貴族学校。
プリシラ的な表現があります←
リオン、イオ、リディアット、エリプラムとの朝食を終えて、エリプラムに後でお茶会をしようと誘われて了承した。多分リーアが見たいんだろうし、暫く量産出来そうに無いから存分に見せてあげるよ。
「リーア、ただいまー」
部屋に帰ると、リーアが胸に飛んできてスリスリしてきた。昨日甘やかすと宣言したのが意外と効いているみたいだ。
「よしよし、いい子だね。今までごめんね。フェミも寂しいから、いっぱい構ってあげる」
「ピピピ♪」
ベッドに腰掛けリーアと遊ぶ。指で頭を撫でて、お腹を撫でて、前世であった鳥用の玩具もファクトリーで作ってベッドのヘッドに付けてあげると遊び始めた。
今まで結構自由そうにしてたけど、本当は我慢してたんだろう。今までを埋めるように遊びまくるリーアに精一杯構ってあげる。
「ねぇリーア、フェミのこと好き?」
「ピピッ♪」
「ふふ、今日は頷いてくれるんだね。火の鐘でエリプラム様とお茶会があって、そのまま昼食に中央区域に行くことななってるの。一緒に行こうね」
「ピィー♪」
星型で鈴が入った回転する玩具を、チリチリ鳴らして楽しそうにするリーアを眺めてベッドに横になると、リーアが飛んできてお腹の上に乗った。
「違うよリーア、流石に今からしないよ。横になってるだけ。それともリーアはしたいの?」
「ピィ」
「ふふ、でもだーめ。どうしてもって言うなら夜にね。夜はプリシラさんの所でも行こうか? あの人ならリーアがどれだけイタズラしても大丈夫でしょ。触手魔法を二十時間食らって足りないって言うモンスターだし」
リーアを胸に抱いて頭を撫でてあげると、甘えた声をだしてスリスリしてくる。
ちゃんと愛情を持って接すれば、同じだけ返してくれるのだ。製作者なのに分かってなかった。
腕輪端末の時計を見ると、そろそろ火の鐘がなりそうなのでリーアを連れて部屋を出た。
中庭に行くとエリプラムがお茶会の準備を終えていて、屋外用テーブルの一つを陣取っていた。
そこにはエリプラム以外にも貴族の女の子が二人いて、エリプラムの後ろに控えている。
「ごきげんようエリプラム様。きっと会いたいと思って、リーアもお連れいたしましたわ」
「まぁまぁまぁまぁ♡ フェミリアス様もリーアちゃんも、よくおいでくださいました」
まずエリプラムに挨拶をして、エリプラムから他の子を紹介されるまで待つ。
「フェミリアス様、こちらはヒュリオースの上級貴族のリアバーシアと、下級貴族のリコルシュリアですわ。リコルシュリアはシェネルートの姉なのです」
「エリプラム様にご紹介されました、リアバーシア・ロンダヌートです。お見知りおきください」
リアバーシアは紫のロングヘアを揺らして、スカートを摘んで挨拶をした。顔は常に自分に自信があると言った顔付きをしていて、強気な印象を受けた。
「同じくご紹介に預かりました、リコルシュリア・セプトーズですわ。弟が大変お世話になったとお聞きしております。お会いできて光栄ですわ」
リコルシュリアは逆に自信が足りない様な下がり眉に垂れた一重、目元の小さいホクロが印象的だった。その位置のホクロってなんか人気あるよね。髪は確かに家族なのだろう、シェネルートとよく似たオレンジ色をしたウェーブヘアを腰まで伸ばしていた。
「わたくしはフェミリアス・アブソリュートと申します。ヒュリオースより下位領地の者ですが、是非仲良くして下さいませ。こちらは私のお友達、リーアです」
「ピピピィ♪」
挨拶を交わしお茶会が始まると、会話もそこそこにリーアがワンマンライブを披露した。
エリプラムは待ってましたと言わんばかりにはしゃぎ、リアバーシアとリコルシュリアは目を見開いてリーアを見た。
前回とは違うバージョンを準備しているとか、リーアお前エンターテイナーだね。
「はぁぁぁあ·········♡ なんて可愛らしいのでしょうか」
「お話しは聞いていましたが、本当に見事ですわね。これが魔道具······」
「素敵なリティットですわ。シェネルートとエリプラム様が絶賛されていたのも頷けます」
言われなくてもエリプラムの肩に飛んでいき、サービスも忘れない。本当にエンターテイナーだな。
それからまた私の大立ち回りがエリプラムから語られ、なんであんなに強いのか聞かれたり、一緒にいたイオとの関係も色々聞かれた。
