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魔剣フラムヴェル。



 森の中で地面に埋まっている岩を見つけ、地面と水平に斬り裂いた。そして平たくなった岩の下を砕かないように水魔法に砂利を混ぜて高速回転、岩の中を削り空洞にしていく。

 作業が終わったらそのまま水魔法で岩を綺麗にして、火魔法で岩をゆっくり温めていく。


「メリル、教官に塩貰えないか聞いてきて? 流石に塩くらいは支給されるでしょ。抜き打ちなんだし」

「はーい」


 温まった岩の中、かまくらの様にくり抜かれた部分に薪をぶち込み、魔法で火を付けつつ岩の温度もさらに上昇させる。


 最悪、岩が熱で砕けてしまったらそれを積み上げて、ファクトリーで網でも作って網焼きでも良かったけど、その心配は杞憂に終わった。


「よし、グリアポルトさん。一番美味しいお肉ってどこかな? 自分で狩ったんだし、美味しいところくらい良いよね」

「美味しいと言えば、フォアの部位だろう。いつも貴族や富裕層に流れるから、少年達にはなかなか食べれない高級な部位だ」

「······そんな場所食べていいのかな?」


 高級と言う言葉に怖気付くランズに、だが試験でギルドが用意した肉で遠慮なんてした所で儲けなど無い。

 そう説明すると、お肉が食べれる事に嬉しそうな顔をするランズがちょっと可愛かった。


 メリルが教官から塩をもぎ取って来たので、贅沢にステーキを作る。分厚いステーキは、余計な味付けなど要らないのだ。ただ肉、それだけで旨味の暴力を口内で振るうもんね。


 油が無くて岩に張り付くと悲しいので、解体で出たラード的な油を岩に塗って何とかした。少し臭いが悪くなったけど、新鮮だからかブルボアがそう言う種族なのか知らないが、気になる程では無かった。


「リリア、その辺の木でお皿作って欲しいなー。あとカトラリーを四組。フォークのみを三本」


 リリアが風の魔法で木を一本切り倒して食器を頑張って作る様子が可愛くて、メリルが手伝おうとするのを止めて眺めていた。


 肉も順次焼き上がり、我慢出来そうにない少年団から先にある程度切ったステーキとフォークを渡してあげる。


「先に食べてていいよ」

「ほ、本当に良いのか!? 先に、先に食べても!」

「うん。ここでは誰も盗らないから、そのお皿の上にあるお肉独り占めしていいよ」


 そう言い終わる前にディオルが我慢の限界を迎えて、フォークを肉に刺してかぶりつく。その様子にランズとビシュネも後に続いた。


 あまりの美味さに噎び泣き始める三人を微笑ましく思いながら、グリアポルトにもお皿を回す。


「悪いね。いやぁ、こんな立派な食べ方になるとは」

「ふふ、やっぱりお肉はこうじゃないと」

「ああ、違いない」


 最後に私達のお肉を焼いていると、周りで血抜きしていなかった馬鹿達が羨ましそうにコッチを見ていた。知るか馬鹿め。

 リリアとメリルにステーキが乗ったお皿を回して、リリアが切り倒した切り株をテーブル代わりに皿を置いた。


「椅子が欲しいねぇ。丸太切って作ろっか」

「あ、フェミちゃん作るなら、私がお肉見てるね」


 メリルに岩の調理台を任せて、リリアが切り倒して少し食器作りの為に抉られた丸太にスラッシャーを入れて、真四角の椅子を適当に切り出して切り株の周りに置いた。リリアを座らせて自分も腰掛けて、メリルが焼けたステーキを持ってきて食事が始まる。

 木製のナイフにはちゃんとギザギザが付いているけど、あまり良く切れない。


「お姉様、ナイフはスラッシャーでいいのでっ······、あ」


 リリアがスラッシャーと口にしたので、その手にスラッシャーが出てきてしまった。


「フェミとリリアはソレでいいけど、メリルは使えないんだよ? それに試験なんだし、野営の度にファミがみんなに配ったナイフ作りまくったりするのも良くないし。お肉柔らかいんだしこのまま食べようよ。ディオル達にしたように先に切っとけばよかったね」

