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メリルちゃんと入浴。

性的な表現があります。


「ん? おばちゃん魔力あるよ?」


 忘れてしまうが、私は魔力を見たり感じたりする能力がずば抜けている。

 たった八年の加齢と共にその能力も強くなっていて、魔力の有無と総量くらいなら、見ただけで何となくわかる程に。


 平民は貴族に比べて魔力が乏しく、多い人間でも貴族平均の半分に達していればかなり凄い方だとリーフェに聞かされていた。

 そして魔力を持っている平民自体もまぁ珍しい方ではあり、平民の間では魔力は貴族の物って言うのが通説なんだとか。


「え、え? こんな老いぼれに、魔力が······?」

「うん。多くは無いけど、少なくも無いかな? 簡単な魔道具なら一日に数回使えるよ」


 あくまで平民基準なら、まぁまぁの量じゃないかな?

 城下町でもこの街でも、目に写った人達の魔力と比べると恵まれている方だと思う。


「そだ、急に貴族が来て困ったよね。お詫びにこれあげる」


 すぐに杖型のライターをファクトリーで作り、手をポケットに入れてロールアウトして取り出した風を装う。


「これは、なんだい?」

「魔力を通すと先から火が出る魔道具だよ。厨房って多分薪を燃やしてるよね? 火を起こすのが楽になるよ。必要な魔力も結構減らしてあるから、そこまで負担にはならないと思う」

「魔道具だって!? こんな高価な物受け取れないよ!」

「いいのいいの。フェミの手作りだし、元手ほとんど掛かってないから」

「手作り? え、魔道具ってのは、お偉いお貴族様が何年も頑張って勉強して、やっと作れる物じゃ無いのかい?」

「らしいね。フェミはそんなに難しい事だと思わないから分かんないや。必要無ければ売っちゃってもいいし、好きに使ってよ」


 緑晶貨を一つカウンターに置いて、椅子から飛び降りる。

 代金は六百リヴァルらしいが、お釣りは要らないとさっさと店を出た。

 なかなか食べごたえがあったから、早めのお昼ご飯だったけど問題なさそうだ。


 店の前に停めてあるビークルを触ってタイヤをフリーにして、魔力を通してエンジンを回す。

 ビークルに乗って五分ほど大通りを徐行して門を出て、一気にアクセルを回す。


 いやー、一人旅ってのも結構いい物だね。前世は引き篭もって居たから知らなかったや。


「チチチ、ピィ!」

「ん、ああビークル見ててくれたのね。忘れてた。ありがとね」


 存在を忘れていたリーアの小さい頭を指で撫でて、風防の裏で文句を言う小鳥を労いながら後ろに飛んでいく景色を眺める。

 追い越している馬車の速度を考えると、護衛を連れて来ていたら多分さっきの街で泊まることになったんだろうな。


 人の居ない街道をビークルで飛ばしていると、ハーレーとかで北海道走るのってこんな気分なのかなと、そんな事を考えた。

 だとしたら、バイク乗りって結構いい趣味だよね。今なら良さが分かるかも。


 無尽蔵に湧き出る魔力を使い、途切れることのない馬力を推進力に変えてどれくらい走っただろうか。

 今度は迂回路がある街をいくつか横切り、いくつか街道が合流して、少なくない馬車を通り越して走ると日が落ちてきた。


「三日分くらいは飛ばせたかな。次見える街で今日は泊まろうかな」


 リーアに話し掛けると、小さく鳴いて肯定してくれた。

 