どうやら三人ともイオのファンらしい。まぁカッコイイもんね。気さくだし気が利くし、私もトキめいたもん。
「イオ様はお兄様と同室なので、その時に顔合わせしただけなのですよ。一緒に中央区域に居たのは、お兄様と恋人の方をお部屋で二人きりにして差し上げるために、わたくしとイオ様が一緒に部屋を出たからなのです。そこでわざわざ別行動になるのも、失礼に当りますでしょう?」
「お兄様がイオシュマイア様と同室なんて、フェミリアス様が羨ましいですわ」
「わたくしもイオシュマイア様と、中央区域で逢瀬なんて······。きゃっ······」
イオっつぁん大人気だね。
「わたくしが戦えるのは、いざと言う時に領民を守る立場である領主の娘だからですわ。責任と権力を持つ者は、後ろで怯えていてはいけないと思うのです」
「······まぁ、シェネルートが言う通り、お歳に見合わない素敵なお方ですのね。シェネルートはフェミリアス様にお世話になってから、毎日フェミリアス様のお話しをしているのですよ。このお茶会にもフェミリアス様が来ると聞いて、自分が男である事を悔しがっていましたわ」
「ふふ、いつかちゃんとお話しをする機会を持ちましょう。ですので男性である事を誇って下さいとお伝えくださいませ」
お茶会が進み、時折リーアが歌を披露したりしてエリプラムを楽しませた。
エリプラムはリーアが出会った中で、一番好意を明確に見せてくれるから気に入っているみたいだ。
お昼の鐘が鳴り、お茶会が終わりこのまま中央区域へ行く話になったところで、リアバーシアとリコルシュリアは用事があると別れた。リコルシュリアはシェネルートに、このお茶会の話しを持っていき昼食を一緒に取るそうで、リアバーシアは学友と昼食の約束をしているのだと。
「では参りましょうか。エリプラム様は護衛を付けないみたいですので、わたくしが代わりになりましょう」
男性の代わりにエスコートしようと腕を出すと、リーアがお前またっ···って顔をした。どう言う意味よ?
「······あの、よろしくお願いいたしますね」
頬を染めたエリプラムを連れて寮を抜けると、止めっぱなしだったビークルの前に三人の貴族が居た。年齢的にリオンやイオと同じ卒業する貴族男性だろう。
「あの、わたくしの魔道具がお邪魔でしたか?」
「ん? あぁいや、イオシュマイア様に聞いた魔道具とはこれの事かと思ってな。そなたの物なのか?」
「はい。わたくしがイオ様をこのビークルに乗せて走った本人で御座います。残念ながら今日はコチラが先約ですので、お乗せする事はできないのですが」
どうやら、イオにビークルを自慢されたらしい。馬車より早く爽快で、なんとも言えない楽しさがある素晴らしい魔道具に乗せてもらったと。
乗れなくても、是非動くところが見たいと言うので、入口の前でエリプラムを載せる前に、貴族達を乗せてあげて軽く走った。
「おおおおおお!? これは、確かに楽しいぞ!?」
「ふふ、お気に召して頂けたようで光栄ですわ」
三人ともそこそその速度で走ってあげて満足させると、まだ名乗って無かったとお礼と共に名乗ってきた。
大領地の上級貴族だが、私が領主一族だと知ると慌てて態度を改めた。
「これは、領主一族だとは知らずに······」
「ご無礼をお許し頂きたい」
「ふふ、お気になさらないでくださいませ」
「いえいえ、先約が有ると断っているのに、無理に乗せてまで頂いたのです。どうかご容赦を」
平謝りする貴族を宥めて、今度こそエリプラムを乗せて走り始めた。
ちなみにエリプラムは私に合わせて側仕えを置いてきている。
昨日の騒動の時にも側仕えが居たらしいが、殴り飛ばされて私から見えなくなっていたらしい。そこに私が現れてならず者をほぼ皆殺し、最初の一人は半殺しだったけど連行されている。その光景を見ているので、私が居るなら問題無いと快く送り出してくれた。
まぁ、そこらの騎士より強いからね。私は。
お決まりのピンクのお店に入り、いつも通りテルイにオンザライスで注文した。今日はロコモコ丼風。
エリプラムはパンケーキみたいな物を注文してた。トゥイットと言うらしい。
「フェミリアス様は、全部の学科を受けるというのは本気なのですか?」
「ええ、そのつもりですわ」
「······あの、それは可能なのですか?」
午前中に貴族学を全員が学び、昼食の後に授業のコマが二回あり、最大で貴族学含めて三学科が限界とされている。