「ねね、風魔法か水魔法でナイフ包めば切れるんじゃない?」

「························だからメリルほんと天才。圧倒的閃き。電流走るわぁ」


 メリルの案で三人とも魔法でナイフを強化して、問題なく食事を楽しめる様になった。


「随分と楽しそうな飯だな? 長い事試験官頼まれてるが、流石に初めて見たぞ」

「あらバーゼル教官。ご一緒にどうですか? まだフォアの部位も残ってます」

「くっくっく、他の連中にはやらんのか?」

「これは試験なのでしょう? 甘く見ていた方々が悪いのです」

「違いない。どれ、ご馳走になろうか」


 私が焼こうとすると、食べ終わってた少年団が任せろと言ってきた。食べてる時に席を離れるのは悲しいし、ずっと焼いてくれたから代わると。そのかわり、ちょっとおかわりも焼きたいと言うので、岩の調理台は好きにしていいと任せた。


「ふむ。一番成績に影響するのは最後にある模擬戦なんだが、お嬢さん達はもうここで五級くらい確定しているぞ」

「教えてしまってよろしいので?」

「構わんさ。ブルボアを仕留める手際の良さ、血抜き、解体は知らなかった様だが、利用できる状況を使って上手く切り抜け、これだけ豪勢な飯と来たら、ハンターとしての能力は疑いようもない」


 少年団が真っ先に焼いた教官のお肉だが、皿が余分に無かったのでビシュネ君が自分の皿を差し出した。自分は焼いた端から直接食べると。まじで鉄板焼きみたいになってるね。


「はっはっは、分厚く切って石板で焼くだけで、どうしてここまで上手いのか」

「分厚く切って石板で焼いたから、美味しいのですよ」


 ちなみにバーゼルは地面にベタっと座って皿を切り株に置き、ビシュネ君が大きく切り分けていた肉をフォークで豪快に食べている。


「模擬戦はバーゼル教官とやるのですか? それとも受験者で?」

「どっちもだ。正確には受験者通しで戦って、勝った方を試験官が見る。お嬢さん達は間違いなく教官ともやるだろうが」

「あの、でしたらお願いしてもよろしいですか? リリアとあちらの方を戦わせて下さいませ。お姉様に無礼を働いた事を後悔させるのです」


 最初の邂逅がリリアには腹に据えかねるらしく、バーゼルにお願いしていた。私としても、丁度三人同士だし、他の元商人とかよりよっぽど殴りやすいのでお願いしたい。


「まぁ、良いだろう。向こうもお嬢さん達を睨んでいるし、話せば二つ返事だろう。ただ、殺さないでくれ?」

「うふふ、善処いたします。でも事故はお許しくださいませ」


 リリアはどうやら息の根を止めたいらしいが、そこまで怒ることでも無いと思う。アイツらより処刑された紫髪の馬鹿の方がムカついたし、あんなの可愛い方だと思う。


「リリア? ファミはリリアが人を殺める所を見たくないな?」

「うぐっ、お、お姉様がそう仰るなら······」


 バーゼルに助かったと視線で言われ、適当に返しておいた。

 水の鐘が鳴ったばかりだからかなり早い昼食だけど、大量のお肉を食べたから夕食まで持つと思う。


 食べ終わり、使った食器を全て燃やして後始末を終えた私達成功組は柵で囲まれた会場に戻り、バーゼルが次の試験を発表するのを待った。

 領軍崩れに話しを付けてきたバーゼルが会場の真ん中に立つと、大きな声で模擬戦を発表した。


 組み分けは私達と領軍崩れ、少年団と元商人団、そして元商人団の余りとグリアポルト。他の参加者も適当にぶつかる。


「この模擬戦の勝敗は試験の合否に関わらない。あくまで戦闘能力を見るだけだ。それでは一組目、初め!」


 バーゼルの号令でグリアポルトと元商人の大戦が始まり、用意されていた木剣で切り結んでいる。

 グリアポルトはなかなか強く、終始相手を圧倒して危うげ無く勝利した。

 次はディオルと元商人、これも技術が光るディオルの勝ちで、次のランズは体格差を利用され負けていた。ビシュネ君も同じ様に体格差を使われ苦戦して、上手く凌いで居たが負けてしまった。