 それから見渡す限りの草原を行くと、街が薄ら見えるくらいの場所に馬車が立ち往生していた。

 アクセルを戻して惰性だけで街道を滑り、止まっている馬車の近くまで来ると、箱馬車の時点で察していたけど貴族らしい。


 扉が二つ並んでいる大きい箱馬車が一台。

 八人くらい乗れるのだろうか、護衛が五人に側仕えと御者が一人ずつ、そして同年代くらいの男の子一人が馬車の周りに居た。


「ごきげんよう。どうかされたのかしら?」


 惰性で走り、街の近くで比較的綺麗な街道の為に音もなく近付いた私に、護衛が驚き腰に帯びた剣に手をかけた。


「だ、誰だ!?」

「ご迷惑だったのなら通り過ぎますが、お困りの様でしたので」


 剣の間合いの外でビークルを降りて、スカートの代わりにコートを摘んでカーテシーをする。


「お初にお目にかかります。わたくしはトライアス領主の娘、フェミリアス・アブソリュートと申しますわ」

「領主一族!? 護衛も連れずにこんな所で何を!?」


 こんな所とか言うなよー。あの薄ら見えてる街に住んでる人達に失礼じゃないのさー。


「どの様な理由と仰られても、そちらと同じだと思いますわ。貴族学校へ入るために中央へいらっしゃるのでしょう? 護衛は不要なので城に置いてきたのです」


 物々しい空気を出す護衛と会話をしていると、側仕えの後ろに居た貴族の男の子がひょっこり出てきた。


「ご、護衛が無礼を働きまして、申し訳ありません。私は領地ヒュリオースの下級貴族、シェネルートと申します」


 シェネルートと名乗る貴族の男の子は旅装備ながら品のある灰色のローブを着ていて、良く手入れのされたオレンジ色のショートカットが印象的だ。


「ヒュリオースと言うと、中領地の第一位ですわね? お会い出来て光栄ですわ」

「いえそんな、私などただの下級貴族ですので·········」


 挨拶もそこそこに、立ち往生の理由を聞く。


「馬車の車軸が歪んでしまったのです。馬が引いても後輪が引き摺られてるだけで。街まで目前なので馬車を置いて行き、街で馬車を新しく用意するか相談していたところだったのです」

「馬車を拝見してもよろしくて?」


 許可を取って馬車の車軸を見ると、緩やかにだが間違いなく曲がっていた。何故こうなった?

 アナライズを使っても他に異常が見当たらない。これを直せば動くだろう。


 これなら、ファクトリーが有るから使ってなかった魔法を使えば直るんじゃないかな?


 魔力を空気に溶かしながら組み上げた魔法を、さらに金属に捩じ込んで使う方法から、史上最悪の魔力効率と謳われる『彫金』と言う魔法をリーフェに習った。

 彫金と言っても魔力で金属を彫るのでは無く、魔法を捩じ込んだ金属を変形させる魔法なので、車軸に使えば歪みを直せるはず。


「鉄よ。我が想いをその身に受け、想いのままに形を変えよ」


 ファクトリーで好きな造形で金属を成形出来る私には必要無かったので一度も使った事が無く、エーテルドレスの魔法補助システムに登録されていない魔法なので呪文が必要だった。


 呪文はただ言葉を言えばいい訳では無く、魔力を言葉にしっかり練り込まないと魔法にならない。発現させたい現象を思い浮かべ、その思念を魔力に溶かし、言の葉に魔力を練り込んで口から紡ぐ事で現象として魔法が組み上がる。


 アナライズを使いながら精密にミリ単位で真っ直ぐに車軸を直していく。

 ふふ、史上最悪効率だろうが、無限の魔力の前ではただの便利な魔法なのよ。


「ま、まさか彫金魔法? 馬車を支えながらなんて魔力が足りるわけ······」

「ん、終わりましたわ。ご確認下さいませ」


 何やら側仕えが言っているが無視して御者に告げると、すぐに御者台に乗り、箱馬車を少し転がした。


「問題無い無いようですわ。これで街まで行けますわね」

「あ、ありがとうございます! 荷物を持って街まで歩くのは少し無茶でしたので、大変助かりました······」

「いえ、お気になさらないで下さいませ。困ったらお互い様ですわ」

「·········領主一族の方なのですよね? 私のような下級貴族に、勿体無いお言葉です······」


 恐縮する様にシェネルートが跪いた。

 いやいや、こんな街道で止めてよ。


「上級貴族も下級貴族も関係ありませんわ。領民が貴族を支え、貴族が領主を支えるからこそ、領地は成り立つのですわ。だからそう自分を貶める発言はお止め下さいませ。それは領地全体を下げる発言になるのですよ?」


