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ファクトリー起動。

貴族学校の在学年数を五年から六年に変更しました。




 目を開けると、そこには見慣れたパソコンがある筈なのに、見知らぬ天井があった。


 ·········は?


 見慣れた薄暗い自分の部屋ではなく、やけに綺麗な白い天井に、少し控え目ではあるが豪華な小型シャンデリアが付いている。


 いや、どこよここ。


 見知らぬ天井が、と言えば病院が定番だとは思うけども、シャンデリアがある病院なんて私は知らない。


 周りを確認しようと思うのだけど、体が動かせない。


 妙な違和感が有るけど、拘束されている感覚も無いのに、何故か体が動かせない。

 自分の状況だけでも確認しようと、唯一動かせる四肢から右腕を選択して、目の前に持ってくる。


 ············な、はぁ!?


 手がちっちゃい。手がちっちゃいよ。

 本当に自分の手なのか確認するために、自分の意思の元動かしてみると、ムニムニ動く。

 このちぎりパンみたいな手は間違いなく赤ちゃんのパーツだ。


「あうー」


 声を出そうとしても、己の喉から出るのはそんな可愛らしい声だった。


 ······えっと? 私、赤ちゃんになってんの?


 いや、考えるのは辞めよう。

 変態技師たる私は、少ない情報で推測を進めることを嫌う。

 下手な考え休むに似たりとは言うが、私は休むより悪いと思っている。


 まずは情報。いま私はどこに居て、何が出来るのか。


「あぅあー」


 まずは人を呼ぶ。

 当たり前だけど、赤ちゃんは一人じゃ生きていけない。

 ならば近くに母親や世話を焼く人間が確実にそばに居る。


「あーぅーうーあー!」


 今私に出来る最大声量でベイビーボイスを上げる。

 首は一応動くんだけど、今私が寝てるベビーベッドと思われる物が柵タイプじゃなくて箱タイプなので周りが全然見えない。

 そもそも枕がふかふか過ぎて、今出来る最大可動範囲に首を傾けても枕が邪魔で先が見えずらい。


「あうー!」


 誰でも良いからさっさと来い!

なんか凄まじくお腹減ってきたし、空腹なだけなのに耐え難い悲しみが押し寄せて来るんだよ!

 赤ちゃんが空腹で泣くのって悲しいからなのか、と今どうでも良い情報を得てしまったよ!


 意地でも泣きたくないので必死で声を上げると、扉が開く音がしてパタパタと足音がする。


「お嬢様ー? どうされましたかー?」


 箱タイプのベビーベッドをのぞき込んで来たのは、若いメイドだった。


「あうー」


 さらさらの銀髪が後ろで纏められていて、ドアノブの様なキャップを被り、紺色の服にエプロンをした女性の慈しむ様な微笑みに心が暖かくなる。

 私より若いかな?


「どうしたのでしょう? お腹が空きましたか?」


 いえす! その通り!

 あと何か情報を寄越しな!


「ふふ、じゃぁ少し失礼しますね」


 そう言って私を抱き上げるメイドさんは、近くにあった椅子に腰を下ろし、私を抱えたままエプロンを器用に外す。


 ん? あれ、もしかしてこの人乳母も兼任してるの? て言うかその歳で乳出るの?


 エプロンを外し、タイも外しボタンも外して前を開けたメイドさんの立派な胸に体が勝手に反応する。


 我慢出来ないと言わんばかりにメイドさんの乳房に吸い付いて、あむあむと口を動かす。


 なんかゴメンね! この歳で可愛い女の子のおっぱいに吸い付くとは思ってなかったよ!


 味は良く分からないけど、母乳らしきものは吸い出せているし、空腹も消えたから取り敢えずいいや。


 次は情報だ。


 お腹いっぱいになるまで吸い続け、周りを見渡す。


 あ? どういう事よ?


 視線を必死に動かすけど、景色がぼやけててよく見えない。

 色合いもハッキリせず、ほんのり色が付いているだけのモノトーンみたいな。


 そう言えば赤ちゃんって、成長しながら目が見える様になるんだっけ?

 いや、でもメイドさんの顔はハッキリ見えたし、シャンデリアもちゃんと見えた。

 どういう事だってばよ?