 でも本当に年齢の割りに強いと思う。こんどギリックが教える風景を見学でもしようかな。


 他の参加者の模擬戦が終わると、メインイベントが始まると言わんばかりに楽しそうなバーゼルの声で、メリルと領軍崩れの戦いが始まった。


 三人の中で一番苦戦すると思われたメリルだが、始まってしまえばあっという間だった。

 魔力を全開放して相手に叩き付ける戦法のメリルに、魔力が少ない相手は思うように動けなく、メリルが好き放題に呪文を歌える独壇場だった。最後には風環連載で相手の木剣を切り裂き、手の届かない空中から一方的に攻撃してギブアップさせた。


 次のリリア戦はもっと酷かった。リリアライト・プリンセスを使っている時のように、小さな七歳の女の子が中年の男をボッコボコに殴り倒して居るのだ。あまりの猛攻に顔が腫れ上がるまで殴られた男はギブアップした。


 最後に私だけど、どうした物かと考えている。ぶっちゃけ水の窒息魔法で一発だ。でも戦闘能力を見る試験なら、ある程度見せないと私の評価も下がる。


「うーん、どうしようかな」

「······怖気付いても、もう許さねぇぞ! よくも仲間をっ!」

「ふぇ? ああ、違うよ。どう手加減したものかと。弱い人相手にすると面倒だよねぇ。どうして欲しい? 嬲られたい? 煽られたい? 選ばせてあげる」


 首を傾げながら、なるべく私をバーゼルや他の試験官に見せる戦い方を模索していると、領軍崩れのリーダー格は耳まで真っ赤にして剣を抜いた。


 バーゼルの号令で戦闘が始まり、木剣を構えて突撃してきた。


「ああ、そうだ。全部躱して後で嬲ればいいのか。そうすれば煽って嬲れるし、回避能力も攻撃能力も見てもらえる」


 振るわれる木剣をひょいひょい躱しながらバーゼルに手を振ってみせる。見ててねー。


「てめぇ!」

「あら、これもしかして攻撃しているつもりだったの? 踊りの練習かと思ったよ」

「殺してやるぁぁぁあ!」


 右に左に、時には素手で流して、木剣を全て綺麗に捌ききる。ちなみに無手だよ。木剣なんかあっても無くても変わらないし、スラッシャーより重いと感覚狂うからね。ただ倒せば良かった騎士戦とは少し違うのだ。


