスさんよ」
「うるさいわ! 今ワシが一番困っとるわ!」
「それで、猫の嬢ちゃんに聞きたいんだけどよ、第三者的に見たら、黒髪の嬢ちゃんとさっきのエルフの姉ちゃんは、同じくらい強いのかね?」
「まさか。お姉様の方がお強いですわ。リーフェさんもリリアも、お姉様が鍛えて下さったのですから。リリアとリーフェさんが二人がかりでやっとお姉様をたまに倒せる程度ですわ」
「························だとよ?」
「ぐぬぅぅ············」
「ちなみに、桃髪の嬢ちゃんは?」
「メリルはお姉様に魔法を少し教わっただけで、まだ鍛えられて居ませんわ。それでもあの様な魔法を作り上げたので、才能だけでしたらお姉様に比肩すると思います」
「そんな事ないよ! 私フェミちゃんに勝てっこないよ! フェミちゃん凄いんだから!」
いや、魔法を作り上げる、技術者としての才能なら間違いなく私に匹敵する。どころか、魔法のみで見た場合多分数ヶ月後には負けてると思う。
みんなでギルド二階にある食堂に着くと、何人かの職員は休憩なのか、ご飯を食べて居るのが見えた。
ついでだから、彼らにも振る舞おうか考えているとリーフェがやって来た。
「お待たせしました。ここの解体場は優秀ですね。肉だけ優先と言ったらあっという間に仕上げてましたよ」
リーフェはさっきまで着ていたウィザードからメイド服に戻っていて、他のみんなは一瞬誰だか分からない顔をしていた。
「リーフェ、せっかくだし、ギルドの職員にも振る舞っちゃおうよ。さっきのやり取りで少なからず蟠りがある筈だし、美味しいお肉で吹き飛ばしちゃお!」
「ふふ、お嬢様はそう言う打算より、まず喜ばしてみたいのが本音なのでしょう? 仰せのままに致します。追加で持ってきますね」
「うん。あと、焼くのは厨房のオバチャンに任せてさ、リーフェも戻ってきたら一緒に食べよ? フェミ、お母さんと美味しいお肉食べたいなー?」
「············まぁ、今はハンターとしてなので、甘んじて受けましょう」
「やったー! 今日のリーフェは話しが分かるよー!」
リーフェがワゴンで持ってきたお肉をギルドマスターに渡し、食堂の奥にある厨房のオバチャンに説明してもらう。部外者がいきなりこの肉焼け!って行くよりずっといいだろう。
オバチャンも急に降って湧いた高級肉にビックリするが、焼きながら食べて良いよと言うと張り切って焼き始めた。
なるべく焼肉風やステーキ風にしてもらうお願いをして、皆でテーブルに座る。
ギルドマスターが急に来てビックリしている休憩中の職員にも、バジリスクの肉が食えるぞーと教えて、食べたら下の誰かと交代して皆で食べれる様にしてもらう。
リーフェがまたワゴンを押して帰ってきたので、それも厨房に回させてから私の隣に座らせる。オバチャンがいい笑顔で焼いた肉を持ってきてテーブルに並べていくので、食べたそうな少年団を止めて音頭を取った。
「ダメだよ皆。このお肉はリーフェが狩って来たのに、皆リーフェより先に食べる気? まずはリーフェが食べてからだよ。それにリーフェにお礼も言わなきゃね?」
「お嬢様? あの、お嬢様より先に食べるのは······」
「だーめ。リーフェが取ってきたんだもん。ねえバーゼル先生、仕留めた人が一番に食べるのは、当たり前だよね?」
困りきったリーフェを宥めてバーゼルに話しを降ると、いい笑顔で親指を立てて頷いた。サムズアップこの世界にも有るんだね。
「おうよ! そら、仕留めた奴が一番に食わなきゃな!」
「ほらリーフェ。そんなに困るなら、フェミが食べさせてあげるね。ほらあーん♡」
「にゃ!? リーフェさんズルイですわ!」
