表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/54

国王ジークザーロ。



「さすがお姉様ですわ。四学科全て受けるなんて身が持たないとお母様とフェアリーゼ様に止められて居ましたのに、まさか初日で全てを捩じ伏せて来られるとは。うふふ、リリアはお姉様が素敵過ぎて困ってしまいますわ」

「お嬢様、そんなに凄い事なのですか?」

「ええメリル。平民にわかり易く言うと、商人の見習いになった日に、店主に認められ、店を任された様なものですわ」

「ふぇぇえ、フェミリアス様凄いです!」


 私は次の日、癒しの日の朝プリシラの家に居た。

 頭を抱えたくなる案件を口にした途端、リリアとリーフェは誇らしそうに喜んで、今この瞬間それにメリルも加わった。


「ふふ、当然と言えば当然ですが、やはり誇らしいですね。お嬢様は既に貴族学校で学ぶお方では無いのです」

「それでさ、卒業は良いんだけど論文出せって言われてるんだよね。これ羊皮紙とインク代は誰持ちよ。まぁエーテル印字しても良いけどさ······」


 論文なんて紙一枚に収まるわけがない。羊皮紙とインクは安くないのだから、論文一つ提出するのにいくらかかると思ってんだ馬鹿野郎。私は寮からの支援金しか貰えないんだぞ。


 大体の貴族は実家からお金を持たされているが、基本的には寮から全員に支給されるお小遣いで生活する事になっている。


 月に二十万リヴァルと私からすれば馬鹿じゃないのかって大金だけど、殆どの貴族は足りないと実家に縋る。


 月の初めに寮監に申請して、後で部屋に届けてもらう形らしく、私も一昨日申請して二十万貰った。


 でも満足のいく論文を書くとなると足りない。しかも魔法学と魔道具学の二つから言われている。破産確定である。


 明日レイオラシスに聞いてみよう。そう決めて皆で朝の鐘の前に貴族区域に出発した。


 全員じゃビークルに乗れないから、リーフェに馬車を呼んで貰って寮までいく。

 門番さんにリーフェとメリル、御者の申請をちゃんとしてから通ると、今日は黒いの乗ってないのかと笑われた。この馬車も黒いよ?


寮の前で馬車を止めて待機させる。ここで送り返すと、入寮に失敗した時に歩いて帰ることになる。


「と言う訳なのですが、どうにかなりませんか? 支援金はわたくしと半分にしたり、出来る事はコチラで全て負担しますので」

「···············獣人ではありませんか」


 基本的に丁寧でお淑やかだった寮監、イジルートは獣人嫌いの貴族だったらしい。私結構、寮監好きだったのに、残念だよ。


「獣人なのが、どうかされたのですか? まさかフェミニストルデの一部貴族は寮では無く宿に入れられている訳でも無いのでしょう?」

「そう言うわけでは、しかし、獣人が慣例を破る事は認められませ······」

「あら、エリプラム様。今不思議な会話が聞こえませんでしたか?」

「そうですわね。シュリルフィア様にも聞こえたなら、わたくしの聞き間違いでは無いのでしょうね」


 寮の入口で言い合う私達に、奥から二人の女の子が現れた。エリプラムとルフィアだ。え、なんでエリプラムまで居るの?


「ごきげんようフェミリアス様。イジルート寮監。そしてフェミリアス様の妹様でしょうか。お初にお目にかかります。ヒュリオース領主が娘、エリプラム・セッテルハーツと申します」

「ゼイゲルドット領主の娘、シュリルフィア・クィンタートですわ。リリアライト様にお会い出来て光栄ですわ。フェミ様からお聞きになった通りに、とても可愛らしくて素敵な淑女でいらっしゃいますのね」


 二人は私とリリア達にカーテシーをする。リリアも寮の入口の外でそれに挨拶を返し、二人は寮監に顔を向けた。


「さて、寮監様? わたくし信じられない言葉を聞いたのですが、どう言う事なのでしょう?」

「わたくし達は入学式典で、陛下がランド王国の貴族は階級に差があれど、貴族としての誇りに差はないと仰っているのをお聞きしました。誇りある貴族の方に対して獣人である事が何の理由になるのか、是非お聞きしたいですわ」

