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天才メリルちゃん。



 言ってしまいました。遂に告げてしまいましたわ。

 ずっと、お姉様に抱き締められた五歳の日から、ずっと胸の中で育っていたリリアの気持ちを。


 最初は、優しくて、綺麗で、リリアを心から大事にしてくれる素敵な素敵なお姉様の存在が心から嬉しくて、支えにしていました。


 その心が少し形を変えたのは、たぶん初めて一緒にお風呂に入った時だと思います。お姉様にリリアのお耳を口に咥えられて、全身がビクッとしてしまった時から、少しづつリリアの気持ちが変わってしまったのだと思います。


 その夜に同じベッドの中で、お姉様に甘えました。お姉様が少し前に言っていた、イケナイ事と言う言葉に、形を変えたリリアの心が反応してしまったのです。出会った時からお姉様になら、何をされても良いと思っては居ましたが、ベッドの中でお姉様の匂いを嗅ぐと、頭がぼうっとして、何をされてもいい、では無く、されたい、に気持ちが変わっていたのです。


 甘えるリリアのお願いを聞いてくれたお姉様にお耳を委ねると、初めて味わう感覚に体が付いていけず、意識を失うまで優しく優しくリリアを抱き締めてくださいました。


 その時はまだリリアも気付いて居ませんでしたし、まさかお姉様に恋をしているなんて思いもしませんでした。

 お姉様にただ甘えたい。妹として普通の事。そうお姉様に言われて、そうなのだと。


 お姉様が八歳になるまで、何回も甘えて、ベッドの中でお耳を食べられながら、体の中にもっと欲しいと疼く気持ちを、我慢する事なくお姉様に委ねていたリリアは、お姉様が離れていくと言う事が受け入れられませんでした。


 リリアは悪い子なのです。お姉様はリリアのために考え、与え、笑ってくれるのに、リリアはリリアの事しか考えて居ませんでした。


 貴族学校に行くお姉様は、またリリアの為に準備をしていてくれて、リアスを置いていってくれました。更にリリアが耐えられない時の為に、リアスには遠くの人とお話しが出来るコールと言う魔法を付けられていて、こんなに大事にされているのだと改めて思い知らされました。そして自分の事しか考えていて居なかった自分に失望しました。


 その日から、リリアの中のお姉様が自分でも抑えられないくらい大きくなりました。


 お勉強の合間に読める読み物語や、メイドの小話を聞いた私はこれが恋だと分かりました。お姉様にリリアの全てを捧げたくて、お姉様との子供が欲しくて、お姉様と一緒に居たくて。


 お姉様に初めてコールをした時は嬉しくて、何も考えられなくて、リーフェさんに怒られる中でお姉様にご迷惑を掛けてしまいました。

 その日に後で来たコールで、リリアはお友達が出来ました。そしてお友達にもお姉様はリティットを渡して、リリアが寂しくないようにお話し出来るようにしてくださいました。


 リリアのためにまた一つ、お姉様が残してくれる事に、リリアの気持ちもまた大きくなりました。


 お友達に夜、コールを毎日する様になり、リリアの気持ちを相談したり、ご褒美のお話しで盛り上がったりしました。


 最初はお姉様のご褒美を貰ったことにヤキモチを妬いてしまいましたが、話しを聞いているうちにメリルさんの人柄に惹かれてしまい、ただのお姉様大好き仲間になっていました。


 メリルさんに、お姉様が恋しくて体が疼く時に気持ちを治める方法を教えてもらい、次の日にコールをやめて実際にしてみる事にしました。


 教えられた通りにすると、全身がビリっとして、声が出なくなってしまいました。

 胸がドキドキして気持ちが膨れていく中、リアスがコールの鳴き声を出しました。震える声で確認すると、コールはリーアからだと分かり気持ちが抑えられなくなりました。


 お姉様のコールを受けているのに、手が止まってくれないのです。恥ずかしい声と音を聞かれて居るのに、嬉しくて、もっとお姉様にリリアを晒してしまいたくて、もっと手が動いてしまうのです。


 お姉様はそんなリリアにも優しくて、もう気持ちがリリアには抑えられなくて、想いを告げてしまいました。


 姉妹なのに、女性同士で家族なのに、恋をするなんておかしい事は分かっています。でも我慢出来なかったのです。この気持ちを隠したまま、次にお姉様のお顔を見る時に平気で居られる訳がありません。