しかも三学科受ける貴族すら希で、四学科受けるという私は異端中の異端だろう。
でも、ハンターをする時に騎士資格や兵士業をしてると、飛び級試験を受けられるので騎士学は受けたいし、魔道具学は言うまでもない。魔法学はより多くの魔法を補助システムに記録するために行きたいので、全科目行くことにしたのだ。
「一応可能なのですよ。昼食の後に二学科受けたあと、補修時間がありますので、その時に三学科目に参加して課題を受ければいいのです」
フェアリーゼやリリカフェイトに聞いていた貴族学校の内容を聞いて決めていた。
昼食の後水の鐘から一コマ目が始まり、夕刻の鐘で二コマ目が始まり夜の鐘で終わる。そしてその後に僅かだけど各学科で補修の時間があるのだ。
その時間を使って受けていない三学科目を受ければ、貴族学と合わせて四学科制覇は可能なのである。
「あの、フェミリアス様は既にお強く、魔道具も作れて、魔法も堪能で、領主一族としても立派ですが、いったいそんなに学んで何を目指しているのですか?」
「··················そう言われると、わたくしは何を目指すのでしょうね? わたくしも分かりませんわ。ただ、やりたい事を全て選んだらこうなったのです」
そう言や私はどこに行くんだ? どこを目指すの? イオの嫁も良いかなと思ったのは数時間だし、今は内緒の恋人二人も出来たし、守っていかなくてはいけないし、いやそれなら力を付けるのは間違ってない。うん。
「きっと、あらゆる知識を力に変えて、いつか大切な人を守りたいだけなのです」
「···············フェミリアス様は本当に、なぜに男性では無いのでしょうか······、守られたいですわ······」
エリプラムが何か小さく呟いたけど聞こえなかった。
「わたくし、大事な妹や側仕え、仲良くなった平民の友人など、守りたい人が多いのです」
「お一人で全てを守らなくてもいいのではありませんか?」
「違うのです。わたくしが守りたいのですわ」
当然リーアも守るよ。そう小さく呟いて肩にのるリーアをくすぐった。キュイキュイ鳴いて喜ぶリーアだけど、そんな鳴き声も出来たのね?
それから食事を終えてお店を出ると、予定が無くなってしまった。これからどうしよう? 夜にプリシラの家に行くとして、まだ水の鐘も鳴っていない。
「あの、フェミリアス様。ひとつ、よろしいですか?」
「なんでしょう?」
「フェミリアス様は、その、喋り方など、無理をしていませんか?」
「············なぜ、そう思いますの?」
イオには明確な理由があったけど、エリプラムには親から流れてくる私の情報など無いはずだ。どこで気付いた?
「昨日、わたくしを助けて頂いた時に、その、とても勇ましかったので」
忘れてた。目の前でブチかましてたよ私の馬鹿。どこで気付いた? じゃないわ!
「······不快でしたか?」
「違うのです。もし無理をなされているなら······。いえ、わたくしと一緒に居る時は、普段通りのフェミリアス様を拝見したいと思いましたの。邪推でしたら謝罪しますわ」
「······んー。参ったなぁ。ぽろぽろバレるよ。イオ様にもバレちゃったし」
私は頭を掻いて貴族の仮面を脱いだ。その様子に目を見張るエリプラムは、すぐに微笑んだ。
「それがフェミリアス様なのですね?」
「うん。フェミはコッチが普段かな。ね、リーア?」
「ピピッ」
「ふふ、そちらも素敵ですわ」
「不敬じゃない? 怒られたくは無いんだよ。エリプラム様は上位領地の領主一族で、かつ歳上だし」
「まさか、わたくしからお願いしたのですよ?」
ビークルに乗って軽く流し、これからどうするか話してみる。エリプラムも今日は特に予定も無いので、それなら中央区域で暇を潰そうと言うことになった。
イオに髪飾りを買って貰ったお店でエリプラムにブローチを買ってあげたり、花屋を見たり、冒険者が武器を買うお店を冷やかしたりした。
最後のは特に、絶対買っていかない客の上に貴族の令嬢と言うことで、お店の人もどう扱っていいかわからない様子だったけど、私は武器のデザインの参考になったし、エリプラムも普段見ないお店で楽しそうだった。
そのまま時間が過ぎてエリプラムを寮に送り届けた。
エリプラムとまた今日のように中央区域を巡ろうと約束をして自分の部屋にもどり、革袋に着替えを荷物を詰め込んでプリシラの家に遊びに行った。