「······っ!?」


 一気に顔色が悪くなった寮監に、二人は全力で叩き込む。なんでエリプラムがここまで協力してくれるか分からないけど、大領地と中領地のトップが国王の言葉を使って居るのだから、そう簡単に退けられない。それこそ獣人だから、なんて言葉では絶対に。


「そもそも、入寮の条件は『貴族学校に入学する者』としか決まっていなかった筈ですわ。誰が、いつ入寮出来るかは決まっていないのですから、リリアライト様が一年前倒しで入られても、問題無いのではなくって? 貴族学校に入学する者、なのですから」

「確かこの決まり事は、寮を代々守ってきたギリムリル家が決めた事では有りませんでしたか? 自らの家の決まりを覆すのですか?」


 全弾発射フルバースト。寮監が何か反論するなら丁寧にそれを砕いていく。

 

 そして、そこに信じられない影が一人、スッと入ってきた。いや二人か。


「そもそも、国王が······」

「うむ。そうだそうだ。もっと言ってやりなさい。獣人だからどうとか、全く下らない」

「そうですわ! 獣人だろうと、かわりなくランド王国の······、貴族······」

「その通りだとも。皆大事な国民なのだ。いったい誰の許可を得て迫害などしているのか。けしからん」

「·········あの、え?」

「ん? どうしたのだ。そなた達の言い分は尤もだ。どんどん言いなさい」

「·········ひっ、こ、こここ、国王陛下様·········!?」


 私とリリアの間に立ち、盾になるような位置で寮監に意見をしていた二人の後ろ、私の前に現れたのは何と国王その人と、何故かレイオラシスだった。


「うむ。いかにも我が国王、ジークザーロ・ランド・シュグリバズだ」

「うむ。じゃないですよ! 子供たちが怖がっているでしょうが! 何故急にこんなっ······」

「む? 息子よ。貴様が我に自慢したからであろう? 凄い貴族を担当できて楽しみだ。あの鳥や物書きの魔道具は素晴らしかったと。このリティットがそうか!?」


 国王に不遜な態度を取っているレイオラシスに、国王ジークザーロは息子と言い放ち、私やリリア、メリルとルフィアの肩にそれぞれ止まっているリティット達に視線を飛ばす。

 眼力強くて正直こえぇ。


「あの、レイオラシス先生、どう言う事なのでしょう······?」

「······申し訳ないフェミリアス嬢。私が口を滑らしたばっかりに。父上はリティットが大好きなんだ······」

「······父上、という事は、レイオラシス先生は、王子なのですか?」

「ええ、隠していましたが、私はこの国の第五王子です。継承権も一番下なので気にしないでくれると助かる」


 担任がまさかの王子様って、どこの乙女ゲーだよ!


「して、ソナタがこのリティット達を産んだ者で相違ないか?」

「······はい。わたくしがこの魔道具を作った本人で間違いありませんわ。このフェミリアス・アブソリュート、王の御前で挨拶が遅れました無礼をお許し頂きたく存じます」


 カーテシーでは無く跪く。この世界の最敬礼に位置する『跪く』と言う行為は、男性と女性でその作法が分かれている。

 本来まだ先に貴族学で学ぶ筈なのだが、私はフェアリーゼのお陰で既に覚えている。


 男性は右膝を立てて左膝を地面に、右手の拳を地面に左手を右膝に乗せて頭を垂れる。

 女性は右膝を立てて左膝を地面に、右手を胸元に添えて左手を左膝の上に乗せて頭を垂れる。


「ふむ。聞いたとおり出来た淑女の様だ。まだ最敬礼は教えて無いのだろう?」

「······はい。まだ授業が動いて一日ですから」


 周りの皆も私の真似をして急いで跪くけど、メリルそれ逆だよ。ふふ。


「面をあげよ。ついでに立ち上がるが良い。我はリティットを見に来ただけだ。が、しかし、一つ打算の元に王命を出そうか。イジルートよ。その首が大事ならばフェミリアス・アブソリュートの妹君、リリアライト・アブソリュートの入寮を認めよ。貴様の言い分は実に見苦しく聞くに耐えん。子ども達の方がよっぽど大人に見えよう」


 意味が分からない王様の介入で、ともあれリリアが入寮出来る形勢になった。ここで一気に詰めれるだけ詰めておこう。王の打算が何なのか知らないけど、時間をくれれば何でも応えるよ!


