対峙、調教、訪問。
敵だ。そう思った瞬間疑問はどうでも良くなった。
敵には容赦しない。トワイライトスターから貫く私の流儀。
ワイヤーウィップを緊急発動して飛んでいく本に優しく巻き付け、ワイヤーを波打って手元まで戻して本をキャッチした。
ワイヤーウィップのガジェットを素早く消して、目の前の女の子にオリジナルで組んだ魔法を無詠唱かつ威力を絞って撃ち込んだ。
近距離に座標を指定して撃ち込む電撃系麻痺魔法、パラライズ。それの威力を絞って女の子の尊厳を破壊する結果を目指して魔力を操る。
「ぁぅ、ぐぅ······!?」
「あら、どうされたのかしら?」
冷静に、白々しく冷たい声色で、急に呻き始めた女の子に、全身の筋肉を弛緩させるようにパラライズを続けていく。
立っていられずその場にへたりこんだ女の子の、白いドレスのスカートが黄色く濡れて行き、床にも黄色い水たまりが出来ていく。
「ぁ、ぁ、だめ、やぁ······」
「あらあら、我慢していたのですか? 淑女がこの様な場所で。それとも、高貴なお方にとっては皆が使う教室など、小水を零してしまうには丁度良かったのかしら?」
男性と違い、女性は膀胱を抑える筋肉が弱い。パラライズでちょっといじめればこの通り、人前で粗相をさせるなど容易いのだ。
「それも違って、実は人前で粗相をするのがご趣味なのかしら?」
テメェ、リーフェとお母様が買ってくれた私の本をいきなり投げ捨てやがって、許さねぇぞ。
「わたくしには理解出来ませんが、先生もいらっしゃるでしょうし、綺麗にして差し上げますわね」
まだチョロチョロと零している女の子を充分観衆に晒したので、いつもの水と風の魔法で床ごと綺麗にする。
直接は叩くのは不味いが、どっちにしろ社会的に死んだでしょ。ざまぁみろ。
「ぁ、ぁう」
「立てないのですか? お手伝いしますわね」
足がガクガクしている女の子に肩を貸して、無理やり立ち上がらせて耳元で囁く。
「次はもっと酷いよ。今回はこれで許してあげる」
さっきまで強気だった顔が、真っ青になって震えているのは見物だった。
わざわざ隣に座らせて、まだパラライズを続けている。許してあげるとは言ったけど、やめて上げるなんて言ってない。
状況を見ていた奴らは、私の無詠唱に驚いているのか、真っ青になった女の子に驚いているのか、とにかく関わらない様に目線を逸らした。
「ゃぁ、ゆるしっ······」
「あら、どうしたのです? 顔色が優れませんわ?」
「ごめんなさっ、ゃ、ぁ、また出ちゃっ」
机のお陰で周りには見えないけど、女の子のスカートはまたグッショリと濡れ始める。それを見て小声で彼女にだけ聞こえる様に、徹底的に虐める。もう私に喧嘩売ろうなんて思わないように。
「ふふ、また出してしまったの? 人前で粗相をするのは気持ちいいですか?」
「ちがっ、ごめんなさいっ、もう、ぁ、ゆるしっ、てぇ」
「よく聞こえないわ? もっと強く?」
パラライズの出力を少しだけ上げると、女の子の足は震えて、零れる水は椅子から床にぱちゃぱちゃと落ち始めた。
先生が来るのを自動発動のエコーで確認しながら、ギリギリでパラライズを解除して、魔法でまた綺麗にしてあげる。
完全に怖気付いた女の子に、周りには聞こえない様に話しかける。
「まぁ、先生に見られるのは許してあげる」
「ぁぅ、よかった······」
「でも次は無いよ? とりあえず名前教えて」
「シュリルフィア······、クィンタート······」
「領地は」
「············ゼイゲルドット」
「ああ、大領地の一位か。ここに居るって事は領主の娘か上級貴族?」
「······領主の···」
「だから偉そうだったのか。気を付けようね? 権力以外の力なんて山ほど有るんだよ」
先生が教卓について自己紹介をする中、淡々とシュリルフィアに教え込んでいく。
無詠唱で魔法の暗殺して、誰にもバレずにシュリルフィアを消せること。他にも入学の式典で今みたいに粗相をさせてもっと酷い状況に追い込む事も出来るし、今のシュリルフィアと同じ様に弱みを握った他の貴族をシュリルフィアに向けて、貞操を散らさせる事だって出来ると。