 怖くて、拒絶されたらきっと悲しみで死んでしまうと思うリリアに、お姉様は驚きながら受け入れてくださいました。


「恋人、なる?」


 その言葉を聞いた時は、受け入れて貰えたのに胸が裂けて死んでしまうかと思う程に嬉しくて、夢ならこのまま死んで、夢の中で眠っていたいと願いました。


 でも夢じゃなくて、リリアは周り内緒ですがお姉様の恋人になれました。嬉しくて、嬉しくて、人に話して回りたいのに内緒にしなければいけなくて、幸せを一人で抱えられなくておかしくなりそうです。


 コールが終わったあとに、体が熱くなり過ぎて、もう一回お姉様を想って手を動かしてしまいました。


「ふぇぇえ、素敵だねぇ。さすがフェミちゃん」


 次の日の夜、相談に乗ってくれていたメリルさんにお話しをしました。メリルさんはリリアと一緒に恋人になるので、話しても大丈夫な唯一のお相手です。


「メリルさんも、お姉様の恋人になるのですよね?」

「······いいのかな? 私、平民だし」

「お姉様は、メリルさんも良いよと言っていましたよ。お父様に確認して欲しいと」

「ほんと? 嬉しいなぁ。お父さんね、フェミちゃんなら良いぞ!って言ってたから、フェミちゃんの従者になってリリアちゃんと一緒に可愛がってもらうね」

「うふふ、ご褒美もくれると言ってましたよ」

「え、え、それって、大人になったらの?」

「はい。お姉様に聞きました。恋人なら良いかなっておっしゃいました」

「ほんとー!? わぁ、えへへー。フェミちゃん大好きー」


 ああ、幸せを分かち合えるのはとてもいい事ですね。早くお姉様に会いたいです。恋人になったのに、傍に居られないなんて、幸せなのに不幸です。


「ねね、そう言えばさ、なんでリリアちゃんはフェミちゃんに会えないの?」

「お姉様が中央にいらっしゃるからですよ? リリアはトライアスですから」

「ん? なんでそれで会えないの?」

「貴族は八歳まで、自分の部屋から出てはいけないのです。だから八歳になってしまわれたお姉様とは八歳になるまで会えないのですわ」


 そう、リリアは領地から出れないのです。許されるならお姉様に今すぐ会いに行きますのに。


「んー? でもさ、リリアちゃんとフェミちゃん、もうお部屋から出てるんでしょ? お父さんもフェミちゃんがやっつけるから、リリアちゃんが中央の王都に行くのを、誰が止めるの? 行こうと思えば行けるんじゃないの?」


 ······。

 ············。

 ··················。


「メリルさんもしかして天才なのですか!?」

「ふぇ!? え、なに、どうしたの?」


 そうです。なぜ気付かなかったのでしょうか。

 お母様もフェアリーゼ様も、今ではリリアが外に行くのを当然と受け入れて下さいますし、お父様はお姉様の事が怖くて何も言ってこなくなりました。

 この状況なら、リリアが中央に行くのも可能なのでは?


