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Spell:13










 フレンがその現場を目撃したのはたまたまだった。


「……何してんの」


 廊下の壁際で、ハインが女の子を一人かばいながら、多数の男子生徒に囲まれていた。ハインはフレンを見つけてパッと顔を明るくした。


「フレン! ちょうどいいところに! これ何とかならない!?」

「……」


 これ、とは、ハインたちを囲んでいる男子生徒か。注意して見てみると、どうやら女の子が男子生徒に言い寄られているらしく、ハインはそれをかばっている状態か。なるほど。これが世に聞く『逆ハーレム』状態か。フレンは妙なところに感心していた。


「フレン!」


 ハインが急いでくれ、と言わんばかりに再び声をあげた。フレンは面倒だな、と思いつつも男子生徒たちに声をかける。

「ちょっと。迷惑してるんだからやめなさい」

 強めの口調で言い、一番近くにいた男子生徒の肩を強引につかむが、振り払われた。こちらには目もくれない。

「……ん?」

 そう言えば、少し前にもこんなようなことがあった。状況は少し違ったが、似ている。何が、と言うと、男子生徒たちの目の焦点が合っていない。それに、おそらくこれは、オスカーの時と同じ。変なふうに魅惑魔法がかかっているのだ。

 どうしようか。オスカーの時のように時間をかけて解除して行くような暢気な方法は取れない。と、なれば。

「ハイン。ちゃんと証言してね。私は彼らに危害を加えるつもりはない」

「え、うん」

 よし。言質はとった。フレンは足元に魔法陣を立ち上げ、魔法を発動した。ばたばたと重なり合うように男子生徒たちが気を失った。

「……フレン、相変わらず容赦ないね」

「私の言うことを聞いてくれそうになかったからね。それより、その子は大丈夫なの」

「ああ、そうだった。大丈夫?」

 ハインがかばっていた少女に声をかける。腕に囲っている状況で、抱きしめているようにも見えた。メルに話してやりたい気もしたが、そこまで意地の悪いことはできないな、とも思った。メルが傷つくかもしれないから。


 しかもよく見ると、その子はティアの同級生である件のローゼマリーだった。ティアなら『自作自演!』くらいは言いそうな状況である。

「はい……あの、ありがとうございました」

 殊勝に礼を言うローゼマリーは可愛い。基本的に可愛げのないフレンは、演技だとしても彼女のかわいらしさはちょっとうらやましい。

 フレンは足元に転がる男子生徒たちを杖の先でちょんちょんとつついた。魅惑魔法が変なふうにかかっているのはわかるが、原因がわからない。

 フレンはちらっとローゼマリーを見た。この状況では、調べたほうがよさそうだ。

「ねえ、あなた」

「えと……あたし、ですか?」

 頼りなげに眼尻を下げてローゼマリーが応じる。フレンは無表情のままうなずいた。

「ええ。あなたよ。名はなんと言ったかしら?」

 一応知っているが尋ねておく。彼女の中ではフレンとは初対面であるはずだからだ。

「あ、第四学年のローゼマリー・ファティと言います」

「そう。ローゼマリーね。私は最終学年のフレン・シェーンハルス。ちょっとあなたの魔力について調べたいんだけどいいかしら」

 直球で尋ねると、ローゼマリーがぽかんとした。ハインも「いやいやいや」と止めに入る。


「フレン。それだと怖いから」

「遠回しに言っても結局は同じだわ」


 調べることに変わりはないのだから、最初から正直に言った方がいいだろうと言うフレンの考えである。


 だが、確かにローゼマリーはおびえた表情をしている。一応、フレンも社交界に身を置く令嬢の一人なわけで、男性の気を引くためにこういった仕草をする女性がいることを知っている。知っているが、普通に考えて『調べたい』と言われたら怖いので、これが演技なのかは結局わからなかった。

 しばらくして、騒動を聞きつけた教師陣がやってきた。はっきり言って、遅い。気絶して積み重なっている男子生徒たちを見て、やはり「やり過ぎだ」とフレンは言われたが、ハインとローゼマリーが「仕方がなかった」と証言してくれたので何とか罰則などは食らわずに済んだ。次やったら反省文と言われたけど。そもそも、フレンの魔力で魔法を使っても、魔力の強い彼らにはほとんど影響はないと言うのに。信用がないと言うか、逆に信用されているのかもしれないけど。

 フレンは教師陣を説得して、ローゼマリーの魔力を調べる許可を得た。論文の参考にしたいと言ったら許可をもらえた。ローゼマリーの体調に憂慮して、メルを同伴させることが条件だったが。

