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004


「おう、月ちゃん。腕できた?」

「えぇ。此方に」


 屋敷牢から客間に移動して『太客』を迎える。太客の方も大して年の差はないようで、若い女だった。服装はこの屋敷に似つかわしくない――逆に言えば22世紀におけるこの国の若者に似つかわしい――洋服だった。

 差し出された義手の左腕を、爪の先から二の腕に至るまで見定めている。

「……うん。いいものだ」と言って顔をほころばせた。

「そりゃそうでしょうよ。封月ふうづき端月はづきの作品よ。よくないわけないわよ」

「そりゃ、ま。そーだわね」主の太客は軽口を受け流して、「ところで、その封月端月ちゃんはなんでお面なんかつけてんの?」

「あなたが『臭い臭い』言うからでしょ」

「てことはそれが煙草?! ひゃー、お洒落になったもんだね」

「煙草じゃなくて煙管だったでしょう、昔は。今はこれ、防毒面ガスマスク

「ガスマスク?! ガスと空気逆でしょうよ」けたけたと太客は笑う。主の横にいる俺は若干蚊帳の外だ。しかし、話を聞いている限り彼女は古い付き合いで、恐らく俺よりも主の過去に詳しい。

「んでんでんで? 隣の狐は誰さんかな?」

 笑いが収まると今度は俺の方に話題が飛んだ。

尾田切おたきりあかしです。封月端月のお世話係をしてます」

「……へぇ、ってことはさ、薬の量はもう一人で管理できない所まで来てるんだ」

「……俺は……」深い井戸のような瞳に迫られ、たじろぐ。言葉の真意も俺にはわからない。

「そうよ。」主は静かに、力強く断言した。「まさか私が末代だとは思わなかったわ」

「……末代か」太客は少しだけ遠くを見るような目をして、直ぐに元の顔に戻る。

「えーと、私は貝木椛。周波数調整員バランサーであり、服屋の店員であり、喫茶店で働くフリーターだよ」と自己紹介をした。

 周波数調整員か、なんとなく納得した。





 周波数調整員とは、22世紀の発達したネットワークとそれによって発生する浮遊バクテリアの霊素可視化現象について問題を解決する組織……だったはず。平たく言えば、『今まで存在出来なかった意識体が、拡大した周波数の領域に影響を与えるから、原因を解明しようとしている組織』。

「まぁ、有り体に言えば『ゴーストバスターズ』」太客、椛はけたけた笑う。

「……可視化現象は主の幻覚の呪いと似ているし、原因が解明されれば主も助かるのでは?」

「いやー、私もそう思ったんだけどねー。現代の幽霊は浮遊バクテリアが霊素を取り込んでホログラム的に可視化しているんだっていう仮説が立ってるけど、その時点で月ちゃんの幻覚と毛色が違っててさ、あと、『子供を産むと母親は呪いが消えて、娘に引き継がれる』って所も特異だし、まだまだ先が長いかもね」

「……そうですか」

「まーそう焦らないでよ、月ちゃんの幻覚は管理すれば害はないでしょ?」

「そうは言っても煙は――」

「麻薬。」俺の言葉を遮るように、椛は言い当てる。

「――っ!」

「……月ちゃんとは長い付き合いだからいろいろわかるよ。でもさー。だからこそだよ」椛は続ける。「幻覚を解明したところで、麻薬はまた別問題でしょ

 うまく幻覚の解明が進んだとして、月ちゃんはもう幻覚を見なくなります。でも、それとは別に煙への中毒性は周波数調整員では専門外です。

 ……でしょ? 月ちゃんのお母さんもまだご健在です。その右手には煙管があって、幻覚から解き放たれて20年経った今も紫煙を燻らせてる。幻覚と闘う治療薬として服用してるわけじゃない。中毒さ。

 煙草と一緒。

 私は幻覚について調べて友達を救う。でもその友達は愛煙家なだけ。そのタバコを管理するのが君なだけ」





 その後、昼食を食べ、他愛のない会話を主と交わし、夕方となる。

 椛は別れ際、『いろいろ言っちゃったけど、あくまで私の考えなだけだからさ、これからもよろしくね』と、そう言って義手の左腕を手土産に車に乗り込んだ。悔しいが何も言い返せない。


「さ、友人も帰ったことだし、屋敷牢に戻って薬を貰うわ」


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