「ふふ、もうお腹いっぱいですか? ではお休みになりましょう?」


 あ、待て待て待て、まだ情報が欲しい。


「あうあー、だーぅー」


 何とか元気アピールをして、ベッドインを回避する。

 柵タイプなら良いんだけど、箱タイプだから景色が見えないんだよ。


「あらあら、いつもはお腹いっぱいになるとすぐ寝てしまうのに、今日は元気なんですね?」


 心底楽しそうに、私を抱えたまま椅子に座り直すメイドさんを良く観察する。

 今ハッキリと見える物体がシャンデリアとこのメイドさんだけなのだから、この子から情報を得られないと話が進まない。

 手で服を引っ張ったり、髪を触ったり、メイドさんの手を舐めたりしながらとにかく情報を集める。


 歳は多分二十くらい、銀髪で目も銀色。

 抱えられた状態からだと身長は良く分からないけど、見える限りの体格からは長身では無いと思われる。ついでに巨乳。

 顔は少し日本人ぽくない。きっかり特徴を半分ずつ取り入れたロシア人とのハーフって感じで、端的に言って可愛い。


 私、こんな可愛い女の子のおっぱいを味わったのか。ふふふ、なんか得した気分だわ。


「あう?」


 若干楽しくなってきて、銀髪のメイドさんをあちこち触ったり揉んだりしていると、メイドキャップの中に違和感があった。


 耳が、尖ってる?


「あら、気になりますか?」


 そう言ってメイドさんがキャップを少しズラして見せてくれたのは、紛れもない『エルフ耳』だった。


あ、はい。


 一番欲しかった情報が手に入ってしまった私は、急に大人しくなってしまった。

 右手でメイドさんのおっぱいをモミモミする以外は活動停止、使える神経とカロリーは脳味噌に回す。


「ふふふ、今度こそオネムですね?」


 ベッドに寝かされるまで、ぎりぎりまでメイドさんのおっぱいを右手で堪能しつつ、手に入った情報を元に現状を理解する。


 ここ、いわゆる異世界ってやつだ。


 私の頭を優しく撫でた後、メイドさんは部屋を出ていった。


 頭を回せ。情報を組み立てろ。組み立てるのが私の仕事だろ。


 目を閉じて、いままで組み立てた兵器を思い出しながら自分の得意分野に状況を引っ張りこむ。


「あう!」


 カッと目を開くと、そこには愛するゲームにそっくりの画面が浮いている。

 半透明で存在が希薄なディスプレイには、慣れ親しんだトワイライトスターの技師機能『ファクトリー』が表示されて居る。


「あう?」


 いや、まだ赤ちゃんのままだ。

 現実に帰ったわけでも夢が覚めたわけでもない

 異世界に居るまま、トワイライトスターのファクトリー画面が目の前にある。


 いや待ってよ。さっきの人がエルフだと仮定してさ、ファンタジー世界でガチSFのゲームウィンドウを持ってきて、どうしろって言うのよ。


 半眼になりながらも、画面を触って操作出来ることを確認する。


 完全に知っているファクトリー画面では無いものの、ほぼそのままな事も確認して、いつもの癖でファクトリーシステムを起動しようとして、失敗した。


「う?」


 え、なんでファクトリー起動出来ないの? え? エラーメッセージ? コネクトコア消失? は?


『コネクトコア』


 それはトワイライトスターを始めるにあたって、操作する主人公が例外なく体内に取り入れる結晶。

オープニングムービーが主人公のFPS視点で始まり、ゲームのシステム等を説明しながら進むムービーの最後、自身に与えられた宇宙船の中で角砂糖くらいの大きさの菱形結晶を口から飲み込むのだ。

 その菱形結晶がコネクトと呼ばれ、トワイライトスター内の全宇宙に漂うエーテルと呼ばれる素子をエネルギーに変換したり、エーテルを利用している兵器や乗り物にアクセスする為のキーであり、身分証でもある。


 つまり、その身分証かつエーテルで構築されたシステムにアクセスする為のコネクトコアが無くなった為に、私はファクトリーのメインシステムを起動出来ないらしい。


 ファクトリー画面を操作して、使えるシステムを探すと『アナライズ』と『クラフト』の二つだけは使える事が判明した。


 アナライズ、つまり解析機能はゲーム中、初めて見かけたモンスターやアイテムを調べるための物であり、ゲームの初めにまだコネクトコアを飲み込んで居ない時点でも、オープニングムービー中にアイテムの説明等に使われていたため、コネクトコア無しでも使える仕様見たいだ。

 そしてクラフト、いわゆる作成機能は、コネクトコアや簡単なエーテルナイフやエーテルハンドガン等を作る為のツールであり、コネクトコアを作る為にコネクトコアが必要だとオープニングムービー中に詰むから使える仕様なのだと思う。


「う!」


 クラフトを起動して、コネクトコアを選ぶが必要素材が足りないと表示される。

 足りない素材は、純エーテル鉱石と呼ばれる物で、ゲーム内では入手不可能な設定だけ存在するアイテムの一つだった。


 ざっけんなゴラー!