「め、メリルさんの言う通り、もしかしたら行けるかもしれません!」

「ほ、ほんと? わぁ! 良かったねリリアちゃん!」

「メリルさんのお陰ですわ。言われなかったら、きっとお姉様の休暇まで泣きながら待っていましたもの」

「うん、私もリリアちゃんが泣くの嫌だから、笑ってて欲しいな」


 お友達と言うのは、とてもいいものです。お姉様にはどれだけ感謝しても足りません。この身、この一生をお姉様に捧げなくてはいけませんね。


「メリルさんも、一緒に行きませんか?」

「ふぇぇえ!? いいの? 邪魔じゃない?」

「うふふ、お姉様には二人一緒に可愛がってくださいませと、お願いしてあります」

「わぁ、あの、じゃぁ明日お父さんに話してみるね! リリアちゃんにも会えるの嬉しいよー! わーい!」


 メリルさんはお姉様だけじゃなく、リリアに会えることも喜んでくれます。心が暖かくなり、この素敵なお友達をずっと大事にしようと心に誓います。


 メリルさんとお話しして、計画を立てていきます。一番大事なのは仲間集め。リリアなんて特に、一人で中央まで旅ができる訳が無いのですから、大事なことです。


「でも、当てはあるので大丈夫ですわ。飛びっきりの人が居るのです」

「そうなの? じゃぁ、あとは準備だけだね」


 リリアはリーフェさんに話すつもりです。ドレイクには止められるでしょうが、リリアはリーフェさんなら大丈夫だと確信しています。


 本当はリリアと同じくらいお姉様が大好きで、お姉様に付いて貴族学校に行きたかったのに、リリアを心配するお姉様の為に断腸の思いで残った事をリリアは知っています。

 リリアが寂しくて泣き出す中、リーフェさんも寂しそうにしてたのを見た時は、自分だけ気持ちを外に出している罪悪感でもっと涙が出てきたのです。


 そんなリーフェさんにこの話しをして、リリア達を止められる人は居ないと説得出来れば、有能なリーフェさんはあっという間に外堀を埋めて来てくれるに違いありません。


 それに、ハンターをしていたリーフェさんなら旅にも慣れているでしょうから、そちらの準備も頼りになりますし、リリアとリーフェさんが揃った時にリリア達を倒せるのは、それこそお姉様くらいなので旅の危険もほとんど無いのです。


「なるほどね! とにかくリーフェさんが凄いんだね!」

「ええ、さすがお姉様の側仕えですわ。ドレイクも優秀ですが、また違った意味で凄いのです。やはり女性同士だと助かる事も沢山あるのです」


 途中でメリルさんも親御様からお預かりして、一緒に中央に行くと決めてコールアウトして、逸る気持ちを宥めながら眠りに付きます。


「······なるほど、確かに言われればそうですね。メリル様の言う通り、行こうと思えばいくらでも行けます」

「どうでしょう。リーフェさんもお姉様の元に行きたいのですよね? リリアも一緒に居れば、お姉様とのお約束を破る事にはなりません」

「·········ふふ、私が断らないのを分かっている顔ですね。後はお任せ下さい。今日中に全ての準備を終えます。改めて今日の夜にでも、メリル様のご予定をご確認くださいませ」


 予想以上にリーフェさんは協力的で、あっという間にリリアが中央に行く手配を終わらせてしまいました。

 もともと優秀な方ですが、お姉様の事になるとその能力は跳ね上がりますね。そう言うと、人の事言えないと笑われてしまいました。


 メリルさんに改めて確認して、中央行きが決まり、メリルさんも一緒に来れる事になりました。

 メリルさんは正式にトライアス領地に奉公に行くという形で、ご家族にもメリルさんの給金の何割かが支払われる事になりました。恋人の事も、貴族のお妾だとしても、女性同士ならそう悪い事にならないので、従者としてならメリルさんの名前に傷は着ず、お姉様は間違ってもメリルに酷い仕打ちはしないという事で許可が出たみたいです。


 ただ周りには徹底的に内緒にすると約束させられたそうで、それだけで両親に認められるメリルさんが羨ましく思いました。


 リリアは誰にも言ってない事と、リーフェさんもその事は知らない旨を改めて伝えて、迎えに伺う時に変な事にならない配慮をしたら準備万端です。


 それから邪魔が入る前にささっと馬車にのり、あっという間に旅が始まりました。

 街をいくつも経由して、三日も時間を使ってやっとリオライラの城下街にたどり着きました。ここにメリルさんがいらっしゃるのですね。


 肩に乗る大人しいリアスからコールしてメリルさん合流すると、余りの可愛らしさにびっくりしてしまいます。


 お姉様に貰ったと言う桃色のワンピースに、素敵なリボンの髪飾り。ワンピースによく合うふわふわした長い桃色の髪は優しい雰囲気をメリルさんに与えていて、そのお顔はどこかリーフェさんに似ています。


 コールで待ち合わせに指定された中央広場の初代領主像の足元に居るメリルさんの周りには、顔を赤くしてメリルさんに夢中な男の子が何人もいらっしゃいました。


「お友達に会うから、今日は遊べないの」

「お姫様に会うんだったか? できる訳無いじゃんか。それより俺らと森に行こうぜ!」

「邪魔しないでってば。······あ、あー! もしかして、リリアちゃん!?」


 男の子達を押し退けて、私とリーフェさんの元に走ってきたメリルさんは、お姉様のようにリリアに抱きつきました。十歳だと伺っていたのに、立派過ぎるお胸がふわふわしててびっくりです。


