1冊目「赤から白で紅白戦」
1冊目
田辺春樹は、片手に持つ本を震わせながら、自室で尻餅をついた。パクパクさせた口と、空いた片手で指差す方向には、怪しげな光と、1匹の猫。
「あっ…えっ…」
開いた口が塞がらないとはこのことか、と思いつつも、目の前の状況に頭が追いつかない。怪しげな光が落ち着くと、わざとらしく、春樹に分かるようにニヤリと笑った。
事の発端は数時間前、学校帰りに図書館に寄った事から始まった。
***
元々本を読むことが好きな春樹は、学校帰りに図書館に寄ることが日課だった。今日も何気なく図書館内を歩き回り、何か面白そうな本は無いかと本棚を見ていた。
ふと、本棚の影から見覚えのある姿を見つけた。それを自身の姉__基、田辺美希だと察するのにそう時間はかからなかった。
「姉さ…」
声をかけようと後を追うが、横目で見えた本に興味をそそられてしまい、そのまま姉を見逃してしまった。
春樹は渋々姉を諦める。
見つけた本を手に取ると、見た目の割には軽く、本は綺麗で高級感のあるものだった。
「なんだこの本…」
赤い表紙には"勇者の書"と書かれており、開けばいかにも怪しそうな内容が書かれていた。
中身はほとんど破けており、軽い理由はそれか、と納得する。しかし、肝心の勇者の書らしき術や、その他の召喚術などが破けており、唯一読めるのは日本語ではない何かが羅列している一ページのみだ。
「ここしか読めるとこないし…なんでこんなボロボロなの置いてあるんだろう…」
春樹は1度本を閉じ、本棚に戻そうとするが、その手を止め、持ち帰ることを決めた。
一度は迷ったものの、男子はいつだって憧れる勇者に心が揺らいだのだ。
本を片手に、借りようと受付まで持っていくが、その本をここでは取り扱ってないと言われ、終いには、見たことがないと言われた。
中身がボロボロなのもあり、誰かの捨て置きだろうと言うことになった。
処分するのももったいないと、春樹は持ち帰ることを伝えると、図書館を出て帰ることにした。
自宅に帰ると靴を乱暴に脱ぎ捨て、階段を駆け上がって自室に篭った。
バタン、と閉まるドアと同時に、本に対する興奮が湧き上がる。
「勇者の書…なんか怪しいけど、かっこいい…!!やっぱり男は憧れるよなぁ、勇者!」
本を左手で持ち、右手で1枚捲ると、突如として部屋に光が広がり、本のページが勝手に捲られる
「うわっ、まぶしっ…え、ええええ!!」
本はひとりでに宙に浮き、そこから1匹の白猫が飛び出した。
そして、本は春樹の左手に落ち着き、そのまま春樹は尻餅を着く。こうして冒頭へと戻るのだが…
「ね、ね、猫!?!?本から!?」
「やかましい」
驚く春樹へ白猫は肉球パンチを頬に食らわせる。ぶべらっと 倒れ込む春樹は涙目になりつつ、白猫を見つめた。
「しゃ、喋った…」
「当然だろう、私は__」
白猫が何かを言いかけようとした時、丁度部屋のドアが開き、そこには仁王立ちの姉の姿があった。
「何か騒がしいと思ったら…何これ、白猫?」
しかめっ面な美希、そして視線の先は白猫にあった
怒られるのかとビクビクする春樹だが、瞬きをする暇もなかった。
凄い勢いで美希が飛び込んできたのだ。
猫にめがけて一直線に。
「可愛い〜!ちょっと春樹どこで拾ってきたのよこんな可愛い白猫!毛並みもいいし、どっかのいい所の飼い猫みたいな…」
猫の頬に自身の顔を擦り付けたり、撫でたりする姉に、褒められたのが嬉しかったのは白猫は嫌がらなかった。
ただ、白猫は美希の対応はそのままに、「当然だろう」と言葉を続けた。
「私は誇り高き騎士のナイン・アルフォートだ」
かなり低めの声で、自慢げにそう言う白猫に、可愛がっていた美希がぴたっと止まる。
しかし、それを気に止めずに白猫は話し続ける
「それと、お前達は先程から私を猫だと言っているが、私は決して猫では…」
そういうと、猫…ナインは自分の手を見て、肉球を見て、美希同様に動きを止めた。