 詰んだじゃん! オープニングムービーが無い現実で純エーテル鉱石とか無理だろバカー!


 純エーテル鉱石以外のアイテムは山ほど残ってる。

 どうやら、私のゲームアカウントと未だ連動している様で、自動作成と自動仕入れで在庫が常に変動している。

 在庫の総数を見るには、やはりファクトリーのメインシステムを起動する必要がありそうだ。


 気を取り直して、アナライズを起動してシャンデリアを調べる。

 ゲーム内独自の言語と日本語の二重表示された説明文を読み進めて、唯一ハッキリと視認できるシャンデリアの秘密を解析した。


『エーテル照明。エーテルを独自の方法で利用している照明器具。主材料はライル鋼鉄と純エーテル鉱石』


 純エーテル鉱石あったよぉ!?


 え、ゲーム内でも存在しない架空の鉱石が目の前にあるんだけど? どうなってるのコレ?


 いや、今はそれどころじゃない。

 どうにかしてアレを、恐らく光ってる部分に使われている順エーテル鉱石ゲットしなければ。


 クラフトでエーテルハンドガンを作るか?

 赤ちゃんの手で撃てないから、軽く設計を変えてリサイズ······。


 だめだ! 設計機能はファクトリーじゃないと使えない······!


 やっぱり詰んでいる!


 色々悩んだけど、脳を使いすぎて疲れたからか、そこで私の意識は途切れた。




 それから二年。まだ純エーテル鉱石は入手出来ていない。

 しかし情報はかなり手に入れたので、気持ちは落ち着いた。

 まず、あのエルフメイドさん以外の人間はハッキリと見えなかった。

 ついでに言うと何言ってるかも分からなかった。

 なぜエルフメイドさんの言葉が理解出来て、さらにエルフメイドさんだけ視認できたのか、その理由はエーテルだった。


 この世界には魔法があって、魔法を使うためのエネルギーである魔力、マナと呼ばれる物がどうやらエーテルと同じ物だという事が判明した。

 つまり、シャンデリアに使われているのは私からすると純エーテル鉱石なのだが、この世界の人から言うと『魔石』と呼ばれる物なのだとか。


 そして、私はそのマナを見る能力に優れている為、マナを発する人や物はハッキリ視認できて、それ以外は年相応にぼやけて見えた様だ。

 エルフメイドさんの言葉が理解出来た原因も、彼女がエルフと言う種族のため、常に周りに発しているエーテル、つまりマナをファクトリーシステムのアナライズ機能が自動で言語変換してくれているらしい。


 そのため、エルフメイドさん以外の人の顔と言葉は最近までよく分からなかった。


 本人がエーテルを発していなくても、空気中にはエーテルが満ちているため、こっちで手動解析する事で他の人間の言語も理解が進み、今では喋れる様になった。


 寝返り、ハイハイ、つかまり歩き、一人歩きを日数を考えながらもささっと終らせ、いつも見に来てくれているエルフメイドと、珍しく来た親がいる時に拙い言葉を喋って見せた。


 だがたまに来る親よりも、いつも世話をしてくれていたエルフメイドさんの方が何倍も愛着があるから、一番最初に名前を呼んで上げたのはもちろん彼女だ。


「りーふぇー」


 まだ声帯も育ちきって居ないのか、声が出しずらいし舌も上手く動かせないけど、短い単語くらいなら問題ない。


「お、お嬢様·········!」


 親を無視してエルフメイド、リーフェリアルの足元までヨチヨチ歩いて、スカートの上から足に抱き着いて名前を口にした。

 彼女は驚いたあとに表情が崩れて泣き出した。

 主人の前での失態に謝りながらも、涙が止まらないリーフェに抱きついたまま、父親と母親にも呼びかけた。


「ぱーぱ、まーま?」


 最初に名前を呼ばれたのがメイドなのが若干気に食わないながらも笑顔を見せる父親と、リーフェ程では無いにしろ涙を見せる母親は、煌びやかな格好をした貴族だった。


 まぁ、メイドが子供の世話をしている時点て察しては居たけどね?


