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やはり天才メリルちゃん。



 闘技場は貴族学校の校舎の中、側仕えは本来入れない。リリアの試験を行った時は国王直々だった為に目こぼしされただけなのだ。

 この時間から街の外に行くわけにも行かず、仕方無しに寮と中央棟の間にある中庭でメリルにもう一回魔法を使ってもらう。


「行くよ? ······出流風いづるかぜ、連環描きし想いを紡ぐ。廻るは鎖、果てなく繋がる風の鎖よ、我が想いを受け、想いのままに疾く疾走れ! 風環連鎖!」


 メリルの呪文を受けて、魔法が構築され現界する。

 ほぼ透明、目を凝らしてやっと見る事の出来る魔力で編まれた風の鎖が三本、メリルの周りにゆっくりと回っている。

 その鎖には等間隔で小さな透明の刃がぶら下がり、回る鎖に合わせて揺れ動く。


トライアスに置いてきたゴーレム端末はリリアが王都に持ってきたので、そこから蝙蝠型のゴーレムを出してメリルを襲わせる。


 すぐにメリルが手を動かすと、それに合わせて三つの鎖の輪っかは回転を急加速させ、せまりくる蝙蝠を残らず切り裂く。


「大回転、飛翔!」


 メリルが追加の呪文を口にすると、一本の鎖が地面と平行に回転して、空に浮く為の浮き輪になった。


 刃が勾配を付けて回転する事で、ヘリコプターさながらにメリルを浮かせている事が分かった。


「こんな事も出来るよ! 大回転、大盾!」


 地上に降りたメリルを中心に回転していた鎖の輪が、メリルの前方に集まり、三角形を描いて重なる布陣になる。そして鎖に付いた刃が形を変え大きくなり、メリルの前には回転によって空間を埋めた大きな盾が出来上がる。


 攻撃、防御、機動の全てを行える、見事としか言えない魔法がそこにあった。


「す、すっごいよメリル! なんで教えて半日でこんなの作れるの!?」

「あ、えと、フェミちゃんは私がハンターさんの手伝いしてたのは知ってるよね?」

「うんうん。そのお陰でメリルに会えたんだもん」

「そのハンターさん、ドルフィナさんって言うんだけど、鎖を使う人なの。それで、ずっと見てたから、私も使ってみたくて······」


 メリルが言うには、ドルフィナの鎖捌きをずっと見ていたから、頭の中にイメージはしっかりあったのだと言う。それを私が教えていく魔法体系の基礎理論を当てはめて行くと、なんか出来たのだと。