 感謝されて歓待を受けるのも御免なので、恩に着ない事を念押しするつもりで喋ったのだけど、何やら逆効果だった様だ。


「あ、あの、わたくし変な事を口にしましたか? それとも、わたくしの顔に何か付いていますか?」


 みんなが目を見開いて、シェネルートなんか目に涙をためている。

 訳が分からなくて眉根を寄せて居ると、側仕えがすぐに頭を下げ、シェネルートの横に跪いた。


「余りにも立派な他領の領主一族を目の当たりにし、一同感動してしまったのです。お言葉に黙り返す無礼、ご容赦頂きたく存じます」

「あら、そうだったのですね。わたくしとしては、領主の血を引く者として当然の心構えを述べたつもりですので、そう深く受け取らなくても結構ですわ」


 立派と言われても、当然の事を言ったつもりだった。

 実際領民が居なければ、貴族なんて生きていけないし、部下たる貴族が居ない領主なんてただの人だ。

 上下関係や長幼の序はハッキリすべきだとは思うが、何でもふんぞり返っている領主なんてのは大成しないと思ってるし、前世の歴史を見ても恐怖政治は失敗しかしてなかったはずだ。


「それより、ご歓談している所悪いのですが、早く街に行かなければ宿が無くなってしまいますわ。わたくしは一人なのでどうとでもなりますけど、御者を含めて八人分の部屋を確保するには、早い方が良いのではなくって?」


 私の言葉に慌てて準備を始めるシェネルート一行に挨拶をして、私もビークルに乗る。

 箱馬車に乗る前にシェネルートがもう一度礼をしてきたので、軽く手を振ってハンドルを回して走り出した。




 シェネルート一行と別れてから入ったこの街は、門番も居て高い塀もある大きい街で、どうやら他領の城下町らしい。

 領地の境界がどこだったのか分からなかったが、私はどうやら大領地第三位リオライラに入っていたらしい。


 日もほぼ落ちて、夜の鐘まで時間が無いのだろう薄暗さに、初めて訪れた街並みを観察することを諦めて宿を探す。

 私は別に貴族御用達の宿など興味無いし、平民が多かろうと何も思わないのでいい感じに寂れた安宿を選んだ。

 

 馬車を停める場所も無い宿なので、ビークルを宿の裏手に停めてから荷台のロックを解除して、中から着替え等泊まり道具一式と皮袋を取り出す。

 そして一緒に取り出した皮袋に荷物を詰め込んで、必要最低限のお金をポケットに突っ込み、残った財布を荷台の中に放り込んで荷台をロックした。

 

 ビークルだけならネックレス端末に保存すれば良いのだけど、積んである荷物は保存出来ないからこうする他ないのだ。

 装備保存用のネックレス端末や腕輪端末は、何も容量無限のアイテムボックスでは無い。

 ファクトリーで作った物を一時的に、ファクトリーの修理システムを利用した仮想の倉庫を作って預けているだけなのだ。

 壊したゴーレムを端末に戻すと直るのはこの仕様の為。

 ファクトリーで作っていない物は預けられないし、端末一つ当たりの容量も決まっている。

 リーフェとリリアに修理倉庫枠を使っているので、前世で課金して入手した倉庫の内私が使えるのは三つ。そして一つは既に訓練用ゴーレムでギッチギチなので、ネックレス端末分と今付けている小物用の腕輪端末で最後なのだ。

 野営装備を作らなかったのは、腕輪端末の容量を使いたく無かった事も理由だし、修理倉庫を利用しないタイプを設計するには、久々に理論の構築からやらなくては行かなかったので面倒だった。