 私は現在三歳らしく、腹違いで二歳になる妹が一人、九歳になる兄が一人の三人兄弟らしい。

 集めた情報だと、どうやら父親は領主らしく、国全体で見れば中間だが、この領地内ではトップの権力者だった。


 そして、私の情報だ。

 私の名前はフェミリアスと言うらしい。

 髪と目は黒く、光の加減で色合いが少し変わる濡羽色の髪が腰まで伸びている。


 中身は二十八から三年たしてアラサー超えてしまったけど、実年齢三歳の超絶詐欺娘がここに爆誕。


 領主を継ぐのは一応兄と決まっているらしいが、どうにも兄がポンコツ過ぎて怖いので、お前も頑張ってくれと父親にしみじみ言われたのが印象に残った


 見た目は、うん。かなり可愛い幼女だと思う。

 児ポ法が解除された瞬間ハイエースされる事請け合いな超絶美幼女だと思う。

 可愛いと色々お得だと前世、前の世界で聞いてはいたので、美人でも何でも無かったアラサーは今世でイージーモードを生きてみるよ。うん。


「ねー、りーふぇー、ふぇみね、ませきほしいの」


 喋る事にも慣れてきたある日、遂にリーフェに魔石をねだってみた。

 魔石さえ、魔石さえ手に入れられればコネクトコアが作れるのだ。


「魔石、ですか? えーと、どのような理由でしょうか?」


 体内に取り込むから! なんて言えないし、綺麗だからと言えば、適当な宝石でお茶を濁される可能性もある為、理由は慎重に選ばないと行けない。

 既に親から、兄がダメだった場合に期待される程には優秀な子供を演じているので、そこに少し付加価値を付ける形で攻めようと思う。


「あのね、ふぇみね、まりょくがみえるの。だからね、りーふぇみたいに、まほうつかいになりたいの」


 シャンデリアから見える魔力や、リーフェ自身から漂う魔力が感じられると、言葉足らずに説明をすると、リーフェは信じられないと目を見開いた。


「お嬢様は、マナが見えるのですか? 我々エルフでもマナを見ることは出来ないのに」


 実際に、最近は集中すれば見える様になっている。

 普段は感じる程度だけども、目を凝らすことで霧のようなエーテルの残滓を見る事ができる。

 その証拠に、リーフェに教えられていない普通の道具に見える魔道具を言い当て、さらにリーフェを驚かせた。


「お、お嬢様! これは凄い才能ですよ!」


 魔法に長けるエルフは自分の事の様に喜び、すぐに父親に掛け合ってくると部屋を出ていった。


 すぐに戻って来そうに無いため、赤ちゃんの時からずっと居る部屋に準備された机に向かい、文字の練習をする『フリを』する。


 この世界の、少なくともこの国の言語は、トワイライトスターで使われている文字に酷似していて、既にある程度読めるのである。

 細かい異差はあるにせよ、解析を使いながら読み進めればあっと言う間に会得出来た。


「旦那様、コチラです」

「慌てるなリーフェリアル」


 しばらくして、リーフェが父親、ガノドライグ領主を連れてきた。


「フェミリアス、魔力が見えると言うのは本当か?」


 部屋に入ってすぐに、ガノドライグが近くまで来て、目線を合わせるようにしゃがんだ。

 椅子に座ったまま体をそちらに向けて、大きく頷いてみせると、ガノドライグは怪訝な顔で眉を上げる。


「ふむ? 嘘を付いている風でも無いな」


 そうは言うがお前、私の嘘を見抜けるほど一緒に居ないだろうが。

 リーフェが判断したならお前の判断は要らねぇよ。


「えーとね、ぱぱの、こことここ、あとそこからまりょくがみえるよ」


 しかし正直な気持ちは言わずに、護身用に仕込んでいるであろう魔道具の在り処を服の上から看破して見せる。


「·········っ!? ほ、本当に見えるのか?」


 事実、今のはアナライズは使わないで、肉眼のみで看破した。


「あのねぱぱ。ふぇみね、みんなのためにもっとおべんきょうしたいの」


 そう言って、テーブルにあった先程まで見ていた本をガノドライグに見せる。

 内容は、魔石と魔力の関係と利用方法、魔法の基礎等が書かれている兄用の教本だ。


「もうこんな物を読んでいるのか!?」


 むしろもっと難易度高いの持ってこいや。

