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Spell:21









 挟撃、と言っても相手はこちらよりも人数が多い。そして、先ほど本陣深くまで私兵を入り込ませてしまったと言う事実がある。まず、こちらの解決が先だ。


「彼らが独力で防御魔法を破ってきたってことは?」


 ヒルデが尋ねるが、フレンは首を左右に振った。


「ありえなくはないけど、可能性は低いと思う。本陣の防御魔法は私がかけた。私は魔力が低いけど、魔法構成に関しては自身がある」


 つまり、無理やり破られたのであればフレンが気づくはずなのである。だが、気づかなかったと言うことはだれか魔法の内側にいたものが手引きした可能性が高い。


「まあ、だいたいの目星はついてるけど……」


 そう言って彼女は本陣の撤去を行ってる軍人たちを見た。


 もともと、裏切り者、というか間諜がいることは考慮に入れていた。だから、フレンやハインはマックスの側を離れなかった。事実上の総指揮官であるベリエスも、息子と娘を信じてそうさせた。なら、その期待に応えなければならないだろう。

 本陣撤去にあたって防御魔法も崩壊させた。敵に使われてはたまらない。フレンの足りない魔力を補うために、魔法陣を使用したので余計にだ。

 ヒルデの帰還に伴い、ゼルも戻ってきていた。多少ぐったりはしていたが、ここで倒れるほど軟ではなかったらしい。彼にベリエスへの伝達を頼んだ。周囲の索敵はフレンが自ら行った。彼女の魔力ではあまり広範囲の索敵はできないのだが、それでも周囲五百メートル以内に敵はいないと判断する。アティカを連れてくればよかったな、と思った。

 本陣は少し高いところに敷かれていた。そこから東に向かえば、現在主戦場となっている場所に出る。ハインにはマックスの側を離れないように頼み、ヒルデには指揮を頼んだ。フレンが様々な指示を出しているのは確かだが、ヒルデが戻ってきたのなら彼が指揮を執る方がよい。


 本陣のあった場所から離れた一行は、一度森の中で停止していた。フレンはハインを呼んで言った。

「ここから主戦場のあるところまで一帯に霧を出したい。手伝ってほしいんだけど」

「わかった。いいよ」

 ハインは二つ返事で了承した。霧を出すにはフレンには魔力が足りないが、ハインには技術が足りない。それを、二人で補うのだ。双子だからできる魔法でもある。

 フレンは右手を、ハインは左手を差し出して手をつないだ。空いている方の手を前に差し出す。フレンはその手に杖を持っていた。

 声を合わせて呪文を詠唱する。魔力を同調させ、循環させる。ゆっくりと地面から冷気が漂ってきた。やがてその冷気は霧として森を覆っていく。


 視界が確保できないほど濃い霧にはしない。ただ、かく乱させることができればよい。視界が不明瞭であると言うことは、人に不安感を与える。

「協力ありがとう」

「いや、これくらいはね」

 ハインは微笑んでうなずいた。フレンの肩をたたき、ハインは配置につく。フレンがヒルデに向かって合図を出すと、ヒルデは「前進!」と声をあげた。

 フレンは馬に飛び乗り、ハインとマックスに向かって手をあげた。戦闘力面ではフレンよりハインの方が信用できるのでハインにマックスの側にいてもらう。ゼルもマックスの側だ。

 ヒルデは逃げ去って行った私兵たちを追うように追撃し、マックスはさらにその後ろをついて行く形だ。ヒルデよりも優れた剣士であるハインを後方に下げることになるが、マックスの身の安全が優先である。

 一方のフレンは、正規軍人を二人連れて戦場を突っ切っていた。小柄ながら存在感のある総司令官を見つけ、フレンは声を張り上げる。


「父上ーっ」

「ん!? フレンか! どうしたの」


 圧倒的に人数が不足しているので、ベリエス自身も戦場に立っていた。青い軍服を返り血がまだらに染めていた。魔導師同士の戦いであっても、間近に迫れば剣を使った戦いになる。剣に魔法を乗せ、たたききるのだ。何も火炎や氷を出すだけが魔法ではない。

 従軍魔導師は鎧を身に付けないものが多い。下手に鉄の鎧で身を覆うより、強化魔法を自分の身にかける方が防御になるのだ。

 それはともかく、フレンは自分に向かってきた私兵を杖で馬から叩き落とすと、ベリエスの近くに馬を寄せた。

「伝令の通り、陣を撤去しました。殿下はハインと一緒です。ヒルデは挟撃すべく、五十名を率いて背後に回っています」

「あ、あっち側にいるんだね。だから戦場を突っ切ってきたんだ」

 戦いの真っただ中にあると言うのに、ベリエスはどこかのんびりとした様子で言った。


 ついに霧が、この戦場を完全に覆った。剣戟の音も魔法を発動する音もあまり聞こえない。視界が悪いので、同士討ちになる可能性があるからだ。ベリエスも声を張り上げて、いったん軍を下げた。