「メリルさん、よく分かりましたね?」

「だって、フェミちゃんに見せてもらった通りなんだもん! すっごく可愛くて綺麗で、きゃー! リリアちゃんに会えたよー!」


 本当に嬉しそうにされて、リリアも嬉しくなってしまいます。メリルさんはこう言う、人を楽しくする不思議な魅力があるのです。


「め、メリル、誰だよそれ」

「リリアちゃんだよ! トライアスのお姫様だから、失礼な事したら大変なんだよ」

「ほ、本当に友達だったのかよ! 嘘じゃ無かったのか!?」

「ふん。私を嘘つきだと思ってる人達なんて知らない! リリアちゃんと、リーフェさんだよね? お父さん達も待ってるから、案内するね!」


 男の子達を放ってリリア達を案内してくれるメリルさんの後ろに付いていき、少し歩きづらい小道を通ってメリルさんのお家に着きました。


 平民の方のお家は、その、とても趣きのある建物なのですね。


「お父さん! お母さん! リリアちゃんが来たよ! 本当にすっごい可愛いの! 早く来て!」

「ほんとうに来てくれたのかい? あのお嬢様の妹様なら、きっと優しい人なんだろうねぇ」

「おう! 今行くぞ」


 お家に入っていったメリルさんが連れてきたのは、赤く短い髪をした三十歳くらいの男性と、同じ歳ほどに見える灰色の髪をした女性でした。


 リーフェさんがメリルさんのお父様に対応して、挨拶と今後の話し、お金の話しも進めている間に、リリアとメリルさんは、お母様とコソコソと内緒のお話です。


「本当に、うちの子を貰ってくれるんだねぇ」

「はい。お姉様ならきっと幸せにしてくださいますわ」

「うん。フェミちゃんは私の知ってる誰より優しくて綺麗で、リリアちゃんの話だととっても強いんだってさ。お父さんも強いんなら、きっと守ってくれるって」

「あの、女の子同士だけど、大丈夫なのかい?」

「逆に、よろしかったのですか? 大切な娘様を、女性に託すことは」

「悩んだんだけどねぇ。お貴族様ならそう言う事もあるのかと、分からないことだったしねぇ。旦那がお姉さんを気に入っているし、男にやるより女の子に託す方が安心出来るなんて言うんだよ。私は孫が見たかったんだけどねぇ」

「大丈夫だよお母さん。フェミちゃんはピッピだって作れる凄い人なんだから、きっと何でも出来るよ。私の赤ちゃんもきっと見せてあげるね」


 話しを終えて、メリルさんを預かって中央広場に待たせていた馬車に乗り込みます。

 初めて馬車に乗ると喜ぶメリルさんに、リーフェさんがこれからの事を説明します。


「メリル様は今から、私の部下となりますのでメリルと呼びます。来年のリリアライト様入学に合わせて、リリアライト様の側仕えになるべく厳しく教えて行きますので、覚悟をしておいてくださいませ。一年間はどこかで宿を取り、昼の間はメリルにリリアライト様をお任せして実技を磨いてもらいます。その間私は一時ハンターになり、生活のお金を稼いできます。夕方からは私が付いて指導して、次の日にまた実技で練習と繰り返します。夜の鐘が鳴ったら自由時間にしますので、リリアライト様のご友人と言う立場に戻られて大丈夫です。何やら秘め事もある様なので、私は席を外しますから」


 あら、あらあらあら? リーフェさんにはどうやらバレている見たいです。何故なのでしょう?


「エルフは耳が良いのです。リリアライト様が夜な夜な自分を慰めてらっしゃる事も知っていますし、お嬢様に想いを告げられた事も知っています」

「はぅ、うぅぅぅ······」

「うわぁ、これは恥ずかしいね。あれ、でもリーフェさんが席を外すって······?」

「お二人が揃ったら、私が止めてもきっとお嬢様と肌を重ねる練習になると思いますので、最初から見なかったことにさせて頂きます」

「ふにゅぅぅぅ······」

「あは、あははは······。恥ずかしい······」


 そんなつもり無かったのですが、言われてみればリーフェさんの言う通りの事になると思いました。

 お姉様のご褒美のお話で盛り上がってしまったら、そのうちそうなってしまうと。お姉様に会えれば二人一緒に可愛がって頂けるなら、そう言うお話しになったら、練習してしまうかもしれません。