一つ一つ丁寧に教えると、どんどん青くなっていく。きっと権力が最強だと思っていて、大領地一位の領主一族と言う、王族以外全てが下と言う立場に絶対の自信を持っていたんだろう。
でもそんなの私には関係無いし、大した効果もない。
「分かった?」
「·········はぃ」
「ん。分かったら良いよ。もう許してあげる」
鞭だけだと、追い詰め続けると駄目なのだ。飴をあげないと。手負いの獣も怖いからね。窮鼠猫を噛むとはよく言うよ。
優しく頭を撫でて、少し微笑んであげる。敵意はとりあえず無いし、もうこの教室ではシュリルフィアは漏らした女の子と言うレッテルを剥がせない。充分叩いた。
この教室の先生はレイオラシスという名前で、低いが優しい声をしている。彫刻にしたら彫りやすそうな綺麗な顔に切り揃えられた白金で、教室の女性貴族がきゃぁきゃぁ言ってる。
肩まで伸びる白金の髪をかきあげる仕草なんて、私と隣以外は例外なくため息を吐いていたくらいだ。
前世みたいに自己紹介など無く、貴族同士社交で繋がりを作るのだろうが、中卒で引き篭もっていたボッチ力舐めんなよこらぁ!
それから魔力測定と魔法実技を見て今日は終わりだと言われ、撤収が終わっただろう闘技場にもう一度行くとレイオラシスに言われる。
みんながチラチラこっちを見ながら闘技場に行くのを待ってから、シュリルフィアを見る。まさか移動教室だとは思ってなかった。
「立てそ?」
「······無理、です···」
聞くや否や、教室に誰も残ってない事を確認してシュリルフィアを抱き上げた。腕の中で体勢を変えさせてお姫様抱っこの完成である。
「よし、行こっか」
「ひゃ、ぇ、なんっ······」
「歩けないでしょ。連れてってあげるから、闘技場までには回復してね」
歩けなくした張本人な訳だけど、私は敵にお仕置きをしただけだ。本来流血沙汰なのを尊厳の破壊で許してあげたんだから優しいと思うよ。
学年毎に領主一族と上級貴族、中級貴族、下級貴族と教室が別れていて、どうやら私達の他の教室も闘技場に行くみたいだ。
せっかく遅れて出たのに、ばっちり目撃されている。
「恥ずかしい?」
「ぁぅ······」
顔を真っ赤にしているシュリルフィアを抱えて闘技場に着くと、ゆっくり降ろして歩けるか確認する。問題無さそうだったのでここでとりあえず別れる。
「じゃぁ、もうフェミに構わないでね。攻撃してこなければ、やり返さないから」
ゆっくり歩くシュリルフィアを置いて、開けられている闘技場の扉を潜って中に入ると、上級組は既に魔力測定を始めていた。
魔力って言うのはご存知、平民も持っているけど貴族の方が量が多く、魔法や魔道具など使うのに不可欠なのだ。魔力の総量はその貴族の一種の格になりえて、下級貴族が魔力総量だけで中級貴族に婿入りを果たした事例もあるらしい。
闘技場の中程には、温度計を思わせる、細長く加工された魔石が打ち付けられた木製の板が三つあり、あれが測定器みたいだ。
立てられた温度計型の測定器の根本にある金属部分に触れると、計測器の真ん中にある魔石が下から徐々に色が変わるのだとか。
これは魔石に魔力を流しているのではなく、接触部に金属を挟んで触らせ、接触者の魔力だけを測るものみたいだ。
色の変わった高さが総量で、変わった色が魔力の濃さらしい。
魔力に濃いとかあるの? 意識した事ない。
「次、名乗れ」
「フェミリアス・アブソリュートですわ」
学校側も記録するらしく、偉そうな試験管みたいな人に名前を確認されて答えた。いや学校で測ってるんだから当たり前か。
とにかく上級組はほとんど終わり、各々が自分の魔力を誇っている中、私とシュリルフィアが残っていた。
上級組が終わらないと中級組と下級組が測定出来ないので、さっさとやってしまう。
丸いボタンの様な金属部にちょんっと中指と人差し指を当てると、測定の魔石が真っ黒に染まった。私の髪かよ。
そのまま魔石が振動していくと、ビギっと音がした後、魔石が砂に変わった。サラサラと、目の前で魔石が上から順に砂化している。
