プロローグ。
新しく始まりましたサイエンスフィクションりとらい。
ゆっくりと更新して行きますので、どうかお付き合い下さい。
プロローグ。
「······完成」
エンターキーをターンと叩く音が聞こえると、酷使した目を休める為に瞼を下ろす。
「あー、長かった。でもコレで久しぶりに『祭り』が見れるかな」
酷使時間に比べれば、余りにも少ない休息時間を終えて目を開けると、そこには一つの作品があった。
パソコンの画面に映るのはとあるゲーム画面。
『トワイライトスター』と言うタイトルのオンラインゲーム。
題材はSFで、宇宙に広がる惑星を拠点に様々な目的を持って遊ぶタイトルで、凄まじい自由度が売りの人気作。
まず主人公は『エーテルスーツ』と呼ばれるアーマードスーツを装着し、プラズマを発射する銃器や、刃がレーザーで出来たナイフやソードを使って他のプレイヤーや用意されたボスモンスターを倒すゲームなのであるが、もちろんそれだけのゲームでは無い。
ゲーム内に用意された広大なアウトフィールドマップ、『星図』に散りばめられた惑星をプレイヤー同士で取り合う『戦争』や、プレイヤーが装備する武器やエーテルスーツの開発、そしてその開発された装備品の流通や物流など、ゲームの中に確かな経済があり、プレイヤー同士が密接に繋がり続ける仕様だった。
そんなゲームに魅せられた人間がここにも一人居る。
年齢二十八。学歴中卒。性別女。
いわゆるヒキコモリと呼ばれる類の人間ではあるのだが、トワイライトスターのお陰で引きこもったまま食べていけている。
と言うのも、このゲーム内置ける通貨は等価では無いにしろ、現実世界の通貨に換金出来るシステムであり、彼女はゲーム内では不動の地位を持っていて、稼ぎも多かった。
「さーて、じゃぁ残りの仕事も終わらせますかねー」
先ほど完成した作品。新作のエーテルスーツを保存して別の作業に取り掛かる。
彼女のゲーム内に置ける立場は『製作者』であり、プレイヤーで有りながら新しい装備品の開発と販売で名を上げたプレイヤーだった。
ゲーム内に独自の物理法則やエネルギー法則が存在し、製作者用のシステムを取得すると、それらの法則に則った限定的なプレイヤー専用のプログラミングツールが解放されて、装備品の開発が行える。
ゲーム内の法則を理解し、設計図に線を引き、三次元プリンターの如く試作パーツを切り出し、組み上げていくのだ。
運営が用意した盤上で、運営すら驚かす新装備に新理論を確立し続け、数多の戦争の決め手になる兵器を生み出し続け、コンテンツの成長を著しく促した功績から、運営からは『最上位技師』の称号を貰い、プレイヤーからは『変態技師』と恐れられつつも慕われている。
他にもゲーム内に置ける新戦術や新スタイル、新理論や新法則を発見したり、圧倒的なプレイスキルを持って戦場を走り回るプレイヤーに対しても同様の称号が与えられていて、そのごく一部のプレイヤーは『ハイプレイヤー』と呼ばれていた。
「ファクトリーを自動化して、素材の仕入れと装備の作成、販売を完全自動化······。よし、次は猫プニさんとムラマサさんのオーダーメイドを納品して、ん? メール? はぁ!? こんなクソみたいな料金で私がオーダーメイド受ける訳ねぇだろ死ね! 送信!」
交友を持っている他のハイプレイヤーからの依頼もこなしつつ、送られてくる依頼に対応する。
運営の技術監視部署の人からメールが送られてくるけど、内容は『次の祭りは何時なのか』って確認だった。
「ふふ、『祭りは明日だよ。ちなみに大祭り』と」
祭り。それは彼女が新しい装備を発表、販売する度に起る現象で、トワイライトスターに置ける最大級の経済効果を誇るイベントだった。
トワイライトスターの装備品は、まずプレイヤーが着用するアーマードスーツであり、ゲームの骨子と呼べるエーテルスーツが三種類。
装備品のスロットが少なく、耐久も低い代わりに凄まじく動きの早い『ライトアーム』のカテゴリー。
最も使用率が高く、耐久や速度、装備スロットなどのバランスが高い『ミディアアーム』
そして速度を犠牲にして装備スロットと耐久が高い『フルアーム』
そしてエーテルスーツに装備される武装は『リーサル』『メイン』『サブ』『ガジェット』の四種類あり、リーサルを装備できるのはフルアームだけで、ライトアームはサブとガジェットしか装備出来ない。
そんな中で彼女が新しく作ったエーテルスーツは、『ミディアアームの速度で動けるフルアーム』と、『フルアームを超える装備スロットを持つミディアアーム』だった。
既に量産化まで済ませて、明日には彼女の抱える店から設定した時間に販売が開始される。
たった今、関わりのあるハイプレイヤーにも宣伝を送り、店の広告にも表示を済ませた。
「ふふふ、楽しみねぇ」
彼女は満足気にパソコンの前に座ったまま、瞼を閉じて仮眠をとった。