 この世界のマナ、エーテルの利用方法は斬新で結構楽しい。

 インスピレーション刺激され過ぎて、ファクトリー使えない現状に咽び泣きそうな程なのだから。


「だからね、ませきほしいの。だめ?」


 幼女だからこそ使える伝家の宝刀、上目遣いをガノドライグにぶち込む。


 すぐにリーフェに魔石を持ってくる様に指示が出て、その間に本当に教本を理解して読んでいるのかを聞かれるので思うままに披露した。


「それでね、このまながこうなってね······」

「······ほう? そうすると、ここはどうなのだ?」

「そっちは、こっちのまなが······」


 そうして時間を潰していると、リーフェが念願の飴玉くらいの大きさの魔石を持ってやって来た。

 内心ガッツポーズどころじゃない。踊り出しそうな程の歓喜を身の内に隠してそれをお礼と共に受け取って解析する。間違いなく純エーテル鉱石と表示されている。


 さっそくコネクトコアを作りたいのだが、二人が私を見たまま動かない。


「どーしたの?」

「ん、いや何、フェミリアスが魔石をどう使うのかが気になってな」

「えーとね、じゃぁすこしだけ、ぱぱもりーふぇもめをつむってて?」


 対策は考えていたけど、流石に目の前だとどうしようもない。

 コネクトコアは最後口から飲み込まないと行けないのだから、絶対に止められる上に取り上げられる。

 後でやろうと思っても、勉強の時だけ魔石を貸すとか、それ以外は取り上げられるとかだと非常に不味いので、今やってしまいたい。

 なので、子供らしく理由も告げずに、サプライズしたがる風を装い目を閉じてもらう。


 しっかり目を閉じているのをアナライズを使いながら確認しつつ、半透明なクラフト画面でコネクトコアをタップして、手に持った魔石をコネクトコアに作り替える。


 良かった。ちゃんと使えた。


 アナライズが現実に使える時点で、クラフトも疑ってはいなかったが、ともあれ一安心だ。


 一息ついたあと、すぐさまコネクトコアを飲み込んだ。


 んんんんぐ!?


 飲み込んだ瞬間、体がコネクトコアを取り込もうと急に発熱する。

 予想以上の苦痛にうめき声が漏れそうになるが、目の前の二人に感づかれては行けない。

 すぐにファクトリーのメインシステムを起動して、コネクトコアとリンクさせる。

 そのままファクトリーの設計図欄から、エーテル結晶を使って作る『エーテルコア』を選んでそのまま作り上げて、目の前にロールアウトする。


 良かった、こっちも正常に使えた。


 選んだエーテルコアは、先ほど渡された魔石とほぼ同じサイズかつ同じ形の物で、コネクトコアとリンクしたり、小型のナイフや銃の核に使う部品だ。


 予め調べた結果、この世界ではエーテルコアはかなり有用なアイテムになると分かったので、貰った魔石と差し替えようと計画したのだ。

 まさか、目の前でやる事になるとは思わなかったけどね。


 熱が引き始めたが、苦痛に脂汗を流しながらロールアウトしたエーテルコアを見つめる。


 エーテルコアの機能は、与えられたエーテルの移動及び性質変化をスムーズに行うためのアイテムで、コネクトコアの副機能であるエーテル増幅から流れるエーテルをロス無しでエネルギー化し、武器の弾丸や刃として使うのだ。

 そして、魔法があるこの世界のに置いて、魔法を放つ触媒としては魔石よりも高い性能を誇るはずなので、知らない人から見れば、魔石からランクアップした様に見えるだろう。


 トワイライトスターに置いて、純エーテル鉱石はエーテルの増幅を、エーテル結晶はエーテルの変換を司るアイテムなのである。


 そして、コネクトコアは純エーテル鉱石を用いてエーテル増幅機能を獲得しつつ、少量のエーテル結晶で様々なシステムを組み込んだ英智の結晶であり、この世界では表に出せない危険なものなのだ。

 どのくらい危険かって言うと、『エーテル増幅』って言ってるけど正確には『エーテル無限生成機能』なのだから。


 つまり今、私はこの世界で無限の魔力を手に入れた上に、ファクトリーを起動してオーバーテクノロジーをゲットした超危険人物なのであーる!