「なっ!? こ、あぁ!?」
「あらあら、壊れてしまいましたわ」
うーん、コネクトコアの機能は無限に魔力を作り出して、私の魔力の貯蔵庫も少し増やすけど、そこまで劇的な総量アップをする訳じゃなく、あくまで使った端から回復する仕様だから、総量を見るだけならセーフかなと思ったんだけど。
どうやら日常的に馬鹿魔力を使って暮らして居たから、総量も上がってて無限に増える魔力に濃度もマックスだったみたい。
放心の先生に、どうしたら良いか聞いたけど、処理しておくから気にしなくていいと。
隣でシュリルフィアがまた青くなってこっち見てるけど、もう何もしないよ。ちゃんと権力以外の力も目の当たりに出来て良かったね?
もう既に闘技場の端で、壁に括られた的に向かって魔法を放つ実技までやっている貴族には今の事件は見られていないけど、シュリルフィアには見られているしあんまり関係無さそうだ。数人こっちを口開けて見てるし。
遅れて来たシュリルフィアと並んで的から五メートルほどの場所に立つけど、どうしよ?
測定器壊しちゃったし的も粉砕したら流石に不味いよね。いや、あれ端に詰んであるの的じゃね?
ああ、そっか。攻撃する的なんだから壊していいのか。なんだ心配要らなかったよ。
私は指を鳴らして魔法を発動。凝縮された熱を的に向かって撃ち出した。座標系も有るんだけど、使うとパラライズの件が周りにバレるから射出系を選んだ。
魔法で生み出された熱の塊が壁に並ぶ的の一つにぶつかると、轟音を鳴らして爆発した。
イメージはロケットパンツァグレネードを貫通せずに表面で爆発するようにした物で、対人殺傷用RPGだ。
「あら、威力は絞ったのに」
私の魔法は予想を裏切り隣の的まで巻き込んで、的が括りつけられた闘技場の壁まで抉る威力を発揮した。殺傷用魔法はダメだったかな。でも見ていた他の貴族は火の槍とか飛ばしてたしなぁ。
自分が狙う的ごと巻き込んで破壊を振り撒いた私にシュリルフィアはとうとう震え始めた。いやそんなつもり無かったんだけど。
周りの貴族も同情してないで助けてあげなよ。そっから恋が生まれるかも知れないぞ。
かくして、私は魔力測定も魔法実技も『測定不能』と前代未聞の結果を残して自室に戻った。
留守番をしていたリーアを連れて食堂に行くと、見たのと無い量の貴族でごった返していた。貴族こんなに居たのかよ。
私が料理を取り、辛うじて空いていた丸テーブルの方にエリアに座る。選んだ料理は鳥の煮込みとサラダだ。
「あ、あの······」
後ろから声を掛けられて振り向くと、少し震えているシュリルフィアが側仕えを連れて立っていた。
何か用事かと話しを聞こうとすると、別の方向からも声を掛けられた。四人ほど。
「あ、あの! わたくしルルイラと申しますの。ご一緒してもよろしくて?」
「わたくしも、是非ご一緒したく思いますわ。名をヒャリルシアと申します」
「私も是非に! ジグライルと言います!」
「フェミリアス様、お久しぶりです。このシェネルートもご一緒に昼食を摂ってもよろしいでしょうか」
シェネルートと初めて会う貴族が挨拶をすると、それを見ていた他の貴族も参戦し始めて五人掛けの丸テーブルはあっという間に囲まれた。待って待って待ってなんだこれ。
『ご主人、人気』
こころ無しかリーアが嬉しそうだけど、私はそれどころじゃない。なんだこれマジで。
皆にまとめて名乗り、席が圧倒的に足りない事を告げると、何人かの側仕えが協力して丸テーブルを運んで近づけ始めた。
いやいやいやマジで何なんだよ。なんでそんなに私とご飯食べたいんだよ。
最初に声を掛けてきたシュリルフィアが狼狽えてて可哀想なので、とりあえず隣を勧めて皆適当に座ってもらった。
右隣にシュリルフィアを座らせて、左はシェネルートになった。他はほとんど知らない。全員一年生みたいだ。
どうやら食堂は学校がある時は学年で使える階層が違うらしい。おかげでエリプラムとかリアバーシアとかリコルシュリアも見当たらない。
集まった貴族には何人か自領の奴も居るみたいだけど、お前ら私に挨拶に来なかったの忘れてねぇからな?