 なんか出来たってお前············。


「メリル、後で是非構築式を教えてください。とても素晴らしい魔法でした」

「えへ、えへへ。エルフのリーフェさんにも褒められちゃった······」

「いや本当凄いよ? 従来の魔法理論が邪魔しなければ、こんな魔法作れるんだね。フェミもまだまだだよ」

「そんな事ないよっ! フェミちゃんは凄いんだよ!」


 これは、是非ともメリルのエーテルドレスも開発しなければ行けない。面倒だと嫌煙していた空間構築理論の組み立てに着手しなければ············。


 それから、ここではこれ以上危ないと自室に戻り、リーフェが中央棟に戻ったのを確認してから、ベッドの上でメリルの偉業のご褒美をたっぷりあげるのだった。


 リリアと結託してメリルが気を失うまで頑張った後、仲良く眠りに付いた。



 そして朝の鐘がなる時間、私達は街の外の森にいた。

 ギルドが管理する試験場と言う森の中、自分たちを除いて五組ほどの参加者が居た。


 傭兵崩れ、子供、元商人など様々な人間が居て、みんな試験官が来るのを待っていた。


 場所は森の中で広く開拓された所で、木の柵が辺りを覆っている以外は何も無い。

 柵の切れ間が入口で、特に出入りを制限する扉などは無く、ただここが試験場だと主張する為の柵みたいだった。


「へへ、お嬢ちゃん達、ここは遊び場じゃねぇぞ?」


 保護者たるリーフェが居ないからか、傭兵崩れの三人組が絡んで来た。リーフェは既に五級なので、試験に参加出来ないから適当な依頼を受けて暇を潰している。


「あら、そのお言葉をお返ししますわ。ここは酒場でも娼館でも無くってよ?」

「言うじゃねぇか。俺たちゃこれでも、元領軍に居た兵士だぜ。試験を受ける資格はあるんだ」

「それこそ、ここに居るものは皆、ギルドがこの場に居ることを認めた者ですわ。無意味な問答は止めません?」


 飛び級試験に申請しても、資格が認められないと試験は受けられない。ここな居る者は例外なくある程度の実力を示せる資格を持った者なのだ。


「はは、お貴族様は金でなんとかなるんだろう?」

「本当にギルドがお金を積めば試験を受けさせるなら、あなた達は何を積んだのかしら? 誰かにお尻でも差し出したの?」

「っ!? てめぇ······」


 およそ幼女が口にする煽り文句では無かったが、傭兵崩れに品格を求められもしないだろう。問題ないね。

 

「遊びかどうかは試験官が判断されるでしょうから、アナタ達に用は無いのです。お消えになってくださいます?」


 実際大した興味も無いので、ぱっぱと手を振って帰れと示す。私としては、こんな傭兵崩れの『ハンターになるのに何の不思議も無い』人間より、あっちに居る子供、少年団がこの飛び級試験を受けている方がよっぽど気になる。


 ちょうど騒ぎを見ているので目が合ったから、軽く手を振ってみたけど目線を逸らされた。まぁ貴族に目を付けられたくないよね。手遅れだけど。


 煽られて後に引けなくなった傭兵崩れが、いや領軍だったっけ? 領軍崩れが剣に触れた所で試験官が現れた。


「オラ、そこまでだ。貴族様に絡んでんじゃねぇ馬鹿どもが。俺が怒られるだろ!」


 大きな鉄の檻がいくつも乗った荷車を引いて、スキンヘッドで軽装の男が部下を何人か引き連れて会場に入ってきた。

 私は領軍崩れを無視して試験官に手を振った。怒ってないよのアピール。


「それでは、早速試験を始める。あまり必要無いが、各々名乗って貰う。後でパーティを組んだりするかも知れんからな。という訳で俺から名乗ろう。試験官のバーゼルだ。これでも三級ハンターをやっていて、ギルドの依頼でちょこちょここの試験を見ている」

 

 試験官の仕切りで自己紹介が始まり、特に興味が無いからほとんど聞き流す。何となく年齢順の集まりから名乗り始めて、少年団が私達の前になった。


「ディオル。孤児だ」

「ランズ。ディオルの弟だよ」

「ビシュネです。二人と同じで孤児です」

「おう、お前らがギリックの推薦だな? 楽しみにしているぞ」


 どうやら、彼らは孤児が集まって支えあっている少年団で、ギリックが面倒を見ている孤児の内の一組らしい。ほんとギリック優しいね。飛び級試験の推薦は三人から必要だから、わざわざ推薦してくれる人をギリックが集めたのだろう。


「フェミリアス・アブソリュート。一応現役の騎士ですわ」

「リリアライト・アブソリュートと申します。お姉様と同じく騎士資格を持っております」

「メリルだよ! リリアちゃんの側仕えです!」


 私達が最年少なので最後に名乗ると、バーゼルが首を傾げる。


「······ん? 終わりなのか? 領地とか、なんか他に······」

「あら? ハンターをやるのに、どこの貴族か等、どうでもいいではありませんか。出身領地の名前で自分が強くなる訳でも無いのですから」

「············随分さっぱりしたお貴族様なんだな? 俺の口にも文句言わねぇし」

「ふふ、今から教えを乞う身で、教官になんの文句を言うのか、わたくしには分かりませんわ」


 思わず貴族の仮面を被っちゃったけど、後で脱ご。わざわざ貴族の居ない空間で疲れる事もあるまい。


「ん、まあいい。試験を始める。雑用も有るにはあるが、ハンターの一番の仕事はやっぱり狩りだ。今から檻に入ったブルボアを一人一匹狩ってもらう。ちょうど良いから名乗った順に始めるぞ」


 そう言って、最初に名乗った人間を柵の中に残して全員外に出される。それを横目に少年団に話しかけてみる。


「ごきげんよう。少しお話し良いかな?」

「ん!? え、なんっ!?」

「あはは、何もしないから大丈夫だよ。フェミはギリックの知り合いで、ちょっとアナタ達が気になっただけ。後ろに居るのはフェミの妹とお友達で、平民相手に威張るような人じゃないから」

