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四聖獣の鎧。


 馬車で城壁の門を潜ると、そこは貴族街だった。綺麗な石畳の上に立つ街並みは、リリアちゃんの離宮をもっとオシャレにした豪邸が立ち並んでいた。

 歩いている人は居らず、専ら馬車で移動している事が伺える貴族外のメインストリートを真っ直ぐ城下町まで馬車が走る。

 貴族街と城下町を仕切る塀が近付くにつれて、見える家の豪華さが下がっていく様に見えた。


 城に近いほど権力が大きくなるんだろうね。てことは、塀を超えたら富豪層の家があって、街と外を繋ぐ門の近くには貧民が居るのかな。


 私が初めて見る城壁の外を考察していると、外の様子も気になるリリアちゃんが、チラチラとこちらを見ていた。


「どうしたの? フェミとリリアちゃんの仲なんだから、気になる事は聞いて良いんだよ?」

「あ、ごめんなさい。あの、お肩に止まっている小鳥が気になってしまいまして。お姉様のリティットですか?」

「あー、忘れてた。この子はフェミがお母様に作ったリティット型の魔道具なんだ。可愛いでしょ?」

「このリティット、魔道具なのですか!? お姉様は、なんでも作れるのですね······?」

「ほらフィオ、どうせ、お母様がウィンドウの設定を変えてリリカフェイト様も見てるんでしょう? リリアちゃんの方に行った方が多分お母様に喜ばれるよ?」

「ピィ? ピッピ」


 少し首を傾げた後、納得したようにリリアちゃんの膝まで飛んでいく。

 小鳥と戯れる猫耳幼女。くっはぁ堪んないねこれ。


 私は思い付いて、カメラガジェットを少し改造してロールアウトすると、その光景を写真に収めた。

 後でリリカフェイト様に見せてあげよっと。


「ねぇフィオ、リリカフェイト様とお母様はこっちに来るの?」

「ピィーィ?」


 翼を広げて首を傾げるフィオ。まさに「さぁ?」のポースだった。

 我ながらなかなか良い物作ったな。後で自分用にも作ろうかな。


 貴族街を出ると、予想通りに富豪層の家や歴史有りそうな大店が並ぶ街並みが見えた。

 フィオを手に載せたリリアちゃんも興味深そうに馬車の外を眺めていて、その光景もカメラで撮る。


「フェミリアス様、先程から手にしているそちらはなんでしょう?」

「ん。えーとね、景色を記録できる魔道具だよ。ほら」


 私のカメラに興味を示したドレイクに、薄いデジカメ型のガジェットを操作して撮った画像を見せてあげる。

 わざわざデジカメ型にしたのは、半透明のウィンドウだと撮った画像が綺麗に見えないからだ。

 資料とかならそれで良いんだけど、景色や風景を残す道具でそれは駄目だと思うので、エーテルを使った液晶を内蔵したデジカメを採用したのだ。


「ほほぉ、これは良いものですな。お嬢様の美しさをそのまま絵に出来る魔道具とは、売れば芸術肌の貴族がいくら積むか分かりませんな」

「これはその内量産しても良いかもね。ドレイクはこれ欲しい? 後でフェミにもリリアちゃん見せてくれるなら作ってあげる」

「本当ですかな? 是非お願いしたく存じます」


 一度作った物は設計図をそのまま使うのでノータイムで作れるし、これは写真をとる時に魔力を少し使うだけなので、ドレイクにも使える。一日数十枚とか撮らなきゃね。

 ぱぱっと作って私のデジカメのデータもコピーしてあげる。

 液晶に映る文字はちゃんとこの世界の文字に直しているので、使い方も簡単に教えればドレイクはすぐに覚えた。


「ありがとうございます。この礼は必ず」

「お礼はリリアちゃんの寝顔とかで良いよ。流石にお風呂を撮るのはドレイクには無理だもんね」