夕刻の鐘がなった後にプリシラが帰ってくるまで家の前で待って、歩いて来たプリシラは私を見ると喜んで迎えてくれた。
夕食をプリシラに作ってもらった後に、プリシラが触手魔法をねだるのでベッドで使ってあげた。
本当に気に入ったんだね。魔道具なんとか作ってあげようかな······。
そんなプリシラを眺めながら、学校で使う予定の魔道具などをファクトリーで設計していると、リーアがプリシラに飛んでいって触手魔法と協力してプリシラをいじめ始めた。
聞こえるプリシラの悦びの声が激しくなっていくのを聞きながら、紙が貴重なこの世界で、学校で学ぶ事を記録するために携帯出来るパソコンを作ったり、リーアや他のリティットの声から感情プロトコルを解析して正確に会話をする為の魔道具も作った。
リーアは顔芸が達者だけど、正確に会話出来るならそれが一番良いよね。商品化するにあたって諜報などに使われないよう発言出来ないようにしてあるけど、私が聞くぶんには問題無い。
腕輪端末はまだほとんど魔道具が入ってないので、こう言う必需品になりそうな魔道具は入れておく。
今はちょっと女性を悦ばせているから声を聞くのは躊躇われるが、後でお話ししてみるのもいい。
触手魔法を解除するか聞くと、このままにして欲しいとお願いされた。明日は仕事じゃないのか聞くと、休みだから思いっきりと言われた。ほほう、じゃぁ死ねい。
出来る限りの持続と威力増強をした後にリーアを回収した。
指輪型の魔道具を指につけ、リーアに触れて魔道具を起動すると、リーアの声が聞こえた。
『これなにー?』
「ふふ、聞こえる聞こえる。リーアの声が聞こえる魔道具だよ」
『え、マジかよ。ご主人と、お喋りできる?』
「出来てるよ。ふふ、そんな喋り方なんだね」
『うわー! 話せたー! うれしー!』
翼をバタバタして喜んでいるリーアとセリフが一致しているので、どうやら上手く作動している様だ。
「改めて、あんまり構ってあげれなくてごめんね?」
『だいじょぶ! ご主人のお股、遊ぶの楽しい』
「·········そんなに楽しい?」
『うん! ご主人、ビクビクするの、楽しい。していーい?』
「あそこで凄いことになってる人ならいいよ? いま横でフェミまで始めると、色々奪われそうだから」
『じゃぁ。我慢する。ご主人撫でて?』
「ふふ、うん。いい子だねリーア。大好きだよ」
『りーあも、ご主人、好きー!』
なんだろう、何言ってるか分かるだけで、可愛さとかが倍増するんだけど。
ちなみにこの魔道具は指輪の装着者にしか声を届けないので、リーアが爆弾発言とかしても私にしか聞こえない。
『ご主人、あの人、凄いよ?』
「ね、なんであれ耐えられるんだろ。股間が鋼鉄か何かで出来てんじゃね」
『柔らかかった、よ?』
「ぶはっ、うん、そうだろうね」
『ぷりしら、凄い嬉しそう。汁凄い』
「脱水で死なないかな。水分補給する調整もしておこうか。口からこう、うわ、余計大変なことになったけど、嬉しそうだからいいよね?」
プリシラの生命維持を組み込んで、魔力を追加でぶち込んでリーアと一緒に寝た。リーアふかふか。
たっぷり寝て起きると、プリシラは流石に虚ろな目をしていたけどまだ悦んでいた。本当に底無しかよ。
「プリシラさん。大丈夫? 解除する?」
「ぁ、ぁ、だめぇ、もっとぉ」
「んー、今日一日中続けてみる?」
「ぅん、する、ぁんずっとしたぃ」
「マジかー。ご飯要らない? 何か買ってくる? 腸詰とか買ってきてさ、口に詰め込んだらそれっぽくない?」
「それっ、それが、ぁ、いい、ふぇみちゃ、してぇ」
リーアと一緒に買い物に行き、私の朝食と昼食分の食料と、茹でた腸詰を買って帰宅して、プリシラの口に入れてあげた。
プリシラの横でファクトリーを弄りながら、計画している物を片っ端から設計を勧めていく。
わざわざここでやるのは、寮だと誰かが来る可能性があるからだ。プリシラの家なら来るのはリュイッカくらいだろう。
「満足した?」
「やぁ······、もっとぉ」
「もう夜だし、プリシラさん無理したら死んじゃうよ?」
「やだぁ、もっと欲しいのぉ」
夕刻の鐘がなって暫く、魔法を一度解除してプリシラを介抱する。本当に幸せそうな顔をしているけど、ご飯くらい食べないと持たないと思う。