「で、フレン。どうかした? 君が直接来るってことは、何かあったんでしょ」


 さすがにベリエスは話が分かる。


「正規軍の中に間諜がいる。わかっていたことだし、目星はついているけど……」


 身を乗り出してフレンはベリエスにささやいた。さしものベリエスもわずかに顔をしかめた。

「こっちの動きは向こうに筒抜けってことだね。まあ、想定していなかったわけではないけど」

 やはりベリエスもフレンと同じことを考えていたらしい。陣が破られたと言うことはその位置を知らせたものがいて、手引きした者がいるのだ。

 その時、白い霧を突き抜けて雷魔法が突き抜けてきた。ベリエスとフレンが同時に険を引き抜く。この距離では障壁が間に合わないし、二人の魔力ではこの貫通力の高い魔法を受け止めることはできない。

 ならば、と。二人が考えたことは同じだった。フレンは右手をそのまま後ろに引き、ベリエスは左肩後ろにまで剣を引いた。


 ざん、と風を切り裂く音が聞こえた。ほぼ同時に振りぬかれた父娘の剣は、向かってきた雷魔法を切り裂いた。


 魔法破壊である。これが行えるのは、マルシャル帝国広しと言えどもこのヴァルトエック公爵父娘だけだ。すなわち、ベリエスとフレンの二人だけである。フレンの双子の片割れであるハインにも、できない。

 とはいえ、フレンが使う魔法破壊はベリエスのものほど完全ではない。魔法破壊は剣の技術ではなく、魔法の一種である。この二人の魔力が低いのは、この魔法破壊と言う特殊な魔法があるからかもしれない、とフレンはひそかに思っているが定かではない。


 雷魔法は二人に直撃しなかったが、代わりに霧を一掃した。むしろ、こちらを狙ったのだろう。ヴァルトエック公爵が魔法破壊の使い手であると言うのは有名な話だ。

 ハンナヴァルト公爵の私兵の姿が見えた。あちらもこちらを視認したのだろう。知覚魔法をかく乱する魔法も同時に解けてしまったようだ。


 だが、それも想定内。


 フレンは剣を鞘に納めると、杖を持ち直した。杖を掲げると、その杖先から花火が上がった。合図である。氷の矢がハンナヴァルト公爵軍に襲い掛かった。

「……えげつないね」

「父上に言われたくない」

 だが、自らが手を汚すよりも、こうして策略をめぐらせて敵を一網打尽にするフレンの方がえげつないのは確かかもしれない。とも思った。


 そのとき、歌が聞こえた。精神感応魔法を乗せた歌声だ。遠目にも、氷の矢を免れた私兵たちが倒れていくのがわかる。フレンは「へえ」と驚きの声を上げる。

「粗削りだけど、力強い魔法だ」

 やや力技なところがあるが、精神感応魔法としては上出来だ。


 ハンナヴァルト公爵軍の私兵たちが完全に戦意喪失したころ、歌声が止んだ。しばらくしてハインとマックス、ヒルデたちが合流してくる。

 ハインが魔法使用防止用の手錠を引っ掛けて連れてきたのはヒルデの同期、ベルンハルトである。彼を見て、ヒルデが顔をしかめた。


「お前、皇太子殿下にはむかうとは、思い切ったことをするな」


 呆れているのか感心しているのか。双方の感情が入り混じったような口調だった。正確にはマックスではなく、その背後にいるベリエスに、と言うことだろう。確かに、フレンも父は敵に回したくない。

 ベルンハルトはすねたように顔をそむけた。彼はフレンたちと共に本陣にいたのだが、彼が私兵たちを手引きしたのだ。

「フレン。どうしてわかったの?」

 マックスに首をかしげて尋ねられたので、答えた。

「見ていればわかります。お忘れかもしれませんが、私には若干ですが、精神感応魔法の素養がありますので」

 この精神感応魔法と言うのが曲者で、後天的に身に着けることが難しい。ほとんどが先天的なもので、フレンにも多少ある。

 とはいっても、フレンの精神感応魔法は「あ、こいつ、嘘ついてるな」とわかる程度のものだ。この程度、よく表情や動作を観察していれば、魔法がなくてもわかることだ。

 だが、マックスはフレンが精神感応魔法があると言うことで納得したらしい。実際には、陣の天幕が襲われた時、ベルンハルトは天幕内にいなかったし、フレンの精密な防御魔法をすり抜けさせることができるような魔導師は、あの場に彼ぐらいしかいなかった。さらに言うなら、あの時周囲の索敵を任せていたのはベルンハルトだった。


 最も、フレンは確信犯的なところがあり、ベルンハルトが本陣を襲うように仕向けている節もあった。まあ、彼女の魔力が足りなくて陣の防御が足りなかったのは事実であるが。

 ベルンハルトとは学生時代からの友人であるヒルデは微妙な表情をしていたが、差し迫った状況なので何も言わなかった。

「まあそれはともかく、私兵たちはどうする? 捕まえておく?」

 ハインが尋ねた。意見を求められたフレンはベリエスを見るが、彼も彼女を見つめ返していた。丸投げする気だ、こいつら。

「……放っておく」

「挟撃されないか?」

 たった今挟撃を行ったばかりのヒルデも言った。フレンは「そうだねぇ」と言葉を返す。

「たとえ追ってきても、私たちの邪魔にはならないよ。それに」

 フレンは不敵に笑った。

「追うと言うことは、自ら罠に飛び込むことに等しい」

 彼女の笑みを見て、男どもは引いた。

「お前、怖いわ……」

 代表してヒルデが言ってのけた。とりあえず、馬にまたがったままフレンはヒルデを蹴っておいた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


双子の魔法とか、魔法破壊とか、私の趣味を詰め込んだ感がすごい。

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