「はは、そんな事をすれば物理的に首が飛んでしまいますな」

「だよね。私もリリアちゃんのお風呂を覗く男性には容赦しないしね」

「フェミリアス様に狙われたら、国外に逃げても無意味でしょうな。はっはっは」


 実際国外に逃げても暗殺仕様のリティット飛ばして絶対殺す。

 リリアちゃんの裸を拝んで良いのは私だけだ。あとリーフェもか。


 そんな会話の中、馬車は噴水のある中央広場と思われる場所を通り過ぎる。

 人は多いのだけど、領主の家紋が入っている馬車を妨げる勇者は居ないので、モーセが海を割るように道が出来る。


「ん、あれもしかして、ハンターギルド?」


 中央広場を超えてすぐの場所に、大きい建物と看板が目に入った。

 この世界のハンターとは、いわゆる冒険者的な人たちの事だ。

 狩人や傭兵、魔法使い等が集まり街の依頼をこなして日銭を稼ぐ場所。


「お嬢様はハンターに興味がお有りですか?」

「あ、そっか。リーフェは元ハンターだったっけ」


 この領地で行き倒れてお母様に拾われる前、旅をしていたリーフェの職業はハンターだったと本人が言っていた。


「うん。良かったらハンターの事教えて欲しいな。お城の本にはあんまり書いてないんだもん」


 私が城で得られる情報は、基本的にリーフェとフェアリーゼの口から聞くか、書庫の中の本に書いてある事を知るだけだ。

 ハンターが居ることだけは分かっていたけど、詳細は殆ど分からなかった。


「ハンターとは、手に職を持たない人間や旅人がなる職業で、一般的には最底辺の人種だとされていますね。ハンターはその質を表す階級が存在しまして、十級から一級、さらに英雄的な位置に準特級と特級の十二階級存在します」

「リーフェはどの階級だったの?」

「だった、と言いますか今でも階級を持っています。五級の中級ハンターですが」

「中級?」

「ええ、ハンターの階級は十二ですが、それをわかり易くまとめた正式じゃない階級がありまして、それが低級、中級、上級です。七級までが低級ハンターで、六級から四級まで中級ハンター、三級から一級が上級ハンターですね」

「準特級と特級は?」

「それは英雄と呼ばれるだけで、特に別の呼び名がありませんね。特級はかつて一人居たそうですが、今ではただの飾りです。準特級は二人ほど今でも居るそうですが」


 ふむ、いい事を聞いた。

 正式じゃない中級やらの呼び方は、ハンターがギルドに登録すると貰えるギルドカードの色分けが由来らしい。


 低級ハンターは銅製のカードで、中級が銀製。上級になると金製なのだとか。


「最底辺の人種だと言いましたが、それは基本的に中級までのハンターで、上級ハンターになるとかなり良い暮らしが出来ると聞いています」


 リーフェの話しを興味深く聞いていると、見える街並みがグレードダウンしていき、城下町を囲む塀の門までたどり着いた。


 門には当然門番が居て、幅が十メートル、縦十二メートル程の開きっぱなしの門の出入りを監視、管理していた。


 箱馬車は領主の家紋が入っているので検問は完全スルーで門を抜けれた。

 

 街に入る列と街から出る列の真ん中に、貴族が通る道を開けておくのがルールらしく、私達の乗る馬車はそこを通って街の外に出た。


 街から出ると、外には森が広がっていた。

 街道を作るために木を伐採して作っただろう道は綺麗に均されていて、箱馬車の窓を開けると、密度の低い木々の隙間からは心地よい風が流れてきた。


 思えば、私は前世でもヒキコモリだったから、随分久しぶりの外出じゃ無いだろうか?


 森の空気を肺いっぱいに吸い込んで、深呼吸をする。

 何だか、私前世より良い暮らしして無い?