目がハートになってて、何回もせがんでくるプリシラにご飯食べたら、帰る前にもう一回使ってあげると言うと、ご飯を作り始めた。裸で。おいおい。
それから二人でご飯を食べた後、朝二時くらいまで持続する魔法を使ってあげる前に、プリシラから合鍵を渡された。次から家に勝手に入ってて言いそうだ。
「じゃ、ちゃんと寝てね」
持続は朝二時まで、出力最大で魔法を置いて合鍵のカードを扉に当てて鍵を閉めた。
『それ鍵?』
「うん。いつでもおいでってさ」
『マジかよ。しょくしゅー、欲しいだけじゃね?』
「まぁ、それ差し引いても気に入られてると思うよ。帰ろっか」
リーアを風防の裏に置いて走り出して寮に帰った。
そんな日を繰り返し、準備万端で火の季節、一の火月一日を迎えた。
それまでに自領の貴族に挨拶の一つでもされると思ったけど、一切そんな事は無く、どうやらガノドライグからみみっちい圧力がかかってる臭い。リオンには挨拶があったらしいし。
スケジュール的にリオン達の見送りは出来なかったが、前日にイオが連座回避した事を確認してたので安心して送り出した。
どうやら馬鹿貴族は腹違いらしく、その母親の血筋が連座になるらしい。良かった良かった。
リオン達の出発の時間に、私は校舎の中にある騎士訓練場で入学の式典に居た。
屋内にあると言うのにコロシアムを思わせる円形の騎士訓練場、通称闘技場には、十二の領地と中央の貴族でそれぞれ列が別れていて、その列も学年毎に一列になり、領主一族の私が一年生の先頭で、後ろも横も知らない貴族だらけである。むしろ他領の貴族の方が、イオやエリプラムのお陰で知り合いが多い。
一領地六列の人の束が計十三並ぶ前に、煌びやかな台が置かれてその上に、なんとランド国の国王様が喋っている。
逆立った金色寄りの白金の髪の毛に、厳つい顔。全体的に金の装飾が多く、赤いマントを身に付けた間違いなく王様スタイル。
ランド王国の貴族としてーとか、誇りをーとかそれっぽい演説を聞き、眠くなりそうなのを必死で堪えて式典を終えた。先頭に居るからガクッとなるだけで完全アウトなのだ。
それから、火の鐘がなるまで軽く自由時間で、学年と階級毎に別れた教室で先生と顔合わせらしい。
私は一度寮に戻って荷物から本を取り出し、速攻で教室に行って適当な席に座って読書に耽った。
教室は日本の大学を思わせる長机が段々になっている感じの広いもので、私は一番後ろを陣取った。
この本は、リーフェとフェアリーゼが私にくれた上級魔法書で、フェアリーゼはともかくリーフェは自分の給金から出して買ってくれた、とても大事な本である。
この世界には別の国で植物紙があるらしいのだが、ランド王国にはまだほとんど流通して無い。なので本とは物凄く貴重な物で、安くても十万リヴァルはするのだ。この本は魔法の本という事で貴族御用達、八十万リヴァルだったそうな。
色々な魔法の構築の仕方や、高度な構築分解書で原理を説明していたり、物凄いわかり易くて読みやすい。二人の母が私にくれた宝物である。
「もし、そこのアナタ」
そんな宝物を読んでいる私に、誰かが話し掛けてきた。知らない声だ。本を開いたまま机に置き顔を上げると、やっぱり知らない顔があった。エリプラムより濃い青い髪で目を吊り上げ、きつい感じの女の子だ。
もう火の鐘が近いのか、教室には既に結構な人数が居て、そのほとんどが私の方を見て成り行きをニヤニヤと見守っていた。
「ごきげんよう。何か御用かしら?」
「·········ふざけないで頂ける?」
初対面でもにこやかに挨拶をしたのに、何故怒られたのか。
「このわたくしが教室に入ったのですよ。なぜ挨拶に来ないのですか?」
「·········はぁ?」
あ、やばい仮面を脱いじゃった。
あんまり訳わかんない事を言われて一瞬脳の処理キャパを超えてしまったからだ。なんだこいつ。
「どこのどなたか存じませんが、見ての通り周りが見えないほど没頭していたもので。フェミリアス・アブソリュートと申しますわ」
「そんな事聞いていませんわ。何を勝手に挨拶をしているの?」
いやお前が挨拶しろって言ったんじゃんか。本当に何なんだコイツ。もしかして王族か?
「わたくしが許した発言は、何故挨拶に来なかったのかだけですわ」
「でしたら、申し上げた通り本を読んでいましたので」
「·········馬鹿にしないでっ!」
隣に立っていたその女の子は、こともあろうに私の宝物を急に取り上げて投げ捨てた。