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もう魔王やめます。  作者: まさきえき
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序章:ここはどこ?03

序章:ここはどこ?03


 前略、見ず知らずの誰か。桜花も散り葉桜の候となりました。いかがお過ごしだったでしょうか。

 今回、貴殿に来ていただいたのは他でもない我の代わりに魔王へと就任し大業を成し遂げてもらいたいと願い召喚いたしました。勝手なこととは思います。貴殿も混乱していることでしょう。しかし、我にも譲れぬ事情があり強引な手段をとらせていただきました。まず、寿命が尽きかけていること。命を狙う勇者が我が居城に迫っていること。その勇者が我の天敵であり、今のままでは到底勝つことなどできないということ。他にも細々した理由はございますが、大きく言うとその3つが理由となります。

 貴殿にはぜひ、我が身体を使って勇者を抹殺してもらう、もしくは身代わりになっていただきたいと考えています。もしこの手紙を読む余裕があればステータスオープンと念じてみてください。ご自分のスペックを見ることが出来ると思います。また、ささやかではございますが一つ鑑定のスキルを進呈させてもらいましたので、試してみることをオススメします。

 では、貴殿のこれからの御健勝とご多幸を彼の地よりお祈り申し上げています。長文駄文失礼いたしました。元魔王より。



 ・・・・・・・・・なんだこれ?


「あの・・副官さん。この中身は知ってる?」

「いえ、存じません。」

「え?あ、そうなんだ。」

「はい。」


 あれ?え?混乱してて頭がついていかない。夢じゃないってこと?召喚?どこに?


「あの、ここってどこ?」

「魔王城ですが。」

「もう少し詳しく頼むよ。」

「ミーディア大陸の北東に位置するピオーネ山脈に囲まれた場所に魔王城はございます。」


 はい、それどこよ!?ドッキリか?そんな大真面目な顔で言われてもな。いきなり召喚で魔王ってかジジイになってるなんて信じられんって・・・。角まであるし、飾りかなコレ。恐る恐る撫でてみる。ヤバイぞ、触感がある。ってことは神経が通ってるってことだ。そんなバカな、いつの間にか人類を辞めてた?いやいやいやいや、マジか。


「魔王様?」


 おっと副官さんが俺を不審そうに見ている。ってか美人に見つめられるなんて経験これまでないから、ドキドキが止まらんから、あんまり見つめないで。


「ゴホン、あぁ大丈夫。何でもない。ところでここには・・・その、他に部下とかいないのかな?」

「主だった者は魔王様が勇者が来る前にお暇を出されています。最低限城にいた兵はすでに勇者によって殲滅されています。残りは私のみ49体です。」

「そうか、もう副官さんだけか・・・ん?49体って?」

「私はエルフと魔族のキメラですので、素体をもとに複製体が49体残っています。」

「49ってまた微妙な数字だな。」

「先ほどの攻撃で1体停止状態になりましたので。」

「・・・停止?死んだってこと?」

「生命活動は停止していますので、そういうことになるかと。」

「いやいや、そんな馬鹿な。そういえば耳は長いみたいだけど、君が49人もいるなんて。」

「工房へ確認に行かれますか?」

「お、おう。確認に行こうじゃないか。」


 淡々と答える彼女に何だか気圧されるように、問いかけられ反発心から行くって言っちゃったけど大丈夫かな?よくよく見るとこの通路も10mほどの幅に高さだ。暗く明かりも少ないこの通路は生活に使うためじゃなくて防衛目的に兵が詰めやすいようにされている。もちろん、それは相手にも利点なんだろうけどガランとした通路は居心地の悪いことこの上ない。ところどころ石像も壊れ落ちていて、知らずに来たら廃墟だな。


「せっかくの石像も壊れてて残念だね、立派だっただろうに。」

「ガーゴイルでは勇者の足止めにもなりませんでしたからね。」

「あっそうなんだ。」


 これが有名なガーゴイルなのね。ってこんな硬い石の化物を物ともしないのが勇者か。

・・・帰ってくれてよかったぁ!!副官ちゃんの言うことを信じるならトンデモナイ戦闘力を持ってることになるな。俺なんかじゃ瞬殺されてたな。

 いくつか通路を抜け、行き止まりの壁の前に来ると副官さんはその壁に向けて手をかざす。手の甲に小さい円形の光の・・・文字列?あぁ魔法陣みたいなやつだ!っと感動してるとどういう原理かわからないが壁が消えて通路が現れる。


「す、凄いものだなぁ。」


 あまりのことに立ち尽くし感嘆の言葉を口にする。副官さんは答えずに先に進む。副官さんはクールビューティだ。俺が問いかけない限りあまり自分から話すことはない。だが前を歩く執事服姿の尻を見てると熱くたぎるのを感じる。それほどまでにいい尻だ。うん、それだけは間違いない。せっかく前を歩いてくれているんだから、堪能しよう。


「魔王様。」


 尻が止まった。尻を凝視する俺を見る副官さんの目がなんとなく冷たさが増し増しな気がする。すいません、すいません。心の中で土下座しつつ自然に会話を続ける。


「着いたのかな?」

「はい、こちらが私達です。」


 顔を上げ、息を飲む。きっと副官さんにもゴクリという音が聞こえただろう。透明なケースに緑色の液体が満たされその中に漂う副官さん達。どういう原理かわからないがここで培養されているというのは本当のようだ。この肌の質感や同一の顔、なによりスタイルが抜群だ。やばい、鼻血出そう。下半身もエレクトしっぱなしだ。