「やっと再開出来ました。実技はやはり見事でした。魔法名すら言わずにアレだけの魔法を紡がれるとは」
「魔力測定も凄まじかったですわ。計測の魔道具が魔石を砂に変えるなんて、聞いたことありませんもの」
「どの様にお勉強をすれば、あの様になれますの?」
「あの、皆様少し落ち着いて下さいませ。わたくしの口は一つなのです。そんなに一度にはお答え出来ませんわ」
どうやら、私の測定と実技を見た貴族が盛り上がっているのがこの現象の理由らしい。
皆にいっぺんに聞かれても私は聖徳太子さんじゃないよ。
隣のシュリルフィアも状況についていけず、奇しくも私の気持ちを分かってくれるのは敵対したシュリルフィアのみと言う皮肉な状況になった。
シュリルフィアはどうやら、私への恐怖の方が大きい見たいで、褒めるという感覚には至らないらしい。ありがてぇ。
シェネルートがエリプラムの様に私に助けられた状況を語ったりして、私の株は爆上がりしている。
「フェミリアス様は魔法が堪能ですのね。やはり魔法学をお取りになるのですか?」
「いえ、私は全学科を取るつもりですわ。補習時間まで使えば可能ですから」
「ぜ、全学科!? 騎士学や魔道具学もお取りに!?」
「ええ、わたくしは元々魔道具を作るのが好きなのです。この子も魔道具なのですよ。ねぇリーア?」
『ん、リーアのターン? 躍る? 歌う? ずっと俺のターンDA?』
小さく私が頷くと、暇そうに肩に乗っていたリーアのワンマンライブがテーブルの上で披露された。声聞いたら分かるけど、リーア前世の曲を歌ってたのね。いつの間に聞いてたのか。
いや、基礎にしたAIにデータが入ってたのか?
「まぁ! なんて可愛いのでしょう!」
「これが魔道具? 普通のリティットでは?」
「普通のリティットに見えるなら、わたくしにとって褒め言葉ですわ。それだけ精巧に作れたということですもの」
歌い終わったリーアに、小さく聞いてみた。
「なんでソレ歌えるの?」
『ご主人、プレーヤー置きっぱ。遊んだの』
あれ? プレーヤーは腕輪の中に入れてなかったっけ? どこかに置いたか? 寮で二、三回使ったけど。
「他には、他にはどんな魔道具がありますの?」
「そうですね、例えばこの様な物がありますわ」
腕輪端末の中にプレーヤーがあるか調べるついでに、トリートメントコーム、略してトリムをポケットの中で取り出して見せる。
「それは、クシですの?」
「ええ、入浴の時に使うと、髪をとても綺麗にしてくれるのです。そうですね、シュリルフィア様、少し失礼しますわ」
隣に座っていたシュリルフィアに断ってから、水の洗浄魔法を左手にキープして髪に触れる。そこをトリムで梳いて行き、満遍なくトリートメントする。
急に髪を弄られ始めたシュリルフィアはビクビク怖がるが、他の女子は羨ましそうにして見ていた。最後に風魔法で仕上げると、シュリルフィアの深い青髪が光が浮く程の艶を見せて靡く。
周りの貴族女子からは歓声が上がるが、鏡が無いシュリルフィアは何が起こっているか分からない。
「誰か手鏡などお持ちでは······、あぁ、シュリルフィア様の側仕えが持っているのですね。ではコチラもどうぞ」
私はエーテルコアが付いた小さな花のヘアピンをロールアウトして、シュリルフィアの髪に付けてあげた。
この世界で髪を飾るといえば髪飾りで、髪を纏めるのは基本的に紐。ヘアピンなど纏めつつ飾れる物を私は見た事が無かったので、試しに作ってみた。
ちなみに、エーテルコアとエーテル伝導率の高いライル鋼を使っているから、いざと言う時には魔法杖になる。