「メリルも平民だしね! みんな初めまして。側仕えのメリルだよ」

「フェミリアスお姉様の妹、リリアライトです。リリアとお呼びください」


 ぶっちゃけブルボアなんてハウンドで一撃なので無視。せっかく歳の近い子が居るんだからワイワイやりたい。


「ギリック兄ちゃんの知り合い? え、ほんと?」

「うん。ギリックは今日もニール君を鍛えてるのかな?」

「な、アンタ、ニール知ってるのか!?」

「あ、やっぱり知ってるんだね。ニール君元気? 無茶してない?」


 ギリックとニール君の名前を出すと警戒を解いてくれた三人と情報を交換する。と言っても世間話だけど。


「兄ちゃん、貴族にアンタ呼ばわりは不味いよ。殺されちゃうよ!」

「ふふ、大丈夫だよ? よく知らない人間なんて、アンタで十分だよ」

「フェミちゃんはとっても優しいから、少しくらいの言葉は許してくれるんだよ」

「············もしかして、ニールが言ってた優しい黒髪の貴族様って、あなたですか?」

「ビシュネ君だっけ? たぶんそうだよ。他に黒髪の貴族って、お母様以外見たこと無いし」

「あの! ニールを魔法で助けたって、本当ですか?」


 三人で唯一敬語が使えるビシュネ君が必死な顔で聞いてくる。他の二人は何かを察してビシュネ君を止めた。


「やめろビシュネ馬鹿、貴族に言う事じゃねぇよ!」

「そうだよビシュネ、お金だって払えないんだからさ! ニールだってお金払うために最近ハンターの手伝いしてるんだし」

「············何か勘違いされてるかな? フェミはニール君に一リヴァルも要求してないよ? ニール君がお金貯めてるのはフェミにお礼がしたいって言ってるだけで、別に何もしなくて構わなかったんだよ」

「ほ、ほんと!? あの、僕のお母さんが病気なの! 魔法で、魔法で治せませんか!?」


 あー、そうか。そうなるか。困ったな。


「うーん。治しても良いんだけどさ、色々問題があるかな?」

「や、やっぱりお金······?」

「いや、正直お金は自分でいくらでも稼げるから要らない。問題は、フェミが貴族だから平民区域に入れない事。あと、確実に治せるかは分からない事。そして、ビシュネ君達が魔法で治して貰った事を内緒に出来るか分からないことかな?」

「······え、えっと、どういう?」

「フェミが平民区域に入れないのは分かるでしょ? もしビシュネ君のお母様が動くのも辛い病気なら、中央区域までどうにか無理して出て来てくれないと魔法が使えないの。あと、魔法でなんでも治せる訳じゃない。それにビシュネ君のお母様が魔法で治ったら、他にもきっと居る平民区域の病気の人達はどうする?」

「··················フェミリアス様の所に、集まる······?」

「その通り。フェミは正直、喋った事も無い人がいっぱい集まって来るの困るし、下手したら集まった人が兵士に捕まっちゃうよ。フェミはその責任は取れないし、取りたくない。分かるかな?」

「············うん」


 ちゃんと内緒に出来て、お母さんが中央区域までどうにか来れるなら診てあげれるよって伝えると、静かにビシュネ君が頷いて引き下がった。


「ほ、ほんとにビシュネの母ちゃん治せんのか!? 嘘だったら酷いからな!」

「兄ちゃんやめなって!」

「言った通り、治せるかは分からないよ。ニール君に使った魔法を使えば治せると思うけど、あれ使うとフェミが死んじゃうしね」

「······え!? な、はぁ?」

「怪我や病気になる前の体に戻せる、禁魔法って奴があるんだけど、巻き戻す時間が長いほどフェミに反動があるの。怪我したばかりのニール君に使っただけでのたうち回る痛みだったから、多分長い間病気のビシュネ君のお母様を治そうとしたら、フェミは確実に死ぬね」


 あの痛みは前世含めても断トツでやばかった。リリアとメリルに膜を破られた時や、コネクトコアを飲み込んだ時など比べ物にならない純粋な痛み。申し訳ないが、今日あったばかりの少年のために使ってあげたくない。本当に痛いんだよ。