「ほい、踏み込み浅いよ! 剣筋ブレてる! ほんとに領軍だったの? ああ、だから元なのか」

「っくそがぁぁぁあ!」

「足元お留守だよー?」


 剣を振り切った状態の男を足払いで転ばせて、つんのめった勢いを利用して腕を引っ張り、重心を掴み投げ飛ばす。


「軽いねー? ちゃんと食べてる?」


 ひらひらと手を振り、バーゼルにアピールした後にやっと攻勢に出る。


 立ち上がって斬り掛かる男を避けて投げて、投げて、投げ飛ばす。何回も何回も捌いて投げる。


「何回同じ手に引っかかるの? ブルボアだってもう少し頭良いよ? 流石『元領軍』は格が違うねぇ。ほいっ」

「うがぁぁぁああ!?」

「これ位で良いかな? じゃぁ、終わろっか。死なないでね?」


 私は男を蹴り飛ばし、八歳の幼女に体格のいい男が足蹴にされ宙に浮く非現実を体現したあと指を鳴らした。


 一つ破裂音が響くと、少し浮いていた男と地面の間で空気が破裂して、男をさらに高く打ち上げる。


「ほいっほいっほい」


 両手でパッチンパッチン指を鳴らし、どんどん空気爆弾を撃ち込んでいく。母なる大地に帰ることの出来なくなった男は呻くしか出来ない。


「最後に大技、いっくよー? メリルの魔法借りるー!」


 メリルの風環連鎖を少し弄り、全体的に出力を上げた上位版を呪文で組み上げる。


「······かくも悲しき夜明けよ、暴風に哭き連鎖と連なれ! 暴風円環大連鎖! 制御システム起動、モードライアット。超回転大切断! 全環解放!」


 メリルの鎖の輪を三つ呼び出し制御する風環連鎖の上位版、十二の輪を呼び出す暴風円環大連鎖。構築式も名前も丸パクリなので、あとでメリルに返そう。

 エーテルドレスの魔法補助システムを使って魔法の制御を任せつつ、殺傷性の構築部分だけ暴徒鎮圧用に組み替えて貰う。


 耳が痛いほどの超速で回転する鎖たちは全て男に殺到して、その夥しい斬撃を見舞った。


「おーわり。ふふ、あとは試験官と戦って昇級だねー」


 バーゼルの宣言も待たずに柵から出る。本来ギブアップになる行為だけど、それは領軍崩れの様子を見ていたら誰も文句を言えない。

 辛うじて息がある他は、生きているのが苦痛だと断言出来るほどにボロボロで、ともすれば何故死んでいないのかと言える程の惨状だった。


「お、おっかねぇ。貴族ってやっぱりおっかねぇ!」

「だ、だから平民は逆らっちゃいけないんだね······」

「······カッコイイ······」


 少年団が顔を青くして、リリアは当然とばかりに胸を張り、メリルは自分の魔法が強化されて飛び跳ねていた。


 あれ、リリア胸育ってね? え、嘘、私まけて············。


「フェミちゃん! 凄いよぉー! 何あれカッコイイ!」

「メリルの構築式借りたから、後で教えてあげるね。制御難しいから、そこは気を付けて」


 次に試験官戦が始まり、その間にメリルと魔法談義をする。地面に構築式を書いて教えていくと、すっかり魔法なハマったメリルはのめり込む。


「あれ? フェミちゃん、ここってコッチに置き換えると、そこ減らせるんじゃない?」

「······はっ! ホントだ! え、じゃぁコッチも統合して削除して······。三節で使えるだと!? 出力上げたら簡単になるってなんだこれ!?」

「あと、鎖の制御を個々じゃなくて、三つで一組に変えて制御の絶対数を減らすと······、ほら、二節になった」

「そんな馬鹿な!? これもう身振りに置き換えて無詠唱化出来るんじゃね!?」


 どんどん天才として花開くメリルに戦慄を覚えながら、柵の外で二人で試してみる。無詠唱化はまだ無理だったけど、確かに二節で使える短文詠唱の中級上位魔法に仕上がった。いや威力と使いやすさも加味すると、上級魔法でもおかしくない。エーテルドレスの無いメリルが一人で使えるから中級に入れているだけである。