「恐れながら国王様、直答をお許し願えますか?」

「······聞こうか」

「感謝致します。わたくしの妹、リリアライトの側仕えとして、こちらのメリルも入寮をお願いしたく存じます。そして寝泊まりは貴族寮の方でお願いしたく思います」

「ふむ。良いだろう。他にはあるか?」

「ジークザーロ様! その様に簡単にっ······!」

「黙れ。今我は、王命と言ったはずだが、それを理解しての発言のみ許そう。王命に異を唱えるのだな? どうなんだイジルートよ」

「·········いえ、申し訳ありませんっ······!」


 王命、その言葉に寮監はもう何も言えなくなった。そして今更ながらに私も怖くなってきた。あれ、王命ってよっぽどの事だよね? 私何させられるの?


「お姉様、リーフェさんも······」

「え、いやそれは、寮に作っちゃいけない前列だって話したよね?」

「ん? どうした、何か有るなら申せ。リリアライトよ、言ってみるがいい」


 白金の髪を逆立てた王の厳つい顔を前に、リリアの体硬直するのが分かった。出来れば前に出て守ってあげたいけど、今はその時では無い。


「恐れながら、そこに居るもう一人の側仕えも入寮をお願いしたく存じます。事情により申請をせず領地に残ったお姉様の側仕えなのです」

「······ふむ、聞こえた前例がどうとは?」

「はい。リリアの側仕えが一緒に入寮するのと、既に入学まで済んでいるお姉様の側仕えでは立場が違うため、お姉様は寮に無理を通し過ぎないようにと······」

「問題無い。二人ともリリアライトの側仕えとして入り、その後フェミリアスに移れば良いだけの話ではないか。話しは終わりか?」


 王様に言われてやっと気付いた。まさにその通りじゃん。

 気付けよ私!


「ふむ。終わりの様だな。何ならリリアライトの入学も認めてしまおうか」

「父上!?」

「レイオラシス。今日のうちに魔力測定と実技を······、いや要らんな。報告を受けたフェミリアスの結果と同じ事が起きるなら、貴重な測定魔道具が無くなってしまう。実技だけ我が直々に見よう。そこからおおよその魔力を割り出せば良いだろう。教室はもちろんレイオラシス、お前の所だ」


 話しがどんどん進んでいき、なんとリリアがクラスメイトに。やったぜ王様!


 王様が小さく呪文を口にすると、当たりが一瞬光った。特に何かが変わったわけでも無く、ただ光っただけ。


「ここに居る未登録の者を登録した。イジルートが渋るとも分からんからな。もう入って良いぞ。火の季節と共に閉じる魔力登録の魔法陣を一瞬だけ起こしたから、そこの三人はもう寮に入れる」


 入口ギリギリに居たリリアとメリル、リーフェも恐る恐る一歩踏み込み、安全を確認すると近くまで来た。本当は飛び付きたいのだろうけど、王様の御前である。よく我慢したね。


「ふむ、では闘技場に行こうか」

「······父上、本気ですか?」

「ああ。フェミリアスから異論が出ないのだから、入学には十分な力を持っているのだろう?」

「······はい。わたくしの妹はとても優秀なのです。きっと国王様のご期待に添えると存じます」


 遠巻きに何事かと様子見している貴族や側仕えを無視して校舎に歩いて行き、一同闘技場に向かう。リリアを庇護する物言いからエリプラムとルフィアも王様に気に入られて同行を許された。


