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Spell:2

本日2話目です。








「お姉様だっているでしょ! 素敵な婚約者が!」

「あんな奴、欲しけりゃいくらでもやるぞ」


 一応、公爵家の長女としてフレンも婚約者くらいはいる。だが、皇太子と仲の良いティアとは違い、フレンは婚約者と仲があまりよくないのだ。いや、悪いわけでもないのだが。

 なんというか、彼とそう言う関係になるのが想像できないのだ。どちらかと言うと、気の合う友達……いや、腐れ縁だ。


 だから、政略結婚で一緒になれと言われたら一緒になるが、彼に好きな人がで来たのだとしたら、婚約者の座を譲り渡すことはいとわない。

「何言ってるのよ。あれだけ仲よさそうにしておいて!」

「仲よさそうと言うのは、お前と殿下のような関係を言うんだ」

 空になったカップをテーブルに置き、フレンは腕を組んだ。ティアと皇太子ははた目にも微笑ましい関係である。交際関係を示唆されてティアはぱっと赤面した。こういう可愛げが、ティアにはある。フレンとは違うところだ。

「ななな、何言ってるのよお姉様っ」

「本当のことだ」

 彼女に嫌がらせをしている令嬢たちだって、二人がお似合いであることは認めざるを得ないだろう。何かとティアの方が年上であることが指摘されるが、一歳差などあってないようなものだ。


「わ、私のことはいいのっ。お姉様のこと!」

「ほお。聞いてやろう」


 上から目線で偉そうに言うが、ティアは気にせず話しだす。とにかく、話せれば何でもいいのだろう。相手が聞くと言っているのなら願ったりかなったりだ。

「ゲームでは、選ぶ相手によって結末が違うんだけど、ライバルキャラは死んだり投獄されたり追放されたり幽閉されたり、そんな結末になることが多いわ」

 たまに、ヒロインと友達になって~っていうのもあるけど、とティアは付け加えたが、口ぶりからして前者のパターンが圧倒的に多いのだろう。


「いくつかパターンがあるけど、私は追放か投獄ね。そして、お姉様は場合によっては処刑されるのよ……」

「ほお」


 フレンは腕を組んだままうなだれるティアを見た。


「私を殺せると言うのなら、やってみてほしいものだな。自分が死んだらどうなるのか興味がある」

「お姉様らしい言葉だわ……」


 ティアが顔をゆがめながら言った。恋愛小説などでもヒロインの恋敵が追放されたり領地に幽閉されたりと言う展開は多いが、さすがに死ぬ、と言うのはめったにない。

「ティア」

「何……」

 フレンはティアに近寄り、彼女の頭を撫でた。


「未来は誰にもわからない。お前が前世で見たと言う世界と、ここは似ているかもしれない。しかし、同じだとは限らないだろ。お前はともかく、私の性格が恋敵に向いているとは思えない」

「……そうだね」


 否定できなかったのか、あっさり肯定された。しかし、それを気にするフレンではなかった。

「そもそも、私は前世なんて信じてない」

「ここまで話を聞いておいてそう言うのね!?」

 ティアがツッコミを入れてきた。調子が戻ってきたようだ。さらに駄目押しをしてくれようか。

「それに、うちの父上が私たちに何かありそうになって黙ってるはずがないだろ」

「! ああ!」

 ぽん、と手を打ってティアが納得した表情になった。顔にも笑みが浮かんでいる。

「それもそうね!」

「……」


 これで納得されることに、フレンは父の偉大さを感じた。偉大さと言うか、恐ろしさと言うか。いや、別に怖い人ではないが。


「わかったなら、昼食に行くぞ。さすがに腹が減ったからね」

「うん!」

 ティアが立ち上がり、マグカップを片づけ始めた。フレンは椅子に掛けた上着を羽織り、身の丈ほどの銀の杖を持つ。

「行くよ。昼を食いっぱぐれる気はないからね」

「はーい」

 ティアが元気に返事をしてついてくる。突撃してきたときはどうしたものかと思ったが、元気が出たようで良かった。
















 入学式から三日。すでに本格的な授業が始まっているが、その日は午前中だけで授業は終了だ。翌日は休みになる。基本的に、この学園は五日間の全日授業と一日の半日授業、丸一日の休みの構成で回っている。


 そんな授業が終わった午後。休みとあって生徒たちのテンションが高いのは当然であるが、それだけでは説明できない熱狂がそこにはあった。近くで起きた魔導師の小規模テロの鎮圧に駆り出されていた生徒たちが帰ってくるのだ。


 予備軍人であるこの学園の生徒は、こうして時々実戦に駆り出される。魔導師が足りない非常時が多いが、こうして現場が近い時も駆り出されることになる。ここは帝都の外れにあるので、帝都の中央から魔導師を派遣するよりもここから派遣した方が早いのだ。

 もちろん、動員されるのはすでに成人に達している第四学年以上の生徒だ。今回の場合は、学年が変わってすぐに派遣要請が来たので、第五学年以上の生徒で構成された部隊になる。


 動員する生徒は、その成績や能力によって選ばれる。魔力があまり強くないフレンは、ほとんど動員されたことがなく、こうして帰ってくるときは出迎え、出発するときは見送るのが役目となっている。


「お姉様」


 ティアが駆け寄ってきた。動員部隊が戻ってくる時間の少し前の正面玄関だ。古風な城の様相をしているこの学園は、正面玄関がエントランスになっていた。そこには、午後休みとなった生徒たちが集まっている。みんな、帰ってくる仲間たちを出迎えようとしているのだ。