「ふふ、最後の模擬戦楽しみだね」

「メリルちゃんがめっちゃ強くなった············」


 そして試験官入りの模擬戦も殆ど終わり、メリルの番になって試合が始まる。

 おっかなビックリ武器を構える試験官がにじり寄った所で、早速二節まで減った呪文で魔法を使うメリル。


出流風いずるかぜの暴虐よ、集い連なり嘆き嘶け! 暴風円環大連鎖!」

「······っ!? はいこうさーん! 参りましたー!」


 魔法が完成した瞬間、試験官が武器を投げ捨てて両手を上げた。


「無理無理、あんなの相手にする金貰ってない。死ぬわ」

「············戦いたかった」


 しょんぼりするメリルが戻ってきたので慰めてあげる。

 いや試験官の気持ちも分かるからさ。しょうがないよ。だからまず魔法を解除しよ? 少年団が震えてるから。


「アイツ平民じゃなかったのかよ。おっかねぇ」

「貴族の仕えたら、あんな風になるのかな」


 続いてリリアが入り、闘志を魔力として解放していると、バーゼルの号令と共に試験官が武器を投げた。


「はい降参。無理無理」

「おまっ、せめて戦えや! 何やってんだ!」

「じゃぁバーゼルがやれよ!」


 メリルと同じ様にしょんぼり帰ってくるリリアを撫でる。まぁ幼女にボコられたくないよね。

 最後に私が柵に入り、試験官を待つと何やら言い合っている。


「バーゼル行けよ!」

「そうだよ! 上級ハンターなんだろ? あぁん!?」

「ちょ、まてお前らっ」


 最終的に試験官全員にバーゼルが押し出され、柵の中に入ってきた。他の人も全員上級かと思ったけど、どうやら試験官役のハンターで上級なのはバーゼルのみらしい。


「えーと、どうします?」

「············うわ、降参してぇ······」


 眉を下げて急に弱気なバーゼルに、私はエーテルドレスの機能で無詠唱の暴風円環大連鎖を起動した。


「な、はぁ!? 流石に無詠唱は無いだろ!?」

「無い、と言われても、出来ますから」

「······俺はまだ死にたくないんだっ」

「あ、これはメリルのと違って非殺傷にしてありますよ。まぁ貰い続けたら死にますけど、斬撃じゃなく打撃になってます」

「せ、せめて武器を! 木剣じゃないマトモな奴をっ······!」

「いいですよ?」

「いや、丁度壊しているんだっ!」

「············なら、作ってあげましょうか?」


 せっかくだし、ギリックより階級が上のバーゼルとは、是非戦ってみたい。上級ハンターの入口に立っている人間の実力が知りたい。


「お好きな色と、あと好きな武器など教えてくださいな?」

「あ、あぁ? 色は赤が好きで、武器はちょうどあの木剣くらいの獲物が得意だが············」


 前の試験官が投げ捨てていた木剣がまだ転がっていて、それを指さすバーゼルの意見を元にオーダメイドを作る。まぁ言うほど細かい注文は受けてないけど。


 グラディウス型で少し長くしたショートソードと、その鞘の外見をデザインしたあと、バーゼルの持つ魔力量がけっこう多いので追加で能力を付けてあげる。


「いでよ、魔剣フラムヴェル」


 勿体ぶった演技で作った剣を手元にロールアウトする。

 この剣はゼルビア達にあげた自動再生機能の他に、キーワードで魔剣モードになれるように作った。

 鞘から抜いた状態でキーワードを唱えると、剣身が色を変えて炎に包まれる何とも厨二心をくすぐる物になっている。


 それをバーゼルに投げ渡し、仕様を説明すると、バーゼルが飛び跳ねて喜んだ。


「ははっ! こりゃとんでもねぇ業物じゃねぇか!」

「それなら満足に戦えますか? 魔剣状態は鐘一つの三割程しか持ちませんので注意してくださいね。まぁ使い続けていれば魔力も増えると思いますけど」

「おう! これなら文句ねぇ! 怪我しても文句言うなよ?」

「ふふ、では始めましょうか」


 私も両手にスラッシャーを取り出し、この試験で初めて戦闘の準備をした。


 試験官の合図で試合が始まり、すぐにバーゼルがフラムヴェルを起動した。


「『燃えろフラムヴェル』! うぉおおおりゃぁああ!」


 キーワードに反応して、真っ白い剣身が真っ赤に染まり、効果通りに炎が吹き出す。あの炎はほぼ見せかけで、思いっきり振り抜いた時に発生する炎の斬撃がメインの効果で、使えば使うほど魔力を消費する。


 放たれる炎を躱して一気に肉薄、二本のスラッシャーを繰り出す。エーテルドレスの力を借りて凄まじい速度をもってバーゼルを切り刻もうとするナイフを、バーゼルは器用にフラムヴェルで捌いていく。


 お? 思ったより強いよ?