 メリルさんと一緒にリリアは顔を真っ赤にしてしまい、リーフェさんの顔が見れません。全部、全部聞かれて居たなんて。


 お姉様に聞かれながら、手が止まらなかった事も、その後もう一回なんて喜んでしまったことも、全部。


「にゅぅぅ······。リリアはもうお嫁にいけません······」

「お嬢様が貰ってくれるのでは?」

「はっ! そうですわ。リリアはお姉様に貰って頂けるのです!」

「······リーフェさんも、フェミちゃんのお嫁さんにならないんですか? リリアちゃんには、リーフェさんもフェミちゃんが大好きで大好きで仕方ないって聞きました」


 リーフェさんの言葉から、早速言葉遣いを直そうとしているメリルさんの努力に驚きながら、リーフェさんも満足そうな顔をして答えるのを聞きます。


「それはとても心躍る提案ですが、私はお嬢様の側仕えなのです。側仕えで居たいのです。私を母と呼んでくれたお嬢様の成長を、ただ眺めているこの立ち位置が望ましいのですよ」

「ふぇぇえ、カッコイイ······」


 その決意に似たリーフェさんの心の内に、お姉様がリーフェさんにカッコイイ魔道具を贈り、リリアには可愛らしい物だった違いを見せ付けられた思いです。お姉様は良く人を見ているのですね。


 さらに二日かけてやっと王都につく頃には、メリルさんは言葉遣いが見違えていました。努力家なのがよく分かります。

 それに伴って、リリアの事をお嬢様と呼ぶようになって、リリアもメリルさんをメリルと呼ぶようになりました。ちょっと寂しいです。


 側仕えは貴族がなるものだから、平民がなろうと思ったら並大抵の努力では足りないとリーフェさんが口を酸っぱく教えていましたが、メリルの努力は絶対に足りています。リリアは断言します。


「さて、夕方の鐘がなりそうですし、夕食を取りましょうか。この時間だと宿と食事処を押さえるのも難しそうですから、メリルはリリアライト様と一緒に夕食を摂ってきてください。その間に私が一人で宿を探して回ります。給仕の練習ですよ」

「はい! リーフェさん!」


 別行動になりましたが、リリアもリーフェさんもお姉様に貰った賢者の石と黄昏の首飾りがあるので、護衛は不要です。


 「お嬢様、ここに致しましょう。まだテーブルが空いています」

「では、ここにしましょうか」


 メリルと一緒に入ったのは白く清潔感のあるお店で、利用者の様子を見ると、どうやら受付の女性に料理を注文してテーブルに座り、運ばれてくるの待つみたいです。

 テーブルに座っててと言うメリルに、せっかくだから一緒に行きましょうと受付に行きます。


 栗色の綺麗な髪をした女性の前で、後ろに書いてある料理名を見ますが、よく分かりません。聞いた事の無いものばかりです。


「あの、初めて来たのですが、どのような料理なのか分からないのです」

「·········あの、もし間違っていたらごめんなさい。リリア様ですか?」

「······え、あの、え?」


 栗色の女性に名前を呼ばれ、驚いて言葉が出てこなくなります。なぜリリアの名前を知っているのでしょうか?

 メリルも困惑していて、注文どころじゃ無くなってしまいました。


「あはは、ごめんなさいね。フェミちゃんに姿を見せてもらった事があるのよ。そんなに怯えないで? あなたに何かしたら私がフェミちゃんに怒られるもの」


 なんと、この女性はお姉様のお知り合いみたいです。

 少しお話しをして、料理が分からないならオススメを出すから座って待ってるように言われてテーブルを確保しました。


「フェミちゃんのお知り合いなんだね。びっくりしたよ」

「そうですね。お姉様のお知り合いの······、ん?」


 何か記憶に引っ掛かりましたが、何でしょう。すごく、すごく嫉妬してしまうような、何かがリリアの記憶にある筈です。

 驚いて言葉遣いが戻っているメリルと席に座り、うーんと頭を悩ませていると、夕刻の鐘がなりました。


 暫くすると盆に料理を載せた栗色の髪の女性がやってきて、テーブルに座りました。お店で働く時間が夕刻の鐘で終わりなので、一緒に夕食を食べようと言うのです。


 もちろんお姉様のお話しが聞きたいので、断る訳がありません。でも、何かもやもやします。なんでしょう?