「だから、それ以外の魔法で治せるなら治すし、無理ならごめんねって話し。出来ないことは出来ないんだよ」

「············そっか。ごめん。そこまでしてニール助けてくれたんだな」

「ニールの言う通りだったね。二回も助けてくれたって」


 話しが一区切りつくと、ディオルの番がやって来た。柵の中に呼ばれて緊張しているディオルを応援してみる。

 リリアとメリルも一緒になって声援を送ると、緊張が吹っ飛んだ代わりに顔を真っ赤にしているディオルの前に、檻から解き放たれたブルボアが走ってきた。


 腰に下げたショートソードを抜いたディオルは、なかなか良い足さばきでブルボアの体当たりをかわした。


「ほほう? やるねぇ」

「だろ、兄ちゃんは強いんだ! ギリック兄ちゃんにも一回攻撃当てたんだぜ!」

「ふむ? 四級にマグレでも一撃入れるって凄くない?」

「マグレじゃないもん!」


 言ってる間にディオルがブルボアを倒して、その重たい死体を頑張って引き摺ってきた。


「じゃ、頑張れよ」

「血抜き?」

「お、おう。お前もギリック兄ちゃんに聞いたのか?」

「うんにゃ、今の時間にやるから、そうかなって」


 獲物を森の中まで運んでいくディオルを見て、次にランズが呼ばれた。ディオルに比べるとまだまだだけど、年齢を考えれば破格の強さだと思った。


「ふむ、ギリックの教育は結構凄いのかな?」

「全然そんな風に見えませんでしたけど」

「ふふん。ギリック兄ちゃんは凄いんですよ」


 慕われてるなー、ギリック。こう言う面を押していけば、将来子育てもしっかりしてくれる男として付加価値とか付きそうなものだけど。


 それからビシュネ君も呼ばれ、苦戦のあとブルボアを仕留めてディオル、ランズ兄弟と同じ様に血抜きに向う。

 他にも血抜きをしているのは商人だけで、領軍崩れの奴らなんか倒したブルボアを死体蹴りよろしく剣を刺して暇つぶししている。

 あーあ、後で悲惨だぞぉ?


「フェミリアス・アブソリュート、来い」


 呼ばれて一人柵に入り、檻からブルボアが放たれるのを待つ。

 ブルボアは猪型の魔物で、全体的に茶色く、背の上側が苔が生えたように緑色の魔物だ。大きさは高さ一メートル位で長さが一メートル半程、ずんぐりむっくりしている。


「············武器は無いのか?」

「あ、お気遣いなく」

「そうか。怪我するなよ。始め!」


 檻から放たれたブルボアが私目掛けて突進してくる。まさに猪突猛進ってね。


「はい、終わり」


 正面から鼻を拳でぶち抜き、体が浮いた瞬間に水魔法で包む。ぶっちゃけ水魔法って対人最強なんだよね。座標で顔に水玉ぶち込めば絶対に窒息死させられる。これは対人戦では無いけど、結果は同じだ。


 呼吸を封じられ、四肢をバタバタさせ苦しんでいたブルボアが絶命すると、筋肉が弛緩したのか汚物が排出され始めた。敢えてそれを水魔法で搾り取り、綺麗な水に入れ替えながら宙に浮いたブルボアと共に柵から出る。


「··················っは!? ふ、フェミリアス終わり! 次、リリアライト・アブソリュート!」

「リリア、頑張ってね」

「はい。お姉様の様に綺麗に倒してきますわ」


 私と交代で柵に入っていったリリアを見送り、私はスラッシャーを出してブルボアの首を傷付けた。


「レイナに教わった血抜き魔法、使う事になるとは」


 トライアスで教えたレイナから、旅の途中に役立ったと言う魔法をいくつか教えて貰っている。その一つが血抜きの水魔法で、本当は全身包む必要は無く、傷口に水の塊を貼り付けて血抜きをするだけの魔法だ。


