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何故ここ居る。



 詳しく聞き、一つ一つ飲み込む。ごっくん。


 まず、メリルの閃きでリリアが領地から出れる事に気が付く。閃き、圧倒的閃きっ!


 それからリーフェが全力支援してあっという間に移動して、今日王都に着いたらしい。

 プリシラに会ったのは偶然で、私を摘み食いした事を喋ってリーフェ激おこ。今に至ると。


「ふふ、なるほど分からん!」

「お姉様に会いに来た事だけ分かっていただければ結構ですわ」

「それで、フェミちゃんの相談って?」

「あ、あのー、さ。その············、増えたら············、どうする?」

「増える? フェミちゃんが? 素敵!」

「違うよ!? えっとね、あの、あー、フェミの事好きな人がね、一人増えてね、その·········」

「淑女ですか? 殿方ですか?」

「え、えっと、女の子だよ?」

「なら、反対はしませんが、是非お会いしてみたく思います。人柄も知らずでは、お姉様を取り合う事になりかねませんから」

「·········え、いいの?」


 リリアは嫌がると思ってたのに、以外とすんなり仮許可が貰えた。ただリリア、メリル、リーフェ全員から見て合格を貰え無いと却下になるという話になり、なんか私の意志が介在しなくなって来たよ。


「ふふ、金髪で見目良く、お姉様と逢瀬を楽しむ殿方で無ければリリアは構いませんわ」

「························プリシラさんか、喋ったの」


 何故かイオとデートしたのバレてる。いやあの時はまだ私はソロだったから問題は無いんだけど、なんかちょっとね、バツが悪いよね。


「イオ様は何でも無いよ。確かに夫にするならこの人良いなって思ったけど、ちょっと色々あってね。今は特に何も無くトルザークに帰っていったよ」

「······トルザークの貴族ですか?」

「うん。他の奴は色々見たけど、トルザークはお母様が嫌うのも分かるくらい酷い貴族が多かった。けどイオ様は良い人だったよ。イオ様が領主一族じゃなくて上級貴族だったら、トライアスに来てもらえば済んだ話なのになー」


 食堂や中央区域で問題を起こしているのはいつも大体トルザークだった。領地に帰るまでイオがその処理に奔走していたのを可哀想に思ったものだ。

 お兄様、リディアットとイオをどっちも貰って来ればいいのに。


「お、お姉様が、殿方に、くぅ······」

「······ちょっと、複雑だね」

「·········あ! 恋人の前でする話しじゃなかったね? ごめん。そうだなぁ、強いて言うなら、お兄様よりお兄様って感じの人だったんだよ。だから甘えちゃっただけ」


 今思うと、デートそのものだったし口説かれたし、アクセサリーも贈られたけど、距離感は兄妹のそれだった様に思う。楽しかったな。


「······リリアに取ってのお姉様と言う事ですか?」

「そこまでは言わないけどさ。似たような感じ? 初めて甘えれる相手が居たからはしゃいじゃったんだよ」


 私はリーフェにも甘えては居るけど、距離は少なくとも感じている。イオにはそれが無かったから、心地よかったんだろうね。


 取り敢えずイオの事を置いといて、先に話すべき事は二点残っている。そっちを先にしなければ寝れない。

 まず三人の滞在場所だ。見たところ結構な荷物を運び込んでいるけど、まさかプリシラの家に長期で滞在するわけにも行かないだろう。


「あら? 私は構わないわよ? フェミちゃんの家族なら持て成さないとね。お世話になってるんだから」

「いやいやいや、流石に悪いよ。せめて何人か寮に相談してコッチに入れるよ」

「んー? そうすると、リーフェさんが残ってリリアちゃんとメリルちゃんがそっちに行くんじゃない? リリアちゃんが行くなら側仕えとしてメリルちゃんも付いていかないとね」