 とにかく言いたい事は、今ビークルを端末に転送すると、中に入っている荷物がこの場に散らばるのだ。某ゲームのチェストを壊した時みたいに。


 ビークルのエンジンを切り、タイヤをロックして宿の中に入ると、台帳を持ったお姉さんに声を掛けた。


「お部屋空いてる?」

「お貴族様!?」


 宿の中は酒場兼用の店じゃなく、ただ宿だけで営業している様で、全体的に古めかしい木造建築。

 入口入ってすぐにカウンターがあり、向かって右には上に登る階段と、その隣に奥に向かえる通路があった。

 カウンターの中に居る長い緑髪を揺らすお姉さんが驚いて、手にしていた台帳をカウンターの中に落としていた。


「あー、うん。確かに貴族なんだけど、別に気にしなくていいよ。自分で選んでこの宿入ったし、礼儀がどうとかうるさい事言わないから。見たとおり子供だよ。大した権力持ってないよ」


 昼の街でもあったけど、みんなちょっと貴族に驚きすぎじゃないかな? 出会ったら殺される死神じゃないんだからさ。


「ほ、本当にウチをご利用に?」

「うん。まぁ平民好きな変な貴族とでも思ってて欲しいな。それで、お部屋は空いてる?」

「あ、空いてるけど······」

「じゃぁ一泊お願いね。いくらかな?」

「えっと、二千リヴァルよ」

「お風呂はもちろん無いよね。食事は?」

「風呂なんて街の奥の宿にしか無いわよ。食事も無し。素泊まり専門なの」

「ふふ、それはそれで味があって良いねぇ。街のどこかに大衆浴場とかって有るかな?」

「それなら中央像の近くにあったわよ。······本当に変わったお貴族様だね?」

「褒め言葉として貰っとくね。はい、二千リヴァル。じゃぁお風呂行ってご飯食べてくるね」


 中央像とやらが分からないけど、まぁトライアス城下町の中央噴水みたいな物だろう。きっと噴水の代わりに大きい領主の像でも建ててあるんでしょうよ。


 建物の中から溢れる光りと、月明かりだけを頼りに人が少ない街並みを歩くと、予想通りの中央広場にたどり着く。

 大衆浴場って大体はでっかい煙突が付いている物だと周囲を探して目的地を見付けた。


 先ほどの宿みたいに、入口入ってすぐにカウンターがあり、その左右に男湯と女湯の入口が別れている内装を見回して、カウンターに立つ薄紅色の髪のおばちゃんに貴族とちゃんと驚かれながら、入浴しに来た旨を伝える。

 入浴料は五百リヴァルで、緑晶貨を払ってお釣りを貰い、女湯の入口を通り脱衣所に入った。


 前世で下町にある銭湯みたいな木製の板状の鍵が使われたロッカーに服を脱ぎ、皮袋から入浴セットを取り出してから皮袋をロッカーに入れた。


「リーア、ここで待っててね?」


 開けっ放しの扉を潜り浴場に入ると、ムワッとした空気が体を包み、否応なく体温が上がっていく。


 銭湯みたいに真ん中が洗い場になっている訳じゃなく、壁からお湯が滝みたいに何本も出ていて、その間の適当な位置に木製の椅子が置かれていた。


 空いている椅子の側に陣取り、ロッカーの鍵、石鹸、風呂用のタオル、風呂用に作った魔道具が入った小さい桶を近くに置いて滝を浴びた。

 それから石鹸で髪を丁寧に洗い、また滝を浴びて泡を流し、体を石鹸とタオルで洗う。

 それも滝でまた流してからタオルも滝で濯ぎ、周りを気にしながら風の魔法で軽く乾かす。エーテルドレスが無いから呪文が必要だった。


 それから小物ごと桶を小脇に抱えて、大きい湯船に向かってザブっと入る。

 湯船に桶を浮かべて、中から風呂用に作った魔道具を取り出した。


 この世界は当然ながらシャンプーも無ければリンスも無い。石鹸で洗ってギシギシする髪を可能な限り手入れするのが淑女なのだと。

 当然嫌だった私はすぐにトリートメント効果を付けたコームをファクトリーで作った。それがこの風呂用魔道具。

 湯船の中で髪を梳くと、コームが水にエーテルを流してトリートメントしてくれる物で、濡らさないとただのコームだ。


 湯船で一人、鼻歌を歌いながらトリートメントコーム、略してトリムで髪を梳いていると、パチャパチャと音がして近くに女の子が来た。いや女湯なんだから女の子で当たり前なんだけどさ。


「こんばんわ。綺麗な黒髪だね?」

「ふふ、ありがとね。アナタも素敵な桃色だよ?」


 ふわっふわの桃色の髪をした、少し歳上っぽい女の子が近くに来て隣に座った。

 その髪がお湯に浮いて広がっていく様を見ながら、女の子に笑いかける。

 

 うーん、多分十歳くらいだと思うんだけど、胸でかくね?