 そりゃ貴族なんだから当たり前なんだろうけど、前世の技術力まで加味したら生活水準は当然落ちている訳で、それすらファクトリーを使って細々弄って居る日々は、引き篭もってトワイライトスターに打ち込んでいた時とそう変わらない気がする。


 そして父親は置いといて、友達みたいな母親と、母終みたいな側仕え、可愛らしい妹まで居て、今こうしてピクニックみたいな事をしている。


「フェミ、幸せだなぁ」


 しみじみと口から出てしまった言葉に、自分でも驚く。

 うん。私いま幸せなんだね。

 

 ふと、音楽が聞きたくなった。

 確かゲーム中に宇宙船に載せるジュークと音楽データが丸ごと設計図系に入っていたな?

 ファクトリーを起動してジュークの設計図が入ったデータファイルに纏められている音楽データを確認して、前世の世界でゲームにねじ込んだ楽曲が残っている事に安堵した。

 小型の音楽プレイヤーを作ってデータを入れて、手元にロールアウトした。


 誰も気付かない中プレイヤーをドレスのポケットに突っ込み、ワイヤレスのイヤホンを片耳に付けて髪で隠した。


 今度、このデータをこの世界の言語に翻訳するシステムでも作って誰かに聞かせてみようかな。


 懐かしい歌を耳にしながら馬車に揺られて、森を抜けると草原に出た。

 エコーを打つと所々に兎の様な反応があるだけで、他には特に何も無い広い草原。


「この辺で良いかな。街道から出れる?」


 私がお願いすると、リーフェが箱馬車の馬側のに付いている小窓を開けて何やら喋る。

 すぐに馬車が街道からずれて、起伏の少ない道を選んで草原の中に突き進んでいく。


 十分に街道から離れると、馬車を止めさせて皆で馬車から降りる。

 後続の馬車からも護衛とメイドが降りてきて、リーフェが早速メイドに指示を出して行く。


「リリアちゃん。早速特訓をしようか」

「はい。リリアは何をすれば良いでしょうか?」


 まずはハウンドの練習をして貰おうと、メイドに指示を出し終わったリーフェも呼んでからファクトリーを起動する。

 入れ忘れていた蝙蝠型のゴーレムを十体ほど腕輪に転送してから全部を召喚する。


「はい。ハウンドを出してみて」


 突然出てきた魔物の様なゴーレムに、クエルトと人間の護衛兵士が驚き、敷物やテーブルの準備をしていたメイドから悲鳴が聞こえた。

 魔道具の練習に使うただの的だと教えて静かにさせると、リーフェは一挺、リリアちゃんは二挺のハウンドを構えていた。

 私の手にも先ほどのキーワードに反応してハウンドが握られていた。


「じゃぁ、こんな感じで飛んでる的を全部壊してみて。それで使い方は多分分かるから」


 そう指示を出してドレイクとクエルトの元まで歩いて行き、早速ぶっぱなしている二人を眺める。

 リーフェは一つ一つ正確に狙いを定めて、リリアちゃんは二挺のハウンドでとにかく撃ちまくって当てに行っている。


「な、何ですかあの魔道具は」

「えーと、凄い強くて連射出来る弓みたいな?」


 名前も知らない護衛兵士はロットルと言うらしい。ロットルが驚いて聞いてくる事に一つ一つ答えていると、意外と早く全て壊した二人が手を振っている。


「あ、終わったね。早いなー」


 次には対人戦の練習で、ナイフを出させてからモードを変えさせる。


「そのままだと人を殺せる状態で、『パラライズ』って言うと人を傷付けない状態になるよ。『ニュートラル』って言うと元に戻る」


 二人のスラッシャーをパラライズモードに変えさせた後に、私もスラッシャーを二本構える。


「それじゃ、ナイフ戦はフェミが相手になるよ。二人同時にかかってきて」

「·········は? え、お嬢様?」

「あの、え?」

「早く。来ないならファミから行くよ?」