照れるリーフェに食べさせてあげたあと、皆でリーフェに感謝の礼をしてから食べ始めた。リリアはあーんをせがむので食べさせてあげた。ふざけたバーゼルもやって来たのでぶち込んでやった。
「もごぉあ!?」
「ほらほら、美味しいですかー?」
「死神相手に懲りねぇなお前も。俺は銀髪のお姉さんがいいぜ」
「リーフェに手を出したら本当の死神がここに生まれるよ? フェミって名前の殺戮の神が降臨するよ?」
また美味しいお肉に泣き出す少年団や、今まで名前は知っていたけど食べるの機会が無かったグリアポルトや、元商人団も頬を緩めながら食べ勧め、誰かが領軍崩れのアイツら、嬢ちゃん達に絡まなきゃこれ食えたのにな、と呟くと何人か頷いてた。
「ねえちゃん、ひぐっ、ありがとなっ、ぐすっ······」
「こんなに美味しいのっ、えぐっ、食べたのはじめっ······」
「ほら泣かないの。美味しいご飯は笑顔で食べよ? それに、お礼はリーフェにね?」
「そうだぞ坊主! 美味いもんはうまい顔して食うんだよ! 飯に失礼だろが! ギルマスも何しょっぱい顔して食ってんだよ!」
「うるっさいわ馬鹿者が! ワシは今美味い肉と不味い昇格問題で、頭ん中大変なんだよ!」
ギルド職員もバンバン入れ替わり、下ではもう噂になっているのか、食堂に入ってくる職員は皆期待に満ちた顔でオバチャンの方に駆け寄り、そして話しを聞いて例外なくリーフェに頭を下げていく。途中、エキドナとフィルファと、リーフェと言い合いをしていた気まずそうな女性職員も来た。
「あ、貴族様達!」
「やっほーエキドナさんとフィルファさん。バジリスク美味しいよ」
「うわ何この可愛いテーブル。小さいお貴族様に小さい男の子が······。ねぇフィルファ、私明日の休憩今に持ってきていい? このテーブルで一緒に居たい」
「バカ言わないでよ。アンタ昨日倒れた分でむしろ明日の休憩消えてるっての」
わいわいした時間が過ぎて、皆お腹いっぱい食べてお茶を飲む。バーゼルさんがみんなに改めて礼を言うように聞かせて、終わってない私達の昇級の話しが始まる。
「今回の試験は随分いい物になった。お前ら嬢ちゃん達にまた礼を言っとけよ。こんな豪華な昇級祝い、なかなかねぇぞ。それとギルマスも腹決めろよ。他に選べねぇんだからよ」
「結局、ギルドマスターさんは何に悩んでるの? フェミ達三級になれるの?」
「バカ言うなよ嬢ちゃん。ギルマスが悩んでるのは嬢ちゃん達を準特級にするかだ」
「おおう、そこまで上がるんだね」
「お嬢様なら特級でも足りませんよ。龍種だって倒せるでしょうから」
「············これ以上頭が痛くなる単語は出さんでくれ。龍種なんて倒されたら、もうワシの手に負えん······」
「王都のギルマスに負えなかったら誰の手に負えんだよ。腹ぁ括れって」
結局、リーフェ含めて準特級になる事に落ち着いた。最後まで唸っていたギルドマスターは、準特級のカードが完成して渡す時に、改めて能力を見る機会を設けると言った。
「すぐに貰えないんだね」
「準特級のカードなんて常備してるギルドは存在しない。現在だって化け物みたいなハンター二人しかいないんだぞ?」
一級だって数枚しか準備されて無いのに、準特級を一気に四人も準備されている訳が無いとギルドマスターが呻いた。
「あ、そうだ。ディオル君達にお願いしていい?」
「なんだ姉ちゃん。こんな肉食わしてくれたんだ。なんだって言ってくれ」
「みんなに上げたナイフと、バジリスクのお肉をニール君にも届けて欲しいの。フェミはほら、平民区域入れないからさ。ついでにお肉はギリックにもあげていいから」
「任せろ! って言うか、本当にニールと仲いいのな。なんで?」