「はぁ、おわったよ」


 完全に苦痛が無くなったので、ガノドライグとリーフェに声を掛ける。

目を開けた瞬間、二人は驚いた顔で私の肩を揺すってきた。


「フェミリアス、大丈夫か!? 凄い顔色だぞ!?」

「お嬢様、今日はもうお休みください!」


 え、そんなひどい顔してる? あぁ、脂汗ダラダラだし、髪もべったりだから、貴族からみたらダメな装いになっているかもね。


「それより、これ」


 出来たエーテルコアをリーフェに渡して、魔石を魔道具に変えたと教える。

 もうファクトリー使い放題だから、エーテルコアも元手なしで作り放題なんだけどね。


「お、お嬢様、これは?」


 たぶん、魔力の通りやすさに驚いているのだろう。

 さっきまで泣きそうな顔で心配してくれていたのに、今は食い入る様にエーテルコアを見詰めている。


 ちょっと悲しいぞ?


「えーとね、まほうがつかいやすいませきに、かえてみたの」


 どうやったかは内緒だよ。そう言ってへにゃっと笑ってみせる。


「だ、旦那様、お嬢様を休ませた後に、この魔石についてお話が······」


 リーフェの顔色から、ただ事じゃないと察したのか、すぐに何個か指示を出した後に、私のおでこにキスをしてガノドライグは部屋を出ていった。

 リーフェもやや慌てた様子で、私をベッドに連れていくと、近くの水瓶から桶に水を入れ、タオルを濡らして絞ったあと、私の服を脱がせて体を拭く。

別の服に着替えさせられると、桶とタオルと脱いだ服を器用に持って一礼した。


「お召換えが終わりましたので、今日はもうお休みくださいませ」


 そう言って部屋を出ていった。


 本当は二年ぶりのファクトリーをいじり倒したいのだけど、コネクトコアを取り込んだ負荷が思いの外激しかったので、大人しく眠りに付いた。


 明日から暴れるぞー!




 目覚めてから数日、なんと放置された。

 いや育児放棄では無いのだけど、代わりのメイトが世話をしにやって来るだけで、ガノドライグどころかリーフェすら来ない。

 ガノドライグはどうでもいいが、意識を持ってからずっと世話をしてくれていたリーフェが、実に三日も現れない現在に首を傾げつつも、結構寂しかった。


 ファクトリーの起動に成功して、物流を確認して『祭り』の影響も調べて、本来ならその影響の大きさにいつもニマニマするのだが、リーフェが来なくなった寂しさで、そんな余裕は無かった。


 ただひたすら、ファクトリーで設計図を描き、この幼い体で扱えるエーテルスーツを設計し続けた。


 ネックレス型の端末をロールアウトして、同時に設計した『現在着ている衣服と同じデザインで入れ替わる』と言う擬似迷彩機能を付けたフルアームのエーテルスーツ、『エーテルドレス』を作成。