 先ほどと同じ様に、スラッシャーを一本だけ握るリーフェと両手に握るリリアちゃんに向かってナイフを構える。


「パラライズは怪我しないけど、普通に痛いからね? 行くよ」

「お嬢さ、ひっ······!?」

「にゃぁぁあ!?」


 一気に距離を詰めて二人の腕を斬り付けて過ぎ去る。

 リーフェは痛みでスラッシャーを取り落として、リリアちゃんも同じく落としたスラッシャーが光に消えて片手に一本になっていた。


「リリアちゃんはともかく、リーフェは元ハンターでしょ? どんどん行くからフェミに当ててみてね」


 急いで新しくスラッシャーを出す二人に、エーテルドレスの出力を上げて攻め立てる。


「ほらほらほら! 何のために二人に魔道具渡したと思ってるの!? リーフェはフェミを守ってくれるんでしょ? リリアちゃんは強くなりたいんでしょ? フェミ一人捌けないでどうするの!」


 頭の中でコントローラーを叩くように、自分の体を最大効率で動かして二人を攻め立てて斬り裂いていく。


「く!? お、お嬢様、つよっ······!?」

「にゃぁぁあ!? にゃぁぁああ!」


 護衛兵士が目を剥いている中突如始まるスパルタナイフ戦特訓。

 情け容赦ない攻撃に、しかし段々と反応してくるリーフェとリリアちゃん。元ハンターの経験と、獣人の身体能力の成せる技なのか。

 三十分くらい打ち合って、リーフェのフェイントにリリアちゃんが合わせると言う即席のコンビネーションにより、私の右手の指先にスラッシャーの刃が届いた。


「いっつ、うん。取り敢えずナイフ戦はこんなもんかな?」


 ケロッとしている私とは対称的に、夥しい斬撃を受けた二人は肩で息をしていた。


「お、お姉様は、なんで······」

「そんなに、強いんですかっ······?」

「乙女の秘密だよ」


 三十分の休憩を挟み、メイド達が準備していたテーブルにリーフェも座らせて休息を取らせる。

 その間に、ただ驚いていたクエルトとロットルを相手に抜き打ち訓練を初めて、私もゲーム時代の戦闘勘を呼び戻す。


 最初は私とリリアちゃんの命令で渋々やっていた二人も、最後には本気で斬り掛かってきていた。

 ちなみに兵士二人は真剣だ。パラライズ装備を渡しても良かったんだけど、「当てられるものなら当ててみなよ。特別報酬あげるよ?」と挑発する為に敢えてそのままにした。


 エーテルドレスが無い生身の二人は善戦虚しく、私に一撃を入れることは出来なかった。


 休憩が終わったリーフェとリリアちゃんに、次は専用装備を出して貰って個別特訓を開始する。


「それじゃ、次は反撃してくる的だから気を付けてね。一応パラライズ仕様で作ったけど、質量までは消せないから怪我は覚悟してほしいな」


 リーフェには虎型、リリアちゃんには人型のエーテルゴーレムを出して、途中アドバイスをしながら戦わせる。


 高さ二メートル、全長四メートルの素早い虎型ゴーレムを巧みに交わしていくリーフェと、体術をプログラムした三メートルはある人型ゴーレムにキャットクローで打ち込んで行く二人を眺めながら、ドレイクと一緒にその様子をカメラに収める。


「この魔道具はやはり、いい物ですな」

「うん。後でリリカフェイト様にも見せてあげようね。愛娘が化け物相手に勇敢に戦う姿って胸に来るよね」

「ほっほ。お嬢様のご成長に涙が出そうです」


 二人がほぼ同時にゴーレムにぶっ飛ばされる頃には火の鐘が遠くから鳴っているのが聞こえてきた。


「ちょっと早いけど、そろそろご飯にしようか」


 私のファクトリーから二人の装備にアクセスして、回復機能を全開にして昼食になった。

 リーフェはまだ動けるけど、リリアちゃんはダメージこそ無いものの疲れて動けない様なので、お姫様抱っこでテーブルまで運ぶ。

 その様子に二人のメイドが黄色い声をあげるけど、どうしたんだろう?