「ふはは、やはり馬車ではなく自分で歩くのはいい物だな」

「立場をお考え下さい」


 哄笑する王様とレイオラシスを先頭に闘技場に着くと、リリアライトを闘技場の真ん中当たりに立たせて、好きに魔法を使えと言い出した。


「魔力の底が見える様な大きいものを使って見せろ。闘技場は壊しても構わん」

「·········はい、では参ります」


 王様がまだ少し怖いリリアは、ゆっくりと呪文を紡ぎ始めた。

 それは上級魔法の最上位と、戦術級と国崩級にも使われている古代呪文と呼ばれる物だった。


「イグラ・ベル・セプテム。ヘルド・ギルア・セプテム。ルンドルア・シュリクリル・セプテムバルム」


 エーテルドレスの補助システムを使い、魔力を全身に迸らせて可愛い声で恐ろしい歌を口ずさむ。


「ほう? 古代呪文か」

「まさか上級魔法!?」


 長い長い呪文を淀みなく歌うリリアの魔力が増大していき、徐々に臨界に達する。


「リグリア・ドルク・ギガノーズ。ジオラグ・ドルク・ギガノーズ! 輝け閃光、闇祓いの焔!」


 リリアが両手を真上に翳すと、階層ぶち抜きで作ってある闘技場の天井に向かって燃え盛る大閃光が放たれる。

 膨大な熱量に、天井は崩れること無く蒸発して穴が開く。その穴の大きさが魔法の威力を物語っていた。


「ふむ、壊して良いと言ったが、ここまでか。真上に撃った配慮に感謝しよう」

「·········なっ、あぁ·········?」


 驚きつつも冷静な王様は流石の風格を見せつけ、開いた口が塞がらないレイオラシスは多分正しい反応なんだろうね。


 テクテク歩いて帰ってくるリリアの足取りは確かで、それにまたレイオラシスが驚愕する。


「なっ、アレだけの魔法を一人で使って、なぜ平然と歩けるんだい!?」

「え、あの。何故と言われましても、お姉様に鍛えて頂いたリリアには、大した事が無いだけなので······」


 帰ってきたリリアはほぼ初対面のレイオラシスに詰め寄られて怖がっている。リリアの言葉に私もレイオラシスに詰められた。


「フェミリアス嬢、まさか同じ事が!?」

「あ、いえまさか。わたくしには出来ませんわ」

「そ、そうですか······。よかっ···」

「あの様な綺麗に威力を絞った魔法など、わたくしには出来ません。同じ魔法を使えば闘技場を吹き飛ばして王にも怪我をさせてしまいますわ。あそこまで綺麗に制御できるのは、リリアの努力の賜物でございます」

「··················そんな、馬鹿なっ······」


 とうとうレイオラシスが膝を着いた。いやでも本当にリリアの魔法凄かったよ? よくあそこまで手加減出来たよね。

 私が闇祓いの焔撃ったら闘技場の屋根が吹っ飛んで、絶対に怪我人出したもん。


「こんな逸材を一年も早く教育出来るのだ。むしろ僥倖ではないか? 入学にも異論は無いな?」

「············あ、あははは、分かりましたよ。はは、あー、もう私には分からない。何も分からない」


 レイオラシス先生が壊れたよ。どうしたんだろう?