「ふぇえ、本当にフェミちゃん強いんだねぇ。ブルボアを一撃············」

「メリルは魔法で倒せるでしょ。呪文の時間をどう稼ぐかが重要だよ」

「うん! せっかく魔法使えるようになったんだもん。恰好良く倒しちゃうよ!」


 血抜きが終わり、リリアは勝つに決まっているので商人の所に向う。


「ごきげんよう」

「······ごきげんようお嬢さん。まさか殴り飛ばして魔法で窒息させるなんて、予想よりずっと綺麗な戦いだったよ」

「ふふ、お褒めに預かり嬉しいです。商人さん、えーと、グリアポルトさんでしたか?」

「ああ、覚えて貰って光栄だね。何か用かい?」

「用と言うほどでは無いのです。ただ、身なりも良さそうですし、何故ハンターになるのか、少し気になりまして」

「まぁ、そうだろうね」


 深い緑の短髪をして、腰の剣が浮いてしまう程品があるローブを着た商人、グリアポルトは自嘲気味に教えてくれた。


「私はお嬢さんの言う通り、そこそこ成功した商人さ。ただ、結ばれたい相手が偉い兵士の娘でね、自分で女性も守れない奴に娘はやらんと彼女の父に言われたのさ。ハンターとしての階級は、ほとんど強さの指標だろ? だから、私は彼女を迎えに行くために階級を上げなければ行けないのさ」

「············うっは、思ったよりずっと素敵な理由でした。ふふ、努力が実ると良いですね。王都の商人ですか?」

「ああ、中央区域で店を持っている」

「ふふ、うん。仮面脱ごっと。グリアポルトさん、フェミも暫くしたら中央区域でお店を持つの。良かったらご贔屓に」

「これはこれは、ご丁寧に。ちなみに何を売るのかな?」

「平民でも手を出せる値段にした、フェミ謹製の魔道具だよ。きっと商売にも役に立つ物があるから。あ、卸はしないからね」

「············本当に、平民が買えるのかい?」

「フェミの肩に乗っている鳥、わかる?」

「ん、リティットかな? 柄が見た事無いものだが······」


 肩に乗っているリーアを手に乗せてグリアポルトの前に出してみる。


「この子魔道具なんですよ。量産型で仕様は変わりますけど、一羽、八万リヴァル程度を考えています」

「こ、こんなに精巧な魔道具が八万リヴァル!?」


 他にもパソコンも見せてあげて、コチラは十五万リヴァルだと教えて少し動かしてみる。他にもデジカメが十万リヴァル。

 そして改めてリーアのコール機能も教えて、宣伝は終わり。


「ほ、本当に!? こんなに凄い魔道具がそんなに安いのかい!?」

「転売が見られたら値上げするかも知れないけど、大きくは変えないよ。リティットなんか、すぐに情報のやり取りが出来るのは商人としては大きな武器になりません?」

「はは、強くなれなんて無茶を言われたが、どうしてこんなに運が良いのか。私は中央区域で服飾の店をやっている。店はポルトの服飾店だ。店を開いたら是非一報ほしい」


 最後に改めて挨拶を交わして戻ると、ちょうどメリルがブルボアを仕留めて帰ってきた所だ。


「どうだった?」

「うん! 倒せた、倒せたよ! 私ブルボア倒せたよ!」

「ふふ、嬉しそうだね。血抜き自分で出来る?」

「うん。教えて貰った魔法だよね? まだ無詠唱出来ないから、えーと、流れる血潮を求めし水、顕現して欲を満たせ」


 メリルの前に現れた水の塊が、メリルの指示通りにブルボアの首に張り付き、あっという間に血を吸い出して、体積を増やし赤く染まる。


「なんで血抜きするの? 倒すのが試験じゃないの?」

「お昼前から食用の魔物倒させるんだよ? この後解体してお昼には倒したブルボアを食べるんだと思うよ」

「なるほど! そか、ハンターって自分で獲物狩るんだもんね。解体も試験になるんだね?」

「他にも干し肉とかにする試験もあると思うよ。戦闘なんて最後に教官が見れば良いんだし、今は生存能力を見られてるんだと思う」

「さすがお姉様ですわ。先の事まで考えて······。それに引き換えあちらの方々は······」


 リリアが言うのは、領軍崩れのグループだ。なにせ、死体蹴りを続けた結果、アイツらの肉は残らずグチャグチャの挽肉になってて、血抜きして無い事も相まって絶対食えたものじゃ無い。

 あんな血生臭くてボロボロで、部位も分からなくなった肉は食べたくない。


「あれ、不合格になるかは置いといて、絶対食べたくない」

「同感ですわ。でも自業自得です」

「勿体ないねぇ。あんなにあったら弟と妹にお腹いっぱいお肉食べさせてあげれるのに······」


 血抜きが終わったのか、獲物をどこかに吊るして来たのか少年団が戻ってきた。


「お前ら、分かってたのに血抜きしなかったのか?」

「いや、もうやったの。魔法でぱぱっと」

「············魔法ってずるい」

「ふふ、フェミもそう思うよ」


 ちなみにグリアポルトは、地面に穴を掘ってそこに血を流す形で血抜きしていて、少年団は森の中で血抜きしたから、領軍崩れ以外の者も死体蹴りはしなくても血抜きはして無かった。