「でしたら私も······」

「あら? 既に入寮している貴族の側仕えが申請無しで寮に入れるのかしら? 確か寮に登録出来る時期って水の季節終わるまでよね? 例外でリリアちゃんを入寮させる時にメリルちゃんも捻じ込めるとして、フェミちゃんの側仕えに戻るリーフェさんは厳しいんじゃないかしら?」

「そうなの? リリアをねじ込めたらリーフェも行けそうだけど」

「リリアちゃんの場合、多分来年の前倒しって形なら認められるのよ。実際フェミちゃんの部屋空いている訳だし。ただ申請がされていないリーフェさんは、そもそもエルフで貴族じゃ無いじゃない。メリルちゃんも怪しいけど、『一緒に来た側仕え』と『申請せずに来た側仕え』じゃ条件が違うのよ」

「············随分詳しいね?」

「食事処兼酒場ってね、情報の坩堝なのよ」


 つまり、来年の入学を認められているリリアの例外を認めるのは楽で、メリルちゃんも側仕えとして一緒に捻じ込めるけど、既に今年入学と入寮を済ませいている私の側仕えを入寮させるのは、寮への出入りを自由化させるに等しいので難しそうだ。

 そもそも八歳まで自室を出れない貴族の子供が寮に来る訳無かっただけで、リリアの入寮は例外ですら無い可能性もあるのだとか。そんなルールは決められていない筈だと。


「ふむ。まぁどっちにしろ寮監に相談だね。メリルちゃんも側仕え寮じゃなくて、貴族じゃないからずっと部屋に居れる例外を一緒に捩じ込んで見ようか」


 貴族しか居ない側仕え寮でメリルを一人過ごさせるのは、私の精神衛生上よろしく無い。高貴な方々と同室になど出来ませんとでも言って何とかしよう。


「そんなっ······、私はお嬢様のお世話が出来ないのですか······」

「一応聞いてみるけど、プリシラさんの話しが本当なら難しいだろうね。庇護すべきリリアを寮に入れるのと、庇護対象じゃないリーフェを寮に入れるんじゃ例外を作る危険性が全然違うもん。私が管理者だったとしても、渋ると思うよ」