「いかがなさいましょう。」

「いかがとは?一度に動かせるのは1体のみです。意識共有は出来ませんが、記憶の共有はアップデートの際に行えます。先ほどのように突発的に消滅すると難しいですが。」

「いやいや、それだと君はどうなるの?」

「次の個体に記憶を譲渡、共有したのち停止します。」

「停止って、死ぬってことでしょ?」

「生命活動は停止します。」

「死ぬってことやん、ダメダメ。今のままで十分です。」

「そうですか、では私に何かあった場合は予備があることだけご理解ください。」

「・・・あぁ、うん。」


 なんかそういうドライな考え方って苦手だなぁ。ロボットっぽいし、って複製体だからそんな考え方になるのか。副官さんの表情は読めない。何も考えてなさそうにも見えるし何か諦めているようにも見える。なんだろうな。とりあえず俺は何をすればいいのか。

 勇者はとりあえず追い返した。年取った体で寿命が近い・・・ってどうやっても死ぬんじゃん!!何やってくれてんだよ、元魔王様。詰んだわ~~。いや、諦めたら試合終了だよね。何か手があるかもしれないし、望みは薄いが捨てるわけにもいかんよね。


「副官さん、勇者は追い返したけど、とりあえずどのくらい時間が稼げてるのか分かる?」

「ここから、一番近い村でも魔王城まで半月はかかります。再度勇者が鍛え直すことを考えると2-3ヶ月がせいぜいでしょう。城内の罠を再度設置し直してもあまり意味はないと考えます。」

「ここから勇者が一瞬でいなくなったのは魔法か?」

「はい、転移の魔法を使ったものと思われます。ただ、こちらから出ることは出来ても侵入することは難しいと思います。侵入するには魔王様の防壁を力ずくで突破する必要がありますが、あの勇者達全ての魔力を合わせても不可能だと試算します。」

「はい。ただし。」

「ただし?」

「現在の魔王様のお力は著しく低下しているようですので、防壁を貼り直すことは不可能だと考えます。」

「そ、そうか。力が落ちているのか。」


 そりゃそうか。それを貼ったのは前の魔王だもんな。俺じゃない、貼り方もわからんし。2-3ヶ月が俺の猶予か。これは困った、短いのか長いのかもよくわからん。その間に何か手立てが見つかればいいんだけど。







 とりあえず、一人にして欲しいと言い寝室に篭っているわけだが。俺は一体どうしてここに来たのか。召喚だってことは手紙に書いてあったが何で俺なんだ?手紙には見ず知らずの誰かと書いていたってことはランダム・・・?

いやいや、でもなぁ・・・身代わりなら誰でも?嫌な想像しか浮かんでこないな。本当に適当に?グルグルと頭の中にそんなことが渦巻いていく。

 俺は帰れるのか?ここで死んだらやっぱり死ぬんだろうか。多分死ぬんだろうな、元魔王っていうくらいの人が身代わり置いて逃げるくらいだからそこは揺るがないと考えたほうがいいか。死なない為にどうすればいいか、勇者が殺しに来るんだから勇者を懐柔するか?いや、ダメだ。懐柔するほどのメリットを提示できん。何も持ってないし、副官さんがいるくらいだ。副官さんのコピーを一人・・・いやいや人道的にダメってか一人しか同時に動かせないならダメだろう。あの勇者が帰ったのは雰囲気に飲まれたからだろう。次に来るときは絶対の自信と不退転の決意を持ってくるはずだ。よもや懐柔できるとは思えない。頭は悪そうだったが。

 さて、逃げるのはどうか。ここは山脈に囲まれているだけあって天然の砦であると同時に魔王城ということで防衛には持って来いだが、この周囲の地形もわからんし、何よりこのジジイの身体じゃ逃げ切るのは無理か。実は階段を上がるだけでも息が切れたんだが、副官さんに格好悪いところは見せられないので頑張った。その程度で息が上がるのに逃げたり戦ったりは無理だろう。瞬殺されちゃう。


「地図はここに広げておきます。」

「あぁ、ありがと・・・うおぉうい!」

「?」

「一人にしてくれって言わなかった?」

「はい、ただこの周囲の地形がわからない、ということだったので地図をお持ちしました。」

「そうか、ありがとう。」

「では、失礼します。」


 副官さんマジ地獄耳だ。声に出しちゃってたので。気を付けよう。さて、そんなわけで地図が目の前に広げられているわけだけども。なかなか詳細な地図だが魔王城周囲だけだな。ん、こんなところに村?山脈の内側だから魔王の領土ということかな?


「そこは魔族が住む村です。」

「魔族?」

「はい、主だった魔族の貴族や兵はこの地を離れておりますが、弱い妖魔などはひっそりと隠れて暮らしています。」

「ということは戦う力はないってこと?」

「勇者には一撃も与えることは出来ないでしょう。」

「ん~・・・厳しいね。そういえば副官さんは何で残っているの?」

「魔王様がここにいらっしゃるので。それに付いているように命令したのは魔王様です。」

「・・・・・・・。」


 俺は黙って、元魔王からの手紙を副官さんに差し出す。受け取って手紙に目を通す副官さんだがすぐに手紙を返してくる。


「魔王様はやはり魂魄が入れ替わっているんですね。」

「やはり?」

「はい、こういったことはある程度の周期で行われているということです。」

「それはどういうこと?前にもこうやって入れ替わることがあったってこと?」

「はい、私の共有意識(データベース)でも同様のことが数回行われています。それ以前は私とは別の個体だったようでわかりかねますが。」

「それで構わない、入替ってどういうことが起こったのか教えてくれないか?」


 過去に同じようなことがあったんなら、何か糸口が掴めるかも知れない。つい口調が熱くなるのを感じる。

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