前髪を少し側頭部に持っていく形でヘアピンを付けて、顔が良く見えるようにしてあげた。うん、可愛いじゃん。
その後に側仕えから渡された手鏡で自分を見たシュリルフィアは、目を見開いた後に頬を染めて、出会った時には想像もしなかった微笑みをその顔に作った。
混ざっている男性貴族もその笑顔にドキドキしているのか、少し挙動不審になって空のコップを口に運んでいる者も居た。
『マジかよご主人。なんでご主人すぐ女の子口説いてしまうん?』
リーアが前世のネタぶち込んで来るから一瞬腹筋に来るのを耐えて、指で少し小突いた。
口説いて無いよ! アフターケアだよ!
パラライズで虐めた後に魔力測定と実技を見せたせいで、予想以上に鞭が多めになったのだ。飴を、飴をやらねば。
いいんだよ既にお漏らし女子のレッテルは貼り付けたんだし。
「あの、これ······」
「差し上げますわ。わたくしが作った一点物なので、良ければ大事にしてくださいませ」
私が作ったという事に驚く人も居るが、さっきシェネルートが彫金魔法の話しをしていたので納得する物も多かった。
『だから、ご主人なんでスグ口説いてしまうん? プレゼント、手作り、嬉しい。普通』
あ、確かに私が作ったアピール要らなかった。もっと早く教えてよリーア!
「小さいのに、凄く華やかになりますわね。フェミリアス様は装飾品まで作れるのですか?」
「ふふ、装飾品の形にした魔道具なども作るので、嗜み程度ですが。この首飾りと腕輪と、指輪も自分で作ったのですよ」
「まぁまぁまぁ、そうなのです? とても素敵だと思っていたのです。どちらで買えるのかを聞こうと思ったのですが、売られていないのですね······。とても残念ですわ」
面倒な事になりそうなので、作ってあげるとは言わない。だって絶対この場に居る全員の女の子が殺到するでしょ。無理よ無理。捌けない。
「ふふ、お褒めに預かり光栄ですわ。シュリルフィア様も、お気に召しまして?」
「···あ、え、はい。とても、気に入りましたわ······」
「それは良かったですわ。是非仲良くしてくださいませ」
今言うと少し脅しの意味が入りそうだけど、雰囲気的には問題なさそうなので、敵に回らない言質を一応取っておこう。
そう思って口にすると、赤くなったシュリルフィアは小さく頷くと俯いてしまった。
うーん、やっぱり実技がデカかったのかな。出来れば普段通りに振舞って欲しいんだけどな。
色んな貴族に無詠唱魔法の事を聞かれたけど、そもそも言うほど難しくないのだ。
今は補助システムを使っているけど、私は別にエーテルドレス無しでもある程度無詠唱を使える。エーテルドレス使った方が楽だからなるべくそうしているだけで、魔法の原理を理解すれば練習して使えるようになれる技術だ。
「皆様もご存知の通り、魔法とは自分が起こしたい現象を明確に思い浮かべ、その思念を自分の練った魔力に溶かしこみ、思念が混じった魔力を声に乗せて呪文を紡ぐと、魔力が魔法として構築されて現界する訳ですが、思念を溶かした魔力をしっかり魔法に組めるのであれば、呪文は要らないのですよ。例えば指を鳴らす。例えば腕を振るう。そう言った行動その物に思念を溶かした魔力を乗せて、身振りに魔法としての意味を持たせれば呪文の代替になるのですわ」
私が滔々と語ると、九割方思考停止した顔をしている。シュリルフィアとシェネルートは真面目な顔で聞いているので少し好感度が上がったよ。分からなくても考える事を続けるのはいい事なんだよ。
下手な考え休むに似たりという言葉は、休むより悪いと思ってるけど、休みながら考え続けられる状況なら、考えた分だけ自分の為になる。