 リリアの例外を作っても、本来八歳まで自室を出れない貴族の子供なら真似する者も居ないだろうけど、リーフェの立場だとそうは行かない。


「でも、プリシラさん? リリアもメリルもリーフェも、手を出したらフェミ相当怒るからね。この建物がプリシラさんごと王都から消えるくらいの事を覚悟してね」

「···············肝に命じておくわ」


 私のお母さんと恋人を味見なんてしたら、マジで切れる。この数日で築いた信頼なんて瓦解するには充分である。


「じゃぁ、ルフィアと顔合わせはリリアが入寮出来たらにしよっか。じゃないとルフィアの側仕えを除外できないんだよ」

「分かりましたわ。それまでは、プリシラさんのお世話になります」

「生活費は稼いで来ますので、よろしくお願いします」

「あら、気を使わなくて良いわよ。あのお店給金はいいからね」


 今日のところは、私が空いている部屋の方にファクトリーでダグラスファイバーを使ってベッドを作り、リーフェと二人がかりで魔法を使い掃除をした。

 リーフェは一人でやると言ったが、時間が無いから黙らせた。


「ご一緒に寝れるのなら、ご褒美も貰えるのですかっ?」

「いや、リーフェも一緒に寝るし、無理だよ?」

「え!? お嬢様、私はソファーで寝ますが?」

「ダメだよ。火の季節入ったとはいえ、まだ寒いんだから。許さないよ」

「お嬢様·········」


 私はリリアとメリルにかまけてリーフェを蔑ろにする気などさらさら無い。何回も言うがリーフェだって大事なお母さんなのだ。今でもフェアリーゼより大事だと断言できる。


「それに、結構音漏れるから、プリシラさんに聞かれちゃうよ?」

「あはは、確かに聞こえるわね。でも気にしなくていいわよ?」

「フェミが気にするからダーメ。て言うかフェミ達まだ子供なんだから、焦らなくて良いんだよ。メリルちゃんだって十歳なんだからさ」


 まぁ私もリリアのお耳ハムハムしたいの我慢するんだから、リリア達も我慢して欲しい。


 渋るリーフェをベッドの真ん中に入れて私が隣に陣取ると、私の隣にメリルが潜ってきてリリアは私の上に乗った。おい。


「リリア、寝れないよ」

「やっと会えたのです。許してくださいませ」


 幸せそうに私の上で覆い被さる様に抱きつくリリアの頭を撫でながら、何とか寝ようとするけど無理だった。一歳しか違わないんだから重いわ!


 しょうがないからリーフェに詰めてもらい、リーフェと私の間にリリアを収めて今度こそ眠りに着いた。なんか体をごそごそされてるけど寝る。寝るんだよ!


「リリア、フェミはとってもいい子なリリアが好きだな?」

「あぅ······、ごめんなさいっ」


 リリアとメリルとリーフェの匂いに包まれながら、珍しく触手魔法をねだらなかったプリシラを不思議に思いつつ意識を彼方に投げ捨てた。



 次の日、早朝の鐘がなる前に起きて準備する。何気に昨日はルフィアのお世話してここに来たから、夕食摂ってないことを思い出すと猛烈にお腹が減った。


 早朝の鐘がなると同時に、まだ寝てるリリア、メリル、プリシラを置いてリーフェに見送られながら貴族区域に出発した。

 途中もう動き始めている屋台で串焼きを買って食べ、クシを魔法で消し炭にして寮に入った。


 朝の鐘で授業が始まるからちょっと急ぐ。

 普段使いの黄色が可愛い抑え目のドレスを引っ張り出して着替えると、リーアを肩に乗せて教室に向かった。


 昨日の留守番が相当暇だったらしく、今日は絶対に連れていけと泣きそうなリーアを置いていけなかった。

 今日は貴族学以外もあるのだし、昨日でギブアップしたリーアを置いていけば多分寂しさで死ぬと思う。


 寮をでて校舎まで歩いていき、同じ進行方向の貴族に挨拶を交わしながら教室にたどり着くと、腕輪で見る時間は朝の鐘の三十分前だった。リーアとの問答が以外と時間を食ったようだ。