「よし! じゃぁ次の試験に移るぞ。皆、自分で倒したブルボアを解体して必要な分だけ調理して、昼飯に備えろ!」


 分かっていた内容に、少年団とグリアポルト、私達は平然としているが、他の人間は慌て始めた。とくに領軍崩れは悲惨な顔をしている。馬鹿だねぇ。


「貴族様、あの、先ほどやっていたのはもしかして血抜きの魔法······」

「無理無理、そんなに時間たっちゃったら魔法でも抜けないよ。中で固まってるもん。分かるでしょ?」


 グリアポルトじゃなく元商人風の団体が私達に縋ってきたけど一蹴した。いくら何でも、凝固した血液なんて吸い出せない。

 絶命してから私達が終わるまで、三十分から一時間近く放置していたのだから。体内の血液がどの程度凝固してしまうかなんて知らないけど、下手に手伝って失敗して、こっちのせいにされても困る。


 私はグリアポルトに手招きして、血抜き成功組で固まる事にした。あえて線引きする事で失敗組が介入しにくい空気を作る。


 解体はアナライズしながら、少年団とグリアポルトに素直に頭を下げて教えて貰った。流石に動物の解体とかやり方知らん。


 メリルは慣れて居るのか、改めて少し説明されると持たせた特製スラッシャー型ナイフでスイスイ解体していく。やばいメリルちゃんカッコイイ。

 リリアは箱入りのお姫様だったから、内蔵を取り出す辺りで悲鳴を上げるけど、私が何も言わないで黙々と処理していると頑張って解体を続けた。


「······スゲェなそのナイフ。やっぱ貴族は良いもの使うんだな」

「うふふ、これはお姉様が自分でお作りになった魔道具ですわ。貴族だから持てるものでは無いのですよ。お姉様が凄いからリリア達も持てるのです」

「フェミちゃん、他の人が使える物も前に作ったって言ってなかった?」

「あ、忘れてた。だいぶ前に設計したよ」


 メリルに少し話しただけなのに、よく覚えて居たよね。かなり前に設計していた、実体剣タイプのナイフを四本ロールアウトした。これは魔力を使わないどころか、魔道具ですら無いデザインが凝っただけの超斬れるただのナイフ。


「教えて貰ったお礼にあげる」

「な、はっ!? こ、こんな高そうなナイフ、いいのかよ!?」

「いやはや、今何も無いところからナイフを産み出さなかったかい?」

「そう言う魔道具があるの。フェミ専用だけどね。グリアポルトさんにもあげる。大切にしてね。普通のナイフと比べ物にならないくらいには頑丈だけど、摩耗もするし劣化で折れるから」

「············有難く貰うよ。貴族にしては随分親身だね?」

「フェミは貴族も平民も関係無いの。気に入った人とそうじゃない人が居るだけだよ」


 少年団は新しいナイフの切れ味に狂喜乱舞して、ランズ君とビシュネ君はまだ残っていた解体をすぐに終わらせてしまった。


「あの、ありがとうございます! こんなに良いナイフが持てるなんて、夢みたいで······」

「あんまり人に見せると、盗まれたりすると思うし、悪い人に囲まれて酷い目に会うかも知れないから気を付けてね。フェミのオススメは、今日の帰りにでも売り飛ばして、お母さんに薬を買ってあげるとか。そのナイフ売れば魔法薬の一つくらい買えるんじゃないかな?」

「っ!? そ、そっか、売っても良いのか······」

「············持っていたいけどね」


 私のナイフが気に入ったのか、売るかどうするか本気で悩み始めるビシュネ君とランズ君の二人に苦笑していると、全員が解体を終えて支給された麻の粗末な布の上に肉が並んでいた。うん。壮観だね。


 次は調理に入るんだけど、解体で世話になったし、少年団とグリアポルトにはサービスしてあげようかな。


「ねぇ、料理は任せてもらっていいかな? 飛びっきり美味しいお昼にしてあげる」



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