「さて、改めて要件を······、その前にちょっと触ってもいいだろうか?」

「え、あ、はい。リーア、良いわね?」

『うん。ティタニオより、怖くない。優しそう』

「おおお、まるで本物では無いか······。素晴らしい。なんて愛らしい······!」


 本当にリティットが好きなのだろう。顔から威厳がすっ飛んで消えていった王様は、リーアをご所望のようだ。

 リリアの魔法で呆然としていたエリプラムも再起動して、王の側で頷いている。同士か。同志か。


「恐れながら、フェミリアス様のリーアちゃんは、歌と舞も堪能でいらっしゃるのです」

「なんとっ!? 是非、是非見せて貰えないか?」

『見せる。見せるから、握らないで。踊れない』

「ふふ、国王様、お手に握られていたら舞えませんわ」

「おぉ、そうだった。済まなかった」


 力加減は間違えて無かったのだろう。リーアから痛いとは声が無かった。手が開かれたその上で、リーアが一番最初にエリプラムへ見せたワンマンライブを披露する。


「おおおおぉぉぉぉお!?」

「きゃぁぁぁあ♡ も、もしかして、他のリティット様達も、踊れたりするのかしら?」

「なに!?」


 エリプラムのせいで飛び火したリアス、ピッピ、フェミルフィアがコッチに話し振るんじゃねぇ!って顔をしている。

 皆を呼んで手に乗ってもらい、音声変換魔道具の効果を適用する。


「出来そうかしら?」

『無理無理。ピッピ無理』

『リアス、ちょっとだけ。リーアほどは無理』

『ミルフィも無理! でもお歌だけなら?』

『ん。お歌だけなら』

『リアスも出来る』

「歌だけなら出来るみたいですわ」

『ぴ! お話し分かる?』

『流石お母さん!』

『わーい!』

「ふふ、内緒よ?」

『『『はーいっ!』』』


 どうやら、三人のリティットは女の子に育った見たいだ。なぜ私のリティットだけ男になった。解せぬ。


「おお、合唱か!? 是非!」

「まぁまぁまぁ♡ 今日は良き日でございますわね」

「うむ。良き日だ。実に良き日だ」


 それから三羽の拙い合唱を私の肩で披露して、王様とエリプラムに満足してもらった。なんでも良いけどエリプラム打ち解けすぎじゃない? あいて王様だよ?


 正式にリリアの入寮と入学が認められたので、リーフェはメリルを連れて部屋を整えに行った。ピッピは預かってて欲しいと。


 それから闘技場でリーア、リアス、ピッピ、フェミルフィア改めてミルフィの四羽に飛び回ってもらって、王様とエリプラムを更に満足してもらい、王様の顔がトロけそうになった当たりでレイオラシスに止められた。


 フェミルフィア本人がミルフィって名前考えてくれて助かった。フェミルフィアって呼ぶ度に背筋がモニョモニョするからね。


「父上、執務も有るのですから早く本題を。いやこのまま帰りましょう。それがいい」

「な、待て待て! 余計帰れなくなったぞ! こんなに素晴らしいリティットを見て、このまま帰れるか! フェミリアス、今日足を運んだのはそなたを招待するためだ」

「招待、ですか? 晩餐会にでもお招き頂けるのでしょうか」


 笑って聞いた私だが、王様はニッコリ笑って頷いた。

 え、ウッソだろお前。


「魔法学、魔道具学、騎士学を全て初日で卒業したなど、前代未聞の偉業だ。王家にて歓待を受けるに相応しい」

「······何が歓待ですか。本心が透けてますよ」

「ぐ、ごほん。急だが今晩の夕食に、そなたを招待しよう。案内はレイオラシスにさせる」

「こ、今晩·········、で、ございますか?」

「うむ。楽しみにしている。では、我はこれで」


 そう言って手を振り、闘技場から一人歩き去る王様に、どこからか数人の護衛が影から出て来て着いていく。まぁエコーで隠れて付いてきている護衛は知っていたけど。


「············は? あ、え? 今晩?」

「······本当に申し訳ない。フェミリアス嬢、分かっているとは思うが······」

「リティットの献上、ですね?」

「······ああ、本当に、申し訳ない。昨日の夕食の席で、酒が入って口を滑らせてしまったのだ」


 私は思ったよ。時間をくれれば何でも応えるよって。そう時間さえくれれば。時間を、時間をくれよぉぉぉぉおお!?