 教室の中は昨日の半分ほど貴族が居て、今も少しずつ増えていた。その中にルフィアの姿も見えたので声を掛けた。


「ごきげんよう、シュリルフィア様」

「あぅ、ごきげんよう、フェミリアス様」


 頬を染めるルフィアと今日は前の方に座った。昨日の件で私が後ろだと、皆後ろに座って授業に支障が出ると判断したからだ。

 案の定、私とルフィアが座ると席を移動する貴族も多くて、あっという間に周りが埋まった。なんだよこの肉の壁。


 食堂では上級組がほとんど居なかったから、ここまでだとは思わなかった。どうやら食堂での一件で私の話しが広まった様だ。


「あの、フェミちゃ、フェミリアス様。昨日のお詫びをしたく思い、この様な物をお持ち致しましたの」

「······これは、本?」


 集まった貴族の質問やらが静まった瞬間に、ルフィアが手荷物から一冊の本を取り出した。

 角に細やかな彫金の施された金属の装飾が着いた、革の張装に宝石を少し埋め込んである豪華な本だ。

 タイトルに『魔道具の極地は遠い』なんて書いてある。


「あの、拝見しても?」

「ええ。もちろんですわ」


 受け取って、ページを開くと、まだ見たことの無い新理論や原理構築が細かく書き込まれた、魔道具作りのための本。しかも筆跡に見覚えがあった。


「あの、これもしかして、照明魔道具を作った方の直筆ではありませんか?」

「あら、良くお分かりになりましたわね。元々ゼイゲルドットから中央に引き抜かれた魔道具作家なのですよ。なので実家に何点か、直筆の魔道具書がありますの」


 照明魔道具にも、セキュリティ魔道具にも、食器魔道具にも、そのブラックボックスの端っこにサインがあった。

 アナライズで初めて見れる場所に、この作品は私のだと主張するサイン。崩されて読めないが、まるで刀匠が銘を切るようにひっそりとそれがあったのを私は確認している。


 この本はそのサインと筆跡が似ていたのだ。そして実際彼の残した書物だと。今私のテンションがどうなっているか分かるかな? 有頂天だよ。


「あぁ、あの、わたくしこの喜びを表現できる言葉を存じませんわ。シュリルフィア様に何かお礼をしたいのですけど、何を返せば良いのか思いつきませんの。この本をお借り出来るのなら、わたくし大体の事なら叶えて差し上げられると·········」

「いえ、お貸しするのではありませんわ。差し上げるのです」

「············ぁぁぁぁああああ、シュリルフィア様が女神に見えますわっ」


 これを、くれるって? 私に!?

 あの循環魔道具を作った天才の英智が詰まった神の本を!?


 私は思わずファクトリーを起動して、外箱までエーテルチタンで作ったリティットをポケットにロールアウトしていた。

 ルフィアの深い青に合わせて、白く細かい模様が入ったリティットが入った箱をスカートのポケットから取り出して、ルフィアに差し出した。

 嬉しさのあまり、不自然さなど気にしてられない。


「シュリルフィア様、私から今返せる最大のお礼ですわ。後に量産する物ですから、これで等価だとは思いませんが、せめて今はこれをお受け取りくださいませ」

「あ、あの、この箱は?」

「開けてみて下さいませ」


 まだ先生が来ていない教室で、周りの貴族に見守られながらるが箱を開けると、特に女性貴族から歓声があがる。


「これ、リティット······」

「ええ、名前を付けてあげて下さいませ。箱の蓋にやり方が書いてありますわ」


 指輪をプレゼントする時に使うリングケースの様な箱の蓋を眺めていたルフィアが、困ったように私を見た。


「あの、なんと言う名前が宜しいのでしょう?」

「何でも良いのですよ。どんな名前でも、呼んでいく内にきっと気に入ります」


 ガヤガヤしている周りに囲まれて、嬉しそうなのに困っている器用な表情であわあわしている。


「ちなみに、わたくしのリーアは妹の名前から肖りましたの。妹もリティットにわたくしの名前から、リアスと付けましたのよ」

「·········リアス、······決まりましたわ。ネーミング、フェミルフィア」


 青いリティットが綿の中で目を覚まし、魔力を登録したマスターの肩に羽ばたいて止まる。


 羨ましそうな声が教室中から聞こえる中、私は少し頬を引き攣らせていた。フェミルフィアって、私とルフィアの子供みたいじゃないか。


「初めましてフェミルフィア。わたくしはあなたの主人であり親になる、シュリルフィアですわ」

「ピィ」


 まだ触ってないフェミルフィアの声は、魔道具で音声化出来ないので鳴き声に聞こえる。

 そして私はフェミルフィアの命名で少し冷静になった結果、後でエリプラムに言い訳する必要が出てきた事にやっと気付く。


 まぁ、紙が貴重かつ、国を代表するであろう魔道具作家の直筆本なのだから、これでも返し切れていないと思ってるし、何とかなるか。


「あら、人前で粗相をするお方は挽回するのに必死なのね」


 一際大きく聞こえた高く通る声に振り返ると、席に座らずに私とルフィアの後ろに一人の女の子が腕を組んで仁王立ちしていた。


 赤茶色のボブカットとこの世界だと珍しい髪型をした女の子は、ルフィアを侮る様な顔で見ながら鼻を鳴らす。

 ルフィアは一応大領地一位のゼイゲルドット領主の娘なので、この教室に居る貴族の誰よりも偉いはずなのだけど、誰だこいつ。

 ちなみに、今年貴族学校に入る王族は居なかったと聞いたので、生徒ではマジでシュリルフィアが一番偉い事になる。だからこそ挨拶に来ない程度で私に噛みつき、返り討ちにあった上で調教されてしまったのだから。