「……メルは一緒じゃないのね」

「実験が一区切りしたら来ると言っていたわね」

 人目があるので、フレンは言葉に気を付けながら言った。ティアは「ふうん」とうなずき、それ以上気にしていないようだった。代わりにぴょこっと生徒たちの隙間から玄関を見ようとする。

「お兄様、帰ってくるのね」

「あと四日早く帰ってきてほしかったけどね」

「ああ……お姉様、代わりに入学式に出たもんね」

「慣れないことはするものじゃないわ」

 本来なら、入学式の挨拶はフレンではなく、フレンの双子であるハインリッヒ・シェーンハルスがするはずだった。ハインリッヒ(以下ハイン)とフレンは男女の双子であり、ハインはヴァルトエック公爵家の跡取りでもある。そして、この学園の生徒会長でもあった。


 生徒会長は成績で選ばれるわけではないが、彼は魔法、戦闘力、座学、全てにおいて優秀な男で、第六学年の首席だ。ちなみにフレンは次席であるが、魔法に関してはどうしても魔力が足りず、あまり成績が良くない。しかし、次席であることに変わりはないので、ハインが動員されている今、フレンが代わりに入学式で挨拶を述べたのだ。

 実力が抜きんでているハインは、よく動員メンバーに組み込まれる。それは、第六学年で生徒会長であっても変わらないだろう。むしろ、より多くなる可能性が高い。この学園で優秀な成績を収めていると言うことは、将来を約束されたも同然だからだ。事前に経験を積むために、長期間学園を空けることも出てくるだろう。


 より外に近い玄関口で「きゃあっ」と女子生徒の悲鳴が上がった。悲鳴と言っても、嬉しそうな、黄色い悲鳴だ。ティアが「お兄様かな」とつぶやく。

「たぶんね。見てくるよ」

 フレンはそう言って羽織っているマントをひるがえし人垣をかき分けて戻ってきた動員部隊の前に出た。一番前にいた今回のリーダー、つまりハインが自分の片割れを見て笑みを浮かべた。ちなみに、両親が教えてくれないのでハインとフレン、どちらが上かはわからない。

「戻ったよ、フレン。留守番ありがとう」

「ええ。お帰りなさい。無事なようで、よかったわ」

 フレンが小さく微笑んでそう言うと、ハインは少し身をかがめて彼女の両頬にキスをした。いつも通りの挨拶だ。


 二卵性であるが、ハインとフレンはよく似ている。二人とも青みがかった黒髪で、中性的な美貌だ。さすがに鏡に映したように、とはいかないが、一目で双子とわかるくらいには似ている。小さいのころはもっと似ていたが、間違えられることはなかった。目の色が違うからだ。ワインレッドの瞳をしているフレンに対し、ハインとついでにティアは紫の瞳をしていた。今となっては体格も違うし、間違われると言うことはない。顔は似てるけど。


「入学式の挨拶、任せてしまって悪いね」


 ハインが柔らかい声音で言った。そして、表情もハインの方が幾分柔らかい。そのため、ハインは良くモテる。まあ、例によって彼にも婚約者がいるのだが。

 フレンは並んで歩くハインを見上げて「そうね」と素っ気なく言った。

「慣れないことはするものじゃないわね」

 ティアに言ったことと全く同じことを言うと、ハインは「ごめんね」とフレンの頬を撫でた。まるで恋人同士のようなやり取りであるが、顔がほぼ同じなのでただの双子の戯れだとすぐにわかる。

 どうでもよいが、学園の制服と、外に出て軍事行動を行う時の軍服は別物になる。学園卒業まで色は一律赤で、左腕の部分には校章が入れらているが、制服と軍服はあくまで別デザインだった。ボレロである制服に対し、軍服は同じく前は開いているものの、はためかないように胸のあたりと腰のあたりで緩く止められるようになっている。何度も言うが、締めているわけではないので下に着ているシャツが見えている。そして、裾も長い。


 その軍服を見事に着こなしているハインが大人数の出迎えの生徒の中に、たった一人の少女を探していることに気が付いて、フレンはふっと笑った。

「メルなら実験中よ。ひと段落したら来るって言っていたわ」

「そう……よかった。まだ生きてるんだね」

「定期的に様子を見に行っているもの」

 ツッコみどころ満載な会話を繰り広げる双子の前に、「きゃっ」と悲鳴をあげた女子生徒が一人倒れ込んできた。床に倒れたそのはちみつ色の髪の女子生徒に、ハインが習性として片膝をつき、手を差し出した。

「大丈夫? 怪我はない?」

「は、はい……っ」

 女子生徒は大きな空色の瞳を潤ませ、頬を上気させてハインの手を取った。珍しい反応ではない。顔立ちが整っているハインだ。そして、この紳士的な態度でファンは多い。

 フレンは女子生徒の右腕のエンブレムを確認する。左腕と胸には校章がつけられるが、右腕には学年ごとに違う学年章がつけられるのだ。そのエンブレムから、フレンはその女子生徒が第四学年であることを知った。


「人が多いから気を付けるんだよ」

「はい……っ。ありがとうございます」


 立ち上がった女子生徒は頬を赤らめながらもすぐにその場から下がった。光景としては珍しくなかったので放っておいたが、あとからフレンはティアにつかまることとなる。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ヴァルトエック公爵家の三兄妹は結構仲良しです。ちなみに、フレンとハインはどちらが上か決まっていません。両親が決めていないので。


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