 

「それは何をしているの?」

「これはね、髪を綺麗にする魔道具を使っているんだよ」

「まどっ······、えっ!? お貴族様なの!? あの、ごめんなさっ···」

「あはは、今日はもうその反応飽きたよー。気にしないから普通にして欲しいな」


 隣に座った女の子は、お風呂で温まった体で顔を青くすると言う荒業を見せたけど、本気でもう飽きた。死神じゃないんだってば。


「ほらおいで? 髪の毛梳いてあげる」

「え、あの、えっと······」


 近くに浮いている髪の毛を湯船に沈めてコームで梳いていく。

 わざわざ私がやるのは、この子は魔力を殆ど持っていないから魔道具が使えないのだ。

 貴族が怖いのか、されるがままの女の子の髪をあらかたトリートメントし終わると、目の前でトゥルントゥルンになった髪を触らせてみる。


「ふぇぇぇえ、何これ、私の髪の毛すごい事になってるよー!?」

「ふふふ、フェミの作った魔道具凄いでしょー。お風呂を出て髪の毛乾かすと、もっと驚くよ」


 歳上なんだけど、なんか妹っぽい感じがして頭を撫でてしまった。


「·········あの」

「どうしたの?」

「本当にお貴族様なの······?」

「うん。トライアスって領地の領主の娘だよ。あ、いちいち驚かないでねー。フェミ別に貴族だから威張るとか、そう言う事しないからさ」

「領主様の娘様って、えーと、お姫様?」

「ふふ、そう言われると嬉しくなっちゃうね。お姫様かー。あぁ、今更だけど、フェミの名前はフェミリアスって言うの。フェミちゃんって呼んでね」

「う、うん。私はメリルって言うの。フェミちゃんは一人なの?」

「そうだよ。メリルちゃんは街の人?」

「うん。今日はここに来るの遅くなっちゃったの。ご飯も食べれるかなー·········」


 幼いからなのか、今日驚かせた人の中では一番順応が早かったメリルちゃんと、湯船の中で楽しくお喋りをする。

 何気にリリア成分が減っていたから、ちょっと浮気。こんなお姉ちゃんを許してね!