『ご主人、この人、ハープレスレイ、領主一族』

「え、なんでリーア知ってるの?」

『リーア暇。周りの話し聞く。覚える』


 地味に有能になっているリーアのおかけで彼女が誰か分かった。ハープレスレイ、大領地第二位に君臨する所の領主一族らしい。


 一年生だと流石にもう居ないかな? 領主一族は。私入れて三人いるもんね。

 そう思っていたら、まだ居たらしい。

 金髪のロングヘアをドリルみたいに巻いている女の子が一人、ハープレスレイの女の子に寄り添う形で出てきた。


「キュリルキア様の言う通りですわね。間近であの様な失態を演じた方に贈り物で誤魔化そうとするなんて、浅ましくてよ?」

『ご主人、この人、イオっちの妹』

「げ、トルザークかよ」


 リーアと私はギリギリ他には聞こえない程度の静音でやり取りをする。ルフィアには聞かれてるかも知れない。


 この二人は結託してルフィアを引きずり下ろす気なんだろう。私としてはルフィアを虐めた時なら参加したり後押ししても良かったけど、今となっては恋人候補だし守ってあげるかな。


「あら? シュリルフィア様が何かなさったのでしょうか? わたくし覚えておりませんわ」

「······な、え? あの、目の前で······」

「誰か、覚えていらっしゃる方は居りますか? わたくしにはなんの事か分からないのです。シュリルフィア様は昨日私と教室の後ろで、楽しくお話しをしていたと思うのですけど?」


 張本人たる私がとぼける。そして私のヤバさを噂で聞いたり、あの場面を見て色々察している貴族は私の敵に回りたく無いはずだ。今ルフィアにリティットを渡した事もあり、ほんの少しでも旨みを得るためには私を敵に回しては行けない。


 当然私に続き白々しくとぼける貴族が続出し、異を唱える者は一人も居なかった。二人を除いて。


「な!? そんなわけっ······!」

「確かにシュリルフィア様は皆の前で粗相をっ······!」

「ですから、なんの事でしょうか? 皆様知らない様ですが、御二方は昨日は別の教室にいらっしゃったのではありませんか?」


 くすくす笑って煽り気味に事実を消し飛ばす。もうこの教室では粗相なんて無かった事になった。

 いやホント私がやったんだけどね、ほら、臨機応変って大事だと思うんだよ。


「·········フェミリアス様っ」

「ふふ、シュリルフィア様はお二人が言っている事に心当たりが御座いまして?」

「いえ、ありませんわ。わたくしに分かるのは、フェミリアス様がお優しく素敵な方だという事と、権力など気にしない大きな方だという事だけですわ」


 最初会った時はつり目気味だったのに、今では若干垂れてきてねって思うくらい優しい顔で、春に咲き誇る花畑みたいな笑顔がそこにあった。


「そろそろ先生が来るみたいですわ。皆様、お席にお付になった方がよろしくてよ?」


 エコーを見ると一人教室に向かってくる大人の反応があるので、皆に着席を促して会話をぶった斬る。もうこれでシュリルフィアの粗相なんて事実は無くなったし、掘り返せない。


「フェミちゃん、ありがと」

「ふふ、フェミのせいだしね」


 二人で肩にリティットを乗せている私達に、教室に入って来た先生がビックリしてた。


 それから先生、名前なんだっけ? 確かレイオラシスだっけ?