 タキシードを解除してメイド服に着替え、側仕えとして仕事をしようとするリーフェをまたテーブルに座らせて、一緒に昼食を食べさせる。

 メイドは二人居るし、リリアちゃんにはドレイクが居る。


 昼食中、さっきのゴーレム戦を見てうずうずしている二人の兵士に人型ゴーレムを出してあげた。死なないでね。


「リーフェはまだ、魔法の同時展開が覚束無いね」

「申し訳ありません。やはり魔法は同時に使えないと頭の中にあるので、急には······」

「リリアちゃんは意外と動けてたね? まだ拙いけど、凄く良かったと思う」

「ほ、本当、ですか? えへ、えへへー」


 疲れきって喋るのも辛そうなリリアちゃんの頭を撫でて、二人に動き方を教えていく。

 リーフェの方は常時発動させておくタイプの魔法をキープしながら戦って、同時展開に慣れる事から始めるアドバイスをして、リリアちゃんにはドレスに登録されている技をいくつか教えた。

 イチオシは拳打の出力を上げつつ任意の回数連打する『ガトリング猫パンチ』だ。


 午後からは遂にエーテルスーツを使わせるけど、定期的にここで戦闘訓練を続ける旨を伝えて昼食を終える。


 それからリリアちゃんの体力が完全回復するまでお茶を飲みながら、ゴーレムから逃げ回りながら戦っている兵士二人を眺めた。


「それじゃ、次に出すのは完全に敵を滅ぼす事を目的にした装備だから、使い所は気を付けてね。パラライズ機能も無いから模擬戦も出来ないよ」

「まだ、上が有るのですね」

「お姉様の作る魔道具って······」

「今までの装備がエーテルドレスって言うんだけど、次に使うのはエーテルスーツって言って、二人とも同じ奴だから今度は呪文も一緒。じゃぁ長いけど復唱してね。『エーテルスーツ システムオンライン フルアームアクティブ モードビャッコ』」


 キーワードに反応して私のエーテルドレスがネックレス型端末に転送され、代わりに白銀に黒い縞模様が入った鎧が体を包む。

 軽量なエーテルチタン鋼で編まれた鎧帷子に、同じくエーテルチタン鋼にライル鋼を合わせたプレートが全身に光り、首鎧には鬣を思わせる立派な縞模様のファーがなびき、兜は無く虎の耳を模したヘッドガードが頭に付けられている。

 手甲は五指が独立しており、それぞれに鋭い爪が付いている上に、指の全関節も鋭角のオウトツがあって、拳打の際には対象を容赦なく抉るだろうフォルムをしている。

 背中には鋭利な嘴を重ねた様なデザインのエーテルブースターが装備されていて、ふくらはぎにも小さいが同様の物がある。


「エーテルスーツ、ビャッコ。リリアちゃんのリリアライト・プリンセスを強化した上に超高速の移動能力を追加してある感じの装備だよ」


 このスーツは、背中のメインスロットに武器では無く高出力エーテルブースターを装備して、足のサブスロットも位置をふくらはぎに変えて、小型化したエーテルブースターを装着してある。

 リーサルスロットにはエーテルブースターを補助しつつ、スーツ全体の膂力をあげるパワードシステムを乗せて、両腕のガジェットスロットはエーテルシールドを改造して拳打に使う攻撃用のガジェットが付いている。