 一瞬の隙を狙って左手のスラッシャーを手放し、指を鳴らし魔法を使うと、先の戦いを見ていたバーゼルはすぐに距離を取って空気爆弾を避け。


「むぅ、今のは当たると思ったのに」

「おっかねぇな! 殺す気か!?」

「真剣で戦いたい人に言われたくないかな? ほいっ」


 追加で空気爆弾を撃ち込み、回避行動を取るバーゼルに駆け寄りながら解除していた暴風円環大連鎖を起動した。


「なっ!? その魔法は無しだって! うぉぉぉお!?」

「これでも制限してるんだよ? ほらほら、回転切断大回転飛翔! 超回転加速!」


 一組の鎖でフラムヴェルを弾き、一組の鎖で宙に浮き、二組の鎖でもって高速移動を行う。


「ちょ、ムリムリムリムリ! ま、たすけっ」

「あはははははは! 耐えるねぇ! 楽しいねぇ!」


 威勢の良かったバーゼルは、風の鎖の猛攻が混ざった私の連続攻撃を捌けなくなって逃げ始めた。


「あはあはあははは! 待て待てぇ!」

「参った! 俺が悪かったからやめろぉ!」


 もはや試験ではなくなり、私がバーゼルを追い回す遊びになった飛び級試験は昼の鐘がなって久しい時間まで続いた。



「貴族ってやっぱこえーな」

「だな。絶対逆らわねぇ」

「でも可愛い子に追い回されるのは、ちょっと羨ましい」

「その前にあれ捌かねぇと死ぬんだぞ?」


 バーゼルが呼吸荒く地面に転がる中、正式に試験の終了が伝えられて皆でギルドに戻った。

 結果はギルドの二階にある会議室で伝えられると言われたが、重症を負った数名、いやピンポイントで領軍崩れ達は後日になるそうだ。まぁあの結果だと中級に行けてたとしても六級でしょ。


 ギルドの中に入ると、中は騒然としていて何かが起こったようだ。そしてその中心に居るのは私の大事な側仕え、ウィザードを装備したリーフェだった。


「だから! 一人で狩れる分けないでしょ!」

「ですから、拾い物でも良いので換金をですね」

「拾った物なら他に狩った冒険者が居るんじゃないですか!」

「放ってある獲物は取得者の物。ハンターの常識でしょう? 何が問題なのですかまったく············」

「だって、バジリスクなんて獲物放っておくハンター居ませんよ! 奪ったんじゃ無いですか!?」

「この程度の魔物、わざわざ奪いませんよ······」

「この程度って、バジリスクは危険度上級指定ですよ!?」


 五番窓口で言い争いをしているリーフェと職員の女性。それをキャットファイトよろしく観戦している野次馬が騒動の中心らしく、私はバーゼルに断ってリーフェの元まで歩いていった。


「ただいまリーフェ、どうしたの?」

「ああ、お嬢様。お帰りなさいませ。試験はどうでしたか?」

「これから発表だよ。それより、揉めてるみたいだけど?」

「ええ、受けた依頼のついでに、バジリスクを見掛けたので倒したのですが、人の獲物を横取りしたと決め付けられ困っているところです。このまま続くとまったく関係ない第三者が現れて権利を主張し始めそうで、どうしたものかと」

「ふんふん。バジリスクって珍しいの?」

「まぁ、余り見掛けない魔物ですね。そもそも生息している場所には人が近付かないと言う理由もありますが」


 私もどうしたものかと考えていると、後ろに付いてきたメリルが手を上げた。


「あの、もう一匹狩ってくれば良いのでは? リーフェさんなら余裕ですよね?」

「············流石メリルですね。それで行きましょう」

「ん、行ってらしゃいリーフェ。エコー使えば簡単に探せるでしょ」

「そうですね。このバジリスクと類似の反応を追えば良いのですから。では、そういう事ですので、戻ってくるまでバジリスクの保存をお願いします。他に流したら承知しません」


 タキシードのジャケットを翻してギルドから出ていくリーフェを見送り、唖然としている五番窓口のお姉さんを無視してバーゼルの元に戻る。


「おい嬢ちゃん。ツレだったのか?」

「うん。フェミの側仕え。実力的にはフェミ達と同じくらいなんだけど、しばらくハンターやってなかったから、五級で止まってるの。だからバジリスクって魔物を盗んだんじゃないかって疑われてたみたい」

「······バジリスクって、あのバジリスクか?」

「いや知らないよ? フェミはバジリスクって魔物見たことないもん」


 少なくとも騒ぎになるくらいには危ない魔物らしい。まぁリーフェがウィザード着てたくらいだから、それくらいには強いんでしょ。私も戦ってみたいな。


 まだ周りが浮き足立つ中、バーゼルに案内されてギルドの二階に来ると、会議室の中にはとっても偉そうなおじさんが座っていた。バーゼルの話ではギルドマスターらしい。


「良く来た。待っていたぞ」



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