 さらに起動するまで見えない兵装もいくつか作り上げて、エーテルドレスに取り付け、そのままエーテルドレスをロールアウトした後、端末の内部に転送して保存した。

 ネックレスは普通の装飾品に見えるデザインにしたので、普段から付けけても違和感は無いはずだ。

そしてコネクトコアを持たない人間には起動出来ないので、無くしても安心。

 エーテルドレス装備時も、着ている衣装を参照して入れ替わるので私の見た目は変わらない。

 ただ迷彩機能を付けたり、人工筋肉などが見た目に応じて薄くなる関係で、筋力やその他出力はいつも作ってるスーツに比べると低い。


 まぁ、それでもその辺の兵士くらいならデコピンで倒せる代物なんだけどね。




 さらに二日。まだリーフェは姿を見せない。

 他のメイドに聞いても答えてくれない。

 今日もファクトリーで設計図を引く。



 今日で十日目。私は我慢を辞めた。

 何をただ待っていたのだろうか。私らしくない。

 希少素材が足りなければ、巨大組織の管理する惑星に一人で突撃すらした戦える『変態技師』たるハイプレイヤーのこの私が、一体十日もダラダラ何をしていたのか。


 会いたいなら会いに行けばいい。ただ、それだけの事じゃないのよ。


 この世界の貴族の子供は、八歳まで外室を許されず、自室にて勉強を重ねて中央の貴族学校に行くらしい。

 そこで六年、貴族のなんたるかを学び帰ってくるのだとか。

 一年は大まかに二つの季節に分かれていて、火の季節と水の季節と呼ばれ、それぞれ火の季節が春と夏、水の季節が秋と冬を指している。

 そして火の季節の終わりに休暇があるから、一応実家に帰っては来れるのだが、兄は昨年入学してからずっと貴族学校に居るため、まだ名前すら知らない。


 ともかく、私は八歳までろくにこの部屋から出れないのだが、そんな事はもう知らない。


 入口に待機しているメイドに部屋を出る事を宣言するが、当然止められる。


「お嬢様、お部屋から出ては行けません」

「知らない。リーフェに会いに行くからどいて」


 もう舌足らずな演技も辞めた。

 下手に出てれば調子に乗りやがって。

 私はずっとリーフェに会いたいと言っていた。事情があるなら教えてとも。

 それでも何も教えてくれないのだから、私はもう遠慮しない。


「退いてくれないなら、無理やりどかすからね」


 黒い宝石に見えるエーテルコアが付いたネックレスに触り、エーテルドレスを起動する。

 今着ているパステルピンクのふわふわドレスが、その見た目のままエーテルドレスと入れ替わり、運営すら驚かせ続けたハイプレイヤーに変身する。


「はぁ、少し寝ていて貰いますね」


 私の変化に当然気付けないメイドは、どうやら魔法を使って私を眠らせる様だ。


「『アンチエーテルシステム』」


 エーテルドレスの右腕スロットに付けていたガジェットを、日本語で起動してメイドの魔法を阻害する。


「は、なん!?」


 日本語が特殊な呪文に聞こえたようで、私が魔法を使って魔法を止めた風に見えたのだろう。

 メイドが驚いて挙動がおかしくなっているうちに、スカートを捲りはね上げ、両太ももの部分に付けているデュアルユニットから、右足のハンドガンを取って起動する。


「『モードパラライズ』」


 起動して見える様になった小型ハンドガンを麻痺モードに切り替えて引き金を引く。

 突然現れた何かにメイドが驚けたのは一瞬で、すぐに発射されたエーテル弾がはじけて、メイドの意識を刈り取る。


 このエーテルドレス、フルアームエーテルスーツには、トワイライトスターではまず使わないだろう装備品で固めている。


 スロットは背中のリーサルスロットが一つ、両肩にメインスロットが二つ。両足にサブスロットが二つ。そして両手に一つづつ、腰に五つのガジェットスロットで計十二スロットがフルアームのスロットであり、その殆どにスーツを着ていない対人用装備を付けていた。


 普段ならムラマサさんが提唱した『ムラマサスタイル』と言われる装備構成を私流にアレンジした『変態スタイル』で惑星に降り立ってボスを虐めるのだが、それだとメイドも父親もリーフェも殺してしまう。


 なので、リーフェに会えない間に大量に設計した対人用鎮圧装備で安全に昏倒させて行こうと思う。


 右手にはアンチエーテルシステム。ほんの一瞬エーテルのエネルギー化を阻害するだけのガジェットで、トワイライトスターの中なら、弾幕を弾丸一発分だけ止めるただのゴミガジェットなのだけど、この世界なら魔法を構築中のエーテルを一瞬でリセット出来る有用な防御ガジェットになる。


 左手にはエーテルエコー。

簡単に言うと周囲のエーテルに干渉して、センサーやソナーの役割をするガジェットだ。

リーフェのエーテル反応は、コネクトコアを飲み込んだ時に保存しておいたので、このガジェットでそれを追い掛ける。


 足のスロットには、一つのスロットにナイフとハンドガンを付けられるデュアルユニットを開発して、パラライズ機能を付けたナイフとハンドガンが、両足に一対づつ付いている。


 両肩には、パラライズ機能以外を全てオミットしたエーテルブレードとエーテルマシンガン。

これは流石に出力の関係でデュアルユニットは無理だったので、左肩にマシンガン、右肩にはブレードとなっていて、肩から飛び出る形でマウントされている。


 そして背中のリーサルスロットには、本来リーサルウェポンにカテゴリーされる兵器が搭載されていて、フルアームの鈍足ながらも一騎当千の火力を誇る武装を装備出来るのだけど、ここでは超火力過ぎて不要なので、全周囲高出力シールド発生装置を付けておいた。


 これで囲まれてもリーフェさえ会えたらお話出来る。


 残り腰のガジェットには、パラライズを撒き散らすボムと、ワイヤーダートとか、光学迷彩ガジェットクロークとか、そんな感じ。


 さぁいざ冒険へ。




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