 レイオラシスは初めての貴族学として、貴族同士での礼儀作法ややってはいけない事、誤解される事などを中心に話しを展開した。

 黒板は無く、完全に口頭のみで進む授業は木の板や羊皮紙に書いて残す必要があるため、皆真剣に書き留めていた。

 私は先んじてフェアリーゼにスパルタをお願いしていたから殆ど知っている内容だったけど、初めて聞く内容もあるので素直に記録を取ることにした。隣のルフィアも真面目に羊皮紙使って書いてるもんね。


 カタカタカタ。タタタカタカタ。


 授業時間は長く、朝の鐘から昼の鐘までなので六時間もある。もちろん休憩を挟むけど、とてつもなく長く感じる。


 カタカタ、カタカタタタタ、ターン。


 リーアは大人しくして居て、フェミルフィアは興味深そうに周りをキョロキョロしている。生まれたばかりだから学習機能にありったけをぶち込んでいるんだな。私はこの時期にリーアをほっといてしまったのだから、これから人一倍優しくしてあげなきゃね。


 ターン。カタカタタ、カタカタカタターン。


「うおっほん。えー、フェミリアス嬢、一つ聞いてもいいかい?」

「あ、はい。何でしょうレイオラシス先生」

「それは、なんだ······?」


 レイオラシスが『それ』と言うのは、私が授業内容を記録しているパソコン魔道具だ。一応SF産らしく作った。

 五センチ程の長さの、ちょっと太い四角い棒を一メートル程に伸ばすと、空気中のエーテルに投影する形で現れるホログラム機能を使ったディスプレイとキーボードが出現する。

 キーボードには投影したホログラム通りに質量を与えて、ちゃんと押した気になれる感触を作り出した自慢の逸品。ちなみにこの質量を持たせるホログラム機能の骨子を思い付いたのもプリシラの家だ。


「これは、わたくしが作った魔道具で、紙を使わずに文字を綴れる物ですわ。わたくし午後の授業を沢山取ったので、紙を使うと嵩張りますしお金もかかりますので」

「文字を、綴る? どういう事か詳しく聞いても?」


 レイオラシスにパソコンを見せながら、実際に文章を書いてみせる。それをフォルダに分けたりまとめたり、好きなだけ資料を作り好きなように整頓出来る様子を見せると、レイオラシスの表情が段々変わってきた。


「こ、これは同じ物をつくれるかい?」

「作れますが、わたくしの魔力を前提に作っていますので、他の方にも使えるように作り直すのにわたくしの技術が足りないのです」

「む、そうなのか······」

「照明魔道具を作った方にお話を聞ければ、売り出せる物を作れると思うのですが······、名前さえ存じませんの」

「······本当に、話しを聞けば皆に使える物になるのかい?」

「ええ、あの魔道具の魔力効率は信じられません。あれ以上の魔道具など存在しないと思いますわ······」

「それは本人が聞いたら喜ぶだろう。そうか、じゃぁ近い内に皆が使える物になるのを楽しみにしている」

「ふぁ? え、あの、ですから今は作れないのですけど······」

「ん? あぁ、なんだ知らないのか。君たちの学年を担当する魔道具学の講師は、まさにその照明魔道具の作家、ティターニオなんだ」


 ·········は? え、マジで?

 え、神様いんのこの学校!? え、今日会えるの!?


「レイオラシス先生、それは本当なのですか? わたくし、照明魔道具の······、ティターニオ様に会えるのですか?」

「ああ、ティターニオは魔道具に理解の深いものが特に好きなので、きっとフェミリアス嬢は気に入られるだろう」


 どうしよう、叫び出したいくらい嬉しい。この世界に来て唯一孤独な技術者になったと思った時、あの精密な魔道具を見て救われた事もある。


 自分と同じ技術者が、技術で何かを変えようとする人間が他にも居ると思うと力が湧いてきた事もある。同時にその力量を悔しくも思い、勝手にライバルと思っていたし尊敬していた。


 そんな相手が今、ちょっと探せば見つかる程に近く、この後会える予定まであるのだ。ちょっと嬉しくておしっこ漏らしそう。



「わたくし、嬉しすぎて倒れてしまいそうですわ」

『マジかよご主人、男に会う、ご主人喜ぶ、凄いレア。ガチャ爆死』



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