「先生、夕食、晩餐会にいらっしゃる王族の方を教えてくださいませ! あと王家御用達の装飾品を売るお店があれば紹介も! 時間が、時間がありませんわ!」


 申し訳なさそうなレイオラシスに詰め寄って情報を洗いざらい喋らせる。彼も王族らしいが今はどうでもいい。


「お、お姉様? どうしたのですか? お姉様ならスグに用意出来るのでは?」

「リリアよく考えなさい。相手は全員王族で、一人残らずわたくしより位が上の、国の最上位の方々なのです。簡素な箱で献上する訳にもいきませんし、王ひとりに献上して話しが終わるわけが無いのですよ。この後量産するリティット達とも差を付けなくては行けませんし、とにかく時間が足りないのです!」


 献上する時に入れる箱一つ取っても、豪華に作り上げる自信はもちろんある。だが王家に対する献上物には相応の決まりがある筈だ。ドレスコードの様に、王家に見合う献上物のコードが。


 更に晩餐会で王様一人にリティットを渡して、他の王族も欲しがり無茶振りをその場で申し付けられたら、もっと酷いことになるかも知れない。なら最初っから王に献上する物に併せた物をコチラで準備するのが一番無難だ。

 

 パソコンを取り出して地べたに置き、レイオラシスの話しを残らず記録して整理する。

 レイオラシスが持っている王家の紋章もデジカメで撮らせてもらって、装飾店の紹介状も準備してもらってリリアに指示を出す。


「リリア、悪いけど部屋で留守番をお願いするわ。ルフィア様、丁度良い機会なのでリリアをお願いしてもよろしくて?」

「もちろんですわ。お任せ下さいませ」

「エリプラム様はリーア達をお預かり下さいませんか? 忙しくなるので、寂しい思いをさせたくないのです」

「むしろやらせて下さいませ! その様な役目、何を支払っても引き受けたく思いますわ!」


 パソコンとデジカメのデータをファクトリーの設計メモ欄に送り、みんなに別れを告げて急いで外に走りビークルに乗り、そのまま紹介された装飾店まで走り抜け私はビークルで突っ込む。

 いや本当に突っ込んでは居ないけど、それくらいの勢いでお店まで走り抜けた。


 店に事情を話し、王家に献上する様なデザインを記録させてもらう。お金を払おうとしたらネックレスに興味を持たれたので、端末機能の無いバージョンをロールアウトして一つ店に渡した。

 いくらでも見て行ってくれと言質を貰ったので、王家に献上出来るレベルの紹介されたアクセサリーや宝石箱を片っ端からデジカメに撮る。


 お礼を言って今度はプリシラの家に行く。寮の部屋でリリアとルフィアに構っている暇は無い。今ならプリシラは仕事中の筈だから思いっきり没頭出来るはずだ。


「ぐぅ! お腹減ったよぉぉおお!」


 叫びながらプリシラの家に入り、いつもの癖でプリシラのベッドに潜り込んだ。隣の部屋には私が作ったマットを使ったベッドが有るけど、プリシラの痴態を見ると良案が浮かぶプリシラ効果を、ベッドに染み付いたプリシラの匂いに期待しよう。




「癒しの日なのに、全然癒されなかった······」

「·········本当に、本当に申し訳ない」


 疲れ過ぎて貴族の仮面がずり落ちている私は、夜の鐘が鳴る少し前にレイオラシスと王城を歩いていた。

 エリプラムの元を訪れてリーアを引き取り、レイオラシスと歩く王城の廊下は、石造りで冷たい。


「はふぅ、失礼致しました」

「いや、暫く楽にしてていい。随分無理をさせた様だ」

「お気になさらないで下さいませ。お陰で間に合いましたもの」


 晩餐会に来るのは王様、第一王妃様と第二王妃様、その息子である王子がレイオラシス含め五人。さらに王子二人と婚約している女性が二人の計十人。リティットは十羽準備した。


 それを王城に着くとレイオラシスの案内の元、城の執事に全部渡した。

 箱にはそれぞれレイオラシスから聞いた名前が掘ってあるから、よほど馬鹿な奴じゃ無ければ間違えないだろう。


「着いた。ここだ」


 レイオラシスが止まる扉は、赤い布の中にたっぷりの綿を詰めて、腹筋のように割れている装飾がされた金属製の扉だ。


 さぁ、戦いが始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