「昼食も終わりましたし、出来ればお暇したいのですが······」
シュリルフィアが何か言いたそうだったけど、人の多いところでは言えなさそうなので今は無視。別にそこまで気にかけてあげるつもりも今は無い。
周りに群がっている貴族達にどいてもらい、食事が乗っていたトレーを持って皆に挨拶をして、厨房に繋がる台の上にトレーを置いて自室に向かう。
皆話しに夢中で冷めてしまった食事を急いで掻き込んでいるが、話し掛けられる前に食堂から出る事が出来た。
あー、なんか色々ミスったなー。一回冷静に考えたいから、夜にでもプリシラさん家に泊まりに行こう。
明日から本格的な授業があり、朝の鐘から貴族学の授業があるけど、それまでに教室に居れば良いので泊まりに行くのは問題無い。
なんでプリシラの家なのかと言うと、彼女の痴態を眺めながら考え事をすると何故か捗るの。本当に何でか分からないけど、悩んでた新設計の過負荷削減機構とか、システムの繋ぎ方とか、全部プリシラに触手魔法をぶち込んでいる時に思い付いたのだった。
今すぐ行っても良いんだけど、思考のブースターたるプリシラがまだ仕事だろうし、一人で居るならここでもいいやと。
プリシラの家と違って人が来る可能性があるけど、誰も私をノーマークだったみたいだし、部屋を知らないだろう。
来るとしたらエリプラムとか何だけど、エリプラムなら会うと癒されるし、イオに続き私の素を知ってるから楽に出来るから問題ない。
夕刻の鐘がなるまで、中央区域出店計画を一人で詰めていく。時折リーアに意見を聞いたりして、今足りている事、足りてない事、店に出す商品のラインナップなどをある程度決めていく。
「ハンター向けに高性能魔道具の武器は出すでしょ、パソコンもフェミの奴よりグレード下げた物を出して、リティット出して、あと何かある?」
『ご主人、アクセサリー? 欲しがってた。ご主人、凄く凄い』
「······リーア、たまに片言っぽくなるのと流暢なの、何の差があるの?」
『ネタだと楽。普通だとこんなん』
「なるほど」
『ご主人すぐ女の子口説く。リーアびっくりしてネタ言う。何とかの墓だっけ』
「そうそう。いやリーアが前世のネタ分かるから、なんか凄く気が楽になるよ」
『前世ってのは分からない。リーアの記憶は、どこの?』
「あ、そっか。そうだよね。えーとね、リーアの記憶にある世界ってどんなの?」
『宇宙!』
「そだよね。フェミはそこで気を失ったら、何故かこの世界に居たの。赤ちゃんとして。ファクトリーが何故か使えるから、リーア達を作ったの」
『マジかよ。異世界転生? ご主人、ラノベ主人公?』
「トワイライトスター寄りのデータの癖に、変な情報ばっか入ってるなー」
『ご主人、データって言わないで。リーアかなし』
「あ、ごめん、ごめんね。泣かないで。軽卒だったよ。データだろうが魔道具だろうが、リーアはフェミの大事な家族だよ」
『かぞくー』
「そう。家族だよ。作ったのがフェミだから、フェミお母さんね」
『手のはえー母だよ』
「ぶはっ、やめろ!」
リーアと話していると、夕刻の鐘が間近に迫っていた。
そろそろ夕餉にして、プリシラの家に行こうと思ったら部屋の扉がノックされた。
エコーを見ると一人だけで、側仕えが居ない事からエリプラムだろう。まだ魔力反応を登録して無いけど、側仕え無しでこの部屋に来るのはエリプラムくらいだ。
「はいはーい。居ますよー」
エリプラムが来たなら、プリシラの家行きは中止かなと思いながら扉を開けると、顔を真っ赤にして震えているシュリルフィアが立っていた。
「ふ、フェミリ、アス様······、助けて、下さいっ······」
ちょ、何事よ!?