「知っていると思うけど、私はあまり魔力が強くないから、あまり強力な魔法を使わないでくれると助かる」

「き、気を付けます……でも、あたし、あんまり魔法のコントロールが……」

「そう言う時のために私がいるから大丈夫」

 と、魔力はばっちりあるメルが元気に答えた。結局、フレンは彼女にハインがローゼマリーを腕に抱いていたことを言っていない。聞かれなきゃ言わないつもりだけど。

 ローゼマリーが不安そうに訓練場の中央で魔法を発動させた。フレンの要望により、精神感応魔法だ。幸いと言うか、フレンもメルも精神感応魔法が効きにくいので、本当に計測するだけだ。メルは単純に魔力が強いためだが、フレンは同系統の魔法による耐性だ。


 ふわっと魔法が放出される感覚がした。フレンは計測用の魔法を使い、その魔法の波長を記録する。一応計器も使用したが、フレンはどちらかと言うと自分の魔法で計測する方を信用している。

「よし。ありがとう。もう少しだけ付き合ってくれる?」

「はい」

 ローゼマリーに許可をもらったので、ついでに攻撃魔法等も計測したが、こちらはフレンだけでは暴発を防ぎきれなかったので、メルがいてくれてよかった。つまり、ローゼマリーは魔法を暴走させたと言うことだ。平謝りされたが、全員無事だったのでよしとする。

「フレン様……男前ですね……」

「何故かよく言われる」

 ローゼマリーの言葉に、フレンはそう返した。本当に、何故だろうか。

 必要な計測を終えて研究室に戻ると、メルもついてきた。彼女の研究室とは違い、整頓された部屋のソファに遠慮なく座ったメルは単刀直入に尋ねた。


「で、ローゼマリーはどうだったの? 魅惑魔法の持ち主?」


 あれだけ可愛ければ魅惑魔法を使ってなくても魅惑されそうだよねー、とメルは笑った。相変わらず令嬢らしくない。フレンもそうだけど。


「解析できる限りでは単純な精神感応魔法の持ち主に見えるんだけどね」


 魅惑魔法は結構特殊なのだ。精神感応魔法の持ち主ならある程度再現できるが、やはり個人の能力によることろが大きいのは否めない。なので、計測が難しいのである。


「だけど、個人的な見解を述べるなら、彼女は魅惑魔法の持ち主だな」


 完全に主観なので報告はできないが、可能性は高いと思う。そうであれば、先日のあの異様な光景に説明がつく。ローゼマリーの魅惑魔法に当てられた男子生徒たちが彼女を口説こうとしていたのだ。ハインに魅惑魔法が効かなかったのは、彼は精神感応魔法に耐性があるためだ。双子とはいえ、ハインとフレンの魔法傾向は違っているが、そもそもハインは魔力が高いのであまり魔法が効かないのである。

「へえ。そう判断する根拠は?」

 やはりメルも研究者なので、根拠を大事にする。フレンは彼女にコーヒーを出して言った。

「おそらく、彼女の魅惑魔法は彼女が『好かれたい』と思う相手に対してしか発動しないんだ」

「それ、根拠になってないわよ」

 フレンは自分の分のコーヒーを注ぎ、椅子をメルが座るソファに向けてそれに腰かけた。

「精神感応魔法とは、眼に見えないな」

「そうね」

 メルが相槌を打つ。フレンはコーヒーに視線を落とし、言葉を考えながら口を開く。


「精神感応魔法を表現するなら、波動だ。まあ、通常の魔法であっても波動は感じられるが、精神感応魔法の不可視の波動は通常の魔法の波動とは波長が違うんだ。特に、魅惑魔法は独特の波動になる」

「なるほどなるほど」


 うなずきながら、メルはコーヒーに角砂糖を二つ入れた。スプーンでくるくるかき混ぜている。

「どんなに隠しても、その独特な波長を感じるんだ……まあ、私にしかわからないのかもしれないから、確実とは言えないけど」

 これまで、何人かの魅惑魔法の持ち主に会った。どんなに隠していても、その能力を完全に隠すことは不可能だ。特に、特徴のある魅惑魔法は、魔法の波動でそれがわかってしまう。

 まあ、ハインやメルをはじめ、ヒルデやティア、それどころか魔法研究家として名をはせている母カティに聞いても、その感覚はわからないらしい。


 だが、父ベリエスはわかる、と言っていた。だから、おそらくその個人の持つ感受性の問題なのだと思う。


 これはフレンの主観であるので、根拠とはならない。


「へえっ。ヴァルトエック公爵にもわかるんだ。じゃあ、血筋? それとも、魔力が低いのはその影響?」

「いや、知らないし」

 興味津々のメルに対し、フレンは少し引き気味に答えた。メルの目が無駄にキラキラしている。

「いいなぁ。調べたいなぁ」

 そう言えば、こういうのはメルの専門範囲だったか。彼女にかかれば本気で生きたまま解剖されるかもしれない。

「……メル。さすがの私も怖いわ」

「ええ? そう?」

 フレンもそうだが、やっている方はその脅威の度合いに気付かないことが多いのだ。ただの好奇心だから。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


フレンは面倒見がよいという設定なのですが、どっちかというと侍女っぽい……。


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