「仲いいって言うか、二回目貴族に襲われた時は、フェミのせいでもあったと思うんだよね。だからお詫びかな?」
「············ニールはそんなの気にしてねぇよ。凄く優しくしてもらったって、いっつも嬉しそうに言うんだ」
「それでもだよ。ホントはあんなに怖い思いしなくて良かったんだもん。ニール君だってフェミが気にしないでって言ってもお礼の為にお金貯めてるでしょ?」
「······わかった。絶対届ける」
同じナイフを一本と、解体場から更に追加で持ってきたお肉を粗末な布で包んでもらい、少年団に渡して見送った。私達はまだギルドで少し用事が有るので残る。
ギルドカードが完成するまで、ギルドマスター直筆のサインと印章が入った羊皮紙のカードをギルドカード代わりにしててくれと言われて四人とも貰った。
それを四番窓口まで持っていき、パーティ登録をする。
「パーティの名前はフェミが決めていい?」
「もちろんですわ。パーティの頭もお姉様でお願いします」
「だね! みんなフェミちゃんのお陰で準特級だもん! 私が英雄なんて夢みたいだよぉ」
「お嬢様の仰せのままに」
みんなに賛成してもらって、私は書類に『ヴァルキリー』と書いた。
準特級四人で構成された四人パーティ、ヴァルキリーの設立だ。
バジリスクの解体が全て終わり、鱗と牙とお肉が戻されたけど、結構な量だった。お肉もかなり食べたのにまだまだ残ってる。
内臓系の素材を売ったお金もかなりの額で、ちょっと私はバジリスクの乱獲を計画してしまったくらいだ。
「内臓だけで、三百八十万リヴァル? バジリスクってそんなにヤバイの?」
「むしろ内臓が一番安いんですよ。鱗は一枚五千リヴァルですね」
「こんな馬鹿みたいな枚数ある鱗が一枚五千!?」
「一匹あたり四百枚程だったので、七匹で二千八百枚でしょうか? すると千四百万リヴァルですね。牙もあわせると二千万程でしょうか?」
「············リーフェお金持ち」
「ん? これは全てお嬢様にお納めしますが?」
「······はぁ!? ダメだよ! これはリーフェが稼いだの! フェミそう言うのしたくないもん!」
リーフェが訳分からない事を言い始めたので、私はぷんぷん怒る。貸してもらった台車をリーフェが引く横を歩きながら、リーフェのスカートをペシペシ叩く。
ちなみに、虹晶貨三つと金晶貨八枚も台車に乗っている。
「ですが、お嬢様の為に倒してきたのですが」
「やだ! リーフェのお金だからリーフェの幸せの為に使って!」
「でしたら尚更、お嬢様が貰ってくださいませんか? お嬢様の幸せこそが私の幸せですので」
「もう! そんな事言われたら胸がきゅんきゅんしちゃうでしょ! リーフェの幸せもフェミの幸せなの!」
むう! リーフェ可愛いのにカッコイイから、普通にキュンってしちゃうじゃないか。リーフェ好き好き。
どちらにせよ、大金の管理はリーフェがする事になったので、どちらのお金という訳ではなく、皆の予算として統合することになった。
帰りに商業ギルドへ寄り、バジリスクの鱗を売れるだけ売って、お金を全て預けた。
商業ギルドは銀行みたいな事もしており、預けたお金が五百万を超えたので特殊な魔道具を貰った。
例によって循環システムが使われたスマートフォンみたいな板は、どうやら前世で言う電子マネーだとわかった。
私はこれを、スマートフォンそっくりの見た目からお財布携帯と呼ぼう。
大きなお店なら結構置いてあるらしく、支払額を承認する呪文を唱えてお店に設置してある受け取り用魔道具に翳すと、支払が出来る物で、商業ギルドで預けたお金がそのまま使えるみたいだ。
リヴァルカードと言うらしいそれの管理もリーフェに一任して、私達は残った素材と共に寮に帰った。