「ご飯食べれないの?」

「うん。お風呂に入って夜の鐘までにお家に居ないとご飯無しって、決まりなの」

「ふーん。どうして今日は遅れたの?」

「えっとね、ハンターの人のお手伝いしてて、遅くなったの。お金は貰ったんだけど、ご飯無いのは困っちゃった·········」


 ふんふん。つまり家の為かどうかは知らないけど、働いて残業して帰りが遅くなっただけじゃないか。それでご飯抜きはいささか可哀想である。


「一緒にご飯食べる?」

「ふえ、いいの?」

「うん。頑張ってお仕事したのに、ご飯無いのはダメだよ。頑張ったら御褒美あげなきゃ」

「チチチッ、ピー!」


 レディを食事に誘っていると、小鳥に邪魔された。


「もう、リーアどうしたの? 待っててって言ったのに」

「ふええ、何この子、リティットだよね? フェミちゃんのお友達?」

「ピィピッ!」

「あははは、紹介するね。この子はリーア。フェミが作った魔道具だよ。すごい良い子のはずなんだけど、リーアどうしたの? フェミのお願い聞かない悪い子だったの?」


 クルクル飛んでいたリティットに他の利用客が驚くが、気にしないリーアは私の頭の上に止まった。


「チチッ」


 なんかムクれてる気がする。


「もしかして、構って欲しかったの?」

「ピィ!」


 私にも分かるように頷くリーアに苦笑する。

 そうだった。この子は今日目覚めたばかりの子なのだ。こんなに放置ばかりされたら良い子に育たないかもしれない。


「ふふ、ごめんねリーア。フェミのお友達を紹介していい?」

「ピピッ」

「え、ふえぇ、お友達って私の事?」

「うん、そうだよ? リーア、今お友達になったメリルちゃんだよ。仲良くしてあげてね」


 私の頭からメリルちゃんの頭の上に移動したリーアは、楽しそうに羽をバタバタしている。メリルちゃんもキャーッと黄色い声を出していて、うん癒される。


 なんだろう。私女の子なのに、イケメンとかより幼女の方が癒される気がするよ。



 のぼせる寸前まで遊んで居た私たちは、フラフラしながら脱衣所で涼んでいた。素っ裸で。


「ごめ、リーアもっと」

「ふぅぇぇ······」


 脱衣所の隅にある簡易な椅子に座り、近くに止まったリーアに羽ばたいて貰って扇風機代わりをお願いした。

 少し楽になって来たので、リーアにメリルちゃんを重点的に扇いでもらい、背もたれが無くて辛そうなメリルちゃんを後ろから支える。


「大丈夫?」

「うーん。だいじょぶー」


 フラフラしているメリルちゃんを椅子から落ちない様に抱きしめると、立派な胸が手に収まる。やはりデカイ。もにゅもにゅ。


「やぁん、フェミちゃんダメだよー?」

「あ、ごめんね。立派だったから、つい」


 まぁ謝っても止めないけどね。もにゅもにゅ。


「ダメだってばぁ、やん。もーう、そう言うのは大人になってからって、お母さん言ってたもん」

「でも、柔らかくて、楽しいよ?」

「ぁん、楽しくてもダメなのー」

「チチッ!」

「痛っ!? ちょ、リーア、今の本気でつついたでしょ!?」

「えへへ、リーアちゃんは私の味方?」

「ピィ!」


 自分の作った魔道具に手痛い裏切りを食らった所で、メリルちゃんも元気になったから着替え始める。

 下に置いていた桶から鍵を取ってロッカーを開けて、タオルを取り出して体を拭く。


 リーアに扇がれて所々乾いてるけどね。


 髪の毛をタオルで巻いてから、皮袋から下着とドレスっぽく見えるネグリジェ、それに上に羽織るコートを出して着ていく。


「ふぁー、フェミちゃん本当にお貴族様なんだねー?」

「一応ね。どう、可愛いかな?」

「うん! とっても可愛いよ! 私もそんな服、着てみたいなぁ······」

「宿まで来たら貸してあげるよ? 大きめのドレスもあるし」

「ほ、ほんと!? お姫様が着てるドレスを、私が着ていいの!?」

「うん。良いんだけど、時間は大丈夫そうかな? お家に怒られない?」

「ご飯食べた後、聞いてくるね。許して貰ったら宿に行くから、どこか教えてね!」

「旅の明亭ってところだよ。部屋番まだ聞いてないから、フェミの名前で聞いてみてね」


 メリルちゃんもツギハギのワンピースに着替えた所で、ネックレスと腕輪を装着してエーテルドレスを起動する。

 補助システムのお陰で繊細に使えるようになった風の魔法で髪を乾かす。当然メリルちゃんの髪もサラッサラにして上げた。

 自分の髪にはしゃぐメリルちゃんを連れて外に出ると、もう夜もとっぷりだった。

 

 私はもちろん、街の地理もお店の情報も無いので、メリルちゃんに美味しいお店へ案内してもらう。


「ほ、本当にご馳走になって、いいの?」

「うん。気にしなくて良いよ。他領だけど領主の娘だしさ、領民は大事にしないとね。お友達なら尚更だよ」

「ふぁあ、今日は遅れて良かったよー。いい日だよー」


 スキップしているメリルちゃんを眺めながら、肩に乗るリーアも指でつついて遊んであげる。もう裏切るなよお前。

 そうして着いた酒場の前に辿り着くと、後ろから声を掛けられた。



「······もし、フェミリアス様ですか?」


 そこに居たのはシェネルートと、その一行。

 お早い再会だったね。


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