 腰のガジェットは全て慣性緩和に回して、スーツの超高速戦闘による装着者の負荷を中和させている。


「ちょっと、どれくらい危険な装備か見せてみるね」


 端末の召喚可能最大距離で虎型のゴーレムを出して起動したあと、一呼吸置いてから距離を詰める。

 五十メートルはあった距離が刹那に消え、振り上げる拳が巨躯の腹部に突き刺さる。

 轟音と共に虎型ゴーレムが空に打ち上がり、ブースターからエーテルを撒き散らしながら『空を走り』追い掛ける。

 一瞬で虎型ゴーレムの上まで駆け上がると、強烈なかかと落としで目標をたたき落とす。


「ま、こんなもんだよ」


 そして次の瞬間にはリーフェとリリアちゃんの傍に戻っていて、遅れて落ちてきた虎型ゴーレムが爆音と共に地面に叩き付けられ、沈黙した。

 自動修理の為に腕輪端末の中に転送されるゴーレムを見ながら、リーフェとリリアちゃんだけじゃなく、メイドも兵士もドレイクも、みんなが言葉を失っていた。


「同じ程度の装備があと三種類あるからね」


 実際に二人にも使わせて、ゴーレムを殴らせ、次のエーテルスーツを紹介していく。

 斬撃特化のセイリュウ。砲撃特化のゲンブ。ビャッコと同系統でリーサルスロットを飛行能力に費やしたスザクスーツを体験して貰った所で、今日はお開きになった。


 セイリュウの斬撃は良いけど、ゲンブの砲撃はちょっと草原が抉れちゃったから、その辺に居る兎を模したエーテルゴーレムも作って整地を命じた。


「ビャッコを見せたくらいから、みんな口数減ったね。まぁフェミの事が怖くなったのは分かるけど、もう少し隠してほしいな?」

「あ、いえ! ただ少し、現実味が無い力を目にしたので」

「私とリリアライト様に関しては、その力を手にした訳でして、やはり飲み込むのに時間がかかります」

「リリアちゃんは、怖くなった? 今ならその首飾りをフェミに返せば辞めれるよ?」

「ダメです! お姉様に頂いた大事な物ですから。リリアの宝物です」


 メイドに帰り支度をさせていると、夕刻の鐘が聞こえてきた。

 この距離でも聞こえる割には、街中ではそんなに煩くないんだよね。魔道具なのかな?


「じゃぁ、フェミとリリアちゃんの予定が合えば、ここで随時訓練で良いかな?」

「はい。お嬢様に頂いた力、いち早く使いこなして見せます」

「リリアも、お姉様のご期待に答えるのです!」




 それから、予定が合えばこの草原に来て戦闘訓練をする日々になった。

 三日に一回くらいのペースで予定を合わせて、朝から夕刻の鐘がなるまで訓練をする。

 たまにリリアちゃんが甘えてきて私の部屋に泊まり、辛い訓練を頑張っている御褒美にお耳をハムハムしてあげる。


 余程お耳ハムハムが気に入ったのか、お泊まりをねだる頻度がかなり上がったけど、ドレイクがダメと言わない限りは受け入れてあげる。だって私もリリアちゃんのお耳ハムハムしたいもん。

 けしてそれ以上の事には発展しないように注意しながら、リリアちゃんを悦ばせてあげていた。


 そんな日々が一年ほど続き、リリアちゃんもリーフェも、専用エーテルドレスを使って一人でゴーレムを数体相手に出来る程に強くなった。

 最終的には悪ふざけで作ったドラゴン型一体に虎型二体、翼竜型も二体の五体は同時に捌いてぶっ壊せる様になっていた。

 

 七歳になった私は今日もいつもの丘で二人の訓練を眺めていた。

 メンバーは何だかんだいつも一緒で、お馴染みになって私の護衛兵士になっていたロットルと、リリアちゃんの護衛兵士クエルト。そして私とリリアちゃんの写真を交換する事を趣味にし始めたドレイクに、最近名前を覚えた私の部屋付きのメイド、リュッカとテペロアだ。

 リュッカとテペロアは、ウィザードでタキシードを着たリーフェがお気に入りらしい。分かるよ。タキシードのリーフェカッコイイよね。


 訓練を眺めながら、ドレイクとリリアちゃん画像を確認しあってのほほんとしていると、リーフェは戦術級魔法の範囲を絞って撃つやり方を覚えてノルマの五体をさっさと潰して、残りはリリアちゃんが虎型とドラゴン型一体ずつと言ったところで、事件が起きた。


「いま助けるぞぉぉおー!」

 


 乱入者だ。



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