その日の夕食は言うまでもなくバジリスクを使ったとても美味しい物だった。
次の日は学校で、バジリスクの肉を食べた貴族がはしゃいで居たが、特に手柄を主張するでも無く席に付く。もちろんルフィアの所だ。
「会いたかったよフェミちゃん」
「フェミもだよ」
「お二人共、人が多いですわ」
一日私に会えなかったルフィアは我慢出来なかった見たいで、隣に座ると小声で喋りながら机の下で私の手を握った。
きゅっと握り返して微笑むと、リリアに周りを気にしろと注意された。ヤキモチにも見えるけどリリアの言う通りなので自重した。
「昨日の夕食美味しかったでしょ?」
「朝食もね。どうして?」
「何でもない。先生来るよ」
シスケンティアを肩に乗せたレイオラシスが教室に入ってきて、言われる前にシスケンティアは私の所に飛んできてリーア達とあそび始めた。
レイオラシスはその後を追って私の前まで来ると、軽く挨拶をして二枚の木札を置いていった。
『論文はまだですか』『早めに魔法体系の論文をお願いします』
ティターニオとリッドデッドからの論文催促上だった。忘れてたよ。
それからハンター業をして論文書いて、恋人とイチャイチャして気持ち良くなったり、忙しい毎日を送る。
途中エリプラムが寂しがってお茶会の申し込みがいっぱい来たり、ティターニオと技術交換をしたり、リッドデッドにメリルを紹介したりもした。
メリルは特に魔法にのめり込んでいって、今では暴風円環大連鎖を無詠唱化まで行い、他にも独自の魔法を作ってはリーフェに教えて、二人の仲もどんどん良くなっていった。
「メリルは間違いなくお嬢様と並ぶ天才です」
「そ、そんな事ないです。フェミリアス様の方が何倍も凄いのです······」
「お嬢様も言っておりました。自分の特殊な能力が無かったら、メリルの方が上だと」
「フェミリアス様の能力って、あの目の前に魔道具を作り出す······?」
他には、私とリリアに学生からの縁談が増えてきたと言う変化もあった。私は恐らく、魔道具学と魔法学に新理論を吹き込んだ功績からだと思われる。
なんたって先生が私の名前を大々的に使うからね。「この理論はフェミリアスさんがー」って。
リリアに増えているのは主に騎士志望の貴族とフェミニストルデの貴族から来る縁談で、リリアは何故自分に来るのか本気で理解できない様子で全て断っていた。ある時なんかハープレスレイの領主の息子、キュリルキアの兄が一年生の教室までやって来てリリアを娶ろうとしたくらいだ。
「ふ、そなたがリリアライトか。喜べ、私の第二夫人として迎え···」
「お断りしますわ」
食い気味で断られたハープレスレイ領主の息子は真っ赤になって、獣人批判を思わず口にしそうになった所で真っ青になった。
私が全魔力を解放して叩き付けて居たからだ。教室に居るリリアファンも数人乗っかっていた。
第一夫人も居ないのに確定で第二夫人とか言い始める奴に嫁ぐわけないだろ。
その様子にキュリルキアも何か言おうとしていたが、リリアが侮辱される事態に私は一ミリも自重する気が無いので、教室が鳴動するレベルで魔力を放って黙らせた。
私に来る縁談や求婚も全てねじ伏せ、平穏な日々を過ごしていると、私やリリアは大分教室に馴染み始めていた。
リリアを獣人批判すると私がブチギレて大変な事になると言う共通認識が一年生上級組に出来上がる頃には、リリアにも交友がある程度出来ていて、姉としては嬉しい限りだった。
そして火の季節も半ば、暖かくなってきた癒しの日、私は未だ解決しない問題を一つだけ抱えて悶絶していた。
「エーテルコアの原料が見つからねぇ······!」
魔道具量産の絶対のキーアイテム、未だ見つからず。