「初めまして。私はプリシラと言うの。フェミちゃんには仲良くして貰ってるわ」

「ぷり、ぷりし·········、あー!」


 お姉様に聞いた、お姉様を食べた女の人です!リリアだってお姉様の味はまだ知らないのに、先に食べてしまった人です!


「お、お嬢様、どうしました? あの、リリアちゃん?」

「メリル、この人はお姉様のご褒美を独り占めする人ですわ!」

「ふぇえ!? そんなのずるい!」

「えーと? 何のことかしら?」


 とぼけてもダメです! お姉様の大事な所に初めて口を付けた、羨まし······、悪い人なのです! リリアは怒っています!


「お姉様が嫌がるのに、無理やり、その、食べたって聞きましたわ!」

「あら、待って待って、なんで知ってるのかしら?」

「お姉様はリリア達のお姉様なのですわ! 盗らないでくださいませ!」

「そうだよー! フェミちゃん盗らないで!」

「·········待って、なんか凄い悪い事した気になってきたわ」


 当然です。悪い事なのです。リリアからお姉様を奪ってはいけないのです。リリアライト・プリンセスで暴れてしまいます。


「あの、フェミちゃんは確かに、その、食べちゃったけど」

「その話しを詳しく聞いても宜しいですか?」


 瞬間、辺りが凍えるような冷たい声が聞こえました。気が付くと、プリシラさんの後ろに絶対的な怒りを含んだ笑顔のリーフェさんがいらっしゃいます。

 笑顔のまま相手を睨む、淑女の嗜みです。


「ひ、あの、どちら様でしょう······?」

「私はフェミリアスお嬢様の側仕え、リーフェリアルと申します。お嬢様がこの世に産まれたその時からお仕えし、その成長をずっと見守り、奥様からもお嬢様からも、母代わりと認められて居る者です」

「あ、あわわわわ、あの、その」

「嫌がるお嬢様に、何をしたのか。いや、この場でお嬢様のその様な話しをするべきではありませんね。食事が終わりましたら、お時間を頂きたく思います」

「ぁぁう、フェミちゃん助けてぇ······」


 食べながら話せる範囲で話して貰うと、どうやらお姉様は良くプリシラさんのお家に泊まりに行くようです。羨ましいです。


 食事を終えて、プリシラさんの家に行くことになりました。王都に来るまでに使った馬車には帰りのお金を渡し、荷物を降ろしてから領地に送り返して、プリシラさんのお家にお邪魔しました。


 それからみんなで話しを聞くと、最初はお姉様が宿を探している時に家に泊めて、その時にお姉様を、お姉様の大事な所にお口を付けたのだと。


「むぅぅ! ずるいです! お姉様は美味しかったのですか!?」

「ずるいよー! フェミちゃんは私とリリアちゃんの大事な人なんだよー!」

「あ、あの、うん。美味しか······、ひっ」

「····································」


 ただ無言で溢れる魔力を抑えているリーフェさんにプリシラさんが怯えて、リリアもメリルも怒っています。美味しかったのですか。


「あの、でも私より、危険な人いるわよ? フェミちゃんが貴族学校の寮に入れた日に、金髪のすごくカッコイイ貴族の男の人と楽しそうに逢瀬を······」

「「「詳しくっ!」」」


 お姉様が入寮した日、つまりリリアがお姉様の恋人になった日の昼間ですわね。その日にお姉様が殿方と逢瀬を······?


「そう言えば、お姉様はその日、すごく疲れたと······」

「あら? それはつまり?」

「······そんなっ······!?」

「そ、そんな筈ありませんわ! お姉様はまだ初めてだと言っていましたもの! 何も無かったはずですわ!」


 その日の夜に約束したのです。お姉様の初めてはリリアにくれると。既に手放していたらそんな約束しません。


「あ、そう言えば、その同じ日に中央広場で何か、貴族同士の諍いがあったって聞いたわね。それかしら?」


 憶測だけで話し合っていると、夜の鐘がなった後しばらくして突然入口の扉が開く音がしました。そして足音がして、誰かが入って来ました。



「プリシラさーん。火の日だけどまた遊びに来たよー。ちょっと相談したい事があるんだ······け、ど·········。え、リリア? メリルちゃん? リーフェ? はぁ!? なんでここに居るの!? え、ここトライアス!? フェミいつの間にか里帰りした!?」


 部屋に入ってきたのは、大好きな大好きな愛おしい最愛のお姉様でした。



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